79 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編
#79 決戦、ガイア界
しおりを挟む
道中、『メガ・レンズ』を通した通信上で、メガが事の顔末について話してくれた。
「――ファントムの持っていた肉塊、あれこそがゼノムの波動の残滓の集積した物だったんだヨ。
ファントムはウルスとの戦いの後、『蜃気楼』の色で自身の死を隠蔽し、ギリギリの所で難を逃れたのだろう。そして、友であるゼノムの『分解』され塵となった欠片を、長い年月をかけて集めていた。
しかし、それでもウルスの『分解』の色を諸に受けたゼノムが完全に復活出来るはずも無い。ファントムがどれだけ身を粉にして集積しても、集まったのはあの肉塊くらいが限界だった。
もちろんそれだけではゼノムの復活には至らない、それを収める器が必要だったんだヨ」
そこまで言われれば、来人にも言わんとする事が分かる。
「つまり、その器として目を付けたのがバーガの遺体だった訳だ」
メガは自分の祖父の事を、どう思っているのだろうか。
ガーネと違い表に感情をあまり出さないメガだが、この時は少し返答に間が有った。
「――そうだヨ。お爺ちゃん――バーガの遺体は『氷』の色によって時が止まり、保存状態も良好。何より同じ原初のガイア族であるとう点において親和性も抜群だっただろう。
しかし、それでも問題が有った。バーガの遺体は誰の手も届かぬ禁足地、閉ざされた氷の大地の最奥に後生大事に保存されていた。
だからファントムはガイア族たちに翼を与え、事件を起こす事で神を呼び寄せた。ガイア族たちは決して開ける事の無い氷の大地の門も、神ならその限りでは無いからネ。
そしてやって来たのがライトと、そしてティルだった。ティルなんてファントムが求めていた都合の良い神そのものだっただろうネ。何せ、あの『光』の矢ならバーガの氷塊を砕く事くらい造作も無いだろう」
メガの話を聞き終え、来人は溜息を小さく溢した。
「つまり、俺たちは、まんまとあいつの策に乗ってしまった訳か」
「と言っても、ライトの目的も氷の大地にあったんだから、どちらにせよ、だろうヨ」
「なんだ、フォローしてくれるのか?」
「まさか。むしろその逆で、事実を事実として述べているだけだヨ。ライトはファントムの思惑を知っていたからと言って、自分の目的を――、望む物を諦めたのかい?」
「――いいや。俺は分かっていても、秋斗を完全に取り戻す為に氷の大地の門を開けていたよ」
そうしてメガと通信をしながらも、来人は前へと進んで行く。
そして瓦礫の山を飛び越え、角を曲がった先、そこには――。
「くそっ、流石にタダでは通してくれないか……」
『メガ・レンズ』の映し出すルート上に立ち塞がる暴走状態のガイア族。
八つの頭を持ち、それぞれの頭部から炎のブレスを放ち辺りを火の海へと変えている。
“ヤマタノオロチ”の姿をしたガイア族だ。
「メガ、他のルートは無いのか!?」
「計算結果では、こいつを倒して行くのが最速だ。空を飛ぶ多くの飛竜を掻い潜るよりも、迂回して毒の霧を吐くヒュドラを相手にするよりも、一番マシな相手だヨ」
地獄か地獄か超地獄か、どうやら来人たちにはろくな選択肢が無いらしい。
この大きさのヤマタノオロチ相手に素のままで戦えばパワー負けし兼ねないし、何より相手は罪の無いガイア族の民、殺してしまってもいけない。
シンクロ率を無暗に上げない為にゼノム戦までに温存しておきたかったが、来人が覚悟を決め、再度の憑依混沌で立ち向かおうかとしていた、その時――。
どこからか、遥か空からもの凄い勢いで飛んできた二つの物体。
それはその勢いを落とす事無く、ヤマタノオロチへと突っ込んで行った。
激しい衝撃音と共に、立ち上がる土煙。
そして、その煙が晴れると、その突っ込んで来たのが何者かの正体が。
「よう、鎖使い! 援軍だぜ!」
「カンガスさん!」
現れたのは山の大地で再会して、そして共にアビスプルートで戦い、来人が助手となった、あの武器屋の神カンガスだった。
あの時と同じ身の丈を超えるサイズの大剣を担いでいる。
そして、カンガスの隣にもう一人カンガスが――、いや、同じ姿をした獣人の男が居る。
「と、もしかしてそっちが、言っていた――」
「おう! 俺の相棒、山の大地の長、ユキだ! どうだ、格好いいだろう!」
「……」
ユキはカンガスと違い寡黙な男の様で、こくりと頷くだけでそれを返事の代わりとした。
「俺たちがこいつを引き受ける! お前らは先に行きな!」
「ありがとうございます! 気を付けて!」
「おうよ! 帰ったらうちの店、手伝ってもらうからな!」
カンガスとユキ、二人の獣人に任せて来人たちは先へと進む。
しかし、少し進めばまた暴走状態のガイア族が立ち塞がり、倒して進めばまた同じ様に行く道の先に現れる。
「切りが無い。ゼノムの元まで、もう少しだって言うのに……!」
レンズに映し出されているルートはもう少し。
あと少しだというのに、道中に立ち塞がる竜たちが、来人たちの進行を鈍らせる。
「なあ、メガ!」
「落ち着け、そろそろだヨ」
焦りからメガに当たる来人だったが、対してメガは落ち着いた調子で、“そろそろ”と、まるで何かを待っていたかの様だった。
そして、そのメガの言葉通り、待ち人は現れた。
「ジューゴ、待たせたな!」
「我々も戦うのですぞ!」
水の大地からジュゴイチとジュゴツー、宙を泳ぐ二人のジュゴンの兵士。
「ジュゴイチ兄さま! ジュゴツー兄さま!」
その姿を見たジューゴはぱっと表情を弾けさせる。
そして、
「我々もライト様の為に、道を切り開くのだ! 皆の者、かかれ!」
「「うおおおおおお!!!!」」
自然の大地からは、ジャックと率いる部下の獣たち。
ジャックはイリスの元へと降り立ち、声を掛ける。
「心配をかけたな、イリス」
「お兄様、ご無事で何よりですわ。もう大丈夫なんですの?」
「ああ。メガというガイア族に助けられた。そして、力を貸せと言われ、今こうして駆けつけたんだ。ここは俺たち自然の大地の戦士たちが引き受ける、イリスはライト様と共に」
「ええ、分かりましたわ。お兄様も、ご武運を」
立ち塞がるガイア族の竜の群れを、水の大地と自然の大地の戦士たちが薙ぎ払って行き、来人たちの道が産まれる。
「らいたん、今の内に!」
「ああ、行くぞ!」
そうして、ついにレンズの示すルートの先、目的地へ到着。
そこは中央都市メーテル、円形に作られた都市の中央部に位置する、高くそびえる塔だった。
その頂上に、ゼノムは居る。
螺旋階段を上り、中腹程に差し掛かると、大きなホールに出た。
その部屋の中心に、バチバチと弾ける電気を纏った鳥が翼を羽ばたかせていた。
「ここにも居るか」
「あれを倒さないと、先に進めないみたいだネ」
「どう致しますか? 先程までの様に、わたくしが囮となって引き受けて、坊ちゃまたちだけ先に進むという手も――」
「いいや。イリスも、そして皆も俺と共に来てもらう必要が有る。そうでなければ、ゼノムは倒せない」
来人には有る考えが有った。
それはゼノムとファントムを見て思いついた秘策であり、それはイリスたち来人の契約者たちの力が必要だった。
「王様! なら、全員で力を合わせてさっさと倒してしまいましょう!」
「ああ。すぐに片を付けるぞ!」
そう意気込み、電気を纏った鳥――サンダーバードへと斬りかかる来人。
しかし、
「なっ――!? 速い、速過ぎる!?」
サンダーバードは自身の身体の全てが電気となり、まさに稲妻のごとくホールの空間を縦横無尽に飛び回る。
その間にもバチバチと電気のオーラを放ち、それに触れた来人たちはダメージを受けてしまう。
速さ、それは圧倒的なアドバンテージであり、その速さをそのままぶつけるだけで必殺の威力となる。
四人がかりでも手こずってしまう。
「憑依混沌を使えば――いや、しかし、今やるわけには行かない」
「――じゃあ、邪魔だから、どいてなよ」
そんな時、声と共に一閃。
その瞬きの間の一閃――『光』の矢は、サンダーバードの身体を掠め、僅かに動きを鈍らせた。
「ティル!!」
現れたのは、ゼノムの漆黒の一閃で受けた傷を包帯で覆った痛々しい姿のティルと、そして相棒のダンデだった。
氷の大地での戦いで倒れたティルが、今は弓と矢を手に、立ち上がり、来人たちの前に現れたのだ。
「大丈夫なのか!?」
「腹立たしい事に、見ての通りだ」
ティルが憎々し気に来人を睨み、ふんと鼻を鳴らすと、傍に居たライオンのガイア族、ダンデは主人にへりくだる様に、
「――どうやら、彼らは”この程度“の相手にすら手こずっている様ですね」
「なっ――!? ダンデ! あなた――」
そのダンデの言葉にイリスが抗議しようとするが、ダンデはイリスがそれを言い終える前に言葉を被せて、
「――『電気』の鳥。しかし、自分の『雷』の前では、そしてティル様の『光』の前では、その速さなど止まっているも同然」
そう言って、色を発動させて『雷』を纏ったライオンは来人たちの方に軽く目配せをする。
そして、
「彼らの代わりに、我々が見せてあげましょう! 真の“速さ”というものを!!」
「ふん。元よりそのつもりだ。――行くぞ、相棒」
「はい。ティル様」
ティルは弓の弦を引き絞り、ダンデは地を蹴る。
ダンデは主人を駆り立て、来人たちの為に道を切り開く役目を買って出たのだ。
本来であればティルは決して請け負わず、本丸を目指しただろう。
しかし、一度漆黒の一閃を受けて傷は深く、完全に力を発揮出来ない事をティル自身が理解していた。
だからこそ、ダンデは主人のプライドを傷つけない形で、“来人たちが勝てないガイア族を相手にする”という建前を用意して、主人を動かしたのだ。
ティル自身だってそれを理解していない程愚かでは無い。
しかし、それでもティルは相棒の意を汲み、それに乗ってやる。
――これは、神々に綽名す反逆者を粛正する為の戦いだ。
結果として、ゼノムが討たれればそれはティルの手柄となって返って来るのだから。
「――ここはダンデたちに任せて、行きましょう、坊ちゃま」
「ああ」
来人たちは螺旋階段を上る。
その先は、塔の頂上――つまり、ゼノムの元。
「――ファントムの持っていた肉塊、あれこそがゼノムの波動の残滓の集積した物だったんだヨ。
ファントムはウルスとの戦いの後、『蜃気楼』の色で自身の死を隠蔽し、ギリギリの所で難を逃れたのだろう。そして、友であるゼノムの『分解』され塵となった欠片を、長い年月をかけて集めていた。
しかし、それでもウルスの『分解』の色を諸に受けたゼノムが完全に復活出来るはずも無い。ファントムがどれだけ身を粉にして集積しても、集まったのはあの肉塊くらいが限界だった。
もちろんそれだけではゼノムの復活には至らない、それを収める器が必要だったんだヨ」
そこまで言われれば、来人にも言わんとする事が分かる。
「つまり、その器として目を付けたのがバーガの遺体だった訳だ」
メガは自分の祖父の事を、どう思っているのだろうか。
ガーネと違い表に感情をあまり出さないメガだが、この時は少し返答に間が有った。
「――そうだヨ。お爺ちゃん――バーガの遺体は『氷』の色によって時が止まり、保存状態も良好。何より同じ原初のガイア族であるとう点において親和性も抜群だっただろう。
しかし、それでも問題が有った。バーガの遺体は誰の手も届かぬ禁足地、閉ざされた氷の大地の最奥に後生大事に保存されていた。
だからファントムはガイア族たちに翼を与え、事件を起こす事で神を呼び寄せた。ガイア族たちは決して開ける事の無い氷の大地の門も、神ならその限りでは無いからネ。
そしてやって来たのがライトと、そしてティルだった。ティルなんてファントムが求めていた都合の良い神そのものだっただろうネ。何せ、あの『光』の矢ならバーガの氷塊を砕く事くらい造作も無いだろう」
メガの話を聞き終え、来人は溜息を小さく溢した。
「つまり、俺たちは、まんまとあいつの策に乗ってしまった訳か」
「と言っても、ライトの目的も氷の大地にあったんだから、どちらにせよ、だろうヨ」
「なんだ、フォローしてくれるのか?」
「まさか。むしろその逆で、事実を事実として述べているだけだヨ。ライトはファントムの思惑を知っていたからと言って、自分の目的を――、望む物を諦めたのかい?」
「――いいや。俺は分かっていても、秋斗を完全に取り戻す為に氷の大地の門を開けていたよ」
そうしてメガと通信をしながらも、来人は前へと進んで行く。
そして瓦礫の山を飛び越え、角を曲がった先、そこには――。
「くそっ、流石にタダでは通してくれないか……」
『メガ・レンズ』の映し出すルート上に立ち塞がる暴走状態のガイア族。
八つの頭を持ち、それぞれの頭部から炎のブレスを放ち辺りを火の海へと変えている。
“ヤマタノオロチ”の姿をしたガイア族だ。
「メガ、他のルートは無いのか!?」
「計算結果では、こいつを倒して行くのが最速だ。空を飛ぶ多くの飛竜を掻い潜るよりも、迂回して毒の霧を吐くヒュドラを相手にするよりも、一番マシな相手だヨ」
地獄か地獄か超地獄か、どうやら来人たちにはろくな選択肢が無いらしい。
この大きさのヤマタノオロチ相手に素のままで戦えばパワー負けし兼ねないし、何より相手は罪の無いガイア族の民、殺してしまってもいけない。
シンクロ率を無暗に上げない為にゼノム戦までに温存しておきたかったが、来人が覚悟を決め、再度の憑依混沌で立ち向かおうかとしていた、その時――。
どこからか、遥か空からもの凄い勢いで飛んできた二つの物体。
それはその勢いを落とす事無く、ヤマタノオロチへと突っ込んで行った。
激しい衝撃音と共に、立ち上がる土煙。
そして、その煙が晴れると、その突っ込んで来たのが何者かの正体が。
「よう、鎖使い! 援軍だぜ!」
「カンガスさん!」
現れたのは山の大地で再会して、そして共にアビスプルートで戦い、来人が助手となった、あの武器屋の神カンガスだった。
あの時と同じ身の丈を超えるサイズの大剣を担いでいる。
そして、カンガスの隣にもう一人カンガスが――、いや、同じ姿をした獣人の男が居る。
「と、もしかしてそっちが、言っていた――」
「おう! 俺の相棒、山の大地の長、ユキだ! どうだ、格好いいだろう!」
「……」
ユキはカンガスと違い寡黙な男の様で、こくりと頷くだけでそれを返事の代わりとした。
「俺たちがこいつを引き受ける! お前らは先に行きな!」
「ありがとうございます! 気を付けて!」
「おうよ! 帰ったらうちの店、手伝ってもらうからな!」
カンガスとユキ、二人の獣人に任せて来人たちは先へと進む。
しかし、少し進めばまた暴走状態のガイア族が立ち塞がり、倒して進めばまた同じ様に行く道の先に現れる。
「切りが無い。ゼノムの元まで、もう少しだって言うのに……!」
レンズに映し出されているルートはもう少し。
あと少しだというのに、道中に立ち塞がる竜たちが、来人たちの進行を鈍らせる。
「なあ、メガ!」
「落ち着け、そろそろだヨ」
焦りからメガに当たる来人だったが、対してメガは落ち着いた調子で、“そろそろ”と、まるで何かを待っていたかの様だった。
そして、そのメガの言葉通り、待ち人は現れた。
「ジューゴ、待たせたな!」
「我々も戦うのですぞ!」
水の大地からジュゴイチとジュゴツー、宙を泳ぐ二人のジュゴンの兵士。
「ジュゴイチ兄さま! ジュゴツー兄さま!」
その姿を見たジューゴはぱっと表情を弾けさせる。
そして、
「我々もライト様の為に、道を切り開くのだ! 皆の者、かかれ!」
「「うおおおおおお!!!!」」
自然の大地からは、ジャックと率いる部下の獣たち。
ジャックはイリスの元へと降り立ち、声を掛ける。
「心配をかけたな、イリス」
「お兄様、ご無事で何よりですわ。もう大丈夫なんですの?」
「ああ。メガというガイア族に助けられた。そして、力を貸せと言われ、今こうして駆けつけたんだ。ここは俺たち自然の大地の戦士たちが引き受ける、イリスはライト様と共に」
「ええ、分かりましたわ。お兄様も、ご武運を」
立ち塞がるガイア族の竜の群れを、水の大地と自然の大地の戦士たちが薙ぎ払って行き、来人たちの道が産まれる。
「らいたん、今の内に!」
「ああ、行くぞ!」
そうして、ついにレンズの示すルートの先、目的地へ到着。
そこは中央都市メーテル、円形に作られた都市の中央部に位置する、高くそびえる塔だった。
その頂上に、ゼノムは居る。
螺旋階段を上り、中腹程に差し掛かると、大きなホールに出た。
その部屋の中心に、バチバチと弾ける電気を纏った鳥が翼を羽ばたかせていた。
「ここにも居るか」
「あれを倒さないと、先に進めないみたいだネ」
「どう致しますか? 先程までの様に、わたくしが囮となって引き受けて、坊ちゃまたちだけ先に進むという手も――」
「いいや。イリスも、そして皆も俺と共に来てもらう必要が有る。そうでなければ、ゼノムは倒せない」
来人には有る考えが有った。
それはゼノムとファントムを見て思いついた秘策であり、それはイリスたち来人の契約者たちの力が必要だった。
「王様! なら、全員で力を合わせてさっさと倒してしまいましょう!」
「ああ。すぐに片を付けるぞ!」
そう意気込み、電気を纏った鳥――サンダーバードへと斬りかかる来人。
しかし、
「なっ――!? 速い、速過ぎる!?」
サンダーバードは自身の身体の全てが電気となり、まさに稲妻のごとくホールの空間を縦横無尽に飛び回る。
その間にもバチバチと電気のオーラを放ち、それに触れた来人たちはダメージを受けてしまう。
速さ、それは圧倒的なアドバンテージであり、その速さをそのままぶつけるだけで必殺の威力となる。
四人がかりでも手こずってしまう。
「憑依混沌を使えば――いや、しかし、今やるわけには行かない」
「――じゃあ、邪魔だから、どいてなよ」
そんな時、声と共に一閃。
その瞬きの間の一閃――『光』の矢は、サンダーバードの身体を掠め、僅かに動きを鈍らせた。
「ティル!!」
現れたのは、ゼノムの漆黒の一閃で受けた傷を包帯で覆った痛々しい姿のティルと、そして相棒のダンデだった。
氷の大地での戦いで倒れたティルが、今は弓と矢を手に、立ち上がり、来人たちの前に現れたのだ。
「大丈夫なのか!?」
「腹立たしい事に、見ての通りだ」
ティルが憎々し気に来人を睨み、ふんと鼻を鳴らすと、傍に居たライオンのガイア族、ダンデは主人にへりくだる様に、
「――どうやら、彼らは”この程度“の相手にすら手こずっている様ですね」
「なっ――!? ダンデ! あなた――」
そのダンデの言葉にイリスが抗議しようとするが、ダンデはイリスがそれを言い終える前に言葉を被せて、
「――『電気』の鳥。しかし、自分の『雷』の前では、そしてティル様の『光』の前では、その速さなど止まっているも同然」
そう言って、色を発動させて『雷』を纏ったライオンは来人たちの方に軽く目配せをする。
そして、
「彼らの代わりに、我々が見せてあげましょう! 真の“速さ”というものを!!」
「ふん。元よりそのつもりだ。――行くぞ、相棒」
「はい。ティル様」
ティルは弓の弦を引き絞り、ダンデは地を蹴る。
ダンデは主人を駆り立て、来人たちの為に道を切り開く役目を買って出たのだ。
本来であればティルは決して請け負わず、本丸を目指しただろう。
しかし、一度漆黒の一閃を受けて傷は深く、完全に力を発揮出来ない事をティル自身が理解していた。
だからこそ、ダンデは主人のプライドを傷つけない形で、“来人たちが勝てないガイア族を相手にする”という建前を用意して、主人を動かしたのだ。
ティル自身だってそれを理解していない程愚かでは無い。
しかし、それでもティルは相棒の意を汲み、それに乗ってやる。
――これは、神々に綽名す反逆者を粛正する為の戦いだ。
結果として、ゼノムが討たれればそれはティルの手柄となって返って来るのだから。
「――ここはダンデたちに任せて、行きましょう、坊ちゃま」
「ああ」
来人たちは螺旋階段を上る。
その先は、塔の頂上――つまり、ゼノムの元。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】
みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。
元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡
唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。
彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。
しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。
小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。
しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。
聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。
小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。
★登場人物
・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。
・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。
・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。
・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。
・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。
⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。
現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!
angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる