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第三章 原初の破壊編
#EX1 天野世良
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天野世良、少し歳の離れた天野来人の義妹だ。
来人が親友秋斗を赫の鬼に殺され、傷付き塞ぎ込んで居た頃、父親来神が幼い頃に兄妹を欲しがった来人の為に、養子として天野家に迎え入れた。
天野来人はそう記憶している――。
「――来人。今、良いかい?」
「……」
来人は自室の布団の上で転がっていた。
黒いやぼいったい伸びきった前髪が視界の上半分を覆っている。
親友を失い、もう一人の親友テイテイも強くなるだとか言って故郷へと帰ってしまった。
何もする気が起きなかった。
そんな時、部屋の扉がノックされた。
来人は振り返る事も無く、返事をしなかったが、勝手に開けられたのだろう。
再び、より鮮明になった声がする。
「新しい家族だ。今日から、君の妹だよ。名前は世良」
呆然としていた流石の来人も、その言葉には驚いて反応を示した。
ぴくりと身体を震わせ、ゆっくりと振り返る。
そこに居たのは、綺麗な銀色の髪をした少女だった。
まるで作り物みたいな、お人形さんみたいな、綺麗な女の子。
世良は振り返ったまま口を開かない来人を少し不思議に思ったのか、小首を傾げた後、
「らいと、おにい、ちゃん?」
と、柔らかく微笑んで声を掛けて来る。
その日から、来人は少しずつ元気を取り戻して行った。
世良は大人しい子で、決して良く喋るタイプではなかったが、それが傷心していた来人にとっては丁度良い距離感で、心地良かった。
そんな新しい妹が来人の心を少しずつ溶かして行き、来人は立ち直って行った。
「――あん? おお! 来人じゃねえか!」
久しぶりに外へ出た来人は、近所の駄菓子屋の様な雑貨屋の様な謎の店、坂田ゴールデンの経営する“ゴールデン屋”と呼ばれている店に足を運んだ。
店主の坂田は来人の顔を見ると、少し驚いた様にそう声を上げた。
「あ……。うん」
「いらっしゃい。なんか辛気臭え顔してんな。最近どうしてたんだ?」
「えっとね、妹が出来たんだ。世良っていうの」
そう言って、来人は自分の隣に視線をやる。
坂田は世良の居る方へと視線を向けた後、ふっと目じりを下げて優しく笑い、
「そうかい。よろしくな、世良ちゃん」
「……よろしくおねがいします」
世良は来人の背にからの半分だけを隠して、控えめに挨拶をする。
来人はレジ横のクーラーボックスからアイスキャンディーを取って、
「これ、ください」
「あいよ。久しぶりに来たから、特別に世良ちゃんの分、一本サービスしてやるよ」
「ありがとう」
坂田の見た目は金髪をワックスで固めた凶器の様なツンツンヘアーとアロハシャツという、チャラチャラとした強面の男だが、値は優しい子供好きなお兄さんだ。
そうして、来人はベンチに腰掛けて、適当にアイスキャンディーを舐める。
坂田はレジカウンターに肩肘を突き、同じくアイスキャンディーを舐めながら、特に興味も無さそうに、
「なあ、来人。学校は?」
「あー……、うん、休んだ」
来人は塞ぎ込んでいた間、しばらく外に出ていない。
それ故に、学校にも行っていなかった。
その間に髪もぼさぼさに伸びきっていた。
「ふーん。ま、良いんじゃね。でもよ、お前その髪型はイカしてねえぞ」
「そう、だよね……」
来人は自分の視界の半分を覆う黒い前髪を指で触る。
坂田もそう思っていたらしく、指摘されてしまった。
「何事も形からだぜ、来人。人っていうのはよ、意外と単純なもんだ。見た目を変えれば、そういう自分になっちまう。そういうもんだ」
「うーん」
「俺の行きつけ紹介してやるよ。最高にイカしたスタイルにしてくれるからよ、任せとけ」
そう言って、半ば無理やり来人は坂田ゴールデン行きつけの美容院で魔改造され、中学へ上がる頃にはすっかり明るい茶髪という見事なまでに不良の様な見た目となってしまった。
と言っても、来人自身その自分の髪型を気に入っていた。
坂田の言った通り、何事も形からだ。
おかげで来人は以前よりも明るく、前向きになった。
こうして、世良に、そして坂田に背中を押され、胸の内に傷を抱えながらも、来人は前へと進んで行った。
「ねえ、らいにいー」
数年後、成長した世良は来人の事をそう呼ぶようになっていた。
「らいにいー。僕、甘い物食べたいなー」
「んあー。そうだなあ……」
世良は少し我儘に、甘え上手になった。
昔は言葉数少ない引っ込み思案な子という印象だったが、今はダウナー気味ながらも小悪魔的な美人さんになった。
綺麗な銀色の髪は相変わらずだ。
共に育ってきたからか、好物も来人と同じで甘味と唐揚げだ。
「じゃあ、折角だしどっか食べに行くか」
「やったー。らいにいとデートだ、デート」
世良は嬉しそうに小躍りして、来人の腕にくっ付いて来る。
「はいはい。じゃあ着替えて支度したら行くぞー」
「はーい」
そうして、今日も兄妹仲良く出掛けて行く。
――そうやって、最後に世良と一緒に出掛けたのは、いつだっただろうか。
最後に会ったのは、いつだっただろうか。
最後に話したのは、いつだっただろうか。
――世良?
来人が親友秋斗を赫の鬼に殺され、傷付き塞ぎ込んで居た頃、父親来神が幼い頃に兄妹を欲しがった来人の為に、養子として天野家に迎え入れた。
天野来人はそう記憶している――。
「――来人。今、良いかい?」
「……」
来人は自室の布団の上で転がっていた。
黒いやぼいったい伸びきった前髪が視界の上半分を覆っている。
親友を失い、もう一人の親友テイテイも強くなるだとか言って故郷へと帰ってしまった。
何もする気が起きなかった。
そんな時、部屋の扉がノックされた。
来人は振り返る事も無く、返事をしなかったが、勝手に開けられたのだろう。
再び、より鮮明になった声がする。
「新しい家族だ。今日から、君の妹だよ。名前は世良」
呆然としていた流石の来人も、その言葉には驚いて反応を示した。
ぴくりと身体を震わせ、ゆっくりと振り返る。
そこに居たのは、綺麗な銀色の髪をした少女だった。
まるで作り物みたいな、お人形さんみたいな、綺麗な女の子。
世良は振り返ったまま口を開かない来人を少し不思議に思ったのか、小首を傾げた後、
「らいと、おにい、ちゃん?」
と、柔らかく微笑んで声を掛けて来る。
その日から、来人は少しずつ元気を取り戻して行った。
世良は大人しい子で、決して良く喋るタイプではなかったが、それが傷心していた来人にとっては丁度良い距離感で、心地良かった。
そんな新しい妹が来人の心を少しずつ溶かして行き、来人は立ち直って行った。
「――あん? おお! 来人じゃねえか!」
久しぶりに外へ出た来人は、近所の駄菓子屋の様な雑貨屋の様な謎の店、坂田ゴールデンの経営する“ゴールデン屋”と呼ばれている店に足を運んだ。
店主の坂田は来人の顔を見ると、少し驚いた様にそう声を上げた。
「あ……。うん」
「いらっしゃい。なんか辛気臭え顔してんな。最近どうしてたんだ?」
「えっとね、妹が出来たんだ。世良っていうの」
そう言って、来人は自分の隣に視線をやる。
坂田は世良の居る方へと視線を向けた後、ふっと目じりを下げて優しく笑い、
「そうかい。よろしくな、世良ちゃん」
「……よろしくおねがいします」
世良は来人の背にからの半分だけを隠して、控えめに挨拶をする。
来人はレジ横のクーラーボックスからアイスキャンディーを取って、
「これ、ください」
「あいよ。久しぶりに来たから、特別に世良ちゃんの分、一本サービスしてやるよ」
「ありがとう」
坂田の見た目は金髪をワックスで固めた凶器の様なツンツンヘアーとアロハシャツという、チャラチャラとした強面の男だが、値は優しい子供好きなお兄さんだ。
そうして、来人はベンチに腰掛けて、適当にアイスキャンディーを舐める。
坂田はレジカウンターに肩肘を突き、同じくアイスキャンディーを舐めながら、特に興味も無さそうに、
「なあ、来人。学校は?」
「あー……、うん、休んだ」
来人は塞ぎ込んでいた間、しばらく外に出ていない。
それ故に、学校にも行っていなかった。
その間に髪もぼさぼさに伸びきっていた。
「ふーん。ま、良いんじゃね。でもよ、お前その髪型はイカしてねえぞ」
「そう、だよね……」
来人は自分の視界の半分を覆う黒い前髪を指で触る。
坂田もそう思っていたらしく、指摘されてしまった。
「何事も形からだぜ、来人。人っていうのはよ、意外と単純なもんだ。見た目を変えれば、そういう自分になっちまう。そういうもんだ」
「うーん」
「俺の行きつけ紹介してやるよ。最高にイカしたスタイルにしてくれるからよ、任せとけ」
そう言って、半ば無理やり来人は坂田ゴールデン行きつけの美容院で魔改造され、中学へ上がる頃にはすっかり明るい茶髪という見事なまでに不良の様な見た目となってしまった。
と言っても、来人自身その自分の髪型を気に入っていた。
坂田の言った通り、何事も形からだ。
おかげで来人は以前よりも明るく、前向きになった。
こうして、世良に、そして坂田に背中を押され、胸の内に傷を抱えながらも、来人は前へと進んで行った。
「ねえ、らいにいー」
数年後、成長した世良は来人の事をそう呼ぶようになっていた。
「らいにいー。僕、甘い物食べたいなー」
「んあー。そうだなあ……」
世良は少し我儘に、甘え上手になった。
昔は言葉数少ない引っ込み思案な子という印象だったが、今はダウナー気味ながらも小悪魔的な美人さんになった。
綺麗な銀色の髪は相変わらずだ。
共に育ってきたからか、好物も来人と同じで甘味と唐揚げだ。
「じゃあ、折角だしどっか食べに行くか」
「やったー。らいにいとデートだ、デート」
世良は嬉しそうに小躍りして、来人の腕にくっ付いて来る。
「はいはい。じゃあ着替えて支度したら行くぞー」
「はーい」
そうして、今日も兄妹仲良く出掛けて行く。
――そうやって、最後に世良と一緒に出掛けたのは、いつだっただろうか。
最後に会ったのは、いつだっただろうか。
最後に話したのは、いつだっただろうか。
――世良?
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