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第二章 ガイアの遺伝子編
#67 兄、ジャック
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その後、来人達はイリスとその母ジャスミンの作ってくれた夕食を頂いた。
メニューは肉食獣の見た目通り豪快に焼いた骨付きの肉の塊と、自然の大地で採れた新鮮な野菜のサラダだった。
ジャスミンが器用に前足を使って骨付き肉に齧り付いているのを見て、来人も骨を持って肉に齧り付けば、柔らかい肉が口の中で解れ中から熱々の肉汁が溢れ出てきた。
「美味しい!」
「お母さまの焼く肉は焼き加減が最高ですわ」
イリスも同じ様に大きな肉の塊に齧り付くが、美人メイドのイリスがそうすれば同じ食べ方でもどこか上品に見える気がした。
片やガーネとジューゴの方はと言うと、来人が見れば何やらごそごそとしていた。
「ガーネ、お前なにやってんだ?」
「サンドイッチにしてるネ」
「ええ……」
ガーネは持参していた食パンを二枚口の中の収納空間からげろりと取り出して、いつも戦闘時に使用している刀で器用にスライスした肉とサラダをその食パンで挟んでいた。
来人はそう言えばガーネはパン食の犬という変な奴だったなと思い、そのまま放置。
次にジューゴの方を見れば、ジューゴはもそもそとサラダだけを食べていた。
イリスもその様子に気づいた様で、声を掛ける。
「ジューゴにわたくしたちの食事は合いませんでしたね。ごめんなさい」
「いいえ! このお野菜も普段食べる海藻とはまた違って美味しいのです!」
そんな普段海藻を主食とするジュゴンの横で、パンでも肉でも何でももぐもぐぱくぱくと口に放り込んで行く犬の図。
こう改めて見るとガーネは本当に変わっている。
ジューゴと契約した以上、ガイア界での旅を終えた後も来人たちと共に行動する事になるだろう。
来人はジューゴは海藻を食べるのかと今後の為に心に留めおきつつ、自分のサラダをそっとジューゴに差し出して、そのまま食事を続けるのだった。
食事を終えた後、来人たちは旅の汗を流す為の風呂の時間。
広いイリスの家には大きな浴場も作られていて、来人はガーネとジューゴを連れて共に湯船に浸かる。
「ふやぁ~。ディープメイルの冷たい海も良い物ですが、この熱々のお風呂も最高なのです~」
「これだけ広いと泳げるネ」
ジューゴはでろでろに溶けて湯船を浮いているし、ガーネは犬かきで泳いでいる。
来人はそんな様子を眺めながら、ゆっくりと湯に浸かり疲れを落としていた。
そうしていると、浴室の入り口の戸ががらりと開いた。
「うん?」
来人が振り返ると、そこには――、
「――って、イリスさん!?」
長い金の髪を頭の上でまとめてタオルを一枚巻いただけのイリスの姿が在った。
「坊ちゃま、お背中流しに参りましたわ」
「いやいや。流石にまずいでしょう!」
来人は慌てて湯船から上がり浴室を出ようとするが、足を滑らせて転倒しかける。
「おっと。危ないですわよ、坊ちゃま。ほら、大人しくそこに座ってくださいませ」
そこをイリスに受け止められて、そのまま座らされてしまった。
「それにですね、わたくしも元はジャガーの姿をしたガイア族ですわ。何も気にする事はございませんの」
そう言って、手際よくタオル石鹸を泡立てて来人の背中を洗って行く。
「そうは言っても、今は神格持ちで人の姿じゃないですか! イリスさんが気にしなくても僕は気にしますよ?」
「うふふ。坊ちゃまは可愛らしいですわね」
来人は抗議の意を示すが、イリスは取り合う気も無くころころと笑い、その抵抗の甲斐も無く流されてしまった。
ガーネとジューゴはそんな来人とイリスの様子に興味を示す事無く、温かい湯船を泳いでいた。
そうして、夜も更けて行く。
風呂を上がった来人たちはガーネの口の収納空間に仕舞っていたゴールデン屋のアイスキャンディーを食べた後、寝床に就いた。
寝床はハンモックが用意されていて、その新鮮な感覚に来人はまるで修学旅行の様なわくわく感を覚え、少し気分が高揚した。
「――そういえば。お兄様は帰って来ませんでしたわね」
遅くなるが帰ると言っていたイリスの兄ジャックだったが、その日来人たちが就寝するまでに帰る事は無かった。
「ジャックも忙しいんじゃないの? あの子、帰りが遅くなる事も多いから」
「そうなんですのね。折角ですから、一緒に食事をしたかったですわ」
来人は既にハンモックに身を任せて薄れ行く意識の中、そんな少し肩を落としたイリスの声を聞いていた。
――来人たちがイリスの家で過ごしていた間の事。
「リーン様。それでは、失礼致します」
「お疲れ様、ジャック。今日もありがとう、また明日ね」
「ああ。また明日」
その日の仕事を終えたイリスの兄ジャックは形式ばった挨拶で頭を下げた後、先程よりも少し砕けた口調で言葉を返し、長の間を後にした。
リーンは兄の様に慕うジャックに優しく微笑みを返し、自室へと下がる。
長の間を後にしたジャックはもう既に暗くなり、木々の間から薄く漏れる月明りだけが頼りとなる視界の悪い森の中を歩いて行く。
それは丁度来人たちが床に就く頃だった。
そして大樹と大樹の間に掛けららた橋を歩いている時、目の前にふらりと人影が現れた。
それはフードを被った動物、神では無くガイア族だろうという事はフード越しからでも分かる。
「誰だ、こんな時間に」
ジャックは少し警戒しつつも、そのフードのガイア族に声を掛ける。
「何、ただの通りすがりだ。だけど、君は私に用が有るかもね」
フードのガイア族はそのフードの奥でにやりと口角を上げて、それに答える。
「俺が、お前に? 何を言っているんだ?」
ジャックが困惑する様子を見せるが、フードのガイア族は立て続けに言葉を並べる。
「――彼女たちが羨ましくは無いか? 悔しくは無いか?」
「何が、言いたい」
「――力が、欲しくは無いか? それこそ、“妹よりも“強く、大きな力が」
「妹――、イリスよりも」
妹、その言葉にジャックは反応を示す。
それは彼の心の隅で燻る小さなコンプレックスを擽る、最も刺さるワードだった。
ライジンに仕え神格を得た妹イリス、そして妹分だった長のリーン。
そんな年下の二人に対して劣る、兄の自分。
「ああ、そうだ。私なら、君にその力を与えられる」
「力を……、俺に……」
「――ならば、与えよう」
フードのガイア族の瞳が怪しく光り、それと同時にジャックの意識が虚ろになって行く。
フードの奥から、黒い靄が溢れ出て、ジャックの周囲を覆って行く。
その黒い靄が、ジャックの身体の内へと入り込み蝕んで行く。
しかし、ジャックは抗えない。
「ぐ……、ぐが……」
ジャックは浅く息をして肩を上下させ、悶え苦しむ。
そのままふらりとジャックの身体は橋の下へと落ちて行った。
そして――。
「――君たちガイアの遺伝子は全てゼノムの為に」
メニューは肉食獣の見た目通り豪快に焼いた骨付きの肉の塊と、自然の大地で採れた新鮮な野菜のサラダだった。
ジャスミンが器用に前足を使って骨付き肉に齧り付いているのを見て、来人も骨を持って肉に齧り付けば、柔らかい肉が口の中で解れ中から熱々の肉汁が溢れ出てきた。
「美味しい!」
「お母さまの焼く肉は焼き加減が最高ですわ」
イリスも同じ様に大きな肉の塊に齧り付くが、美人メイドのイリスがそうすれば同じ食べ方でもどこか上品に見える気がした。
片やガーネとジューゴの方はと言うと、来人が見れば何やらごそごそとしていた。
「ガーネ、お前なにやってんだ?」
「サンドイッチにしてるネ」
「ええ……」
ガーネは持参していた食パンを二枚口の中の収納空間からげろりと取り出して、いつも戦闘時に使用している刀で器用にスライスした肉とサラダをその食パンで挟んでいた。
来人はそう言えばガーネはパン食の犬という変な奴だったなと思い、そのまま放置。
次にジューゴの方を見れば、ジューゴはもそもそとサラダだけを食べていた。
イリスもその様子に気づいた様で、声を掛ける。
「ジューゴにわたくしたちの食事は合いませんでしたね。ごめんなさい」
「いいえ! このお野菜も普段食べる海藻とはまた違って美味しいのです!」
そんな普段海藻を主食とするジュゴンの横で、パンでも肉でも何でももぐもぐぱくぱくと口に放り込んで行く犬の図。
こう改めて見るとガーネは本当に変わっている。
ジューゴと契約した以上、ガイア界での旅を終えた後も来人たちと共に行動する事になるだろう。
来人はジューゴは海藻を食べるのかと今後の為に心に留めおきつつ、自分のサラダをそっとジューゴに差し出して、そのまま食事を続けるのだった。
食事を終えた後、来人たちは旅の汗を流す為の風呂の時間。
広いイリスの家には大きな浴場も作られていて、来人はガーネとジューゴを連れて共に湯船に浸かる。
「ふやぁ~。ディープメイルの冷たい海も良い物ですが、この熱々のお風呂も最高なのです~」
「これだけ広いと泳げるネ」
ジューゴはでろでろに溶けて湯船を浮いているし、ガーネは犬かきで泳いでいる。
来人はそんな様子を眺めながら、ゆっくりと湯に浸かり疲れを落としていた。
そうしていると、浴室の入り口の戸ががらりと開いた。
「うん?」
来人が振り返ると、そこには――、
「――って、イリスさん!?」
長い金の髪を頭の上でまとめてタオルを一枚巻いただけのイリスの姿が在った。
「坊ちゃま、お背中流しに参りましたわ」
「いやいや。流石にまずいでしょう!」
来人は慌てて湯船から上がり浴室を出ようとするが、足を滑らせて転倒しかける。
「おっと。危ないですわよ、坊ちゃま。ほら、大人しくそこに座ってくださいませ」
そこをイリスに受け止められて、そのまま座らされてしまった。
「それにですね、わたくしも元はジャガーの姿をしたガイア族ですわ。何も気にする事はございませんの」
そう言って、手際よくタオル石鹸を泡立てて来人の背中を洗って行く。
「そうは言っても、今は神格持ちで人の姿じゃないですか! イリスさんが気にしなくても僕は気にしますよ?」
「うふふ。坊ちゃまは可愛らしいですわね」
来人は抗議の意を示すが、イリスは取り合う気も無くころころと笑い、その抵抗の甲斐も無く流されてしまった。
ガーネとジューゴはそんな来人とイリスの様子に興味を示す事無く、温かい湯船を泳いでいた。
そうして、夜も更けて行く。
風呂を上がった来人たちはガーネの口の収納空間に仕舞っていたゴールデン屋のアイスキャンディーを食べた後、寝床に就いた。
寝床はハンモックが用意されていて、その新鮮な感覚に来人はまるで修学旅行の様なわくわく感を覚え、少し気分が高揚した。
「――そういえば。お兄様は帰って来ませんでしたわね」
遅くなるが帰ると言っていたイリスの兄ジャックだったが、その日来人たちが就寝するまでに帰る事は無かった。
「ジャックも忙しいんじゃないの? あの子、帰りが遅くなる事も多いから」
「そうなんですのね。折角ですから、一緒に食事をしたかったですわ」
来人は既にハンモックに身を任せて薄れ行く意識の中、そんな少し肩を落としたイリスの声を聞いていた。
――来人たちがイリスの家で過ごしていた間の事。
「リーン様。それでは、失礼致します」
「お疲れ様、ジャック。今日もありがとう、また明日ね」
「ああ。また明日」
その日の仕事を終えたイリスの兄ジャックは形式ばった挨拶で頭を下げた後、先程よりも少し砕けた口調で言葉を返し、長の間を後にした。
リーンは兄の様に慕うジャックに優しく微笑みを返し、自室へと下がる。
長の間を後にしたジャックはもう既に暗くなり、木々の間から薄く漏れる月明りだけが頼りとなる視界の悪い森の中を歩いて行く。
それは丁度来人たちが床に就く頃だった。
そして大樹と大樹の間に掛けららた橋を歩いている時、目の前にふらりと人影が現れた。
それはフードを被った動物、神では無くガイア族だろうという事はフード越しからでも分かる。
「誰だ、こんな時間に」
ジャックは少し警戒しつつも、そのフードのガイア族に声を掛ける。
「何、ただの通りすがりだ。だけど、君は私に用が有るかもね」
フードのガイア族はそのフードの奥でにやりと口角を上げて、それに答える。
「俺が、お前に? 何を言っているんだ?」
ジャックが困惑する様子を見せるが、フードのガイア族は立て続けに言葉を並べる。
「――彼女たちが羨ましくは無いか? 悔しくは無いか?」
「何が、言いたい」
「――力が、欲しくは無いか? それこそ、“妹よりも“強く、大きな力が」
「妹――、イリスよりも」
妹、その言葉にジャックは反応を示す。
それは彼の心の隅で燻る小さなコンプレックスを擽る、最も刺さるワードだった。
ライジンに仕え神格を得た妹イリス、そして妹分だった長のリーン。
そんな年下の二人に対して劣る、兄の自分。
「ああ、そうだ。私なら、君にその力を与えられる」
「力を……、俺に……」
「――ならば、与えよう」
フードのガイア族の瞳が怪しく光り、それと同時にジャックの意識が虚ろになって行く。
フードの奥から、黒い靄が溢れ出て、ジャックの周囲を覆って行く。
その黒い靄が、ジャックの身体の内へと入り込み蝕んで行く。
しかし、ジャックは抗えない。
「ぐ……、ぐが……」
ジャックは浅く息をして肩を上下させ、悶え苦しむ。
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