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第二章 ガイアの遺伝子編
#76 ゼノム復活
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ティルの『光』の矢の一撃によって、バーガの墓だった氷塊は砕かれた。
黒い靄は嵐の様に吹き荒れる。
その黒い嵐は肉塊を中心として、瀕死状態のファントムとバーガの遺体を巻き込み、大きな竜巻となる。
(憑依混沌だと……!? 今あいつは、憑依混沌と言ったのか!?)
ファントムの最後の呟きは来人の耳にも届いていた。
確かに憑依混沌と、そう言っているのが聞こえたのだ。
吹き荒れる嵐は勢いを増し、来人たちの干渉を阻む。
そして、黒い嵐は内側へと収束して行き、一つの存在へと成った。
荒らしが止み、氷の大地は一瞬の静寂に包まれる。
そしてその静寂を破ったのは、笑い声だった。
「――フハハハハ!!」
その声の主は、人型だった。
二足の足で立ち、胸にはあの肉塊が埋め込まれている。
そして頭部は犬――バーガの遺体の面影を残している。
猿の身体に犬の頭部が付属した、人間の子供くらいの背丈の人型の姿をしている。
まるで無理やり生物のパーツを切り貼りした様で、不揃いで、違和の塊。
まさに混沌と称するに相応しい姿。
その姿を見て、来人たちはすぐに理解した。
「お前――、ファントム! バーガの遺体を乗っ取ったのか!!」
しかし、バーガの遺体と憑依混沌したファントムはガーネと似ているバーガの顔で、見た事も無い邪悪な笑みを浮かべて、
「いいや、違うな。俺はゼノム。――俺の遺伝子は今、時を越えて蘇った!」
「なんだと……!?」
ファントムでは無い。
目の前の人型のガイア族は、死んだはずの原初のガイア族の名を――、ゼノムと名乗ったのだ。
胸の中心に埋め込まれた肉塊が、心臓の様にどくんどくんと命の鼓動を脈打っている。
かつてファントムと共に神々に反逆した原初のガイア族、ゼノムが復活を果たしたのだ。
そこに間髪入れずティルが再び『光』の矢を放つ。
光速の矢はゼノムの人型の身体、その胸の肉塊を――、
「感謝するぞ、若き神。お前のおかげで氷は砕け、この肉体を手にすることが出来た」
光速の矢はゼノムの身体を貫くことは無かった。
矢を片手で受け止めたゼノムは、それを握り潰す。
「何……!?」
ティルはあり得ないと言わんばかりに動揺を見せる。
そして、ゼノムは指を拳銃の形にしてティルへと向ける。
「しかし、もう用済みだ」
指先から黒い矢が放たれティルを貫き、その身体は宙に投げ出され後方に吹き飛ばされる。
「ティル様!」
ダンデはティルの元へ駆け寄って行く。
ゼノムはそんなティルたちからすぐに興味を失った様に、ふんと鼻を鳴らして視線を逸らす。
全ては、ファントムの計算通りだった。
氷の大地リップバーンの門の開門も、そしてバーガの遺体を守っている氷の墓石の破壊も。
自分では開門出来ないから、暴走事件を起こして来人たちを誘導した。
自分では墓氷を破壊できないから、わざとティルの一撃を受けて破壊させた。
全ては友の復活の為に。
そして、ゼノムは今度は悲し気に目を伏せて、胸元で拳を握り締める。
「――ファントム、我が友よ。お前がくれたこの命、この身体、無駄にはしない」
高笑いしたかと思えば、打って変わって哀愁を纏う。
そんな情緒の狂ったゼノムの様子に困惑する来人たちだったが、その中でガーネだけはすぐに怒りを露わにした。
「それはお爺ちゃんの身体だネ! お前の物じゃない! 返せ!!」
「そうか。貴様はバーガの血族か。だが、これはもう俺の物だ。頭の上から足の先まで、俺の遺伝子が行き渡っている」
そう言って、ゼノムが右腕に力を込めると、黒い靄と同時にその腕の形状が変化。
鋭い爪になり、その腕を横に薙ぎ払う。
すると突風の鎌鼬が吹き荒れ、来人たちを襲う。
「王様!!」
ジューゴはすかさず『岩』の色を発動。
泳いで通った弧を描く軌道上に岩の壁が構築され、仲間たちを守る盾となる。
間一髪のところで防ぐことが出来たが、その壁はその一撃で崩れ去ってしまう。
「――あれは、グリフォンの爪ですわね」
「グリフォンって、山の大地で見た……」
ゼノムはその爪鋭い爪の腕を開いたり閉じたりして感触を確かめながら、「ふむ」と頷く。
「ファントムが集めてくれたガイアの遺伝子も、充分に機能している様だな」
バーガの顔で不敵に笑うゼノム。
それにガーネは更に苛立ちを募らせる。
「お前、お前……!!」
「ガーネ!」
そんな怒りに震えるガーネの、相棒の名を来人は呼ぶ。
はっとしてガーネは来人の顔を見る。
そして、来人は相棒に片手を差し出し、
「ガーネ、行くぞ」
と、ただ一言。それだけを言った。
これまで戦いを共にしてきた、心を通わせた相棒同士、ガーネにはそれだけで十分だった。
ガーネは来人の手を取る。
「見せてやる、俺たちの力を。これが本当の――」
来人とガーネを眩い光が包み込む。
「「――憑依混沌!!」」
冷たい極寒の大地を、更に凍り付かせんばかりの吹雪が吹き荒れる。
世界を巻き込み、『氷』の色が全てを塗り潰していく。
光りと共に吹雪が止めば、その姿が露わとなる。
左手には龍の頭部、右手には日本刀。
背中からは透き通った美しい氷製の大きな二枚の龍の翼と、二本の金色の剣を握る鎖の腕。
来人とガーネの『憑依混沌』だ。
『力が漲るネ! らいたん、これなら行けるネ! あいつをぶっ倒すネ!』
脳内で響くガーネの声。
来人は視界の端に意識を向ける。
『メガ・レンズ』に映し出されたシンクロ率の数値は45%を表示していた。
ジューゴと、イリスと、そしてガーネと、やはり憑依混沌を重ねる毎にその数値は上がっている。
このシンクロ率の数値が100%になるとどちらかが呑み込まれてしまうのは間違いないし、半分を超えて来るともう危険域だ。
来人と契約者たちの安全を考えると、憑依混沌もこれが最後か、出来てあと一回が限度だろう。
だからこそ――、
「――ここで決めるぞ、ガーネ!」
『だネ!』
来人はゼノムに斬りかかる。
黒い靄は嵐の様に吹き荒れる。
その黒い嵐は肉塊を中心として、瀕死状態のファントムとバーガの遺体を巻き込み、大きな竜巻となる。
(憑依混沌だと……!? 今あいつは、憑依混沌と言ったのか!?)
ファントムの最後の呟きは来人の耳にも届いていた。
確かに憑依混沌と、そう言っているのが聞こえたのだ。
吹き荒れる嵐は勢いを増し、来人たちの干渉を阻む。
そして、黒い嵐は内側へと収束して行き、一つの存在へと成った。
荒らしが止み、氷の大地は一瞬の静寂に包まれる。
そしてその静寂を破ったのは、笑い声だった。
「――フハハハハ!!」
その声の主は、人型だった。
二足の足で立ち、胸にはあの肉塊が埋め込まれている。
そして頭部は犬――バーガの遺体の面影を残している。
猿の身体に犬の頭部が付属した、人間の子供くらいの背丈の人型の姿をしている。
まるで無理やり生物のパーツを切り貼りした様で、不揃いで、違和の塊。
まさに混沌と称するに相応しい姿。
その姿を見て、来人たちはすぐに理解した。
「お前――、ファントム! バーガの遺体を乗っ取ったのか!!」
しかし、バーガの遺体と憑依混沌したファントムはガーネと似ているバーガの顔で、見た事も無い邪悪な笑みを浮かべて、
「いいや、違うな。俺はゼノム。――俺の遺伝子は今、時を越えて蘇った!」
「なんだと……!?」
ファントムでは無い。
目の前の人型のガイア族は、死んだはずの原初のガイア族の名を――、ゼノムと名乗ったのだ。
胸の中心に埋め込まれた肉塊が、心臓の様にどくんどくんと命の鼓動を脈打っている。
かつてファントムと共に神々に反逆した原初のガイア族、ゼノムが復活を果たしたのだ。
そこに間髪入れずティルが再び『光』の矢を放つ。
光速の矢はゼノムの人型の身体、その胸の肉塊を――、
「感謝するぞ、若き神。お前のおかげで氷は砕け、この肉体を手にすることが出来た」
光速の矢はゼノムの身体を貫くことは無かった。
矢を片手で受け止めたゼノムは、それを握り潰す。
「何……!?」
ティルはあり得ないと言わんばかりに動揺を見せる。
そして、ゼノムは指を拳銃の形にしてティルへと向ける。
「しかし、もう用済みだ」
指先から黒い矢が放たれティルを貫き、その身体は宙に投げ出され後方に吹き飛ばされる。
「ティル様!」
ダンデはティルの元へ駆け寄って行く。
ゼノムはそんなティルたちからすぐに興味を失った様に、ふんと鼻を鳴らして視線を逸らす。
全ては、ファントムの計算通りだった。
氷の大地リップバーンの門の開門も、そしてバーガの遺体を守っている氷の墓石の破壊も。
自分では開門出来ないから、暴走事件を起こして来人たちを誘導した。
自分では墓氷を破壊できないから、わざとティルの一撃を受けて破壊させた。
全ては友の復活の為に。
そして、ゼノムは今度は悲し気に目を伏せて、胸元で拳を握り締める。
「――ファントム、我が友よ。お前がくれたこの命、この身体、無駄にはしない」
高笑いしたかと思えば、打って変わって哀愁を纏う。
そんな情緒の狂ったゼノムの様子に困惑する来人たちだったが、その中でガーネだけはすぐに怒りを露わにした。
「それはお爺ちゃんの身体だネ! お前の物じゃない! 返せ!!」
「そうか。貴様はバーガの血族か。だが、これはもう俺の物だ。頭の上から足の先まで、俺の遺伝子が行き渡っている」
そう言って、ゼノムが右腕に力を込めると、黒い靄と同時にその腕の形状が変化。
鋭い爪になり、その腕を横に薙ぎ払う。
すると突風の鎌鼬が吹き荒れ、来人たちを襲う。
「王様!!」
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泳いで通った弧を描く軌道上に岩の壁が構築され、仲間たちを守る盾となる。
間一髪のところで防ぐことが出来たが、その壁はその一撃で崩れ去ってしまう。
「――あれは、グリフォンの爪ですわね」
「グリフォンって、山の大地で見た……」
ゼノムはその爪鋭い爪の腕を開いたり閉じたりして感触を確かめながら、「ふむ」と頷く。
「ファントムが集めてくれたガイアの遺伝子も、充分に機能している様だな」
バーガの顔で不敵に笑うゼノム。
それにガーネは更に苛立ちを募らせる。
「お前、お前……!!」
「ガーネ!」
そんな怒りに震えるガーネの、相棒の名を来人は呼ぶ。
はっとしてガーネは来人の顔を見る。
そして、来人は相棒に片手を差し出し、
「ガーネ、行くぞ」
と、ただ一言。それだけを言った。
これまで戦いを共にしてきた、心を通わせた相棒同士、ガーネにはそれだけで十分だった。
ガーネは来人の手を取る。
「見せてやる、俺たちの力を。これが本当の――」
来人とガーネを眩い光が包み込む。
「「――憑依混沌!!」」
冷たい極寒の大地を、更に凍り付かせんばかりの吹雪が吹き荒れる。
世界を巻き込み、『氷』の色が全てを塗り潰していく。
光りと共に吹雪が止めば、その姿が露わとなる。
左手には龍の頭部、右手には日本刀。
背中からは透き通った美しい氷製の大きな二枚の龍の翼と、二本の金色の剣を握る鎖の腕。
来人とガーネの『憑依混沌』だ。
『力が漲るネ! らいたん、これなら行けるネ! あいつをぶっ倒すネ!』
脳内で響くガーネの声。
来人は視界の端に意識を向ける。
『メガ・レンズ』に映し出されたシンクロ率の数値は45%を表示していた。
ジューゴと、イリスと、そしてガーネと、やはり憑依混沌を重ねる毎にその数値は上がっている。
このシンクロ率の数値が100%になるとどちらかが呑み込まれてしまうのは間違いないし、半分を超えて来るともう危険域だ。
来人と契約者たちの安全を考えると、憑依混沌もこれが最後か、出来てあと一回が限度だろう。
だからこそ――、
「――ここで決めるぞ、ガーネ!」
『だネ!』
来人はゼノムに斬りかかる。
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