94 / 150
第三章 原初の破壊編
#90 破壊の神
しおりを挟む「「――!?」」
その場にいた誰もが、そこにいた存在に気付かなかった。
天界中を覆っていた謎の濃い波動がその存在を隠しているのかと、そう思った。
しかし、違う。
それはまるでそこに居ないみたいに、まるで何色でも無いかの様に――、それでも、確かにそこに居た。
「よう。アダンのガキ共。がん首揃えて、ご苦労なこった」
褐色の肌の、痩せこけた長身の男。
引きずる程に長い、雑に一つにまとめた燃える様に真っ赤な髪。
細く吊り上がった目の奥に、ギラギラとした瞳が輝いている。
その男は片手に、何かを持って引きずっていた。
よく見れば、それは――、
「アナ様!?」
先に向かった、アナだった。
ボロボロで、血だらけで、もはや生きているのか死んでいるかも判別が付かない。
「うっせえな、死んでねえよ。こいつには生きて、そして自分たちの全てが壊れて行くのを、しっかりと拝んでいてもらわなきゃならねえからな」
男はまるでゴミの様に、動かないアナの身体をそこらへ放り捨てる。
皆アナを助けようと、皆思っていただろう。
しかし、目の前の存在を前にして、まるで蛇に睨まれた蛙の様に、誰も動けなかった。
しかし、ウルスだけは違った。
一歩、ウルスが前へと出る。
「……お前は、アークだな」
“アーク”――その名は、来人も知っていた。
原初の三柱、アダンとアナに並ぶ一柱であり、そしてアダンたちと敵対し、封印されたという神の名だ。
封印され、二度と現れないと言われいたそのアークが、今ここに居る。
その存在に、疑いも、違和感も無かった。
これ程までの、ほぼ全ての神の意識を奪う程の恐ろしい波動。
そして王の間を消し飛ばし、あのアナすらも一蹴して見せた。
「知っているぜ。ウルス、お前の様な雑魚が二代目だなんて、神も堕ちたものだな。そうは思わんか? なあ、アナ――っと、まだ寝てんのか?」
そう言って、アークは地に伏すアナへ嘲笑を飛ばす。
ウルスは明らかに怒りを含ませた声色で、
「――何故お前が、ここに居る」
「何故? 別に良いだろ。俺は“原初の三柱、破壊のアーク”だ。誰かのの許可無くここにて、悪いのかよ」
「始まりの島で、封印されていたはず。外部からの干渉無くして、その封印は解かれない。そして、それが可能なのはアダンとアナだけだ」
「正確には、王の力を持つ者。――ああ、お前は馬鹿やって王の力、無くしたんだったか?」
アークは愉快そうに、ウルスを挑発する。
ウルスは静かに、その怒りを内に、
「――二代目神王ウルス、孫たちに引き継ぐ前の、最後の仕事だ。貴様をもう一度封印――いや、殺してやろう」
ウルスは力を解放する。
全身を獣の様に大きく、猛々しく変化させ、地を蹴り、飛び上がる。
ウルスの色は『分解』、その蹴りに一蹴されれば、たちまち万物は塵と成る。
――はずだった。
しかし、ウルスの蹴りはアークへと届くことは無かった。
アークはにやりと大きく口角を上げた。
「――なっ!? お前、ゼウス!!」
「……」
ウルスの蹴りを止めたのは、間に割って入ったゼウスだった。
全身に黒い稲妻を纏い、片腕でその蹴りを防ぎ切る。
「どこへ行ったかと思えば――、お前!! 何をしている!!」
ウルスがそう声を上げるが、ゼウスは据わった眼でウルスを見据え、
「お前こそ、何をしている」
「何?」
そして、ゼウスはその黒い稲妻の力を強め、解き放つ。
「ぐわあああああっ!!!」
ウルスは弾かれ、地を転がった。
先程までゼウスの腕とぶつかっていたウルスの足は、黒い稲妻の一撃を受け、王の間と同じ様に抉られ、消し飛ばされていた。
「おじいちゃん!!」
「ぐっ……、アッシュの、力が……」
ウルスの『分解』――アッシュの力が、効かない。
いや、より強い力に、打ち消された。
「……この腐り切った天界を、“我々”が変えよう」
ゼウスがそう言えば、周囲にいくつもの気配。
十一人の神が、来人たち王族とその契約者を取り囲んでいた。
「ゼウス様……!? それに、十二波動神まで!? どうして、どうしてこんな事をするのですか!?」
ティルが自身の師であり祖父、ゼウスの蛮行に悲痛の声を上げる。
これまで尊敬して師と仰いでいたその人が、アークという神々に綽名す邪神に与しているのだ。
しかし、ゼウスはティルの方を見る事も無く、何も答えてはくれない。
取り囲んでいた十一人の神――ゼウスを含め十二人。
それはゼウスが独自に集め、部下としていた、強い波動を持った選りすぐりの、神格を持つ神々たち。
彼らはかの百鬼夜行では『巨人』の鬼の討伐に貢献した、優秀な者たちだった。
しかし、今は天界の敵として、邪神アークの手下として、立ち塞がる。
アークはまるで演説でもするかのように、両手を広げ、
「彼らは、人間の血を受け入れ腐り行くこの天界を変えるために、俺の意志に同調してくれた、“駒”たちだ。俺はそんな彼らに、僅かばかりの力を与えた――」
アークは両の手に、黒い炎を纏う。
それは先程ゼウスが見せた黒い稲妻と同質の物であり、それ以上の濃度を持った、圧倒的“黒”。
「――そうそう。どうして俺があそこから出てこられたのか――って、話だったな。勿論、内から封印を解くだなんて芸当、出来ねえよ。だから、外から封印を解いてもらった」
そうアークが言うと、アークの背後からふっと、白い影が現れた。
それは、白い雨合羽を目部下に被った、一人の少女だった。
「らいたん、あれって、テイテイたちの話にあった!」
それは、地球で現れていたという、謎の通り魔の姿そのものだった。
しかし、誰もその白い少女の姿を知らない。
何者かも分からない、謎の協力者。
「……え? 世良?」
しかし、この場には、その正体を知る唯一の人物がいた。
来人だ。
アークの傍に静かに佇む、白い雨合羽を羽織る少女。
来人には分かった。
彼女は、自分の義妹の世良だ。
これまで何度も見た大切な妹の姿を、見紛うはずも無い。
来人は驚きのあまり半ば口調だけ神化が解けつつも、そう声を漏らす。
すると、皆怪訝な表情で来人の方を見る。
「お前、あの女の事知っているのか?」
当然、天界の神々は来人の妹の事なんで知る由もない。
ティルがそう問うが、来人は混乱していて、思考が定まらず、その声も耳を通り抜けて行く。
「世良、だよね? どうして、そんなところで、何してるんだ!? 危ないから、こっちに――」
来人がそう白い少女――世良へと語り掛け、歩み寄ろうとする。
しかし、隣に居たイリスが来人の腕を取り、制止する。
「坊ちゃま、お待ちください」
「ああ、イリス……さん。フードを被っていて分からないかもしれないけど、あれは世良なんだ。僕には分かる、間違いないよ。だから――」
天野家のメイドであるイリスならば、他の神々と違って世良の事を知っている。
協力して、あのアークの手から救い出さねば。
来人はそう思っていた。
「――坊ちゃま!!」
しかし、来人の言葉をイリスが強く遮る。
「……イリスさん?」
「ぼっちゃ、落ち着いてください」
そして、その後に続いた言葉は、来人の思いもよらぬものだった。
「――“世良”って、誰の事ですの?」
「……え?」
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】
みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。
元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡
唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。
彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。
しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。
小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。
しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。
聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。
小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。
★登場人物
・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。
・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。
・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。
・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。
・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。
⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。
現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!
angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる