【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第二章 ガイアの遺伝子編

#71 水の大地への来訪者

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 来人たちが自然の大地リンクフォレストにて不死鳥フェニックスと化しジャックを止めた、丁度その頃。
 水の大地ディープメイルに、一機の船が降り立っていた。
 
 船と言っても、それは飛行船だ。
 水の大地に似つかわしくない、鉄の塊。
 その飛行船の機体側面には“メガコーポレーション”の文字が大きく記されていた。

「何事だ!?」
「ここはガイア界、水の大地。許可無き者の立ち入りは禁じられていますぞ!」

 ジュゴンの兵士、ジュゴン六兄弟の長男ジュゴイチと次男ジュゴツーが騒ぎを聞きつけて、やって来た。
 他の水の大地のガイア族たちも突然の来訪者に騒然として、遠巻きに状況を見守っている。

 そうしていると、水上にホバーして着陸した飛行船の扉がスライドして開き、中から一人と一匹が降りて来た。

「――全く、久しぶりに来たが騒がしい所だヨ」
「良いじゃないデスか。賑やかなのは好きデスよ」
 
 背中にリュックサックを背負い、そこから自在に動く機械のマジックアームを伸ばす犬。
 そして白衣の下に学生服というミスマッチな服装の、金髪ショートヘアの人間の女の子。

 メガコーポレーション社長、ガイア族のメガ。
 そしてその助手、サイボーグのギザの二人だった。

 二人はジュゴイチとジュゴツーの事を無視して、さっさと長の間のある塔へと向かって行く。
 しかし、それを兵士の二人が許すはずも無く立ち塞がる。
 
「待て! 貴様ら!」

 メガは二人の兵士を一瞥した後、大きく溜息を吐く。

「君たち、ジュゴロクを助けたかったらボクの邪魔をしない方が良いと思うヨ」

 ジュゴロク、二人の末の弟の名前だ。
 そして、彼は今リヴァイアサンと化し暴走した後倒れたまま目を覚ましていない。
 今は塔の地下で寝かされていて、長のスイが傍で見守っている。

 ジュゴロクの名を出され、二人のジュゴンの兵士は一瞬返す言葉が出て来なかった。
 もし本当に、この目の前に居る外界からの来訪者が弟を助けられるというのなら、それに縋らないという選択は取れなかった。
 しばしの逡巡の後、ジュゴイチは口を開く。

「――本当に、弟を助けられるのか」
「ボクは天才だからネ」

 メガはそう短く答えて、ギザを連れて塔の中へと入って行く。
 二人の兵士もその後を付いて、ジュゴロクの元へ。
 
 エレベーターを降り、ジュゴロクの眠る部屋の前。
 ギザが扉を開ければ、メガはその脇をとことこと我が物顔で中に入って行く。

「失礼するヨ」
「誰ですか!? ガイア族の……犬? ええっと、あなたは?」

 突然入って来たメガに驚く長の人魚スイだったが、その姿を見て一目でガイア族、つまり同胞だと気づいて、様相を気持ちばかり正して向き直った。
 メガはスイを一瞥した後、しかしその問いに答える事無く、さっさとジュゴロクの処置に移る。
 
「ギザ、キューブを出して」
「はい、メガさん」

 ギザは黒いキューブ状の何かを取り出して、メガに手渡す。
 メガはそれを背のリュックサックから伸びたマジックアームで受け取り、すうすうと浅い寝息を立てて眠るジュゴロクの身体に当てた。

「ちょっと、何を――」
「黙って、そこで見てるんだネ」

 スイの静止も無視して、メガは処置を続けた。
 ジュゴイチとジュゴツーもその様子を固唾を飲んで見守っている。

 黒いキューブ状の物体、それはメガの開発した新兵器『メガ・キューブ』だ。
 内側に波動を帯びたイメージを記憶しそれを自在に扱う、神々も持ち得ない技術。
 それは来人の『泡沫』のスキルに近しい物だろう。

 今メガがジュゴロクの身体に当てたのは中に何も記憶されていない空の『メガ・キューブ』だ。
 キューブがジュゴロクに触れると、そこから淡い光が浮かび上がり、それと同時にジュゴロクの内から僅かな黒い靄の様な物が這い出て、キューブの中へと吸い込まれて行く。

「はい、終わりだヨ」

 メガはひょいとジュゴロクから離れる。
 すると、先程まで眠っていたジュゴロクはゆっくりと瞼を上げ、目を覚ます。

「ん……、うん? ええと、ここは?」

 ジュゴロクが目覚めると、先程までじっと見守っていた二人の兄も一気に表情を弾けさせて駆け寄って来る。

「ジュゴロク!」
「良かった、本当に良かった!」
「ちょっと、兄さまたち! どうしたんですか!?」

 二人にもみくちゃにされるジュゴロクはわたわたと抵抗していた。
 そして少し落ち着いた頃、スイがジュゴロクに語り掛ける。

「ジュゴロク、あなたリヴァイアサンとなって我を忘れて暴走していたのよ。何が有ったのか、思い出せる?」
「姫様。えっと、確か僕は初めて見るフードのガイア族に出会って、それでこう言われたんです。『兄たちに勝ちたくは無いか? 力が欲しくは無いか?』って」
「それで、その怪しい人について行っちゃったの!?」
「違います、姫様! 僕は首を振ったんです。でも、黒い靄が僕の中に入って来て、それで――」

 ジュゴロクはそこまで話すと、頭を抱えてしまった。
 どうやらそれ以上の記憶は無い様だ。
 そこから先はリヴァイアサンとなって暴走状態となってしまったからだろう。
 
 その話を聞いたメガは少し考える素振りを見せた後、

「よし。行くぞ、ギザ」
「はい。メガさん!」

 と、何の説明もせずにその場を去ろうとし、ギザもそれに続こうとする。

「ちょっと待ってください!」
「何だネ? ジュゴロクは目を覚ました。もう用事は無いだろう?」
「何故ジュゴロクは目を覚まさなかったのですか。そして、あなたはどうやって――、ジュゴロクに何をしたのですか」
 
 スイは疑問をメガの背中にぶつける。
 それは最もな疑問だ。
 
 ジュゴロクは来人とジューゴに暴走を止められた後、多少の怪我は有れど一見正常で目を覚まさない理由も分からないまま眠っていた。
 そこに突然現れた謎のガイア族と人間、そして見た事も無いキューブ状のアイテム、スイたちにとっては分からない事だらけだった。

 メガは小さく溜息を吐いた後、スイの問いに答えてくれた。

「――魂の遺伝子がほんの少し弄られていた」
「それは、どういう――」
「魂の遺伝子を改変され、強制的にガイアの力を解放させられていた。そして、その黒い靄――か、その波動の残滓が邪魔をしていたから、それを取り除いた。それだけだヨ」

 もっと詳しくスイが問おうとすれば、メガはそれ以上話す気は無いと言った風にぷいと背を向けて歩き出してしまった。

「すみません、メガさんはああいう方なのです。ですが、他の被害者達の元へも向かわねばならないのデス。それでは、失礼します」

 そんなメガのフォローを入れ、ぺこりとお辞儀をした白衣の少女は小走りでその後を続いて行った。
 
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