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第二章 ガイアの遺伝子編
#62 一方その頃、観測されたもう一つの異変
しおりを挟む来人たちがガイア界で旅を続けている頃、地球ではあるニュースが話題となっていた。
それは“白い通り魔が度々現れ、老若男女問わず襲われている”というものだった。
その白い通り魔は夜中に独りで居る人間を狙って襲い、襲われた人はまるで魂でも抜かれたみたいに昏睡状態となってしまうのだという。
しかも、事件は来人たちの住む街でも事例が報告されているのだ。
「――だってさ、ギザ。怖いわね」
「そうデスね。しばらく美海も一人で出歩くのは控えるのデスよ? 可愛いんデスから、襲われてしまいます」
メガ研究所に遊びに来ていた美海とギザはお茶をしつつ菓子を摘みつつ、そうテレビで流れるニュースを見ながら駄弁っていた。
友人同士である二人はこうやって時折集まって女子会に花を咲かせている。
普段はここにもう一人、王子様系女子の奈緒も加わるのだが、今はテイテイと共にジムに居る事だろう。
「来人が居たらボディーガードしてもらうんだけどなあ。今はなんとか界ってとこに行ってて居ないし」
「ワタシも仕事が有るので、難しいデスね」
そんな話をしていると、我関せずといった風に一人デスクに向かっていたメガが唐突に話に入って来た。
「その通り魔の被害者リスト、どうもきな臭いヨ」
「え? メガさん、調べてたんデスか?」
「暇潰しにネ。まあ見てくれヨ」
そう言って、メガはモニターに十数人以上の被害者リストの顔写真とプロフィールのデータを並べる。
性別年齢全てがばらばら、一見共通点は無いように見える。
「さて、このリストを見て気づく事はあるかネ? 例えば、彼ら彼女らの共通点など」
そして、そう言ってメガは美海とギザを試す。
これもメガのちょっとした暇潰し、お遊びだ。
「うーん、実は全員血縁者、とか!」
美海が思考を放棄し秒で適当な事を言うが、メガは一瞥した後無視。
対してギザは少しリストを吟味して考えた後、
「――ある数値がどれも基準値よりも高いデスね」
と、答えた。
その答えにメガは満足気に頷く。
「その通り、正解だ。では、この数値は何を表している物だろうか? この値だけを抜き出して並べた物がこれだ」
美海の「そんなの分かる訳ないじゃん!」という抗議をまたもスルーして、メガは気持ちよさそうに話を続ける。
そう言って次にモニターに映し出されたのは、美海にはよく分からないグラフと数値の羅列。
しかしギザは一見してその意味を理解する。
「――波動の総量、ですか」
「ああ。人間にしてはどれも高い数値だ」
追加で表示された美海のデータは、他のグラフの数値と殆ど同じ値を示していた。
「えっと、つまりその波動? の多い人たちが狙われているって事?」
「そう推測できるヨ。そして、その波動は神と関係が深い者はその影響を受けて強く発しやすくなってしまう」
そう言って、次にモニターに表示されたのは美海の顔写真とプロフィールデータだ。
示している数値を先程のグラフと並べると、ほぼ同じ値を示していた。
「美海も先輩と近しい人物デス、その影響を諸に受けていますね」
「え、私危ない!? 通り魔に狙わるの!?」
突然知らされた身の危険に、美海は驚く。
「その可能性は高いヨ。気を付けて帰るんだネ」
「ええー! 嫌よ、メガ助けてよう!」
美海は慌ててメガに飛びついて抱き上げる。
ぎゅうぎゅうと抱き締められ、逃げられない。
「わん」
「わんじゃなくって! もう犬じゃないのは分かってるんだからね!」
「わんわん」
こうなるとメガは面倒になって、犬の振りをして誤魔化そうとするのだった。
――陸とモシャは、修行を終えて天山を下山していた。
そして、いつもの様に核の換金の為に天界へ向かおうと団地のアパート群へ向かっている所だ。
もっとも、既に藍の幻影は居らず、生活費も一人分で済む為切迫した金銭状況では無い為以前よりも控えめだ。
「――『顎』の鬼、信じても良かったのかなー」
陸は百鬼夜行の戦いの中で、かつて『蒼』の鬼に殺されたはずの最愛の幼馴染藍の魂から産まれた鬼、『藍』の鬼と出会った。
そして、『藍』の鬼は陸との戦いの中魂を触れあわせて、生前の藍記憶を呼び起こした。
その後、せめて自分の手で楽にしてあげようと陸が『藍』の鬼を葬りかけた時、現れたのが『顎』の鬼だった。
『顎』の鬼は『藍』の鬼を助ける、任せてくれとそう言って、彼女を連れ去って行った。
その後、音沙汰は無い。
陸は『顎』の鬼の正体が鬼人となった来人の親友秋斗だという事を知らないし、来人も陸が『顎』の鬼と会っていた事を知らない。
互いに鬼人の存在を秘匿しているからこそ、二人が互いの目的――“鬼人を人間に戻す”という目的が一致しているという事実に気付くのは、もう少し先の事だ。
ぽつりと呟く主人の様子を見て、肩に乗る相棒の鼬、ガイア族のモシャは少し心配そうに陸に声を掛ける。
「陸は、後悔しているの?」
「ううん。藍が帰って来るのなら、それが一番嬉しい。――でも、藍の居なくなった家は、ちょっと寂しいかなー」
そう話していると、すぐに目的地であるアパート群――つまり、天界へ続くゲートの辺りまで来た。
しかし、様子がおかしい。
「扉が――!?」
いつも陸の使っている天界へ繋がる“神々の紋章”が記された扉、その扉が破壊されていた。
老朽化して自然に崩れたのではない、明らかに何者かの手による物だ。
最初は鬼、もしくは神に関係する何者かの仕業かと思われた。
しかし――、
「――波動の残滓も無い。人間の、愉快犯の仕業か?」
「でも、壊されているのは“ゲート”として使っているこの扉だけだみたいだねー」
アパート群の他の扉を見ても、手を加えられた形跡は無い。
明らかに、これがゲートだと分かっている者の犯行だ。
しかし、そうであれば有るはずの波動の残滓を感じられない。
鬼を追える程に波動を敏感に感知できるガイア族のモシャが全くそれを感じないのだ。
「ともかく、他のゲートを探して、天界へ行こう。アナ様に報告しないと」
「うん、分かってるよー」
陸とモシャは付近の別のゲートを当たる。
しかし、なんともう一件のゲートも破壊されていて、使用不可能。
やっとの事で見つけた三件目でようやく天界へ行くことが出来たのだった。
「――壊されたゲートは一つだけじゃない、明らかに分かってやっている。でも、何のために……」
「神が地球に降り立って不都合の有る人物、もしくはその逆で天界へ地球に居る誰かが来ては困る人物。――どちらにしても、今のところは見当もつかないね」
そう話しながら、陸たちは核の換金も後回しにして神王補佐アナの居る王の間へと向かう。
門を潜り、アナの居る部屋の扉の前まで来た。
すると、扉越しに声が聞こえて来た。
『“始まりの島”で、揺らぎの反応が有る』
『まさか、“アーク”が?』
『いや、有り得ない。あいつは一生自由になる事は無い』
会話はアダンとアナの物だ。
“始まりの島”、そして“アーク”。
アークとは原初の三柱の内の一柱で、アダンとアナからは離反して、戦いの後封印された神の名だ。
またの名を、破壊の神。
陸も話には聞いた事の有る存在の名を聞いて、すこしびくりと身を強張らせる。
それでも、間が悪かったかな、と思いつつも陸は扉を叩く。
「――む、入れ」
「失礼します」
アナの返事を待ってから、陸は中へ入る。
「どうした、リク」
「実は――」
そして、先程あった事――、地球側のゲートの一部が何者かによって破壊されていた事をアナへと報告した。
それを聞いたアナの取ったリアクションは、驚きではなく、「またか」と言った様な溜息だった。
「アナ様、もしかして――」
「ああ。実は、他の場所でも同じような被害が報告されているんだ」
陸の地域だけでなく、世界のあらゆる場所で。
あまりの大事に、陸も驚きを隠せなかった。
「犯人の目星とかは、付いているんですか?」
「いいや、それが全くだ。現在調査を進めているから、リクも気を付けてくれ」
「はい」
ガイア界で、地球で、そして天界で。
あらゆる場所で起こる異変。
果たして、誰が、何の為に――。
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