【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第二章 ガイアの遺伝子編

#77 捥がれた翼

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「――『氷斬ひょうざん』!!」
 
 右手に持つガーネの愛刀に『氷』の波動を纏わせ、刃を振るえば斬撃が放たれる。
 ゼノムは腕で自身の身体を庇う。
 
 その刃は届いた。
 ゼノムの腕を切り落とすには充分な攻撃。――そのはずだった。

「何!?」

 しかし、次に来人が見たのは無傷でてらてらと光を鈍く反射させるゼノムの腕だった。
 ゼノムはわざとらしくダメージが無い事をアピールする様に腕を振り、肩を回す。

「――リヴァイアサンの鱗。そんな剣じゃ傷一つ付かないぞ」

 グリフォンの爪に続き、リヴァイアサンの鱗。
 間違いない。ファントムはこれまで暴走させてきたガイア族の力を扱えるのだと、来人も理解した。

「そんな事、ファントムが言っていたな。翼のカタチ、だったか」
「如何にも。俺の遺伝子のスキルを以てすれば、他者の翼を我が物とする事も容易」

 斬り付けても、通らない。
 ならば――、
 
 来人は今度は切先を正面に向け、

「――『氷牙ひょうが』!!」

 氷を纏った刃による刺突。
 相手の装甲は鱗状だ、ならばその鱗の隙間に刃を立てれば良い。

 狙いは間違いない。
 ゼノムはリヴァイアサンの鱗の装甲で刺突を受けようとはしなかった。
 しかし、ゼノムはカウンターを仕掛けて来る。

 両腕をグリフォンの爪に変えて刀の側面を走らせ、鋭い爪が来人に迫る。
 来人は咄嗟に左手の龍の頭部からブレスを放ち、その勢いで後退。
 ゼノムの爪は来人の身体を掠めるに留まった。

「だが――」
「相手は坊ちゃまだけでは有りませんわよ!」
「僕も居るのです!」

 来人とガーネだけではない。
 イリスとジューゴ、まだ二人の仲間が居る。
 ゼノムがいくら強かろうとも、人数のアドバンテージは来人たちに有った。

 イリスの『虹』の爪、そしてジューゴの『岩』の礫。
 完全に来人に意識を向けていたゼノムに対しての不意打ち。
 しかし――、

「無駄だ」

 ゼノムの背から炎の翼が生え、その羽ばたきで極寒の大地に灼熱が吹き荒れる。
 イリスとジューゴはその熱風に煽られ、吹き飛ばされてしまう。

「イリス! ジューゴ!」

 イリスとジューゴの二人は火傷を負い、氷の大地に倒れ伏す。
 意とも容易く往なされてしまったガイア族たちを見て、ゼノムは溜息と共に言葉を紡ぐ。

「ガイアの民の末裔たちよ。何故神に屈する? 何故神に従う? そこにどんな信念が、どんな意義が有る? 我々にはこんなにも素晴らしい力が、強さが有ると言うのに!」
 
 ゼノムの言葉は徐々に熱を帯び、まるで演説でもするかのようにヒートアップして行く。

「俺は神々に捥がれた翼を取り戻す! かつては憎きウルスに阻まれた。しかし、今回は我が友のおかげでこのバーガの肉体を手に入れた! あの時とは違う! 今度こそ、神々を下して我々ガイアの民の自由を手に入れる!!」
「――させるかよ!!」

 まるで酔いしれる様に演説するゼノムに水を差すように、来人は斬りかかる。
 左手の龍の頭部からブレスを放ち、右手の日本刀で斬り、そしてその攻撃を往なされても背から伸びた鎖の腕には柱を変形させた金色の剣による連撃。
 
 憑依混沌カオスフォームにより二人分の合わさった器と波動量、そしてこの圧倒的手数。
 しかし、それを以てしても良くて互角――いや、来人たちが押されていた。

 ゼノムは来人が手数で押し切ろうとしているのを見るや、自信も肉体の形を変えて背から更に追加の腕を生やし即座にその手数に対応。
 遺伝子を操るゼノムにとって、肉体の形を変える事など容易い。
 斬撃も、刺突も、ブレスも、拳も、その全てが対応されてしまう。

 結果、幾重にも及ぶ打ち合いの末、先に崩れたのは来人の方だった。

「終わりだ」

 ゼノムは掌底を来人に向け、そこから漆黒の一閃を放つ。
 来人の纏う氷の鎧は砕かれ、無残にも散って行く。
 半身を吹き飛ばされた来人はその場に倒れ伏し、憑依していたガーネはボロボロになってはじき出される。

「――俺はガイア族を解放する。皆の翼を取り戻す。そしてこれまで奴隷の様に我々を酷使してきた神に復讐を果たすのだ」
 
 ゼノムはそう言い残して、脚をペガサスの蹄に変化させ、地を蹴る。
 氷の大地に亀裂が走り、ゼノムは跳躍。
 そして背からはフェニックスの翼を生やし、羽ばたきその場を去って行った。


 ゼノムが去った後。
 氷の大地には半身を失った来人とボロボロになった三人のガイア族の契約者たち。
 そして倒れ伏すティルと傍にはダンデ。

 すると、来人たちの身体の輪郭がぼんやりと溶けて行く。
 そして現れたのは傷は負っているも半身を失っていない来人の姿だった。
 三人の契約者たちも重症では無い。痛みに耐えながらも、身体を起こす。

「上手く行ったな。だけど、一時凌ぎにしかならない……」
「『蜃気楼』――上手く行ったネ」

 来人はファントムとの戦いで、何度もその幻を斬っている。
 その最中、来人は『泡沫』のスキルでファントムの『蜃気楼』のスキルを記憶していたのだ。
 あのまま正面から戦っていても勝てない事を悟った来人はそれを使って幻覚を見せ、ゼノムの目を欺いた。
 
「くそっ。あの『遺伝子』のスキルをどうにかしないと……」
「全部対応されて、受けきられてしまうネ。それにお爺ちゃんの器を使って、その力は昔ウルス様が倒した時の比じゃないネ」

 来人は首肯し、ゼノムが飛んで去って行った方角を見る。
 
「あいつが向かった先は――」
「あっちは、中央都市メーテルの方角ですわ」
「メーテル? なんで――」

 そう言いかけ、来人はある可能性に思い当たる。

「――って、まさか! またガイア族たちを暴走させるつもりじゃ!?」

 ゼノムは“ガイア族たちの翼を取り戻す”と言っていた。
 翼とはつまり、ガイア族たちの真の姿。
 ゼノムの仲間であるファントムはこれまで各地でガイア族たちを暴走させ、無理やり翼の姿を跳び起こしていた。
 あれに陽動以外の意味が有るのだとしたら、ゼノムはそれをまたやろうとしているのではないか。

 その来人の嫌な予感は的中。
 突如来人の脳内に声が響いて来る。

『――あー、あー、もしもし。ボクだ、メガだヨ』
「メガ!?」

 今現在通話機器を持っていない来人の脳内に、何故かメガの声が電話越しの様に聞こえて来る。

『今メガ・レンズの通信機能を通して話している。ボクは今メーテルに居て、さっきゼノムが現れて街はパニックだ。ガイア族たちが次々と暴走を始めているヨ。すぐに来てくれ』
「ちょっと待って。メガは今ガイア界に居るの? なんで――」
『いいから、話は後だヨ。お兄ちゃんに家で待ってると伝えてくれれば合流出来るヨ。それじゃ』

 そう言い残して、ブツリと切断音の後メガの声は聞こえなくなった。

「メガからだネ?」
「ああ。家で待ってるって」
「分かった、すぐ行くネ!」
「待って、ティルが――」

 来人は少し離れた所で倒れていたティルとダンデの元へ駆け寄る。
 ダンデは来人の存在に気付いて顔を上げた。

「ああ、ライト様!」
「ティルは大丈夫か?」

 来人がそう問えば、ティルは傷の痛みに苦悶しながらもゆっくりと身体を起こした。

「……お前に心配される覚えはない」
「でも――」
「私に構わず、あいつを追え。神々に仇名す者を討つ、それが私たちの仕事だろう。すぐに後を追う――、お前にばかり手柄を立てられる訳には行かないからな」

 ティルはそう言って、無理に身体を動かそうとするが傷が開いたのか唸り声を上げた後また倒れてしまう。
 ゼノムの漆黒の一閃を諸に受けたのだ、ダメージは相当深いはずだ。
 しかしダンデは主人の傍に寄り添いながらも、気丈に振舞う。

「ティル様もこう言っておられます。ライト様、ティル様が向かうまでの間の時間稼ぎ、頼みましたよ」

 ダンデは主人の意に添う様に、そう言って送り出した。
 来人もその言葉に静かに頷く。

「――分かった。絶対死ぬなよ」

 来人は三人のガイア族の仲間たちと共に、急いでメガの待つメーテルへと向かった。
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