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第二章 ガイアの遺伝子編
#51 相棒と共に
しおりを挟む「――ん、うぅん……」
来人は目を覚ます。
気づけば、布団に寝かされていた。
ここは天山のウルスの小屋、来人たちが修行の間寝泊まりしていた部屋だ。
「ええと、確か僕は――」
まだいまいちはっきりとしない混濁した意識の中、来人は意識を失う前の状況を思い出そうとする。
そうしていると、がちゃりと部屋の扉が開く。
「おう、ライト。起きたか」
「あ、お爺ちゃん……」
「お前、二日も寝てたぞ。まあ一時的に波動が尽きたんだろうな」
部屋に入って来た祖父ウルスの顔を見て、来人はすぐに直前の状況を思い出す。
来人はウルスとの限界ギリギリの戦闘の中、相棒のガーネと魂の器を共鳴させた、『憑依混沌』を修得した。
そして、力を使い果たした来人とガーネはその場で倒れてしまったのだった。
「――そうだ、ガーネは? ガーネは大丈夫?」
自分と一緒に倒れてしまった相棒の犬の姿を探す来人。
しかし、この部屋にガーネの姿は無い。
不安気におろおろとする来人がベッドを出ようとすると――、
「らいたん! ネはここだネ!」
ウルスの背後からひょこりとガーネが出て来て、来人の傍に走って来た。
そのままぴょんと身軽な動作でベッドの上に跳び乗り、来人の膝の上に座る。
見た所怪我も残っておらず、ふさふさのもふもふだ。
「ガーネ! 元気そうで良かった」
「らいたんよりちょっとだけ早く目が覚めてたネ」
そのまま来人が膝の上に座る相棒の頭を撫でてやると、くすぐったそうに身を悶えさせていた。
起床した来人はガーネと共にウルスの後を付いて、リビングの方へと向かう。
そこには陸とティルの姿もあり、ティルは来人を見ると不機嫌そうに背を向ける。
「あ、来人。おはよー」
「陸、おはよう。心配かけてごめんね」
「ううん。来人は凄いねー、一人だけ『憑依混沌』出来ちゃったよー」
よく見れば、陸とティルは傷も増えてボロボロだった。
来人が寝ていた間にも、二人は修行を続けていたのだろう事が窺える。
そして、陸の言葉で来人は改めてウルスに向き直って、問いただす。
「そうだ! お爺ちゃん! 『憑依混沌』!」
「うん? なんだなんだ」
「なんだじゃないよ! お爺ちゃん、最初は教える気は無いって言ってたのに――。もしかして、最初からこうなると分かってたの?」
ウルスは最初三人が『憑依混沌』を教えてくれと頼んだ時に『危険だから教えられない』と言っていたし、来人たちもその言に納得して引き下がった。
それなのに、来人はその神の秘技を修得してしまった。
「いいや、現に俺は何も教えていないだろう」
「でも、僕はガーネと器を重ねた」
「――成れば良し、成ならくともそれもまた良し。危険な技だからこそ、相応しくない者に教えても無駄だからな」
ウルスがそう言えば、先程まで来人たちに背を向けていたティルが向き直り、やはり依然機嫌の悪そうなまま口を開く。
「分からないのか? 二代目は私たちを試していたのだよ。そして、腹立たしい事にお前だけがそのご期待に添う事が出来た……」
「おい、ティル。別に俺は試していた訳じゃないぞ? 実際、『憑依混沌』なんて抜きにしても、お前らだって修行の成果は出てきているんじゃないか?」
「それは、そうかもしれませんが……」
ウルスの言う“修行の成果”とは、つまりはパワーでありフィジカルだ。
来人は『憑依混沌』を修得したのに加えて、依然と比べても圧倒的に自力が上がっている。
優れた精神は優れた肉体に宿る。
神の力とは想像の創造、自身に対しての自信。
自分により良いイメージを持つ事で、それが力となる。
強靭な肉体に釣られて、魂の“格”まで一段階上がった様にさえ感じていた。
ウルスは少し照れ臭そうに、頭を乱暴にぼりぼりと掻いて、「まあ、その、つまり、あれだ」と歯切れの悪い前置きをして――、
「――憑依混沌は器と器を重ね合わせる技、それはどちらかがどちらかを呑み込んでしまう危険と隣り合わせだ。ここに来たばかりの頃のお前らじゃ、逆に相棒の方の器に呑み込まれてもおかしくなかった。だからこそ、主人側に支配できるほどのパワーが必要だったんだ。もっとも、俺くらい強くなりすぎると逆にこのザマになる訳だが……」
“このザマ”と言って、自身の脚を叩く。
完璧に憑依してしまい相棒のアッシュの器を呑み込んでしまったウルス。
来人たちの場合、その真逆だ。
主人側である来示たちの方を鍛え無ければ、逆に相棒に力負けする可能性があったのだ。
それを聞いたティルが、まるで心外だと言わんばかりに声を上げる。
「待ってください、二代目! 私よりも、ダンデの方が強いという事ですか!?」
「当たり前だろう、ガイア族は戦闘種族だ、お前が思っているよりも遥かに強いぞ。お前は一度でも自分の相棒と正面から向き合った事が有るのか?」
「それは……」
「そう言う事だ。ティルはそこからだな、『憑依混沌』はまだ早い」
口ごもるティルをぴしゃりと断するウルスに、ティルは不機嫌さを隠せなくなり席を立つ。
「つまり、らいたんとネは仲良しだったから『憑依混沌』が出来たって事だネ」
「そう、なのか……?」
ガーネの雑なまとめに、来人は首をかしげる。
「ともかく、憑依混沌は回数を重ねるごとに慣れて来てシンクロ率が上がって来る。数値化して管理出来ればいいんだが、これは感覚に頼るしかない。使いどころは見極めろよ、ライト」
「分かってる。ガーネを危険に晒す気は無いよ」
来人が力強くはっきりと頷くと、ウルスは満足気に口角を上げた。
「合格だ、ライト。お前にはその力を使う資格があるだろう」
そうしていると、陸の肩に乗るモシャが声を上げる。
「ウルス様、我々に見込みは無いのでしょうか」
「いいや、陸も筋は悪くない。だが、まだまだパワーが足りないな」
その言葉に、陸は一歩前に出る。
「お爺ちゃん、僕はまだ修行を続けたい。来人に負けたままじゃ、帰れないよ」
「良いだろう。居残り練習、付き合ってやる」
――こうして、来人は二代目神王ウルスの修行の元、新たな技『憑依混沌』を修得した。
しかし、この技は危険度も高く、コントロールが難しい。
下手をすればガーネ共々自滅してしまうだろう。
使い熟すには、まだピースが足りない。
だからこそ、来人はその最後のピースを埋める必要が有る。
天山を下りた来人は、その為に――。
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