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第三章 原初の破壊編

#86 地を歩く天使と共に

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 来人たちがそう話しながら王の間へと向かっていると、不意に声を掛けられた。

「やあ、来人。久しぶりー」

 振り返ると、そこに居たのは来人と同じ半神半人にして、三代目神王候補者、今日来人が戦う事になる相手、大熊陸と、その肩に乗ったモシャだった。
 陸は既に神化した状態の白金色の髪色で、王の証を変化させた大鎌を肩に担いでいた。
 しかし、どこかこれまでと様子が違う事に来人は違和感を覚えた。

「陸、久しぶり――って、あれ? なんか、雰囲気変わったっていうか……、落ち着いた?」

 そう。今までの陸なら、神化すると性格まで豹変し荒々しくなっていた。
 初対面の時には来人もその神化した陸に襲われ、困らされたものだ。
 しかし、今目の前に立つ陸は、神化したしているにも関わらず、とても落ち着いていて、穏やかっで、普段の人間の時の陸と何ら変わらない。
 いや、来人の知っている人間の陸よりも、もっと落ち着き切った、まるで悟りの境地でも開いたかのような、余裕さえ感じる。

「そうだねー。来人が居ない間に、僕も強くなった――、というよりは、やっと自分の中の神を理解したって感じかなー」
「自分の中の神を、理解……?」
「その内来人にも分かるよー。それじゃあ、今日はお互い頑張ろうねー」

 そう言って、陸は来人を追い抜いて先に行ってしまった。
 そんな陸の後ろ姿を見送っていると、後ろでジューゴの相手をしていたユウリが戻って来て、

「陸君はウルス様の天山から戻って来てからは、あんな感じみたいですよ? それに、来人君の居ない間、地球の鬼退治を頑張っていましたからね。その分実力を付けているはずです」
「そっか、陸もお爺ちゃんの所で、何か得る物が有ったって事なんですかね」

 来人がウルスの技『憑依混沌カオスフォーム』を修得し帰った様に、陸もまた、来人が去った後もウルスの元で修行を重ね、そして何かを掴んだのだろう。
 
「そうかもしれませんね」
「ティルもあのままお爺ちゃんに修行付けて貰えばよかったのに」

 あの時、ティルは一人修行を終える前に、さっさと天山を降りてしまった。
 そして、ガイア界でまた再会した訳だ。
 
「――誰が、何だって?」
「げ」

 噂をすればなんとやら、だ。
 同じ目的で集まっているのだから、同時刻帯に出会って当然では有るのだが、魔の悪いタイミングで件の人物の登場だ。
 ティルはいつもの様に少し不機嫌そうに、相棒のライオン、ダンデを連れて、来人たちの前に現れた。

「私はゼウス様を師事して、お前たちなんか相手にならない程に強くなっている。ガイア界ではあのゼノムとかいう忌々しいガイア族に不意を打たれて遅れを取ったが、あの時と同じだと思わないで貰いたい」

 ティルはやはりいつもの様に、尊大な態度でぺらぺらと捲し立てる。
 そんな主人を横目に、ダンデは来人たちの方を見ると、ぺこりと軽く頭を下げ、挨拶としていた。
 
 来人はダンデの方へ軽く片手を上げて応えた後、こほんと咳払いで一拍置いて、

「やあ、ティル。まあ、お互い頑張ろうね」
「ふん。結果は決まっている。勝つのは私だ」
「――それは、どうだろうね。ただで負けてやる気は、僕も、それに陸も、無いと思うけど?」

 来人だって、言われたままはいそうですかと流してやれる程大人では無かった。
 つい売り言葉に買い言葉で、そう言い返してしまう。

 お祭りムードだった天界の大通りの中心で、二人の神王候補者が火花を散らせるただならぬ様子に、周囲の神々を固唾を飲む。
 
 そして、しばしの間見合った後、先に沈黙を破ったのはティルの方だった。

「ふん。まあいい、そう言っていられるのも、今の内さ」

 そう言って、背を向けて王の間へと歩いて行った。
 ダンデも「ティル様! お待ちください!」と急いで主人の後を追って行く。

「ふぅ……。やれやれ」
「ダンデも相変わらず大変そうだネ」
「あはは……」

 さて、他の二人は先に王の間へと向かってしまったが、王位継承戦の予定時間まではまだしばらく時間が有る。
 それでも既に三人中二人が揃っているのならば、待たせる訳にも行かないだろう。

「それじゃあ、僕たちも行こうか」
「ネ!」

 来人がそう言えば、ガーネが元気よく返事を返す。
 一行は王の間へと向けてゆっくりと歩を進めて行った。
 
 そうして歩いていると、来人の傍に泳いで来たジューゴが少し不安気に、

「そういえば、僕たちも同行しても大丈夫なのでしょうか?」

 陸とティルは契約しているガイア族はそれぞれ一人ずつ、モシャとダンデだけだ。
 それに対して、来人はガーネ、ジューゴ、イリスの三人ものガイア族と契約している大所帯だ。
 ただでさえ若輩者のジューゴが、全員で王の間へと行って大丈夫なのか心配に思うのも無理はない。
 
「あ、それなんだけど。一応ルールみたいなものがあるらしくて、候補者一人につき契約者一人が同行して、一緒に戦うっていう感じらしいんだ」
「では、わたくしたちはご一緒出来ないのですね」

 イリスがそう言えば、足元をちょこちょこと歩いていたガーネは一瞬足を止めて、

「え? ネが出るのが確定なんだネ?」
「当たり前ですわ」
「でもでも、イリスの方が強いし――」
「何を言っていますの? ガーネが一番坊ちゃまの傍に居て、一番理解していますわ」

 ジューゴも続いて肯定する。

「はい! 誰か一人だけなら、ガーネ先輩に決まっています! 僕たちも王様と共に戦えないのは残念ですが、精一杯応援しているのです!」
「ネ……。なんだか照れるネ」

 ガーネも満更でもない様子で、来人と共に戦う契約者はガーネに決定した。
 そんなこんなで、気付けば王の間の前まで来ていた。

 来人が見上げれば、入口の両端に設置された門番の像。
 それもどこか懐かしく感じる気さえした。

「それでは、わたしはここまでですね。応援していますよ、来人君」
「ありがとうございます、ユウリ先生。先生の教えに報いられるよう、僕、勝ちます」

 来人がそう言うと、ユウリはにこりと優しく微笑んで、手を振って送り出してくれた。

「坊ちゃま、お気を付けて行ってらっしゃい」
「王様! 先輩! ファイトです!」

 イリスとジューゴも、激励の言葉と共に背中を押してくれる。

「うん、行って来ます」

 来人はガーネを連れて、門を潜り、王の間へ。
 
 三代目神王候補者、その王位継承戦。
 ついに、戦いの刻だ。
 
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