84 / 150
第三章 原初の破壊編
#84 謎の少年
しおりを挟む百鬼夜行も撃退に貢献し、ガイア界で原初のガイア族ゼノムをも倒した半神半人の鎖使い、天野来人。
王位継承戦も迫る中、そんな数々の功績を残した彼の噂は天界中に広がっていた。
もっとも、前者は同じく三代目神王候補者である陸も、後者はティルも貢献した物なので、来人だけが特別というわけでもない。
しかし、来人は元々半分は人間だからと軽視され、王候補者としての支持率も低かった。
それが今ではどうだろう。
天界の白いタイル張りの道を駆けまわりながら、肩にカバンを下げた男が走っている。
彼はカバンから何枚もの紙を取り出し、そこら中にバラまいて行く。
「号外! 号外だよ! 最新の王位継承戦の支持率ランクが出たよ!」
宙を舞う紙の内の一枚を通りゆく一人の神が拾いあげてみると、少し前まではほぼ横並びだった三つのグラフの内、一つが抜きんでていた。
そのグラフに記された名前は、もちろん天野来人だ。
「へえ。ライト様、ついにティル様を追い抜いたのか」
「リク様も最近『死神』として活躍している。ティル様の独壇場かと思っていたが……、これは、今回の王位継承戦も期待できそうだねえ」
そんな声が、天界の端々から聞こえて来る。
来人とティルがガイア界で奮闘していた間、地球で鬼退治を居ない来人の分まで熟していたのが陸だった。
陸はその手に持つ大鎌と、蒼い炎、そして天山での修行を経て以前よりもどこか落ち着いた雰囲気を纏う様になったミステリアスなその姿から、死神の二つ名で呼ばれる様になっていた。
淡々と鬼を狩り、魂を輪廻の輪に還してくその姿は、まさにその二つ名がぴったりだろう。
号外の紙面には、王位継承戦の日取りも記されていた。
そこに記されていた日付は、今から約一か月後だった。
来人は今日も仕事の鬼退治を終え、帰りに休憩がてらゴールデン屋に寄った。
今日はテイテイと二人だったので、すぐに片が付いた。
これまでの戦いを経て来た来人にとって、もう鬼を相手に手こずる事など無く、それは来人の居ぬ間にも修行を怠る事の無かったテイテイも同じくだった。
そうやって一か月後に迫る王位継承戦までの時間を過ごしていた来人たち。
ゴールデン屋でいつものようにアイスキャンディーを齧りつつ、来人とテイテイは腰を落ち着ける。
「それにしても、あの小さな子供が作り物だなんて、まだ信じられないよ」
来人はゴールデン屋で真面目に働く少年を横目で見ながら、そうぼやく。
「そうだな。来人が戦った――ゼノムだっけ。それの波動の残滓から、別の魂造っただなんて……。メガって本当に何者なんだ」
少年は来人たちの視線に気づくと、にこりと薄く微笑みを返した後、また仕事へと戻って行った。
来人は未だにその悪意の無いであろう微笑みにさえ、少し背筋がぞくりと冷える錯覚を覚えてしまう。
それ程に、少年から感じる波動はゼノムと瓜二つなのだ。
時は少し遡る。
来人は帰還後少年の存在を知ってすぐ、メガ研究所に駆け込んだのだ。
勿論メガを問いただす為だ。
しかし、いつもの様にメガの居る部屋へと入るも、そこには誰も居なかった。
薄暗い部屋に青白く光る何枚ものモニターが有り、少し前までそこに居たであろう形跡だけが残されていた。
そして、壁の一部に今まで来た時には無かった部屋への入り口がある事に気付いた。
そこからは下へ、さらに下へと階段が伸びていた。
おそらくこの下にメガたちは居るのだろうと踏んだ来人は、その階段を降りて行く。
階段を降りた先は、如何にもな雰囲気を漂わせている薄暗い怪しい部屋だった。
辺りには何本ものチューブ状の水槽が設置されており、中では何か肉塊の様な物が培養されている。
そして、そのチューブの内の何本かには肉塊の代わりに人型をした物が浮かんでいた。
よく見れば、それはゴールデン屋で見た少年だった。
全く同じ少年の姿をした物が、何体も水槽に浮いているのだ。
「クローン……」
来人がその光景を見て咄嗟に出たのは、そんなワードだった。
そして、部屋の奥から声が返って来る。
「――その通りだヨ」
「メガ!」
部屋の奥にはPCデスクの前に座り背のリュックから伸びたマジックアームでそれを操作しているメガと、そして助手として隣に立つタブレット端末を抱えたギザの姿が有った。
「これらはすべてゼノムの波動の残滓を培養して、少しずつ増やして、『遺伝子』の色を再現しようと試みた結果だ」
「それが、あの少年か?」
「ああ。色を固定化させる為にはそれを乗せる為の器が必要だった。だから、器を持つ魂を疑似的に生み出す為に生命から作った、それだけだ」
メガはそう言うが、これは人道的に、倫理的にどうなのか、と来人が苦い表情をしていると、それを察してかメガは言葉を重ねた。
「これらは『遺伝子』の色によって産み出された存在しない人間――の、成り損ないたちだ。つまり、クローンと言っても誰かの人権を害す者では無いから、安心してくれヨ」
これらと言って指すのは、水槽に浮かぶ少年たち。
その全てがメガが『遺伝子』の色を出して再現する為に、その手で魂さえも作り出そうとした結果生まれた、成り損ないたちだ。
その神の所業にすら肉薄する程の英知。
「つまり、ここに今居るのは魂を持てなかった……」
成り損ない、つまりは失敗作たち。
魂を持てなかった、ただの肉の塊。
「そう。そしてゴールデンに押し付けたあれが唯一の成功例、人工的に生み出した魂だよ。名を“ゼノ”とした。単純だが、覚えやすくて良いだろう」
そして、メガはその神の所業を成し遂げた。
たった一つとはいえ、それでも人工的に魂を作り出すことに成功したのだ。
それがゴールデン屋で働く少年、ゼノだった。
来人は大きく溜息を溢した後、壁にもたれ掛かる。
「まさかもうここまで進んでいるとは思わなかったよ。この分なら、秋斗の魂を元に戻すのも希望が見える……と思って、いいのかな?」
「どうだろうネ。鬼の魂というのは、ライトが思っているよりも歪んで、捻じ曲がって、ぐちゃぐちゃだ。それを一つずつ紐解いて行くんだから、人間のお行儀よく整った魂と一緒に考えない方が良いヨ」
「それでも、無駄じゃなかったと思えるだけいいよ。ありがとう、メガ」
「礼を言うのはまだ早いヨ、まだボクは結果を出していない。あの唯一の成功例がどう成長し、どうなって行くか。全てはそれ次第だ。つまり、焦らずに経過観察だネ」
以上が、メガ研究所で来人が聞いた話だった。
「まあ、何にしても、光明は見えたんだ。秋斗に良い報告が出来そうで良かったよ」
「そうだな。あいつは今頃、どこで何をやっているんだろうか」
「テイテイ君も、会っていないの?」
「ああ。来人と一緒に会った時以来、一度も。まあ、確かあの時“我々鬼人”と言っていたし、きっと仲間が居るだろう。大丈夫さ」
秋斗の言によれば、生前の記憶を取り戻した鬼、鬼人は複数人で組織を成している様な口ぶりだった。
彼らもまた自分たちが元の人間の魂へと戻る為の手立てを、それこそ血眼になって探しているはずだ。
「会えないのはちょっと寂しいけれど、そうだね」
「来人は王位継承戦も有るんだ。それが終わって、落ち着いた頃にこちらから器の世界を通してコンタクトを取ってみるといい」
「ああ、前に僕とテイテイ君が見た夢の」
「そう。俺たちはこの絆の三十字で、どこに居ても繋がっているのだから」
来人とテイテイは首から下げた十字架のアクセサリーをどちらからともなく手に取った。
それは三人の契約の証であり、魂の柱。
テイテイと秋斗は人間でありながら、来人の契約者だ。
その契約が続いている限り、器の世界も繋がっている。
どこで何をしていても、生きている限りその魂の絆は断ち切れることは無い。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる