【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
76 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編

#76 ゼノム復活

しおりを挟む
 ティルの『光』の矢の一撃によって、バーガの墓だった氷塊は砕かれた。

 黒い靄は嵐の様に吹き荒れる。
 その黒い嵐は肉塊を中心として、瀕死状態のファントムとバーガの遺体を巻き込み、大きな竜巻となる。

憑依混沌カオスフォームだと……!? 今あいつは、憑依混沌カオスフォームと言ったのか!?)
 
 ファントムの最後の呟きは来人の耳にも届いていた。
 確かに憑依混沌カオスフォームと、そう言っているのが聞こえたのだ。

 吹き荒れる嵐は勢いを増し、来人たちの干渉を阻む。
 そして、黒い嵐は内側へと収束して行き、一つの存在へと成った。

 荒らしが止み、氷の大地は一瞬の静寂に包まれる。
 そしてその静寂を破ったのは、笑い声だった。

「――フハハハハ!!」

 その声の主は、人型だった。
 二足の足で立ち、胸にはあの肉塊が埋め込まれている。
 そして頭部は犬――バーガの遺体の面影を残している。

 猿の身体に犬の頭部が付属した、人間の子供くらいの背丈の人型の姿をしている。
 まるで無理やり生物のパーツを切り貼りした様で、不揃いで、違和の塊。
 まさに混沌と称するに相応しい姿。

 その姿を見て、来人たちはすぐに理解した。

「お前――、ファントム! バーガの遺体を乗っ取ったのか!!」

 しかし、バーガの遺体と憑依混沌カオスフォームしたファントムはガーネと似ているバーガの顔で、見た事も無い邪悪な笑みを浮かべて、

「いいや、違うな。俺はゼノム。――俺の遺伝子は今、時を越えて蘇った!」
「なんだと……!?」

 ファントムでは無い。
 目の前の人型のガイア族は、死んだはずの原初のガイア族の名を――、ゼノムと名乗ったのだ。

 胸の中心に埋め込まれた肉塊が、心臓の様にどくんどくんと命の鼓動を脈打っている。
 かつてファントムと共に神々に反逆した原初のガイア族、ゼノムが復活を果たしたのだ。

 そこに間髪入れずティルが再び『光』の矢を放つ。
 光速の矢はゼノムの人型の身体、その胸の肉塊を――、

「感謝するぞ、若き神。お前のおかげで氷は砕け、この肉体を手にすることが出来た」

 光速の矢はゼノムの身体を貫くことは無かった。
 矢を片手で受け止めたゼノムは、それを握り潰す。

「何……!?」

 ティルはあり得ないと言わんばかりに動揺を見せる。
 そして、ゼノムは指を拳銃の形にしてティルへと向ける。

「しかし、もう用済みだ」

 指先から黒い矢が放たれティルを貫き、その身体は宙に投げ出され後方に吹き飛ばされる。

「ティル様!」

 ダンデはティルの元へ駆け寄って行く。
 ゼノムはそんなティルたちからすぐに興味を失った様に、ふんと鼻を鳴らして視線を逸らす。
 
 全ては、ファントムの計算通りだった。

 氷の大地リップバーンの門の開門も、そしてバーガの遺体を守っている氷の墓石の破壊も。
 自分では開門出来ないから、暴走事件を起こして来人たちを誘導した。
 自分では墓氷を破壊できないから、わざとティルの一撃を受けて破壊させた。
 全ては友の復活の為に。

 そして、ゼノムは今度は悲し気に目を伏せて、胸元で拳を握り締める。
 
「――ファントム、我が友よ。お前がくれたこの命、この身体、無駄にはしない」

 高笑いしたかと思えば、打って変わって哀愁を纏う。
 そんな情緒の狂ったゼノムの様子に困惑する来人たちだったが、その中でガーネだけはすぐに怒りを露わにした。

「それはお爺ちゃんの身体だネ! お前の物じゃない! 返せ!!」
「そうか。貴様はバーガの血族か。だが、これはもう俺の物だ。頭の上から足の先まで、俺の遺伝子が行き渡っている」

 そう言って、ゼノムが右腕に力を込めると、黒い靄と同時にその腕の形状が変化。
 鋭い爪になり、その腕を横に薙ぎ払う。

 すると突風の鎌鼬が吹き荒れ、来人たちを襲う。

「王様!!」

 ジューゴはすかさず『岩』のスキルを発動。
 泳いで通った弧を描く軌道上に岩の壁が構築され、仲間たちを守る盾となる。
 間一髪のところで防ぐことが出来たが、その壁はその一撃で崩れ去ってしまう。
 
「――あれは、グリフォンの爪ですわね」
「グリフォンって、山の大地で見た……」

 ゼノムはその爪鋭い爪の腕を開いたり閉じたりして感触を確かめながら、「ふむ」と頷く。

「ファントムが集めてくれたガイアの遺伝子も、充分に機能している様だな」

 バーガの顔で不敵に笑うゼノム。
 それにガーネは更に苛立ちを募らせる。

「お前、お前……!!」
「ガーネ!」

 そんな怒りに震えるガーネの、相棒の名を来人は呼ぶ。
 はっとしてガーネは来人の顔を見る。
 そして、来人は相棒に片手を差し出し、

「ガーネ、行くぞ」

 と、ただ一言。それだけを言った。
 
 これまで戦いを共にしてきた、心を通わせた相棒同士、ガーネにはそれだけで十分だった。
 ガーネは来人の手を取る。

「見せてやる、俺たちの力を。これが本当の――」

 来人とガーネを眩い光が包み込む。

「「――憑依混沌カオスフォーム!!」」
 
 冷たい極寒の大地を、更に凍り付かせんばかりの吹雪が吹き荒れる。
 世界を巻き込み、『氷』の色が全てを塗り潰していく。

 光りと共に吹雪が止めば、その姿が露わとなる。

 左手には龍の頭部、右手には日本刀。
 背中からは透き通った美しい氷製の大きな二枚の龍の翼と、二本の金色の剣を握る鎖の腕。
 
 来人とガーネの『憑依混沌カオスフォーム』だ。

『力が漲るネ! らいたん、これなら行けるネ! あいつをぶっ倒すネ!』

 脳内で響くガーネの声。
 来人は視界の端に意識を向ける。

 『メガ・レンズ』に映し出されたシンクロ率の数値は45%を表示していた。
 ジューゴと、イリスと、そしてガーネと、やはり憑依混沌カオスフォームを重ねる毎にその数値は上がっている。

 このシンクロ率の数値が100%になるとどちらかが呑み込まれてしまうのは間違いないし、半分を超えて来るともう危険域だ。
 来人と契約者たちの安全を考えると、憑依混沌カオスフォームもこれが最後か、出来てあと一回が限度だろう。
 だからこそ――、

「――ここで決めるぞ、ガーネ!」
『だネ!』
 
 来人はゼノムに斬りかかる。
 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

楽園の天使

飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。 転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。 何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。 やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。 全14話完結。 よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。

処理中です...