【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第二章 ガイアの遺伝子編

#63 地下空間を抜けた先

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「――有ったぞ、鎖使い」

 核を落とさない不思議な鬼の群れを蹴散らした後、来人たちが進んで行った先。
 カンガスが指を指す地下空間の天井の方を見れば、来人たちが落ちて来たのと同じ様な小さな空間の亀裂が出来ていた。

「やった! 本当に有った!」
「あれだけ大きな空間の崩壊を起こしたんだから、どこかにひずみが出来ているとは思っていたが――、ビンゴだったな」
「じゃあ、後はあの亀裂を広げれば地上に出られますね」
「ああ。だがその前に、気になる事が有るんだが――」
「?」

 カンガスはにやりと口角を上げ、振り向いて来人の方に向き直る。
 
「お前、どうやってこっちに来たんだ?」

 そのカンガスからの問いに、来人心臓はどきりと跳ねる。
 来人が『ハッキング・ゲート』を使ってこのガイア界へ密入国してきたという事をカンガスは知らないはずだ。
 どこかでボロを出しただろうか?
 
 しかし、まだ相手が鎌をかけてきている可能性は高い。
 来人は平静を装い、言葉を返す。

「どうやってって、普通に大ゲートを通って来ましたよ。大きくて美しいゲートでしたね」

 イリスの受け売りで、辛うじて知っていた知識を交える事で誤魔化そうとする。
 しかし、カンガスはその答えにくつくつと喉を鳴らして笑って、

「こっちへ来た理由は異変の調査、だっけか」
「そう、ですね」

 どうやら、誤魔化し切れないらしい。
 カンガスは確実に来人が密入国した事に気付いている。

「実はな、俺はこっちでお前と会う前にティルにも会ってるんだ」
「あ――」

 まずい。
 そう言えば、と来人は思い出す。
 天界でアナが言っていた、“既にティルに異変の調査を任せている”と。

「そうさ。三代目候補を調査程度の為に二人もガイア界に送り出す訳がないよな」

 もう言い訳のしようもない、バレた以上、ここでカンガスと敵対するのも止む無しだ。
 そう思い、来人は首から下げた柱、三十字へと手を伸ばす。

 しかし、カンガスは両手を上げて首を振って敵意は無い事をアピールする。

「おいおい、何も俺はお前を責めてる訳じゃ無いし、邪魔するつもりも無いよ。――でも、理由くらい聞いても良いだろう?」
「あなたが僕に対してそうする理由が分かりません」

 少なくともルール違反を犯した来人を捕まえて天界に送還する方が自然だ。
 しかし、カンガスは対話を求める。

「お前は俺の客だし、悪意を持ってそう言う事をする奴じゃ無いって事くらい分かる。それに、これでもお前の事はそれなりに買ってるんだぜ、鎖使い? このカンガスに話してみてくれよ、力になれる事なら協力するぜ?」

 そう言われて、来人も矛を収める。

「はぁ……。実は、ですね――」
 
 そして、来人はカンガスに自分がガイア界へ来た事情を伝えた。
 しかし、勿論鬼人やメガの事はトップシークレットなので伏せたままだ。

 ガイア界の異変の調査という目的自体は嘘では無い事、それはイリスの元に届いた手紙がきっかけだという事。
 しかしアナにガイア界へ行く事を断られたので、仕方がなく勝手に密入国した事。
 そして、ガーネの祖父バーガの眠る地、氷の大地へ行く必要が有る事。

 噛み砕いて、伝えられるだけの事を伝えた。

「――なるほどな。鎖使いは仲間のガイア族たちの為に、一肌脱いだって訳か」
「そうですね。当面の目的はイリスさんの家族の安否確認と、ガーネの祖父のお墓参りです」

 来人は淀むことなく、声色一つ変える事無く、そう言った。
 嘘は吐いていない、ただ伏せた情報が少し多いだけの事だ。

 それを聞いたカンガスは、にっと笑って強引に来人の肩を組んだ。

「――よし、良いぜ。少しだけ協力してやるよ」
「あ、ありがとうございます……」
「とりあえず、お前はどうやって帰るつもりだったんだ?」
「ええっと……」

 来人は言い淀んでしまう。
 実のところ、全く帰還方法を考えていなかった。
 行きはメガの『ハッキング・ゲート』を利用したが、帰り道はそこに繋がっていない。
 メガもそしてギザも同行していないのだから、正規ルートの大ゲートを通るしかないのだが――。

「ははっ、だと思った。じゃあ、お前は今から俺の弟子だ」
「ええ!? それは一体、どういう事ですか……?」

 カンガスの突然の提案に、来人は困惑する。
 しかし、すぐにその理由は答えとして返って来た。

「俺は“ガイア鉱石”を掘る為にこっちに来たんだ。つまりその作業をするに当たって、手伝いの助手を何人か連れて行っていてもおかしくはないだろう? 帰りは俺のケツを付いてゲートを潜ればいいさ」
「ありがとうございます!」

 カンガスのしてくれる協力とは、帰還方法だった。
 あの時天界でカンガスの武器屋で買い物をしておいて、接点を作っておいて良かったと来人は改めて思った。
 もしも知らない仲だったのなら、こうはいかなかっただろう。

「よし、じゃあ俺の弟子には特別にこれもプレゼントだ」

 そして、カンガスは懐から一つ、土色の拳サイズの石の玉を取り出した。

「それは、もしかして――」
「“山の宝玉”だ。氷の大地に行くんだろう? なら、これも必要なはずさ」

 それは、水の大地の長スイから貰った水の宝玉に並ぶ、氷の大地に立ち入る為の通行証の一つだった。
 しかし、それは本来各大地の長が管理しているはずの物。

「ありがとうございます。でも、どうしてカンガスさんがそれを?」
「俺の相棒が、今は山の大地の長なんだよ。俺と同じ顔をしているから、もし見かけたら仲良くしてやってくれ」

 そう言って、カンガスは自分の顔を親指を立てて指す。
 同じ顔、つまり狼の様な獣人なのだろう。
 人型という事は、カンガスの相棒である山の大地の長もまたイリスやスイと同じく神格を有している実力者であるという事だ。

「同じ顔って、カンガスさんは神様ですよね? それなのに、ガイア族と同じ……?」
「ああ。イカしてるだろう? だから、二人でお揃いにしちまったんだ」

 そう言って、カンガスは顎に手を当てて自身の顔を自慢げに見せる。
 元がどちらの顔だったのか分からないが、それを気にったカンガスは神の力を使って整形してしまったらしい。
 来人はそんなとんでも発言に「あはは……」と乾いた笑いで返すのだった。

「――よし。それじゃあ、地上に戻るとするか。鎖使いの仲間たちも待ってるはずだ」

 そして、カンガスは改めて大剣を抜いて亀裂に向かって構える。
 来人もそれを見て、神化して力を解放。
 髪を白銀に染め、二本の金色の剣を構える。
 
 カンガスが大振りな大剣の一撃を亀裂に向かって叩き込む。
 激しい空間の振動と共に、パキリとガラスの割れるような甲高い音と共にヒビは大きくなる。

「鎖使い! 行け!」

 そして、来人もそれに続く。
 すかさず鎖を巻き付かせた剣で、広がった空間の亀裂に向かって双撃を叩き込む。
 鎖はドリルの様に回転し、じゃりじゃりと金属音を鳴らしながら亀裂を強引にこじ開け、広げて行く。

 来人の攻撃によって、空間の亀裂は二人が通れる程に大きく拡張。
 それと同時に、空間の崩壊の反動で地鳴りが起こり、地下空間の天井からパラパラと土埃が落ちて来る。

「まずいな、崩れるぞ! 急いで脱出しよう!」
「ああ! 捕まれ!」

 来人は開いた空間の裂け目に向かって鎖のアンカーを撃ち出し、固定する。
 そして、カンガスに手を伸ばし、その手を取った事を確認すると、鎖を巻き取る。
 そのまま二人はその鎖を伝って裂け目を通り、地下空間アビスプルートから地上へと脱出を果たした。
 
 二人が地上の大地を踏みしめるとほぼ同時に、空間の裂け目は少しずつじんわりと閉じて行く。
 そして、程なくして小さな亀裂へと戻り、そして消えて行った。
 もう先程まで大きく口を開いていた空間の裂け目はそこには無く、まるで元から何事も無かったかの様だ。

「大丈夫か、鎖使い」
「はい、お陰様で――」

 来人は神化を解き、髪色も茶へと戻っていた。
 そして、改めて自分たちが出て来た場所を確認しようと、周囲を見回してみる。

「ここは――」

 そこは、生い茂る木々に囲まれた森の中だった。
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