89 / 150
第三章 原初の破壊編
#EX3 テイテイ
しおりを挟む来人が初めて俺の前に現れたのは、家で開かれたパーティーだった。
俺の家は中国の所謂裏の仕事、マフィアの家で、父は定期的にその繋がりの要人を集めて、横の繋がりを広げる為にパーティーと称した会を開いていた。
もっとも、まだ幼かった俺にはそれらは殆ど関係の無い事で、大人たちが交流を交わす間、俺は他のパーティー参加者の子たちと共に、子供用の待機部屋に居た。
その待機部屋も使用人たちがパーティーと同じで豪華な食事や甘いお菓子を用意してくれていて、他にも暇を持て余さない様に世界各地から集められた多種多様なボードゲームや、絵本なんかも置いてあった。
子供の頃の俺は、そこで客人の子たちと勝負して負かすのが目的となっていた。
勝負の手段は何でも良かった。
間違い探しの絵本でも、ボードゲームでも、スポーツでも。
父は俺にこう言ったのだ、「友達でも作りなさい」と。
しかし、この時の俺は友達の作り方を知らなかった。
だから、勝負して負かせば子分に出来る、そう思って勝負を挑んでいた。
子分は友達ではない何て今では分かる当たり前の事も、当時の俺には区別が付いていなかった。
何せ、親が部下を顎で使うマフィアのボスだ。
それが日常であるが故に、友も子分も一緒に考えてしまっていた。
その日も俺は、綺麗でお高そうな服に身を包んだお坊ちゃん方を見つけると、勝負をけしかけた。
でも、誰とやっても俺の圧勝だった。
まあそれも当然で、そもそも俺はこの部屋にあるゲームを全て遊び尽くしていて、常に部はこちらに有ったのだから。
しかし、それもあいつが現れるまでの事だった。
丁度、一人の子をオセロでボコボコに負かして、泣かせていた時、
「――ねえ、僕とも遊ぼうよ」
そう声を掛けて来たのは、日本人の少年だった。
短めの黒髪で、何も知らなさそうな普通の男の子。
やけに流暢に中国語を話すんだな、と思いながらも、俺はそれを挑戦状だと受け取って、二つ返事でそれを了承した。
「何で勝負する? 何でもいいぜ、俺は負けないからな」
俺がそう挑発する様に言うと、その日本人はざっと部屋を見渡した後、俺がさっきまでやっていたオセロに視線を落として、
「じゃあ、それやろうよ」
と、オセロ盤を指差した。
俺は内心ほくそ笑んだ。
他の同年代の子供よりも賢かった俺にとって、オセロを始めとしたボードゲームは朝飯前だ。
先程の子と同じ様に、一捻りして屈服させ、俺の子分にしてやろう。
そう思って、俺はオセロ盤をその日本人との間に置いて、
「いいぜ、来いよ」
結果から言おう、俺の負けだった。
それは俺の人生で初めてと言ってもいい、敗北だった。
決して圧倒的な大差があった訳では無い。
しかし、一歩及ばずに、俺は負けた。
悔しさに打ち震えた俺は、
「今のは運が悪かった、偶々だ! もう一度、勝負しろ!」
と、食って掛かった。
勿論当時の俺だって、オセロに運もクソも無い事なんて重々理解していた。
それでも、敗北を知らなかった俺の口からは、恥ずかしげも無くそんな言葉が出ていた。
日本人の少年は勝ち誇る事も無く、俺を蔑み嘲笑う事も無く、
「うん、いいよ!」
と、快諾。
俺たちは何度も、何度も勝負した。
それはオセロだけではなく、他のボードゲームを引っ張り出して、そしてついにはサッカーボールを引っ張り出して庭に出る所にまで及び、その勝負が終わったのは、親たちが迎えに来た時だった。
何故そこまで勝負が続いたのか。
それは常に勝敗が五分五分だったからだ。
俺が勝ったところで終われば良かったのに、その時の俺は負けず嫌いで、
「もう一本だ! 二本差を付けた方が勝ちって事な!」
と、そんな事を言い出してしまった。
もしかすると、二戦目で俺が負けていれば諦めもついたかもしれない。
これが実力だ、あの日本人には勝てない、と。
しかし、幸か不幸か、二人の実力は互角だった。
オセロの二戦目を勝利してしまった俺は、調子づいてしまったのだ。
結果、丸一日を通して勝負は続いてしまった。
全くの互角であったが故に、二本差が付く事無く、タイムリミットを迎えてしまった。
俺はまだ帰りたくない、終わりたくないと父に駄々をこねたが、相手は客人だ、勿論そういう訳には行かない。
そんな俺に対して、日本人の少年は、
「また来年、父さんと一緒に来るよ! そしたら、また遊ぼう! だから、君の名前を教えてよ!」
「……俺は、テイテイだ」
「僕は来人! 絶対に、絶対に約束だからね!」
そう言って、日本人の少年、来人は帰って行った。
来人が帰ってから、俺は思った。
「ああ、楽しかったな」と。そして、気付いた。
俺が“勝負”だと言っていたこれまでの時間を、来人は“遊び”と言っていた。
来人は俺と違って、本気で相手を負かそうとしていた訳では無い。
ただ、楽しく遊んでいただけだったんだ。
この時、ようやく分かったのだ。
友達とは、相手を屈服させてなる物では無いのだと。
その簡単な気づきは、俺の世界に鮮やかな色をもたらしてくれた。
来人が、俺の世界を彩ってくれた。
そんな風に、初めて出来た対等な友達、それが来人だった。
それから、居ても経ってもいられなかった俺は、父に頼み込んで、日本へと飛んだ。
「来人、きっと驚くだろうな」なんて、期待に胸を膨らませながら。
我ながら、小学生上がりたての子供の行動力ではないだろうと、今なら思う。
でも、一年だなんて時間、その時の俺は待てなかった。
一刻も早く、そして毎日でも、来人と遊びたかったのだから。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】
みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。
元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡
唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。
彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。
しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。
小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。
しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。
聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。
小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。
★登場人物
・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。
・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。
・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。
・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。
・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。
⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。
現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!
angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる