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第二章 ガイアの遺伝子編
#50 憑依混沌
しおりを挟む「――どうした、お前たち。この程度か」
無傷のまま、悠然と立つ巨躯。
二代目神王、ウルス。
「ぐっ……、がはっ……」
「く、くそっ……」
その足元には、陸とティル、そしてその相棒のモシャとダンデ。
既に立っているのはボロボロの来人とガーネだけだ。
圧倒的強さ、“力”の頂。
まさに王に相応しい、絶対的で支配的な存在を前に、未熟な三代目候補たちは人数差というアドバンテージを生かす間もなく、ただ膝を付くしか無かった。
――総力戦開始とほぼ同時に、ティルは『光』の矢を放った。
普通であれば文字通り光速の矢を受けた者は等しく吹き飛ぶ超破壊力の攻撃だ。
防御の選択肢は無く、回避するか死ぬかの二択のその攻撃を、ウルスは避ける事もせずそのまま受ける。
当然ティルはクリティカルなその一撃を命中させた事で、「やったか」と一瞬期待する。
しかし、煙が晴れると同時に現れたのは、全くの無傷で矢の着弾前と同じ様に、悠然と立つウルスの姿だった。
陸は蒼炎を纏った大鎌を振るうが、ウルスはその鎌を手刀だけで全て捌き切る。
『影』の色を使った背後への瞬間移動を絡めてなんとか死角を突こうとするが、当然その全てが叩き伏せられる。
カバーに入った『風』のイタチ、モシャと、『雷』のライオン、ダンデ。
その両者も各々の色を使って食って掛かるが、ウルスは歯牙にもかけない。
こうして、六分の四が一瞬で壊滅した。
そして、来人も剣撃を浴びせようと鎖を巻き取る高速移動で接近したところに蹴りを受けて、一撃で全身ボロボロだ。
同じくガーネも氷の刀を振るい立ち向かうが、数度の打ち合いの後に押し負けてしまう。
この中ではガーネが一番交戦時間が長く、最も健闘していたと言えるかもしれない。
そして、この状況の何が恐ろしいかと言えば、ウルスは未だに色を一度も使っていない事だ。
ウルスは『憑依混沌』によって、アッシュの『分解』の色を使えるはずだが、使おうとする素振りすら見せない。
圧倒的な“力”。
ウルスはこれまでの修行の中で三人に対して説いて来た、“最後に物を言うのはパワー”を体現している。
鍛え上げられたその肉体のパワーのみで、神の力を使う六人の戦士を相手取る。
小細工は通用しない。
その過激で強すぎる極彩色の色が、他の色全てを塗り潰してしまう。
ウルスの前ではどんな色も淡く薄く見えてしまい、無色同然に霞んでしまう。
それでも、来人はまだ立っている。
「――まだだ。まだ、やれる」
「らいたん、ネもいけるネ」
来人とガーネは、立ち上がる。
「来人はまだ少し骨が有るみたいだな。良いぞ、全力でぶつかって来い!」
ウルスは嬉しそうに口角を上げ、どっしりと腰を落として構える。
「はあっ!!」
来人は木々の隙間から大量の鎖を産み出し、ウルスとの間を鎖の波で埋める。
「ふんっ、目晦ましのつもりか?」
ウルスはその鎖の波を文字通り一蹴。
蹴りと同時に『分解』の色が発動し、鎖の波は粉々の塵となって消え失せる。
視界が開けるが、既に来人とガーネの姿はそこには無い。
代わりに、一つの“バブル”が浮かんでいて、その中には分解の色が浮かんでいた。
鎖の波のどさくさに紛れて、来人の二つ目の色『泡沫』によってウルスの色をバブルの中に記憶したのだ。
「――いつの間に!?」
「くらえ!!」
そして、来人はウルスの背後から現れ、剣を振るう。
その剣には先程奪った『分解』の色が込められている、命中すれば必殺の一撃だ。
そして、ガーネも続く。
来人とは反対側から、ガーネも『氷』の色を纏った刀を振るう。
しかし――、
「――良い色だ。だが、所詮は借り物の色だな」
ウルスは来人の剣とガーネの刀を、それぞれ素手で受け止めた。
そして、『分解』の色を自分の『分解』の色で相殺。
そのまま剣を持ったまま振るい、二人を投げ飛ばす。
「ぐあっ……」
二人はそのまま岩に叩き付けられて、崩れ落ちる。
「見どころは有る。――が、しかしまだまだだな。パワーが足りん」
三代目候補者たちは皆、二代目神王ウルスの前に倒れ伏した。
(くそう、お爺ちゃんに、剣が届かない……)
来人は朦朧とした意識の中、隣に倒れるガーネの方へと意識を向ける。
(ガーネ……)
そして、這って傍まで近寄る。
それに気づいたガーネも、ゆっくりと来人の傍へと近づく。
「らい、たん……」
「ガーネ……」
そして、来人はガーネを抱き寄せる。
すると――、
「なんだ!?」
来人とガーネの二人を中心として眩い光が放たれ、ウルスは驚きの声を上げる。
そして、次の瞬間、辺りの風景が一変する。
温かな日差しが射す自然豊かな山の中だったはずが、突然の冷気にウルスは肌を震わせる。
辺りに吹雪が吹き荒れる。
木々は凍り付き、天を雲が覆う。
「――『氷斬』」
そして、これまでのとは違う、格段に威力の高い一撃がウルスを襲う。
腕を交差させて受けるが、ついにその腕に薄く擦り傷が出来る。
――吹雪が晴れ、その姿が露わになる。
纏うは氷のドラゴン。
左手には龍の頭部、右手に日本刀、そして背中からは二枚の大きな翼と、追加で二本の鎖の腕が生え、そこには二本の金色の剣を持っている。
絶対零度の凍てつくオーラを放ち、天山全てを自身の色染め上げ、掌握。
ガーネとの絆が生んだ、来人の新たな姿――『憑依混沌』だ。
「来人、その姿は――」
「どうして、あいつなんかが……!!」
陸とティルも来人のその姿に驚き、倒れたまま声を漏らす。
そして、来人とガーネの『憑依混沌』した姿を見たウルスはふっと小さく笑い、戦闘中ずっと放っていたピリピリとした雰囲気が、じんわりと柔らかい物に変わる。
「――合格だ、来人」
戦闘モードを解き、熊の様な姿から元に戻るウルス。
来人の『憑依混沌』も解け、天山を覆っていた冷気も次第に氷解して行く。
重なっていた器は再び元に戻り、合体していた来人とガーネはまた二人に分離。
そのまま肉体のダメージと疲労もあり、緊張の糸が切れて意識を失い、ふらりと倒れる。
「――おっと」
しかし、それをウルスが受け止める。
「お疲れ様、頑張ったな」
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