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第二章 ガイアの遺伝子編
#81 ガイアの遺伝子
しおりを挟む来人、ガーネ、イリス、ジューゴ、四人を包み込んだ眩い光は次第に溶けて行き、そしてその姿が露わと成る。
そこに立っていた来人はの姿は、これまでに見た事の無い物だった。
全身に鉄壁の『岩』と『氷』の鎧を纏い、両の手に握る刃には鮮やかな『虹』の虹彩。
彩るは『氷』、『虹』、『岩』。
背に六枚の翼を宿す、その神々しく七色に輝く姿は、まさに天使の様。
そう、神では無く、天使だ。
三人の天使を纏い、それは翼の化身。
翼を失った地を歩く天使ガイア族たちの真の姿に最も近しく、それは皮肉にもゼノムの望みに肉薄する物だった。
「――『憑依混沌・完全体』」
来人の器に、三人のガイア族の器を重ねた姿。
それはほんの少しの揺らぎで崩れる程の、薄氷の上の刹那の輝き。
視界に表示されているシンクロ率はもはや機能しておらず、数字は文字化けしていて読む事は出来ない。
来人はその不安定な状態を、完全な波動操作で操り、そしてこの『憑依混沌・完全体』を成し遂げた。
“ゼノムに出来たのならば、王である来人に出来ないはずがない”。
氷の大地で、ゼノムとファントムは、バーガをも巻き込んで『憑依混沌』し、三つの器の融合体が今のゼノムだ。
つまり、理論上は器と器の一対一でなくとも可能という事。
ならば来人にだって出来るはずだ。
ウルスとの修行の積み重ね、これまで何度も行ってきた『憑依混沌』の経験、そして仲間たちとの信頼と絆。
想像を創造する神の力、その王の器を以てすれば、不可能なんて有るはずが無い。
「翼……」
ゼノムはその姿を見て、一瞬心を奪われかける。
しかし、すぐにその迷いを振り払い、もはや翼など無く混沌の異形の獣となったその身体で襲い掛かって来る。
「ファントムが! ここまで繋いでくれた! 俺が! 俺たちの翼を取り戻す!!」
来人にゼノムの爪が突き立てられる。
しかし、その一撃は通る事は無い。
「――無駄だ」
『僕の鉄壁の色で、王様をお守りするのです!』
来人の全身は『岩』の鎧が覆っている。
それだけ鋭い刃も、爪も、牙も、その全てが弾かれ、芯に届く事は無い。
来人は静かに剣を振るい、ゼノムを跳ね除ける。
そして、
『イリス! ネたちもやるネ!』
『ええ! ガーネに言われなくても!』
来人の周囲から『氷』の礫が生成され、それらは次第に形を変えて無数の刃と成るり、その刃の全てに『虹』のオーラが纏い、透き通る氷の刃は七色の光で輝いて行く。
来人が剣で空を斬る様に振るえば、それを合図として無数の刃の雨がゼノムに降り注ぐ。
「ぐああああっ!!!」
ゼノムは背から伸びる六本の爪を身体の前方で交差させて防御の体勢を取るが、しかし『虹』の色にコーティングされた刃はゼノムの波動を中和し、ぬるりとその防御を貫通して行く。
無数の虹の刃の雨に降られたゼノムはがくりと膝を付く。
力量差は完全に覆った。
三つの器を手中に収め、その全ての色と圧倒的量の波動を操りる来人の前に、ゼノムは成すすべも無い。
しかし、この『憑依混沌・完全体』の圧倒的力は不安定なバランスの上で成り立つ物。
長時間の融合は契約者たちの器を呑み込んでしまうリスクが伴う、来人に残された時間も少ない。
「終わりにしよう、ゼノム」
来人はカンガスの光輪を放ち、そのリングの隙間から『鎖』を生成。
膝を付くゼノムの身体を拘束し、最後の一撃の構え入る。
「まだだ、まだ! 終わらんぞ!!」
ゼノムは最後の力を振り絞り、更にその姿を変貌させていく。
背からは漆黒の波動が溢れ、それはまるで翼が生えているかの様。
「なんだ、この波動は――。これまでの色と、違う」
その漆黒の波動は、これまでゼノムが放っていた黒い靄とも違う。
それらのどの色よりも濃く、深い、闇の色。
ゼノムは自身の魂の遺伝子を破壊し、そして新たな物へと造り変えて行く。
その変貌には、取り込まれてしまっているバーガの遺体もまた同様に巻き込まれていた。
『お爺ちゃんの身体が――』
「ガーネ……」
『――ううん。ここで葬って、自由にしてやるネ』
「ああ」
こうしている間にも、ゼノムの姿は変わって行く。
漆黒の翼を生やし、あらゆる動物を掛け合わせ、織り交ぜた、混沌の怪物へと。
ゼノムを拘束していた鎖も、その身体が膨張し巨躯へと成るに従い、耐えられずその機能を失い、一本、また一本と千切れて行く。
来人の視界に表示される文字化けしたシンクロ率、その数値が一瞬振り切れ、赤くなる。
どうやら時間も残されていないらしい。
ここで、決める――。
その時、メガからの通信が入った。
『――準備オーケー? それじゃあ、“絶色領域”、全域展開だヨ!』
カタン、とキーを強く打鍵する音。
それと同時に、メガが拠点としているガーネたちの実家の座標を中心として、中央都市メーテル全域に波動の波が広がって行く。
その穏やかな波は、火の海となった都市で暴れ回るガイア族たちの動きを停止させ、そしてその変身もゆっくりと解かれて行く。
見れば、空には無数の『メガ・キューブ』が浮遊していた。
それらの小さなキューブがこの“絶色領域”の波をメーテル全域に伝えているのだ。
“絶色領域”によって、ゼノムの遺伝子の色は無効化。
それはつまり、塔の頂上に居るゼノム自身にもその効果は及ぶという事。
「何だと!? 俺の波動が、色が……!? 何故だ、何をした!?」
ゼノムは狼狽える。
姿の変貌は途中で止まり、まだその顔にはバーガの面影を残していた。
力を封じられ、鎖に囚われながらも、それでもゼノムは抵抗しようと必死に身体を悶えさせる。
そんなゼノムを見下ろし、来人は最後の一撃を放つ。
「――眠れ、原初のガイア族よ」
金色の剣を振るえば、七色の光の斬撃が放たれる。
その光りがゼノムの波動を中和し、呑み込み、そして、消し去って行った。
塔の頂上から放たれた眩い虹彩。
それをメーテルのガイア族たちは見上げて、自分たちの勝利を知るのだった。
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