【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
66 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編

#66 イリスの実家

しおりを挟む
 長の間の大樹の洞を出た頃には、既に日は落ちかけていた。
 夕暮れの橙色に染まるリンクフォレストの森。
 その森の大樹と大樹の間に掛けられた木製の梯子状の橋を来人たちは歩いている。
 
「――気持ちの良い所だね。空気も美味しいし」

 来人はゆっくりと歩きながらもうんと伸びをして、大きく深呼吸。
 暖かい自然に包まれた澄んだ空気が来人肺を抜けて行く。

「だネ。ネは中央都市メーテル出身の都会っ子だから、新鮮で楽しいネ」
「僕の故郷でもこんなに大きな樹は見る事が無いです!」

 ガーネとジューゴの先輩後輩コンビも同意の意を示し、楽しそうに来人の周りをくるくると回っている。
 その所為で少々歩き難い来人だったが、そんな可愛らしい相棒たちを微笑ましく見守っていた。

「そうですわね。わたくしもこの森は大好きですわ。久しぶりに帰って来ても変わらない、何年経ってもこの美しい自然が維持されている。きっと、これが永遠に続いて行くんですわ」
 
 イリスはそう目を細めて、リンクフォレストの森に視線を流していた。

 夕日に照らされて木々の葉の合間から透ける橙色が、リンクフォレストの森を彩っている。
 そんな幻想的で美しい光景を視界に収めながら進んで行くと、目的地に辿り着く。
 イリスの実家は長の間とは少し離れた所に有った。

「着きましたわ。ここが、わたくしの実家ですわ」

 他の家屋と同じく大樹の上に建てられたツリーハウスになっていて、長の傍付きであるジャックと来神の契約者イリスを排出した家である事から、他の家屋よりも少し豪華な造りに見える。
 「さあ、どうぞ中へ」と促すイリスの後に続いて、一行はツリーハウスの中へと入って行く。

「ただいま戻りましたわ、お母さま」
「あらお帰り、イリス。何年振りよ?」

 イリスの母親もまた兄ジャックと同じくジャガーの姿をしたガイア族だ。
 獰猛な肉食獣の見た目に反して、表情はどこか優しく穏やかさを感じさせる。
 
「旦那様がふらふらとどこかへ行ってしまう所為で、忙しいんですの。本当に、あのデ……こほん、旦那様は仕方のない人ですわ」
「もう、ライジン様の事をそんな風に言ってはいけないわよ?」

 イリスがいつもの様に主人の愚痴をこぼすと、母は優しく微笑みながら宥める。
 そして、イリスの後ろに連なる面々に視線を向けた。

「それで、そちらの方々は?」
「ご紹介しますわ。旦那様のご子息の――」

 その言葉尻を取って、来人は名乗る。

「三代目神王しんおう候補者、来人です。イリスさんにはいつもお世話になってます」
「その相棒のガーネだネ」
「同じくシューゴです! 若輩者ですが、よろしくお願いします!」

 そして、来人が軽くお辞儀をすると、イリスの母は一瞬驚いた表情を見せた後、深々とお辞儀を返す。

「これはこれは、ライト様でしたか。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。イリスの母、ジャスミンと申しますわ」
「もう、お母さま? そんな風にされても坊ちゃまが困ってしまいますわ。いつも通り、普通で構いませんの。ね、坊ちゃま?」

 王族の神に恭しく接しようとする母親を諫めるイリスに話を振られた来人派大きく頷いて同意の意を示す。

「そうですよ。別に偉くも無いですし、半分は人間です。気にしないでください」
「そう、ですか……? ライジン様も依然お会いした際に似たような事を仰いました。流石親子と言ったところでしょうか、良く似てらっしゃいますね」

 ジャスミンは少し肩の荷を降ろした様で、イリスに向けたのと同じ微笑みを来人にも向けてくれた。
 父親来神の話を聞いて、来人は「あはは……」といつもの困った様な笑いを浮かべた。
 
 思い返してみると、父親来神も祖父ウルスも、どちらも自由きままで、それでいて偉ぶらないながらも威厳のある人物だ。
 もしかすると、来人も自分が意識していないだけで、周囲にはそう見られているのかもしれない。
 そう思うと、まだ内心は人間寄りな来人としては少し受け入れがたい評価だった。

「それでは、中へどうぞ。ゆっくりして行って下さい」

 そうジャスミンに促され、来人たちは家の中へと入って行く。
 室内は長の間と同じ暖色の灯りに照らされた暖かい落ち着いた空間だった。
 床にはカラフルな模様の描かれた高級そうな絨毯が敷かれてして、暖炉も有れば観葉植物も飾られている。
 
 食卓はテーブルと椅子ではなく、ローテーブルが置かれクッションを置いて地べたに座る形だ。
 家主が四足歩行の動物の姿をしているのだから、椅子では使い辛いので当然では有ろう。

 イリスは部屋の隅にあった籠に仕舞われていたクッションを拾い上げ、腕の中に抱きしめて座る。
 そのクッションは少し古く解れている箇所も有り、年季が入っていた。
 イリスはそのクッションに口元を埋めたまま、ほっと落ち着いた様に表情を綻ばせていた。

 そんな普段のきちんと整って凛としたイリスには見られない一面に、来人は少し胸を高鳴らせた。
 そしてガーネは来人の膝の上へ、ジューゴはその隣に座り、そうやって来人たちが腰を下ろしたのを確認すると、ジャスミンはお茶を入れて持って来てくれた。
 と言っても四足歩行の獣が背に盆を乗せて――なんて訳は無く、宙を浮いた盆の上にカップが乗せられていて、それがそのまま宙を漂ってローテーブルの上まで運ばれて来たのだ。
 
 そして、ジャスミンは茶を置くとまた台所の方へと向かおうとする。

「私はお食事の用意をしてきますね」
「あ、わたくしもお手伝いしますわよ」
「いいのよ、イリス。あなたは今日くらいゆっくりしていなさい」

 母の手伝いをしようと腰を上げたイリスは静止されてしまい、そのままおずおずと持ち上げかけた腰をまたクッションに下ろした。
 そのまましばらくは大人しく座っていたイリスだったが、やはり母が働いている中休むというのは性分が許さなかった様で、来人たちがだらりと寛いでいる中、気付けば母と共に台所に立っていた。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...