【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
60 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編

#60 地下空間、アビスプルート

しおりを挟む
 一行はグリフォンが暴れていた集落を後にして、長の住む隣山の頂上を目指す。
 山の大地グロッグウォールには山の各所に点々と小さな集落が有り、来人たちは目的地までの道中にもいくつかの村を通過して行った。
 
 そして、もう少しで目的地に辿り着こうかという頃だ。

「――にしても、あのグリフォンもそうだが、ここで一体何が起こってるんだ……?」
「これまでは、ああいう暴走とかって無かったんですか?」
「無いな。本来ガイア族は必要に迫られなければあの翼の姿を見せない物だ。その上、我を失って暴れ出すなんてただ事じゃない」

 来人とカンガスの会話に、イリスも頷く。

「わたくしも姿を変えた事は人生でも片手で数えられる程度ですわ。もはや飛び方すら忘れたガイア族だって少なくは有りませんの」
「ネもこの前久しぶりに飛んだネ」

 ガーネの言う“この前”とは、百鬼夜行戦の時の一件だ。
 あの時ガーネは初めて来人の前で氷のドラゴンの姿に変化して見せたのだ。

「そんなもんなのか……。イリスさんなんて、ガイア族やドラゴンみたいな姿よりも、人間の姿の方が慣れてそうですよね」
「そうですわね。旦那様から神格を頂いてからはずっとこの姿ですわ」
「そう言えば、前も言ってたけどその神格って……?」

 水の大地ディープメイルの長、人魚姫のスイもイリスと同じく人の姿に近いながらもガイア族であった。
 その事から、位の高い、もしくは力の強いガイア族が持つ物という事は想像に難くない。

「わたくしの名前“イリス”に覚えは有りませんか? 例えば神話、もしくはそれを元とした創作物などですわ」
「ん……? 確かにアニメとかで同じ名前のキャラクターが居たかもしれないけど……」

 神話や伝承に関する知識に明るくなかった来人は首を傾げる。
 それを見たイリスはくすりと笑って、解説を続けてくれた。

「ギリシャ神話の虹の女神の名ですわ。わたくしのスキルに合わせて、旦那様から頂きましたの。そして、“神格を得る”という行為は、その神話上の神の名――つまり、信仰や知名度を得るという事ですわ」
「でも、それって創作物であって、実際の神様では無いんですよね?」
「ですわ。でも、その名に対して人々の信仰、想いが集まりますわ。想いとは即ち想像、それがわたくしたちの力になりますの」

 そうやって、来人の質問にイリスは少し自慢げに答えてくれた。
 そして、それにカンガスが付け足す。

「ほら、鎖使いだって“ゼウス”には流石に聞き覚えが有るだろう?」

 ゼウス、ティルの祖父の名だ。
 
「ああ、それは流石に。ギリシャ神話の有名な神様ですよね」
「そう、それに集まる信仰と想いを我が物といしているからこそ、お前も知るあのゼウスは圧倒的な力を持っている」

 人間が想像し産み出した架空の神の名を我が物として掌握する事で、その力を得る。
 ガイア族がその信仰の集まる名――“神格”を得れば、その姿も神に近づくのだ。

「イリスは神の使いでありながら神の名を得てそれに適合したんだネ」
「今はあんなデブになっても、旦那様は最強の神ですから。わたくしもそれくらい出来ませんと、契約者として相応しくありませんわ」

 そんな話を聞いて、来人は新たな疑問が浮かぶ。

「じゃあ、水の大地の長は何の神格を持っているんですか?」
「彼女はセイレーン、人魚の怪物の神格を持っているはずですわ」
「同じ神話でも、神様じゃなくて怪物なのか……」

 より格の高い名を掌握するには、それだけの実力が居る。
 例えば他のガイア族がいきなり神格を得ようとしても、すぐに弾かれてしまう。
 その点が、イリスと他のガイア族を分けるレベルの違いだ。

「イリスさん、すごいのです! 僕も追いつけるように頑張ります!」

 ガイア族の先輩の話を聞いて、ジューゴは目を輝かせていた。
 可愛らしく無邪気な後輩だ。
 
 そう話していると――、

 突如大きな地鳴りが起こり、周囲の地盤が崩落。
 先頭を歩いていたカンガスと来人は目の前に出来た大きな穴に落ちて行く。

「イリスさん、危ない!」
「坊ちゃま!?」

 来人は危うく巻き込まれかけたイリスを突き飛ばし、間一髪のところで救う。
 代わりに、来人とカンガスはそのまま穴の底へ。

「――いたた。ここは……?」

 幸い砂がクッションとなって来人は怪我をしては居ない様で、すぐに立ち上がって周囲の様子を確認する。
 穴の底は細かいサラサラとした砂が埋め尽くす地下世界だった。
 
「ここは、アビスプルートだな」

 その来人の問いに答えたのは、同じく崩落した穴から落ちて来たカンガスだった。

「ガイア界の地下空間でしたっけ」
「ああ。全大地の真下に迷路みたいに張り巡らされた何も無い所だ。しかし、“空間の崩落”なんてただ事じゃないな」
「空間の崩落――。そうだ、あの穴! みんなは大丈夫かな?」

 来人が上を見上げれば、遥か上空に落ちて来た穴が有る。
 そして、その穴の先には空。
 穴はこうしている内にも少しずつ塞がって行っていて、既に今からそこまで戻って地上へ戻る事は難しそうだ。
 それでも、穴の先から声が響いて来る。

「らいたん!」
「坊ちゃま、ご無事ですか!?」
「王様、僕もそっちに――」

 ガイア族たちの心配する声。
 そして、ジューゴなんかはまだギリギリ一人分通れそうな穴に自分も落ちようとしている。

「待った待った、お前まで落ちてどうするんだ!」
「でも――」

 そうしている内に、穴はどんどん塞がって行く。

「待て、焦る事は無い。先に進めば、別の地上へ繋がる穴が有るかもしれない」

 カンガスはそう言って、ジューゴを制止する。
 実際に地上へ戻る穴が有るかなんて分からない以上、全員で落下して戻れずに全滅は避けるべきだ。
 ここは来人もカンガスの言葉に乗る。

「後で必ず合流するから、みんなは先に進んでいて!」
「鎖使いは俺に任せろ」

 しかし、その言葉に対する地上の三人の返事は地下空間の二人へと届く事は無く、空間の崩落の穴は完全に埋まってしまった。
 地下空間アビスプルートには、来人と帽子の獣人カンガスだけが残される。

「――それで、空間の崩落ってなんなんですか?」
「俺たちは山の上に居ただろう? だから、実際に地盤が崩れた訳じゃない。空間出来た亀裂が広がって穴が空いて、アビスプルートに落ちてしまったんだ。もっとも、そのきっかけが何なのかは分からないがな……」

 地盤の崩落に見えたあれは、裂けた空間に呑まれた地形が崩れただけの事。
 穴が埋まれば、元に戻る。

「ガイア族の暴走とも、関係が有るのかな……」
「どうだろうな。それもこれも、地上に戻ってからだ、行くぞ」

 そう言って、カンガスは先導して砂を踏みしめて進んで行く。
 
「地上に戻るって、本当に他の穴が有るんですか?」
「いいや、空間の穴なんてそう沢山空いてて堪るかってんだ。でも、衝撃を加えれば穴を開けられる程度の小さな亀裂なら見つかる可能性は高い。穴をぶち空けた時に多少の地震が地上で起こるかもしれないが、仕方がない」

 来人は自分たちがこのアビスプルートに落ちた時の状況を思い出す。
 あの時も、大きな地鳴りの後に足元の空間が崩落した。
 
 カンガスの言によれば、小さな亀裂を刺激するという方法でこの空間の崩落は意図的に起こすことが出来る。
 つまり、来人たちは誰かに陥れられた可能性が有るのだ。

 来人は慎重に周囲に警戒を払いつつ、カンガスの後を付いて地上へ戻る為の小さな空間の亀裂を探して進んで行った。
 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...