49 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編
#49 力と技術
しおりを挟む来人たちが天山で修行をしている、一方その頃。
テイテイもまた、自身の力不足を感じていた。
(俺は『赫』の鬼相手に、殆ど何も出来なかった……)
テイテイは人間だ。
神ではないその身でありながら、充分以上に健闘し、そして来人に繋いだ。
テイテイ無くして勝利は無かっただろう、あれは来人とガーネを合わせて三人でもたらした勝利だ。
しかし、テイテイはそれでは満足出来なかった。
一度は目の前で親友の秋斗を失い、そしてもう一人の親友来人だけは守ると誓った。
今の自分では、来人を守れない。誓いを果たせない。
力が、もっと力が欲しい。
そして、そう思っていた時に鬼人となった秋斗が再び目の前に現れた。
変わり果てた、もはや人間ではない異形の姿となっていた。
しかし、それでも失ったはずの親友は帰って来た。
今はまだ以前の様に共に遊び、笑い合う事は出来ない。
それでも、秋斗の魂はまだこの世に存在する。
存在するのであれば、人間に戻す手段もどこかにあるはずだ。
以前は“秋斗の仇を討つ事”を目的として動いて来た来人とテイテイだったが、その復讐も果たされ、そして秋斗と再会を果たした。
だから、二人の新たな目的は“秋斗を人間に戻す事”になっていた。
三人はそれぞれ、別のルートと手段を以て同じ目的に向かって歩いている。
人間であるテイテイには“鬼を人間に戻す手段”なんて探しようもないし、当てを付ける事すら出来ない。
だからこそ、あらゆる場合に備えて、何時如何なる時でも二人の力になれるように、より自分を磨き鍛え上げる事にした。
秋斗を失ったあの日からずっと研鑽を続けて来たテイテイにとって、それが最も自然な事だったし、何よりそれ以外のやり方を知らなかった。
そんなテイテイは、ある場所を訪れていた。
そこは小さなボクシングジム。
今の時間は門下生は居らず、施設内にはたった一人だけ。
テイテイはその人物に声を掛ける。
「――奈緒、久しぶりだな」
そこに居たのは、以前にメガコーポレーションで出会った美海の友人、ボーイッシュな王子様風の女の子、戸館奈緒だった。
ここは奈緒の家が経営しているボクシングジムであり、奈緒もその手伝いをしていた。
「やあ、テイテイじゃないか。どうしたんだい?」
奈緒はいつもの王子様の様に爽やかな挨拶を返す。
「より強い力を、技術を求めて、鍛えに来た」
「ここは小さなボクシングジムだよ、テイテイの求めている物は無いと思うけど」
実際、ここがただのボクシングジムであればテイテイ程の男が今更得られるものは無い。
だがしかし、テイテイがここに来たという事は、それは意味があるからだ。
「――カンガルーマスク」
そうテイテイが言うと、奈緒の表情が少し硬くなる。
「ボクシング界の有名な覆面ボクサーだね、知っているよ。それがどうかしたのかい?」
「誤魔化さなくても良い、知っている」
奈緒は小さく溜息を溢す。
「はぁ、どこから聞きつけて来たんだか……」
「伝説の覆面ボクサー。独特のステップ『カンガルースタイル』を用いて全てをねじ伏せた完全無欠の王者。俺はその技術を求めて来た」
中国拳法を修めたテイテイにとって、“力”にもっとも近しいのは“技術”だ。
拳法、格闘技、ありとあらゆる体系化された肉体の正しい使い方、より優れた戦闘技術を求めた。
それが神の力よりも何よりテイテイが信頼している物だった。
そこで目を付けたのが、奈緒の父親であるカンガルーマスクだった。
『カンガルースタイル』と呼ばれる独特のステップを用いて、相手の攻撃を全て見切って回避し、クリティカルなカウンターを叩き込む神業だ。
「――確かに、過去に父はそう呼ばれていたよ」
「親父さんはどこに?」
「生憎、父はここには居ないよ。今はもう身体を壊してリングに立てない、あの伝説の王者はもう居ないんだ」
「そうか……。では、あの技術は既に失われたのか……」
テイテイの声のトーンが落ちる。
ある日を境に忽然と姿を消したカンガルーマスクは既に戦えない状態だった。
「いいや、そうとは言っていないよ」
「……?」
奈緒は上着を脱ぎ棄て、グローブとヘッドギアを装着してリング上に立つ。
「――『カンガルースタイル』、父の一人娘たる私が、その継承者だ。来いよテイテイ、その身体に叩き込んでやるよ」
テイテイは静かに、リングに上がる。
天野邸。
イリスはいつもの様にポストを開ける。
「あら? 何かしら」
新聞や請求書や広告の見慣れた紙の束の中に、一つ見慣れない物が有った。
くるりと裏返し、差出人を確認する。
しかし、そこには文字が書かれておらず、代わりに肉球のスタンプが押されている。
「これは、ガイア界からの――!」
その肉球のスタンプは、イリスたちガイア族の故郷、ガイア界から送られた物だという事を意味していた。
イリスは急いで中を確認する。
「――さて、どう致しましょうか」
手紙を読み終わったイリスは、途方に暮れる。
主人であるライジン不在である今、舞い込んで来た“厄介事”。
果たして、自分はどうするべきなのか――。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる