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第二章 ガイアの遺伝子編
#59 山の大地、グロッグウォール
しおりを挟む水の大地ディープメイルで起こった異変、ジュゴン六兄弟の末六男ジュゴロクが暴走し、リヴァイアサンとなって水上都市をするという事件を新たな契約者ジューゴと共に解決した来人は、次なる大地、山の大地グロッグウォールを目指していた。
と言っても、来人、ガーネ、イリスの三人だけでは広大に広がるディープメイルの海を渡る事は出来ない。
そこで、ジューゴ、ジュゴイチ、ジュゴツーの三匹のジュゴンの背に乗せてもらった。
そのまま三匹の背に乗って進んで行くと、高くそびえる岩山が見えて来た。
その麓の海岸に上陸すると、そこから伸びるごつごつとした歩き難い山道が有り、登って行けば奥に有る山の大地グロッグウォールの中心に辿り着けるだろう。
「ありがとうございました、ジュゴイチさん、ジュゴツーさん」
来人がここまで送ってくれた礼を言えば、二匹のジュゴンは敬礼の姿勢を取る。
「とんでもございません、ライト様!」
「弟を……、ジューゴを、よろしくお願い致します!」
兄弟との別れを涙しつつも、送り出す兄たち。
「はい、任せてください」
「兄さまたちも、どうかお元気で!」
そんな彼らに、来人とジューゴも敬礼を返し、そこでディープメイルの兵士たちとは別れた。
その後、来人たち一行はグロッグウォールの岩山、その山道を登って行く。
ウルスの天山とは違い木々は殆ど無く、ごつごつとしたまさに岩山。
人間の姿をしているのは来人とイリス、後は足元をちょこちょこと歩くガーネと、ふわふわと宙を泳ぐジューゴというデコボコなパーティだ。
こう見えてもイリスもまたガイア族なので、ガイア族の割合いが高い来人一行だ。
しばらく歩いていると、ガーネがもう堪らないと言ったばかりに声を上げた。
「ジューゴ、一人だけ浮いててずるいネ。ネも背中に乗せてくれだネ」
「いいですよ、ガーネ先輩!」
これでもかと言わんばかりに先輩特権で後輩を都合よく使おうとするガーネと、二つ返事で了承してしまうジューゴ。
そんな様子を見て、来人は止めに入る。
「おい、ガーネ? ジューゴも嫌なら嫌と言っても良いんだぞ?」
「ジューゴが良いと言ってるから良いんだネ」
しかし、ガーネはさっさとジューゴの背に跳び乗ってしまう。
それでも当のジューゴは満更でも無さそうで、仲良さげに背中のガーネと話していたので、来人もやれやれと後を付いて行った。
そして程なくして、グロッグウォールの都市――というより、村に近い場所に着いた。
来人は入り口で水の宝玉を見いせようと準備していたのだが、衛兵が居ない。
代わりに、村の奥の方が物々しい雰囲気だ。
「なんかあったのかな?」
「もしかして、また暴走でしょうか? 心配ですわね」
「行ってみよう」
来人たちは村の中を進んで行き、騒ぎの中心へ向かう。
そこには狼や鹿の姿をしたガイア族たちの群衆。
そして、彼らが囲う中心には大きな鷹の顔と両翼、そしてライオンの下半身――グリフォンの姿をした、ガイア族が倒れていた。
本来神化し翼を持つ姿で生活する事は無いガイア族がそのグリフォンとなっているという事は、ディープメイルで見たのと同じ暴走現象によるものだろう。
しかし、既にその場に倒れていて、事態は収まっている様だ。
来人たちが群衆を割ってその現場へ向かうと、そこには一人の帽子を被った男が座り込んでいた。
「大丈夫ですか!?」
来人が声を掛けて近づくと、帽子の男は振り向く。
その姿に来人は覚えがあったし、その男も来人の顔を見て表情を明るくする。
「ん? ――って、鎖使いじゃないか。久しぶりだな」
「カンガスさん!」
そこに居たのは、天界で出会った武器屋のカンガスだった。
身の丈の倍はある大剣を地に突き刺し、それにもたれ掛かる様にしている。
「坊ちゃま、お知り合いなんですの?」
「はい、“これ”を僕のサブウェポンにって選んでくれたのが、この人なんです」
イリスが少し驚いた様にカンガスの方を見ると、カンガスは何かを合図する様にウインクを返す。
それにイリスがやれやれと言った様に溜息を吐いて、応えた。
「お前さん、こんな所で何やってるんだ?」
「ええっと、ガイア界で起こっている異変を調べる為に、このイリスさんの故郷でもある自然の大地を目指しているんです」
来人はカンガスからの問いに、半分本当で半分嘘の答えを返して、水の宝玉を証拠として見せる。
すると、カンガスは「ふぅん」と値踏みする様な視線を来人に向けた後、にっと笑って後ろのグリフォンを指す。
「その異変ってのがガイア族の暴走の事を言うのなら、山の大地の暴走は俺がもう解決しちまったぜ」
「これ、カンガスさんが……? そうだ、何か怪しい人影とか、このグリフォンから漏れ出た黒い何かとか、見ませんでした?」
来人が水の大地で見たのが犯人なのだとすれば、この場にも同じ様に居るかもしれない。
「いいや、どうだろう。居たのかもしれないが、気にもしなかったな」
「そうですか――」
来人は少し肩を落とす。
しかし、どうやらこの大地ではもう問題は解決したらしい。
であれば、後は長の元を訪れて、水の宝玉を見せて山の宝玉も同じ様に借り受ければ、この地でやる事は全て済む。
信用の証として機能する水の宝玉と、来人の三代目神王候補という肩書が有れば、長に話を付ける事も難しくないだろう。
「――でも、カンガスさんこそ、どうしてここに居るんですか?」
「俺はここでしか取れない“ガイア鉱石”っていう、柱とか武器の作成に使う特殊な石を掘りに来たんだよ。そしたらその前にこいつに絡まれて足止めくらってたって訳だ」
武器屋であるカンガスは自身で造る武器の材料を取りに来た、という訳だ。
「これから行くところなんだが、鎖使いも一緒に来るか?」
「いえ、僕らは長のところに用事が有るので――」
「なら、丁度良いじゃないか。採掘場は長の居る山の頂上付近なんだ」
そんな訳で、来人たちはカンガスと共に山の頂上を目指す事になった。
来人たちはの居た村は山の中腹付近で、ここからさらに歩いて隣にある別の山の頂上に長は居ると言う。
半神半人、人の姿をしたガイア族、犬、ジュゴンという奇妙なパーティに、更に帽子を被った獣人というこれまた奇妙なメンバーが一時加入した。
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