【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
88 / 150
第三章 原初の破壊編

#EX2 宇佐見美海

しおりを挟む
 天野来人あまのらいと、それが今、私がお付き合いしている人の名前。
 いつからだったかな?
 確か、先に好きになったのは私だったと思うの。

 来人はね、優しくて、何でもできて、かっこよくって、それでいて、どこか不思議な感じ。
 最近、来人が自分は神様の子なんだって言い出したの。
 普通はおかしなこと言ってるだとか、中二病乙だとか、そういう風に思うんだろうなって思うだろうけど……。

 でもね、私は「あ、そうだったんだ」って、結構すんなりと納得できたの。
 来人なら、そういう事も有るだろうなって、そんな気がしていたの。

 そうそう、来人が神様の王様になるために、大会みたいなのに出るんだって。
 それで、帰って来たと思ったら、すぐに天界に行っちゃった。
 ちょっと寂しいけれど、来人には来人の目的があるみたいだし、私は少しだけ我慢。
 
 来人は結構、私に対しても秘密にして話さない事が有るの。
 それは神様だと言い出してすぐに顔を見せた、親友を名乗るテイテイの事だったり、その二人だけで共有しているらしい何かの話だったり、来人の目的だったり、色々。
 
 でも、それは別に良いのよ。
 だって、本当に大切な事は、ちゃんと話してくれるもの。
 例えば、神様だって事も隠そうと思えば適当に誤魔化して隠せただろうけれど、ちゃんと私に話してくれたわ。
 それはきっと、私との将来の事について考えてくれていたから――と思うのは、私の思い上がりかな?
 
 来人は神様だし、きっと王様になると思う。だから――、ううん。
 そうじゃなくっても、来人を好きになっちゃう女の子はいっぱいいると思うし、実際学校でそういう話を聞いたこともあるし。
 実際、私が来人の隣という特等席に座れたのも、ただ一番初めに手を挙げたからってだけ。

 来人はただ私がそこに座りたいって言ったら、笑顔で受け入れてくれて、そのまま大切にしてくれているわ。
 だから、私はそんな来人に応える為に、料理や裁縫を覚えて、来人の隣に相応しい人間になろうって、そう決めたの。
 そうなのよね。実は昔から、そういう女の子っぽい事がとっても苦手で。
 今はこうやって、見た目くらいはって思って、女の子らしく髪も伸ばしたけれど、それでもやっぱり中身はまだまだね。

 丁度そうやって髪を伸ばし始めたのが、中学に上がる頃だったわ。
 来人と出会ったのも、その頃ね。

 小学生までの私は、まるで男の子みたいに短い髪で、スカートなんて穿かない、短パン少女だったわ。
 話し方なんかも、今とは全然違って、あの頃と今とでは本当に別人みたい。
 どうして変わったのかって、理由は些細な事。

 思春期特有の、何となく周囲と違うなって思って、何となく恥ずかしくなって、それで今までの自分を変えたくて。
 それで、角を取って、丸くなって、周りに合わせて、私はスカートを穿いた。
 
 進学する中学は、通っていた小学校とは遠くの、古風なセーラー服が制服の所にしたわ。
 そうしたら、昔の男の子みたいな自分の事を知る人なんて居なくて都合が良いし、それでいてセーラー服という型に嵌った風の衣装が、その時の私には魅力的だったの。
 
 期待に胸を躍らせながら、私は中学の校門を潜ったわ。
 周囲には私と同じく型に嵌った学ランとセーラー服に身を包んだ新入生たち。
 でも、その中に一人だけ、一際目立つ新入生が居たの。

 明るい殆どオレンジみたいな茶色の髪をワックスで固めて、学ランの前も開けて、よく分からないアクセサリーを首から下げている男の子。
 表情は柔らかかったし、取っ付きにくい雰囲気って訳じゃ無いんだけれど、中学生でそれは不良みたいで、ちょっと怖かったわ。
 でも、一目見て、私は「何だこの人、ださいな」って思ったわ。
 ううん、顔はかっこよかったんだけれどね。
 
 でもね、そうやって周りの空気も読まず、一人だけ目立った事をする、型に嵌らないはみ出し者。
 それが昔の自分に見えて、何となく嫌だったの。
 
 あんなのとつるんでいたら、自分もはみ出し者扱いされてしまう。
 周囲の目を気にした私は、なるべく避ける様に学校生活を送ろうって、その時心に決めたわ。

 ある時、入学してから少し経った頃。
 皆少しずつ新しい学校での生活に慣れて来て、私も何人かの新しいお友達が出来た、そのくらいの頃だったわ。
 隣のクラスの男の子だったかな、名前ももう憶えていないけれど、その男の子は、廊下で私の顔を見るなりこう言ったの、

「お前、宇佐見じゃね? ほら、オトコオンナの宇佐見じゃん!」

 その男の子の名前も顔も覚えていないのに、その時の事は、今でもよく覚えている。
 私の視界から、すっと色とが消えて行った様な錯覚を覚えたわ。
 ああ、終わった。って、そう思ったの。

 その時、私は新しく出来たお友達と一緒に居たの。
 それなのに、その男の子は私の事を“オトコオンナ”だって、呼んだのよ。
 
 その男の子は、私と同じ小学校から進学してきた子だったの。
 いくら少し遠くの中学だからって、同じ小学校から来る人はゼロ人じゃない。
 髪も伸ばして、セーラー服という型に嵌って、もうほとんど昔の自分の面影も無いと思っていたのに、意外と人はそんな簡単には変われないものなのよね。
 まあ、今思うと名札で気づいたのかもしれないけれど。
 でも、そんな風にあっさり私の過去はばれてしまったわ。

 もうすっかり過去を切り離した気でいた私は、すっかり狼狽えてしまって、泣きそうになってしまって、走ってその場を逃げ出したわ。
 本当は廊下って、走っちゃダメなんだけれどね。

 もしかしたら、あの男の子は、私の昔の写真を持っているかもしれない。
 もし昔の写真を今の友人たちに見られたら、どう思われるだろうか。
 仲間外れにされないだろうか。
 そんな不安がずっと頭の中を渦巻いて、ずっと視界に映る色はモノクロだったわ。
 
 走って逃げた私は、屋上へ繋がる階段で、そうやってうじうじ悩んで、顔を泣き腫らして座り込んでいたわ。
 
 しばらくそこに居て、どんな顔して教室に戻ろうか、友人たちにどう言い訳しようかって、そう思っていた時、突然知らない人の声がしたの。

「あれ? こんな所で、何やってるの?」

 私は泣き腫らした顔を見られまいと、僅かばかりの抵抗としてセーラー服の袖で目元を拭った後。
 その声の方を見ると、そこに居たのは、あの髪を染めた不良みたいな男の子だったの。
 でもその声色は優しくて、私が泣いていた事に気付いた上で、そうやって声を掛けて来たんだなってすぐに分かったわ。
 
 本当は避けていようと思っていた、はみ出し者の男の子。
 でも、この時の私は、どうしてか、彼に話をしても良いかなって思えたの。

 私はゆっくりと、彼に自分の話をしたわ。
 彼は私の隣に座って、時折「うん」とだけ相槌を打ちながら、その話を聞いてくれたわ。

 私の愚痴の壁打ち役となって話を聞き終えた彼は、特にそれに対して何かご高説を垂れる訳でも無く、慰めてくれる訳でも無く、ただ一言、

「なんだ、僕と同じじゃん」

 そう言って、彼は自分の懐から財布を取り出し、そこに仕舞っていた写真を一枚見せてきた。
 そこには黒くてやぼったいぼさぼさに伸ばした髪の、若干俯きがちの男の子が映っていた。
 
「これ、誰だと思う?」
「誰って? えっと、もしかして……」
 
 さっき彼は、“僕と同じ”と言ったわ。
 ということは、つまりそういう事なのだろうと、その時の私にもすぐに察しが付いて、彼の顔を見たわ。
 彼はとてもさっぱりした優しい笑顔で、

「僕もね、少し前までこんなだったんだ。でも、近所の兄さんにお勧めされた美容院に行ったら、こんなにされちゃった。だから、君と同じ、中学デビューだよ」
 
 でも、やっぱり同じではない。
 私は、不思議に思って聞いてみたの。

「そうやって目立って、怖くはないの?」

 私は怖かったわ。
 他人と違って、型に嵌っていない自分が、おそろしかったわ。
 でも、彼は違った。

「怖くなんかないよ。これが今の、僕の色だから」
 
 やっぱり、「何だこの人」って思ったわ。
 でも、「かっこいいな」って、この時はそう思って、彼の事をもっと知りたいなって、そう思ったの。
 だから、「そう」と短く答えた後、

「――私、宇佐見美海。ねえ、あなたの名前は?」
「僕は来人、天野来人だよ。これからよろしくね、美海ちゃん」

 来人にそう言ってもらえて、「ああ、“これから”が有るんだ」って少し安心して、それと同時に、さっきまでうじうじ悩んで泣いていた事が馬鹿らしくなって、

「あはははっ、はははっ」

 私は我慢が出来なくなって、思い切り笑ってしまったの。
 来人もそれに釣られたのか、何が面白いのか、二人して一緒に笑って――。

 それから、私が来人に告白をするまで、そう時間はかからなかったわ。
 私にとって都合の良い事に、来人の隣という席が、誰も座らずに空いているんだもの。
 他の誰かが座る前に、先に動かなきゃ、ってね。

 後で聞いた話だと、あの時屋上への階段に来人が現れたのは偶々じゃあないんだって。
 廊下で私が同じ小学校に声を掛けられてしまった瞬間を見ていて、それで心配になって、見ず知らずの私を追いかけて来てくれたって。
 そんなの聞いたら、もっと好きになっちゃうじゃない。
 
 来人、いつ帰って来るのかな。楽しみだな。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...