【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
80 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編

#80 塔を登った先

しおりを挟む

 塔の螺旋階段を上って行く。
 一歩、また一歩と。
 足元の下層から、そして塔の外の都市からも時折大きな爆発音が響いてきて、ティルやカンガス、そしてガイア族の戦士たちの激しい戦いの様子が伝わって来る。

 来人は彼らに託された思いを胸に、歩を進める。
 程なくして、差し込む光に来人は目を細めた。
 階段はそこで途切れている。つまり、頂上だ。

 来人がいっそう勢いよく駆けだそうとすると、メガからの通信が入った。

『――ライト、もちろん勝算は有るんだろうが……、どうするつもりだネ?』
 
 メガは氷の大地での戦いの様子も全て『メガ・レンズ』を通して見ている。
 だからこそ、来人もティルも憑依混沌カオスフォームしたゼノムに一度膝を付いた事も知っているのだ。
 一度負けた相手にもう一度立ち向かうという事は、それなりの勝算が無くてはならない。

 来人は一瞬の間を置いた後、力強くその問いに答えた。
 
「ああ。その為に、三人と共にここに来たんだ」
「それは――、ボクもまだ検証が済んでいない事象だ」

 メガは来人の“勝算”が何なのか、すぐに察する物の、それに難色を示した。
 それでも、来人は薄く口角を上げて、

「――でも、実際にこの目で見た。なら、俺にだって出来る。真にこの身体に王の血が流れているのならば、不可能ではないはずだ」

 と、自信に満ちた声で答えた。
 それを聞いたメガも通信越しに薄く笑ったのが伝わって来る。
 
「ふん。それもそうだネ」
「行ってくる」
「ああ、行って来な。帰ったらデータを取らせてもらうヨ」

 通信を切り、来人は後ろを振り返る。
 そこには犬のガーネ、ジュゴンのジューゴ、メイドのイリス、三人のガイア族の契約者たち。
 三人は来人の顔を見て、まるで背中を押すように微笑み、頷く。

 来人たちは階段を上る。
 差し込む光の先、頂上へと向かって――。


「――ったく、ライトも無茶な事を考えるものだネ」

 通信を切った後、メガはそう溢して再び目の前のノートパソコンのモニターへと視線を戻し、作業に戻った。

「ちょっと! メガさん! 手伝ってくださいよ! 一人でこいつらの相手をするのは大変なのデス!」

 カタカタと打鍵音を響かせるメガの後ろで、それを守る様に、ギザは両手に持った『メガ・キューブ』を槍や剣、鎌など、見覚えの有る形をした様々な武器に変えて振り回し、襲い掛かって来る暴走状態のガイア族を追い払っている。
 それらはこれまでメガたちの集めて来た神々の戦闘データを基に、キューブの中に記憶させたイメージを具現化させたものであり、ギザが振るってもその神々の力を発揮する。

 しかし、英知の結晶である全身を特殊鉱石『メガ・ブラック』で造られたサイボーグであるとは言っても元は人間。
 その数のガイア族と戦い続けていれば、明らかに押されてきている。
 
「……わん」
「それ、意味ないデスから!」
「そうは言っても、文句を言う余裕は有るみたいじゃないか。なら、大丈夫だヨ」
「メガさんー!!」

 ギザの悲鳴も他所に、メガは作業を続ける。

「――もう少し、もう少しで終わるんだヨ。それまで、持ち堪えてくれ」

 メガの周囲には無数の『メガ・キューブ』が散らばっている。
 それらは来人たちに渡したものと同じタイプのキューブだ。
 メガはそれらに新たなデータを入力して行く――。
 
 
 ――階段を上り、光の先。
 来人たちはついに塔の頂上へと辿り着いた。

「――ゼノム」

 ゼノムは塔の頂上から、あの“黒い靄”を身体から吐き出し、眼下の都市へと撒き散らしていた。
 この靄を吸い込んだガイア族のたちは暴走状態となってしまう。
 確かにこの場所ならゼノムとファントムの目的――“ガイア族たちの翼を取り戻す”事に最も適した場所だろう。

 来人に気付いたゼノムはゆっくりと振り返り、そしてつまらなさそうに、

「なんだ、若き神。生きていたとはな」
「生憎、お前のお友達のスキルが優秀だったものでね」
「――『蜃気楼』。そうか、ファントムの力……。まあいい、もう一度消し去れば良いだけの事!」

 ゼノムはそう言って、眼下の都市に撒き散らしていた黒い靄の指向性を変えて来人の契約者たちに向けて放った。

「くっ……!!」

 その濃い波動の奔流に皆押されそうになるが、なんとかその場に踏み止まった。
 するとゼノムは状況がおかしい事に気付いて、攻撃の手を止め自分の手に視線をやる。

「――どういう事だ? 何故お前たちは翼を得ようとしないのだ?」

 ガーネも、ジューゴも、イリスも、その黒い靄の攻撃を受けても暴走しない。
 その事に気付いたゼノムは目を見開いた。

「“天才”の弟のおかげだネ!」
「ええ。あなたの攻撃なんて、わたくしたちには届きませんわ!」
「この力は、王様の為に!」

 メガに託された小さなキューブに収められた『絶色領域アンチカラーフィールド』によって、ゼノムの遺伝子のスキルは実質無効化。
 来人の契約者たちは暴走する事無く、原初の力に屈する事無く、ゼノムに立ち向かえる。
 
「ああ、嘆かわしい! ガイアの民たちは神々に騙され、都合よく利用されている。そして、それが幸福だと信じて疑わない! だから、俺がその呪いから解放してやろうと言うのに! 何故拒むのか!」

 ゼノムはそう声を荒げる。
 しかし、その声は誰にも届く事は無い。

 メイド服を身に纏う、人型の姿のガイア族、イリスは語る。

「――わたくしは、旦那様に拾って頂ました。そして、今は坊ちゃまと共に在ります。あなたが神々をどう思っていようと、わたくしはあなたの憎むその神に救われ、今が有るのですわ」
 
 刀を咥えた、犬の姿のガイア族、ガーネは語る。

「ネはらいたんの契約者である前に、家族であり友人だネ。お前がもし正しかったとしても、神が間違っていたとしても、それは変わらない事だネ。ネはらいたんのやりたい事に協力するネ」

 宙を泳ぐ、ジュゴンの姿のガイア族、ジューゴは語る。

「僕はまだ王様と出会ったばかりなのです。なので、お二人の先輩方の様な強い信念はまだ無い――、けど! けど、ジュゴロクたち、他のガイア族も、酷い目に会わせたのは、許せない!」

 三人の半神半人ハーフの鎖使いに仕える契約者たち。
 その真っ直ぐな瞳に見据えられ、ゼノムは更に苛立ちを募らせる。

「お前たちは何も分かっていない! その信頼が、忠誠が、その全てが元から作られた歴史だと、まやかしだと、何故――」
「――話は終わりだ」

 来人は尚も何かを訴えようとするゼノムの言葉を切り、前に立つ。

「お前がどういう目的で、どういう信念の元動いていたかなんて、関係無い。お前はガイア界を滅茶苦茶にした。ガーネの、イリスの、ジューゴの、みんなの家族や友達たちを傷つけた」
「だから、どうしたと言うんだ!? 神々の呪縛から、同胞を解き放ってやるんだ! それこそが、我々ガイアの民の幸福なのだ!!」
「――だから、許さない」

 二本の柱、三十字と、そして「V」と「く」の字の開いた側の合わさった不思議な形をした王の証。
 それらを金色の剣へと変え、両の手に構え、鎖が剣を握る拳に巻き付き、包み込む。

「――三代目神王しんおう候補、天野来人あまのらいと。神に綽名す反逆者に、神罰を下そう」

 切先を、復活した反逆者、原初のガイア族へと突き立てる。

「――お前を殺し、我々の翼を取り戻す」

 ゼノムの身体が変貌して行く。
 自身の魂の『遺伝子』を操作し、改変して行く。
 背からは先の鋭利な爪となった六本の腕が生え、脚は獣の様に隆々と筋肉が浮かび上がる強靭な物へと成る。
 あらゆるガイア族の遺伝子を掛け合わせた、その姿はまさに混沌の獣。

「――ガーネ、イリス、ジューゴ、行くぞ」

 来人のその短い言葉で、三人の契約者たちはその意図を汲んだ。

「はい! 王様と一緒なら!」
「だネ! らいたんについて行くネ!」
「ええ! この身、この魂、坊ちゃまにお預け致します」

 皆が来人の傍に寄り、それを中心として大きな波動の奔流が渦巻いて行く。

「――『憑依混沌カオスフォーム』」

 四人を眩い光が包み込んで行き、塔の頂上から光の柱が立ち昇る。
 その光景は塔の眼下、火の海に包まれるメーテルで戦い続けるガイア族たちの目にも届いていた。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...