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第二章 ガイアの遺伝子編
#57 水の大地、ディープメイル
しおりを挟むイリスの発案で密入国の秘密を守るためにジュゴンのガイア族ジューゴを連れて行く事に、もとい口封じのために拉致する事なった来人達。
ジューゴは六兄弟の五男で、家族も居る。
それにまだ若いジューゴは本来神に仕える為に故郷を離れる様な年齢では無い。
その為、まずはディープメイルの長に話を付けに行く事になった。
――水の大地ディープメイルは海上に作られた水上都市だ。
茅葺の屋根の建物が水の上に建ち、そこにはペンギンやイルカの様な生き物の姿を模したガイア族たちが暮らしている。
彼らの最大の特徴としては、水中だけでなく空中をも泳ぐという事。
ジューゴも同じく、来人の横の宙をくるくると踊る様に泳いでいる。
「王様! もうすぐですよー!」
「ジューゴ、その王様ってのやめない?」
「でも、王様は王様ですから!」
「だから、まだ王様じゃないんだってば……」
来人としては少し気恥ずかしさのある呼ばれ方だったので訂正したかったのだが、ジューゴはいまいち聞く耳を持たずに相変わらず無邪気に“王様”と呼ぶ。
結局、そうしている内に水の大地ディープメイルの中央にある大きな建物まで来た。
海底から伸びた塔の天辺となる場所が、海上都市からの入り口だ。
来人は海を覗き込み、そんな底の見えない海の奥底にある塔を見る。
「すごい、一番下まで行ったら帰って来られ無さそう」
「でも、これから行くのがその一番したですよ?」
「ええ……」
そして、来人たちはジューゴの後を付いて、ガラス張りのエレベーターに乗る。
「わあ! 綺麗ですわね!」
「ネもディープメイルの海を見るのは初めてだネ!」
海中に漂うクラゲや色とりどりの魚たち。
エレベーターのガラス越しに美しい海の景色が見え、来人たちは瞳を輝かせる。
そのまま更に海底にまで降りて行けば、先程までとは打って変わり暗い闇の世界。
その中に海中を漂う淡く光る不思議な物体や、見た事も無い深海魚まで居る。
そして、エレベーターは最も底、最奥部に辿り着く。
最初は美しい景色に盛り上がった一行だったが、数分間も海に沈むガラスの筒の中に居たせいで若干の気付かれが見えた。
「長かった……」
「だネ。ここにもゲートを作った方が良いネ」
そう話していると、一行を待っていたかのように二匹の――いや、二人のガイア族が現れる。
「ゲートなんて作ってしまうと、セキュリティが甘くなるではないですか」
「そうですぞ、“姫”の身の安全が第一ですぞ」
彼らはジューゴと同じようなジュゴンの姿をしていた。
岩の様にごつごつした肌には深い皺と戦傷が刻まれていて、歴戦の兵士の様だ。
「姫? 長って、お姫様なの?」
来人がそんな疑問を口にするが、ジューゴはそれに答える事無く脱兎の如く脇を抜けて走って行く。
「ジュゴイチ兄さま! それにジュゴツー兄さま!」
そのジュゴンの兵士たちに、ジューゴが飛びつく。
どうやらジュゴン六兄弟の長男と次男の様だ。
「む、ジューゴではないか。何故ここに?」
「お前は姫に謁見するにはまだ早いぞ」
二人の兄は何故かこの場に現れた弟を訝しみ、奥に控える来人たちとジューゴを交互に見る。
「いえ! 僕にも主人が出来たので、共にする許可を頂きに参ったのです!」
ジューゴが目を輝かせながら、自分の身に起きた一大事を話す。
しかし、兄たちはいっそう眉間に皺を寄せる。
「そんなバカな、お前の様な未熟者に主人が付く訳が無いだろう」
「そうだ、我々ジュゴン一族に有るまじき色なのだぞ。もっと鍛錬を積まねばならん」
どうやらジューゴは兄たちからもあまり評価が高くないらしい。
そんな様子を見かねて、来人は割って入る。
「三代目神王候補、来人です。ジューゴを頂きたいという話は本当です。長へ繋いでもらいたい」
来人は使える物は遠慮なく使う。
三代目神王候補という神に仕えるガイア族が聞けば震え上がる様な大層な肩書を掲げて、半ば無理やり取次をさせる。
「なっ……!? 三代目候補様ですと!?」
「ジューゴが、そんな、まさか……」
兄たちはわなわなと震えるが、来人の後ろに控えるイリス――つまり、来神の契約者の存在にも気付くと、その言葉が真だと悟り、すぐに姿勢を整えて敬礼する。
「「――はっ! 直ちに!」」
そして、来人たちはジュゴイチとジュゴツーの二人の兵士に連れられて、姫と呼ばれる水の大地の長の元まで案内された。
二人の兵士は扉の左右に着く。
大部屋の奥に長は座している。
薄い白のベールの天幕がかかっていてその姿ははっきりと見えないが、浮かび上がる影から分かる。
「――人?」
そう、ベールの奥に浮かび上がる影は人型だった。
ガイア族の長の一人だというのだから、てっきりジューゴの様なジュゴンや、イルカの様な姿をしているのだとばかり、来人は思っていた。
予想を裏切られた来人は驚き目を丸くする。
「よくぞいらっしゃいました、神様。私がこの大地の長、スイと申します」
姫の言葉と共に、天幕のベールが開く。
人間――否、人型ではあっても、人間ではない。
青緑色のふわふわとした美しい長髪と、ビキニだけを纏った肌色面積の多いの多い上半身。
そして、下半身は鱗に覆われた一本の魚の尾様。
水の大地ディープメイルの長、スイ。
“姫”とは、つまり人魚姫だった。
「? ――ふふっ、どうされましたか?」
来人がその容姿に驚いてぽかんとしていると、人魚姫は小首を傾げて、薬と笑う。
「ああ、いえ。ガイア族なので、てっきり動物の姿なのかなーと、勝手に思っていたので」
「ああ、なるほど。それでしたら、神様の後ろに控えているそのイリスさんが居るでは無いですか。同じ事ですよ」
そう言って、来人の後方へと視線を送る。
イリスは名を呼ばれると、小さく頷いた。
「確かに、そう言われるとそんな先入観を持っていたのもおかしな話ですね」
「ええ、そうでしょう。――それにしても、おかしおな神様ですね。長と言っても私もまたただのガイア族、神様の方が位は上ですよ」
「そう言われても、自分が神様って感じもしなくて、偉そうにするのも難しいんですよ」
「どういう意味でしょうか?」
そう来人とスイが会話している所に、ガーネがぴょんと割り込む。
「らいたんは半神半人、半分は人間なんだネ」
「まあ、珍しいですね……。あら、という事は、もしかしてあなたが鎖使いの?」
どうやら“鎖使い”の異名はこの異世界にまで届いているらしい。
来人は照れ臭そうにしつつも、改めて名乗る。
「すみません、名乗るのが遅れました。三代目神王候補の来人です」
「まあ、イリスさんがいらっしゃるかと思えば、ライジン様のご子息でしたか。そんなライト様が、どういったご用件でしょうか?」
来人の名乗りに一瞬驚くも、すぐに元も落ち着いた調子に戻るスイ。
そして、本題だ。
「ここにいるジューゴに危ない所を救われまして、気に入ったので契約者として連れて行こうと思うんです。なので、その許可を頂きに来ました」
「まあ、ジューゴを。……勿論有り難いお話です。未熟な者ですが、どうかよろしくお願い致します」
スイは二つ返事で了承する。
しかし、来人が礼を述べようと口を開きかけると同時に、「ですが」とワンクッションを置いてから、言葉を続ける。
「――ですが、ライト様は既にそこに者を契約者として連れているのではないですか? ――失礼ながら、いくら王の血筋と言えども、二人目となると少々負担となるのではないですか?」
スイの疑問は当然の物だ。
神は基本的に契約者として連れるガイア族は一人か、そもそも契約者を連れない者だって少なくない。
そう考えると、イリスの様に優秀な者を引き抜きに来たのならともかく、若輩者のガイア族であるジューゴを二人目として求めるのには違和感が有るのだろう。
しかし、来人はにっと笑って自信満々にこう答える。
「いいえ、他にも人間の友人を二人契約者としていて、ジューゴはそれを含めると四人目です。この程度、僕の負担になんてなりませんよ」
スイもそう胸を張って言われると、それ以上何も言えない。
改めてジューゴに向き直るスイ。
「ジューゴ、ライト様に尽くすのですよ」
「はい、姫様!」
ジューゴの正式な契約が決まったのを見ると、扉の左右に着いていた兄の二人が一目散に走って来る。
「ジューゴ、良かったな! 兄たちは嬉しいぞ」
「ちゃんとライト様の言う事をよく聞いて、しっかりお仕えするのだぞ」
「はい! ありがとうございます、兄さまたち! 王様と一緒に頑張るのです!」
弟に対して厳しい評価を下していた兄たちだったが、その厳しさも優しの裏返し。
少し他のガイア族に劣る弟の事を心から心配していただけに、まるで我が事の様に弟の出世を喜んでいた。
そして、あとは正式に契約の儀を交わすだけだ。
と言っても、来人は親友の二人とは幼い頃に、ガーネとは知らない内に契約を交わしていたので、正式な手順を知らない。
なので、これまでと同じ様に何となく感覚でやってみる。
結局のところ、お互いの意思を確認すればいいのだ。
来人は改めてジューゴと向き合い、手を差し出して握手を求める。
これが来人流の契約の儀だ。
「それじゃあ、よろしくね、ジューゴ」
「はい、王様! 精一杯頑張るのです!」
ジューゴが手――もといヒレを指し伸ばして来人の手を取ろうとした、その時。
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