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第二章 ガイアの遺伝子編
#54 ガイア界へ
しおりを挟むメガから聞いた話を元に、来人はガイア界へ向かう計画を立てていた。
『メガ・レンズ』の事もガーネと共有し、二人で『憑依混沌』を使い熟す手段を得た事を喜び合った後、本題に入る。
「それで、ガイア界へ行こうと思うんだけど」
「ネ? ネの実家に挨拶に行くネ?」
「違う違う、実は――」
来人はメガから聞いた情報をガーネとも共有した。
秋斗を人間に戻す為に、ゼノムの『遺伝子』の色の残滓が必要な事。
それはガーネの祖父バーガが眠るガイア界の最奥部、氷の大地リップバーンに行けば手に入る可能性が有る事。
「分かったネ。ネもついて行くネ!」
そう二人が自宅のリビングで話していると――、
「坊ちゃま、ガイア界へ向かうのですか?」
天野家の使用人兼、父来神の契約者、金髪メイドのガイア族。
イリスが後ろに立っていた。
どうやら、来人たちの話を聞いていたらしい。
「げ、イリスさん」
「げってなんですの、失礼ですわよ?」
「イリスさん、どこから話を聞いてました?」
秋斗を人間に戻す件を聞かれていた場合、非常にまずい。
鬼人の事については天界の神々に対しては伏せておくという約束なのだ。
「どこからと言いますか、先程来たばかりですの。坊ちゃまとガーネがガイア界へ行くという話が聞こえてきましたので」
「ああ、よかった……」
「?」
胸を撫で下ろす来人に、イリスは不思議そうに首を傾げる。
「ああ、いや、何でも無いです。そうなんですよ、ちょっと氷の大地に用事が有るので」
「氷の大地、ですか……。あそこは禁足地ですから、坊ちゃまであっても簡単に足を踏み入れられるかどうか……」
やはり、禁足地と言うだけあってタダでは入れないらしい。
もっとも、初代神王アダンの相棒、バーガの眠る地であるというのだから、大切に保護されていて当然ではある。
「でも、絶対に行かなくちゃ行けないんです」
その来人の強い決意を聞いたイリスは、小さく微笑んで頷く。
「――分かりましたわ。でしたら、わたくしがお口添えしておきますわ。丁度、わたくしもガイア界へ向かわなくてはならない用事が有りましたの」
「え? そうなんですか?」
「実は、故郷から手紙届きましたの――」
イリスの元に届いた手紙、それはガイア界のイリスの故郷、自然の大地リンクフォレストからの物だった。
曰く、“ガイア界で異変が起こっている”との事。
「――異変、ですか?」
「ガイア族たちが暴走する、という怪現象が起こっているらしいんですの。ですから、家族の様子を見に一度帰省したいと思っていましたのよ」
「それは――、心配ですね」
ガイア族たちの暴走と聞いて、来人の脳裏に過ったのは“『遺伝子』の色で他の原初のガイア族の魂を変質、怪物に変貌させて暴走させる事で甚大な被害を及ぼした”という、ゼノムの存在。
もし、仮にゼノムがまだ生きているのだとしたら――。
そう考えてしまうのは、来人が秋斗を人間に戻す為に『遺伝子』の色を欲しているからこその、あり得ない願望からだろう。
「ですが、問題も有りまして――」
と、イリスは言い淀む。
「問題、ですか」
「わたくしがこの家を空けてしまうと、奥様をお守り出来ませんの」
“奥様”というと、来人の母である照子の事だ。
来神の妻である照子は、来神の強い波動を浴びている。
つまり、その波動に釣られて鬼に狙われやすいのだ。
イリスの役目は家事全般だけでなく、その照子の護衛も含まれていた。
「なるほど、確かに僕もガーネも、そしてイリスさんも居なくなると、母さんを守る人が……」
それに、家には義妹の世良も居る。
戦闘能力を持たない人間の女性二人だけを残すのは、あまりにも心もとない。
「どうしよう、ガーネに残って貰おうか」
「やだネ。ネはらいたんの相棒だネ! それに、もしもの時に『憑依混沌出来るネが傍に居た方が良いはずだネ」
「それは、そうだけど……。じゃあ、どうしようか? 父さんは帰って来ないのかな?」
来人がそう言うと、イリスが首を振る。
「旦那様にも休暇を頂こうと思い連絡してみたのですが、出られませんでしたわ。あのデブはいつも肝心な時に居ませんの」
と、毒を交えて状況を伝えてくれた。
相変わらず各地を飛び回っている来神は、音信不通のまま家に帰って来ないらしい。
「あはは……。じゃあ、どうしようか?」
そんな時――、
「なら、わたしがお留守番しておきましょうか?」
長い黒髪で紫紺の瞳、眼鏡のエルフ。
いつの間にか、来人の元家庭教師のユウリ先生が居た。
“元”が付く理由としては、もう教わることが無くなった来人が生徒を卒業したからだ。
最近のユウリは地球の漫画やアニメ文化にドはまりしていて、プライベートで度々天界から降りて遊びに来ている。
初めて来人が天界へ行った時の扉を出入り口に使っているらしく、こうして突然現れるのだ。
「ユウリ先生!?」
「はい、ユウリ先生です!」
にっこりと微笑んで答えるユウリに、イリスは申し訳なさそうに口を挟む。
「そんな、お客様にお願いする訳には……」
「いいえ、これはわたしにもメリットがあります!」
「と、仰いますと?」
「この家には大画面のテレビがあります! わたしは仕事という言い訳を得て、このテレビでアニメ観賞をするのです!」
えへんと今にも聞こえてきそうなくらい胸を反って、まるで名案だという様にそう自信満々に語るユウリ。
つまるところ、アニメ観賞に没頭出来る時間と場所が欲しかったのだ。
「……分かりましたわ。奥様にはユウリ様がわたくしの代わりと居て在中すると伝えておきますわ」
「お願いします、ユウリ先生」
「ゆうりんに任せたネ!」
「はい! 照子先生の事はお任せください! わたしが命に代えてもお守りします!」
と、作家である照子のファンでもあるユウリがアニメ観賞のついでに家の守衛を引き受けてくれたのだった。
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「分かりました。それで、ガイア界にはどうやって行くんですか?」
「あら、そこからですの?」
「生憎、地球と天界以外の世界を知らないもので……」
他にも数多の世界が有るらしいが、人間である来人にとってはどこも縁の無かった場所だ。
「では、当日のお楽しみですわ」
そう言って、イリスはころころと笑うのだった。
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