【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
55 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編

#55 密入国

しおりを挟む
 翌日、来人はガイア界への立ち入り許可を取りに、王の間を訪れていた。
 神々の中にも階級が有り、許可なしにあらゆる世界を行き来する者も居れば、来人の家庭教師のユウリの様に末端の神では許可や用事無しに他の世界に干渉できない神も居る。
 ユウリはライジンからの仕事を受ける事で、地球へ降り立つ許可を得ている訳だ。

 ガイア界はそれら数多の世界の中でも、地球に並ぶ重要度の高い世界。
 故郷とするガイア族だけならともかく、来人も同行するとなればきちんと申請を出して許可を得なければならない。

「ガイア界でガイア族たちが暴走しているという話を耳にしまして、その調査に行って来ようかと思います」

 来人の手札、イリスから聞いたガイア界での異変の話。
 “仕事”という大義名分を貰って、ガイア界への立ち入り許可を貰って、ちゃっかり禁足地にも足を踏み入れてしまおうという魂胆だ。
 そんな訳で、天界の諸々を取り仕切る神王しんおう補佐のアナに立ち入り申請をしたところ――、

「いや、必要無いよ」

 普通に拒否されてしまった。

「何でですか!? 一大事ですよ!」

 少々わざとらしいながらも、来人は大げさにアピールする。

「そっちはもう既にティルに任せてある、君は地球の鬼退治に当たってくれ」
「うぅむ……」

 まさかティルにガイア界の調査の仕事が既に割り当てられていたとは。
 もっとも、世界と世界を超える調査任務なので、人間である来人に回すよりも理にかなってはいる。
 
 来人は考え込む。
 どうやってこの着物美人の神王補佐を説得しようか、と。
 考えた結果、第二の手札が無かった来人がひねり出したのは泣き落としだった。

「アダン君からも、アナ様を説得してよ。ほら、ガーネのお爺ちゃんのバーガさんのお墓参りも行ってあげたいし――」

 堅物のアナと違い、仲の良いアダンに言ってみれば意外とすんなり要求が通るのではないかという事だ。
 しかし、アダンからの返事は、

「ごめんね、ライト。その気持ちは嬉しいけれど、バーガはゆっくり眠らせてあげたいんだ。ガイア界への立ち入りを厳しくしている理由には、そのバーガが眠る氷の大地がの存在が大きいんだ」
「そういう理由なら、なおさらガイア界への立ち入りは許可出来ない」
 
 アダンからの返答も、アナと同じくNOだった。
 というか、バーガの名前を出した所為で余計に許可を得るのが難しくなってしまった。
 禁足地というだけあって、やはり簡単には入れない。

「ぐぬぬ……」

 来人はがっくりと肩を落とす。
 氷の大地どころか、ガイア界への立ち入りすら却下されてしまった。
 これではイリスになんと言えば良いのか……。


「――という訳で、駄目でした……」
 
 そんな訳で、とぼとぼと帰宅した来人はイリスとガーネの前で、成果ないの旨を伝えた。
 
「あら、どう致しましょう」
「らいたん置いて、二人で行くネ?」
「わたくしはそれでも構いませんが、坊ちゃまの目的は果たせませんわね」

 ガイア族の二人は既に来人を置いて里帰りをする気満々だ。
 
「二人共、置いてかないでよ……」

 このままではユウリとお留守番をしてアニメ観賞に浸る日々を過ごす事になってしまう。
 来人はちょっと悪くないかな、と思いつつもその誘惑を振り切り、次の手を打つ。

 
 来人の次の手、それは“頼る相手を変える”事だ。
 祖父のウルスや父であるライジン、血縁者に天界の権力者は他にも居る。
 それら人脈を有効利用して――と、いう訳は無く。

 来人とガーネが訪れた場所は、またしてもメガコーポレーションの地下研究所ラボだった。
 ガイア界の事は、ガイア族に、だ。

「――メガ、この前使った『ハッキング・ゲート』でガイア界に密入国出来ないかな?」
「ライトは本当に、面白いやつだヨ」

 来人がそう訊ねれば、メガは楽しそうにけたけたと笑う。

「勿論可能だヨ。何せボクは天才だからネ」
「流石メガだネ」
「もっとも、ガイア界へ繋がる道をハックする為に調整の時間が必要だヨ」

 メガがそう言えば、助手のギザがすぐに動く。
 
「それでは、ワタシはガイア界へ繋がる様にゲートの調整をしておくのデス。先輩たちは準備を整えて明日また来てください」
「分かった、よろしくね」

 こうして、来人はガイア界への密入国手段『ハッキング・ゲート』を手に入れた。
 アナにばれたら大変だが、秋斗の為なので手段を選んでいる場合ではない。
 非合法な方法でも、来人にとっては問題では無い。

「でも、イリスさんにメガの事伝えても大丈夫かな……?」
「天界側の者じゃなければ、構わないヨ。それに、ボクもイリスとは同郷だ」
「そっか、分かった」


 そして、来人はガイア界への渡航手段を手に入れた事をイリスにも伝えた。
 イリスは二つ返事でメガの存在の秘匿を了承してくれて、無事『ハッキング・ゲート』での密入国案で決まった。

 来人は翌日に控えたガイア界への渡航を前に、家族や友人たちにしばらく留守にする事を伝える。
 母照子しょうこには既に伝えてあり、ユウリがイリスの代わりに護衛をしてくれる事になっている。
 美海には神様の仕事だと適当に誤魔化しておいた。
 
 テイテイはスマートフォンを持っていないので、「共にガイア界へ行かないか」と誘う為に家まで行ったが、留守にしていた。
 どこに居るのか分からなかったので、来人は置手紙だけを残しておく。
 秋斗の居場所も分からないが、裏で動いている事は間違いない。
 親友たちとは離れていても、同じ方向を向いている。

 そして、来人は家を出る前に義妹の世良せらにも一言入れようと思い、部屋を訪れる。
 来神だけでなく来人たちまでもがしばらく家を空ける都合上、照子と世良が残される形になる。
 兄として「母さんをよろしく」くらいは言っておこうと思ったのだ。

「世良、居るー?」

 こんこんとノックして、扉越しに声を掛ける。
 しかし、反応は無い。

「あれ、出かけてるのかな? 珍しいな」

 部屋の扉を開けてみる。
 やはり、部屋の中に銀髪の可愛い義妹は居なかった。

「まあ、母さんから話は伝わるだろうし良いか」
 
 女の子の部屋なので、不在の際に勝手に入るのも悪いと思いそのまま扉を閉める。
 こうして、出立前の準備を済ませた来人。
 
 
 今回ガイア界へ向かう一行は三名。
 三代目神王候補、“鎖使い”来人。
 来人の相棒、ガイア族のガーネ。
 金髪ロングのメイド、同じくガイア族のイリス。

 一行は再びメガラボを訪れ、太い管が何本も伸びた機械で出来た扉の枠縁『ハッキング・ゲート』の前まで来た。

「あら、風情の無いゲートですわね。天界にあるガイア界へ繋がるゲートはもっと大きくて美しいんですのよ。坊ちゃまにも見せて差し上げたかったのですが……」

 イリスの言っていたお楽しみとは、その大きくて美しいゲートの事だったらしい。
 ドラゴンの姿に変貌する様なガイア族が通る為のゲートなのだから、そのサイズも大きなものになっているのだろう。

 対して、こちらは武骨でメカメカしい鉄のゲート。
 サイズも人間用で寂しい物だ。

「イリス、文句言うんじゃないヨ」
「あら、気に障ったのでしたら申し訳ありませんわ。でも、見た目の美しさはともかく、メガの発明自体は評価していますのよ?」
「当たり前だヨ。この世の英知の結晶だからネ」
「うふふっ。久しぶりに会っても、変わりませんわね」
「そっちこそ、見てくれは変わっても相変わらずだネ」
 
 同郷の二人は久方ぶりの再会に会話を弾ませていた。

「準備OKデス。いつでも行けますよ」

 メガがカタカタとキーボードを叩くと、『ハッキング・ゲート』の内側が白い光に包まれる。
 この光を抜ければ、ガイア界だ。

「それじゃあ、健闘を祈っているヨ」

 メガがにやりと笑い、送り出してくれる。
 来人はそれにこくりと頷く。

「よし、行くぞ」
「だネ!」
「はい、坊ちゃま」

 来人たち一行は、『ハッキング・ゲート』の光を潜り、ガイア界へと密入国を果たす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

気がついたら無人島!?〜俺が知らない所で神様が勝手に俺の無人島生活を配信していました〜

美鈴
ファンタジー
毎日地球を見守る神様は代わり映えしない退屈な毎日にうんざりしていた。そんな時ふと目に付いたのが、人間がしている動画配信。動画配信に興味が沸いてしまった神様はワシも動画を撮り、編集して、天使達相手に配信すれば面白いんじゃないか?と、思ってしまう。そこから先は流石神様。行動が早かった。そして物語は当の本人達が知らない所で公開されて人気が出てバズっていくのであった…。 カクヨム様でも公開しております!内容が異なる部分もあります。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...