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第二章 ガイアの遺伝子編
#73 閉ざされた門
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ガイア界、地下空間アビスプルート。
砂を踏みしめながら二足の足で歩く、ボロ切れのフードを被ったガイア族。
他の生命の存在しない、静寂の世界でその足音だけが小さく響いていた。
フードのガイア族は懐から、肉の塊を取り出す。
それはどくんどくんと脈打ち、それ自体まだ生きているかの様。
そして、その肉塊からは“黒い靄”が僅かに噴出しており、肉塊の周囲を覆っている。
「――ペガサス、リヴァイアサン、グリフォン、ドラゴン、フェニックス」
フードのガイア族は一つずつ、指折り数える様に呟く。
それらはこれまでガイア界で暴走状態となったガイア族たちの変身した翼の姿だ。
天を駆ける、天を泳ぐ、天を羽ばたく、天を舞う、天を踊る、天を、天を――。
太古の昔、原初の時代。
かつて神々の僕となる為に折った翼、忠誠の証。
やがて形骸化して行き、もう数代先の世代にはその変身方法さえ忘れられてしまうだろう、ガイアの民の真の力。
その力は、色は、遺伝子は、今手元に有る肉塊に集約されている。
「もうすぐだよ、ゼノム。最後の仕上げだ――」
フードのガイア族の歩みに迷いは無く、天然の迷路となっているこのアビスプルートをまるで自分の庭の様に進んで行く。
やがて周囲の空気は冷たくひんやりした物に変わって行き、そして――。
ガイア界、自然の大地リンクフォレスト。
来人たち一行は氷の大地リップバーンを目指して、歩を進めていた。
自然の大地と氷の大地は隣り合わせとなっている。
来人たちが自然の大地を発ってからしばらく過ぎた、もう時期その二つの大地の境界線に辿り着く頃だろう。
一行の面々は初めにガイア界に来た時と比べると少し変わっていた。
来人は共に戦ってきた、仲間たちの姿を改めて見る。
足元には最初のガイア族の相棒、犬のガーネ。
隣にはこの世界に来てから関係性が変わり契約者となった、神格を持つ人型のガイア族、メイドのイリス。
来人の目線くらいの高さの宙を泳ぐ、水の大地で新たに契約者となったガイア族、ジュゴンのジューゴ。
メンバーも増え、関係性も変わった仲間たちと共に、最後の場所氷の大地を目指す。
太古の空気をそのままに残した、時の止まった、閉ざされた絶対零度の地。
(待っててくれ、秋斗。もうすぐ、もうすぐだ――)
原初のガイア族ゼノムが持っていたと言われている、魂の遺伝子を改変する力を持つ『遺伝子』の色。
その波動の残滓でも有れば、鬼となってしまった秋斗の魂を、人間に戻すことが出来るかもしれない。
そんな僅かな望みを求めて、細い糸を手繰る様に、これまで来人はガイア界を旅してきた。
そして、一行の少し後方。
まるで自分たちは無関係ですと言わんばかりに、不必要なほどに距離を開けて、それでいて来人たち一行と全く同じ方向を向けて歩く一人と一匹。
「――ティル様、どうして彼らと距離を取るのですか?」
ライオンの姿をしたガイア族、ダンデは主人であるティルを見上げて疑問を投げる。
ティルとダンデも来人たちと同時に、エルフの姿をした長リーンに送り出されて自然の大地を発った。
しかし、ダンデが疑問に思う様に、ティルたちは現在来人たち一行と離れて歩いている。
ティルはそんなダンデの疑問に対して、少し眉をしかめて吐き捨てる様に答える。
「あいつと仲良しこよしなんてごめんだ。私たちは私たちで事の解決に当たるぞ」
「……分かりました。氷の大地に潜むと思われる黒幕、それが何者かは分かりませんが――、これだけの大事を起こせる相手、おそらく彼らだけでは力不足でしょう」
「当たり前だ。あいつらを使って敵の戦力と手の内を見極め、私が叩く」
ダンデはティルの機嫌を取る様にそう言うが、かと言って半分は本心だ。
ガイア族を暴走させるという不思議な力を持つ正体不明の相手に、半神半人の来人では力不足だろうと思っていた。
しかし、それと同時にこうも思っていた。
(三人のガイア族と契約した神なんて、これまでに聞いた事が無い。彼の魂の器は、どれ程の物なんだ……)
通常神とガイア族は一対一の関係であり、ガイア族二人と同時に契約した神ですら話をダンデは聞いたことが無かった。
契約とは自身の魂の器の上に相手の魂の一部を乗せるに等しい行為であり、契約相手が増えれば増える程器を圧迫して行く。
契約者、つまり自身の従者、信者を増やす事は想いを、信仰を募らせる為神の力を支える助けとなる。
しかし、それも度が過ぎれば器を圧迫し、そして許容量を超えてしまえば想像する余地――余白が無くなり、創造が産まれない。
契約だけでなく、記憶や色をも乗せる必要のある魂の器、何人もの契約者を作るにはそれ相応の大きな器を必要とするのだ。
その点で言えば、来人のそれは異常と言っても良い。
純血のティルでさえ、器の圧迫を嫌い契約者は未だにダンデ一人に留めている。
なのに、半分人間の来人が三人も。
ティルは来人が新たにジューゴとイリスを契約者として迎え入れたこの事にまだ気づいていないが、ガイア族であるダンデにはそれが一目で分かった。
この事を主人が知れば、また機嫌を損ねてしまうだろう、とダンデはこの驚愕の事実を胸の内に留めた。
それでも、ダンデは自分の主人ティルが王に成ると信じていた。
そのプライドの高さも、その厳しさも、その全てがティルの実力から来るものだ。
だからこそ、ダンデはここまで忠実に付いて来た。
そして、これからも。
「それにしても、そもそもあいつはカンガス様の助手じゃなかったのか? 私に任せて、石掘りにでもついて行けば良い物を……」
「カンガス様が何を考えているのか自分には分かり兼ねます。ですが、何かしら考え有っての事でしょう」
「全く……。二代目もそうだが、皆王の血筋としての自覚が足りていない様に感じる。やはり、私がゼウス様に師事したのは正解だったか――」
「ティル様?」
ティルがそう他の神々への苦言を口にすると、すぐさまダンデはそれを咎める様に声を上げる。
「いや、すまない。今のは失言だったな、聞かなかったことにしてくれ」
「ティル様がお爺様――ゼウス様を尊敬している事は承知しています。ですが、ウルス様もまたあれでいて思慮深いお方ですよ」
「ああ、分かっているさ」
ティルはそれ以上の言葉を呑み込んだ。
二代目神王ウルス、そして同じく王の血筋でありウルスとカンガスと二代目の座を争ったゼウス、ティルはそんな二人の偉大な神の孫に当たる。
その濃い王の血こそが、純血の王子と呼ばれる所以だ。
以前、ティルは祖父であるウルスを師事する為に、ウルスの住む天山を訪ねた。
しかし、同タイミングでライバルである来人と陸の二人の半神半人と鉢合わせし、共に修行を積んだものの来人とは違いティルはウルスの技『憑依混沌』を修得出来なかった。
その来人に遅れを取ったという事実がティルのプライドを傷つけ、そしてティルはウルスの元を去ってもう一人の祖父、ゼウスを師事したのだ。
ゼウスもまたティルと同じく所謂“純血派”だ。
今の神の半神半人という人間の血を受け入れる事に難色を示すゼウスは、前々からティルを王にと後押しをしていた。
だからどうしても、ティルはゼウス寄りの思想に寄ってしまうのだ。
それからも、ティルとダンデは来人たちと一定の距離を保ちつつ進んで行った。
しばらく歩くと、辺りの景色が、そして空気が変わって来た。
それに先に気付いたのは先頭を歩く来人たちだ。
「――ううっ……。なんだか、寒くなって来たね」
来人は肌寒さに身を震わせる。
暖かい陽射しに包まれていた自然の大地リンクフォレストとは打って変わり、ひんやりと冷たい空気が辺りを流れて行く。
周囲の木々も段々と色が変わり、葉も枯れ、霜が降りている。
そのまま歩いていれば、しんしんと雪も降りだしてきた。
「坊ちゃま、上着はお持ちでないんですの?」
「確か、ガーネに持たせていたはず……」
まだ冬には程遠い暑さを残す地球では必要の無い物だが、ガイア界に来るに当たって予め用意していた。
来人は震える手でガーネの口の中に手を突っ込む。
ガーネは弟のメガに魂の器を改造され口の中と繋がっていて、そこが便利な収納空間として機能している。
普段戦闘で使う日本刀の他にも、非常食や今回の旅の荷物が詰め込まれている。
「おお。口の中は温かい……」
「んぐ、んぐ……」
「お、有った有った」
適当に弄れば、用意しておいた暖かい冬用の上着が出て来た。
若干湿っている気がしなくも無いが、来人はもう慣れた物だ。
「はい、これイリスさんの分」
「あら。ありがとうございます」
来人とイリスはもこもこの上着を羽織り、準備は万端。
ガーネは自身が『氷』の色使いだからか、この雪の降る寒さも平気らしい。
「ジューゴの分は用意が無いんだけど、大丈夫そう?」
「僕は元々冷たい海で暮らしていたジュゴンです。分厚い脂肪のおかげで寒さには強いのです!」
ジューゴは言葉通り平気そうに宙をひらひらと泳いで見せる。
来人はそれを見て安心したが、気持ち程度にマフラーをジューゴの首に巻いてあげた。
そうして寒さ対策も万全にし、もう少し進めば大きな壁が見えて来た。
その石の壁は凍り付き、もはやそれ自体が冷気を放っている様だ。
壁は左右を見てもずっと遠くの先まで続いている。
この壁が自然の大地と氷の大地を分かつ物なのだろう。
そして壁の一部にはよく見れば切れ目の様な跡が有り、そこから見上げてみればそれが大きな扉の様な形を成している事が分かる。
「――これが、リーンさんの言っていた門……?」
「そうですわね。この先が、氷の大地ですわ」
門の根元を見れば、小さな台座が有った。
そこには四つの小さな穴が有り、来人の持つ水、山、炎、自然の四つの宝玉がぴったりと嵌りそうだ。
「らいたん」
「ああ。行くぞ」
来人はその穴に、一つ、また一つと、宝玉を嵌めて行く。
すると――。
砂を踏みしめながら二足の足で歩く、ボロ切れのフードを被ったガイア族。
他の生命の存在しない、静寂の世界でその足音だけが小さく響いていた。
フードのガイア族は懐から、肉の塊を取り出す。
それはどくんどくんと脈打ち、それ自体まだ生きているかの様。
そして、その肉塊からは“黒い靄”が僅かに噴出しており、肉塊の周囲を覆っている。
「――ペガサス、リヴァイアサン、グリフォン、ドラゴン、フェニックス」
フードのガイア族は一つずつ、指折り数える様に呟く。
それらはこれまでガイア界で暴走状態となったガイア族たちの変身した翼の姿だ。
天を駆ける、天を泳ぐ、天を羽ばたく、天を舞う、天を踊る、天を、天を――。
太古の昔、原初の時代。
かつて神々の僕となる為に折った翼、忠誠の証。
やがて形骸化して行き、もう数代先の世代にはその変身方法さえ忘れられてしまうだろう、ガイアの民の真の力。
その力は、色は、遺伝子は、今手元に有る肉塊に集約されている。
「もうすぐだよ、ゼノム。最後の仕上げだ――」
フードのガイア族の歩みに迷いは無く、天然の迷路となっているこのアビスプルートをまるで自分の庭の様に進んで行く。
やがて周囲の空気は冷たくひんやりした物に変わって行き、そして――。
ガイア界、自然の大地リンクフォレスト。
来人たち一行は氷の大地リップバーンを目指して、歩を進めていた。
自然の大地と氷の大地は隣り合わせとなっている。
来人たちが自然の大地を発ってからしばらく過ぎた、もう時期その二つの大地の境界線に辿り着く頃だろう。
一行の面々は初めにガイア界に来た時と比べると少し変わっていた。
来人は共に戦ってきた、仲間たちの姿を改めて見る。
足元には最初のガイア族の相棒、犬のガーネ。
隣にはこの世界に来てから関係性が変わり契約者となった、神格を持つ人型のガイア族、メイドのイリス。
来人の目線くらいの高さの宙を泳ぐ、水の大地で新たに契約者となったガイア族、ジュゴンのジューゴ。
メンバーも増え、関係性も変わった仲間たちと共に、最後の場所氷の大地を目指す。
太古の空気をそのままに残した、時の止まった、閉ざされた絶対零度の地。
(待っててくれ、秋斗。もうすぐ、もうすぐだ――)
原初のガイア族ゼノムが持っていたと言われている、魂の遺伝子を改変する力を持つ『遺伝子』の色。
その波動の残滓でも有れば、鬼となってしまった秋斗の魂を、人間に戻すことが出来るかもしれない。
そんな僅かな望みを求めて、細い糸を手繰る様に、これまで来人はガイア界を旅してきた。
そして、一行の少し後方。
まるで自分たちは無関係ですと言わんばかりに、不必要なほどに距離を開けて、それでいて来人たち一行と全く同じ方向を向けて歩く一人と一匹。
「――ティル様、どうして彼らと距離を取るのですか?」
ライオンの姿をしたガイア族、ダンデは主人であるティルを見上げて疑問を投げる。
ティルとダンデも来人たちと同時に、エルフの姿をした長リーンに送り出されて自然の大地を発った。
しかし、ダンデが疑問に思う様に、ティルたちは現在来人たち一行と離れて歩いている。
ティルはそんなダンデの疑問に対して、少し眉をしかめて吐き捨てる様に答える。
「あいつと仲良しこよしなんてごめんだ。私たちは私たちで事の解決に当たるぞ」
「……分かりました。氷の大地に潜むと思われる黒幕、それが何者かは分かりませんが――、これだけの大事を起こせる相手、おそらく彼らだけでは力不足でしょう」
「当たり前だ。あいつらを使って敵の戦力と手の内を見極め、私が叩く」
ダンデはティルの機嫌を取る様にそう言うが、かと言って半分は本心だ。
ガイア族を暴走させるという不思議な力を持つ正体不明の相手に、半神半人の来人では力不足だろうと思っていた。
しかし、それと同時にこうも思っていた。
(三人のガイア族と契約した神なんて、これまでに聞いた事が無い。彼の魂の器は、どれ程の物なんだ……)
通常神とガイア族は一対一の関係であり、ガイア族二人と同時に契約した神ですら話をダンデは聞いたことが無かった。
契約とは自身の魂の器の上に相手の魂の一部を乗せるに等しい行為であり、契約相手が増えれば増える程器を圧迫して行く。
契約者、つまり自身の従者、信者を増やす事は想いを、信仰を募らせる為神の力を支える助けとなる。
しかし、それも度が過ぎれば器を圧迫し、そして許容量を超えてしまえば想像する余地――余白が無くなり、創造が産まれない。
契約だけでなく、記憶や色をも乗せる必要のある魂の器、何人もの契約者を作るにはそれ相応の大きな器を必要とするのだ。
その点で言えば、来人のそれは異常と言っても良い。
純血のティルでさえ、器の圧迫を嫌い契約者は未だにダンデ一人に留めている。
なのに、半分人間の来人が三人も。
ティルは来人が新たにジューゴとイリスを契約者として迎え入れたこの事にまだ気づいていないが、ガイア族であるダンデにはそれが一目で分かった。
この事を主人が知れば、また機嫌を損ねてしまうだろう、とダンデはこの驚愕の事実を胸の内に留めた。
それでも、ダンデは自分の主人ティルが王に成ると信じていた。
そのプライドの高さも、その厳しさも、その全てがティルの実力から来るものだ。
だからこそ、ダンデはここまで忠実に付いて来た。
そして、これからも。
「それにしても、そもそもあいつはカンガス様の助手じゃなかったのか? 私に任せて、石掘りにでもついて行けば良い物を……」
「カンガス様が何を考えているのか自分には分かり兼ねます。ですが、何かしら考え有っての事でしょう」
「全く……。二代目もそうだが、皆王の血筋としての自覚が足りていない様に感じる。やはり、私がゼウス様に師事したのは正解だったか――」
「ティル様?」
ティルがそう他の神々への苦言を口にすると、すぐさまダンデはそれを咎める様に声を上げる。
「いや、すまない。今のは失言だったな、聞かなかったことにしてくれ」
「ティル様がお爺様――ゼウス様を尊敬している事は承知しています。ですが、ウルス様もまたあれでいて思慮深いお方ですよ」
「ああ、分かっているさ」
ティルはそれ以上の言葉を呑み込んだ。
二代目神王ウルス、そして同じく王の血筋でありウルスとカンガスと二代目の座を争ったゼウス、ティルはそんな二人の偉大な神の孫に当たる。
その濃い王の血こそが、純血の王子と呼ばれる所以だ。
以前、ティルは祖父であるウルスを師事する為に、ウルスの住む天山を訪ねた。
しかし、同タイミングでライバルである来人と陸の二人の半神半人と鉢合わせし、共に修行を積んだものの来人とは違いティルはウルスの技『憑依混沌』を修得出来なかった。
その来人に遅れを取ったという事実がティルのプライドを傷つけ、そしてティルはウルスの元を去ってもう一人の祖父、ゼウスを師事したのだ。
ゼウスもまたティルと同じく所謂“純血派”だ。
今の神の半神半人という人間の血を受け入れる事に難色を示すゼウスは、前々からティルを王にと後押しをしていた。
だからどうしても、ティルはゼウス寄りの思想に寄ってしまうのだ。
それからも、ティルとダンデは来人たちと一定の距離を保ちつつ進んで行った。
しばらく歩くと、辺りの景色が、そして空気が変わって来た。
それに先に気付いたのは先頭を歩く来人たちだ。
「――ううっ……。なんだか、寒くなって来たね」
来人は肌寒さに身を震わせる。
暖かい陽射しに包まれていた自然の大地リンクフォレストとは打って変わり、ひんやりと冷たい空気が辺りを流れて行く。
周囲の木々も段々と色が変わり、葉も枯れ、霜が降りている。
そのまま歩いていれば、しんしんと雪も降りだしてきた。
「坊ちゃま、上着はお持ちでないんですの?」
「確か、ガーネに持たせていたはず……」
まだ冬には程遠い暑さを残す地球では必要の無い物だが、ガイア界に来るに当たって予め用意していた。
来人は震える手でガーネの口の中に手を突っ込む。
ガーネは弟のメガに魂の器を改造され口の中と繋がっていて、そこが便利な収納空間として機能している。
普段戦闘で使う日本刀の他にも、非常食や今回の旅の荷物が詰め込まれている。
「おお。口の中は温かい……」
「んぐ、んぐ……」
「お、有った有った」
適当に弄れば、用意しておいた暖かい冬用の上着が出て来た。
若干湿っている気がしなくも無いが、来人はもう慣れた物だ。
「はい、これイリスさんの分」
「あら。ありがとうございます」
来人とイリスはもこもこの上着を羽織り、準備は万端。
ガーネは自身が『氷』の色使いだからか、この雪の降る寒さも平気らしい。
「ジューゴの分は用意が無いんだけど、大丈夫そう?」
「僕は元々冷たい海で暮らしていたジュゴンです。分厚い脂肪のおかげで寒さには強いのです!」
ジューゴは言葉通り平気そうに宙をひらひらと泳いで見せる。
来人はそれを見て安心したが、気持ち程度にマフラーをジューゴの首に巻いてあげた。
そうして寒さ対策も万全にし、もう少し進めば大きな壁が見えて来た。
その石の壁は凍り付き、もはやそれ自体が冷気を放っている様だ。
壁は左右を見てもずっと遠くの先まで続いている。
この壁が自然の大地と氷の大地を分かつ物なのだろう。
そして壁の一部にはよく見れば切れ目の様な跡が有り、そこから見上げてみればそれが大きな扉の様な形を成している事が分かる。
「――これが、リーンさんの言っていた門……?」
「そうですわね。この先が、氷の大地ですわ」
門の根元を見れば、小さな台座が有った。
そこには四つの小さな穴が有り、来人の持つ水、山、炎、自然の四つの宝玉がぴったりと嵌りそうだ。
「らいたん」
「ああ。行くぞ」
来人はその穴に、一つ、また一つと、宝玉を嵌めて行く。
すると――。
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