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第三章 原初の破壊編

#89 思わぬ乱入者

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 開戦の狼煙。
 それと同時に、アナのよって、三人の三代目神王候補者達はコロッセオ中央の舞台から天界の各所へランダムに転移され、天界中を舞台としたバトルロワイアルが始まる。
 ――はずだった。

 しかし、ウルスの開戦の号令が会場全体へ響くと同時に、突如それを打ち消す程の轟音。
 そして天界中の大気を震わせ、全ての色を呑み込むほどの圧倒的波動の奔流。
 濃縮された真っ黒な波動が、天界中を伝播していく。
 その中心は――王の間のある場所だ。

「なんだ!?」

 来人達三人の転移を始めていたアナも、流石の異常事態にそれを中断し、空を見上げる。
 空は暗雲に覆われていた。
 天界の澄んだ空気、青空はどこにもない。

「まさか――!!」
「アナ様!?」

 何かを察したアナは、来人たちが制止するのも聞かず、一瞬でその場から消えた。
 マイクを持つウルスのアナウンスが響く。

「――緊急事態だ。王位継承戦は一時中止、動ける者は俺に続いて自体の終息に当たれ――って、殆ど居ねえよな」

 ウルスの諦観を含んだアナウンスを受けて、来人たちも会場を見まわす。

「みんな、どうしたんだ……!?」
「観客が皆、倒れているネ!」

 会場を沸かしていた観客、神々たちが皆、倒れていた。
 先程の圧倒的波動の奔流によって、それに耐えられぬ者から倒れて行ったのだ。
 立っているのは、来人たち三代目神王候補者とその相棒たち、そして玉座の席に居たウルスたち先代王族たちだけだ。

 来人は観客席の中を見渡す。
 すると、そこから二人、飛び出して舞台の方へと駆けて来た。

「坊ちゃま!」
「王様~!」

 メイドのイリスと、ジュゴンのジューゴ、二人の来人の契約者であるガイア族だ。

「良かった、二人は無事なんだな」
「ええ。どうやら、わたくしたち――王族の契約者は、この事態の中でも、動けるようですわね」
「僕はちょっと苦しいけれど、何とか大丈夫です!」

 今日この日、人間の仲間たちを呼んでいれば、もしかすると危険だったかもしれない。
 幸い、来人はテイテイも、美海も、ましてや鬼人である秋斗を呼んでいない。
 彼らは地球に居て、無事だ。
 しかし、来人の仲間は天界にも居る。

「ユウリは、どこに?」

 イリスとジューゴと共に居たはずの、応援に来てくれていたユウリ。
 彼女の姿が見えなかった。

「わたくしたちとは、席が違いましたから。この事態ですから、きっとこの会場のどこかで倒れているのでしょう」
「そうなのか、てっきり一緒だと思っていたが……」
「僕たちは王様の契約者でしたから、びっぷ席だったのですよ」

 そういえば、と来人は思い返す。
 ユウリは自分の事を末端の神だと言っていた。
 その言葉を信じるのならば、おそらくその階級差のせいで、この広い会場の雑多な観客席のどこかに――もしかすると、席を取れずに立ち見をしていたかもしれない。

 もう一度、来人はざっと観客席を見渡してみる。
 しかし、やはりユウリをすぐには見つけられなかった。
 やはり、今この現状で、この広いコロッセオの中で、たった一人を探し出すのは難しいだろう。

 そして、先代王族たちの玉座の席。
 しかし、その席に座っていたはずの人数が変わっている。

「あん? ゼウスのやつ……、先にアナ様を追ったか。ったく……」

 ウルスの隣の席に座していた白髪長髭、ゼウスは既にその場に居なかった。

「おい! カンガス、ソル」
「ああ」
「ええ。承知していますよ、二代目」

 狼の顔をした獣人の神、カンガス。
 若々しく爽やかな、物腰の柔らかい神、ソル。
 ウルスは短く近くに残ったその二人の名を呼び、その場で地を蹴り、来人たちの元へと飛んだ。
 二人もそれに続く。

 ウルスの着地の衝撃でコロッセオの地に衝撃と共に亀裂が走る。

「おじいちゃん! これって――」
「話は後だ、アダンが危ないかもしれねえ。動ける奴は少ない。ライト、リク、ティル、お前らもついてこい」
 
 来人の質問を遮る様に、ウルスは口早に言葉を並べて、指示を出す。

「――分かった」
 
 ウルスに続き、動ける神々――つまり、王族とその契約者たちは、コロッセオを後にして、王の間へと向かった。


 道中、ティルがウルスへと質問を投げかけた。
 ウルスが先頭で、その後ろに陸とティル。
 そして来人たちが続き、殿はカンガスとソルだ。

「――二代目、今、何が起こっているのですか」

 長話をしている時間は無い。
 だから、ウルスは短く、

「原初の三柱は、知ってるだろ。アナが恐れるのは、あれだけだよ」

 と、それだけを答えた。


 王の間に付けば、そこら一体の様子は様変わりしていた。

「なんだ、これ……。アダン君は!?」

 王の間の建物が丸ごと、その空間が抉られたかの様に消え去っていた。
 王の間の入り口を守っていた二体の門番の像も、上半身部分が抉り取られれ、そのあり得ない光景を皆理解出来ず、少しの間呆然としていた。

「王の間って、こうやって簡単に壊せるものじゃないよねー」
「ああ、もちろんだ。神が束になって本気で破壊しようとしても、傷一つ付かないだろうさ。――本来は、な」
 
 陸の言葉に、ウルスは肯定しつつも、苦虫を嚙み潰した様な声色だ。

「さっき言ってた、原初の三柱――」

 ――その時だった。
 王の間があったはずの場所。その奥から、瓦礫を踏みしめる音。人の気配だ。
 
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