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第二章 ガイアの遺伝子編

#48 レイドバトル

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 天界の端にある空よりも高い山、天山てんざん
 そこで来人たち三代目候補の三人は、泊まり込みで二代目神王しんおうのウルスに修行を付けてもらう事となった。
 しかし、ウルスの修行は来人が想像していた物とは違い、かなり独特だった。

「――神の力は想像の創造だ! イメージ力を鍛えろ!」

 最初にウルスが用意したのはスケッチブックと鉛筆。
 来人たち三人は切り株の椅子に座り、三人に囲まれる様にして中心には上半身をはだけさせて自慢の鍛え上げられた肉体を披露するウルス。
 
「それで、いきなり写生?」
「うむ! 完璧に俺の肉体を表現して見せてくれ」
「分かったからポーズ変えないで、止まってお爺ちゃん」
「ううむ……」

 ボディビルダーばりに色々なポーズを取ろうとするウルスを制止する。

「……二代目、これに意味は有るのでしょうか」
「当たり前だろう、お爺ちゃんを信じなさい」
「……はい」

 ティルはウルスの組んだ修行メニューに懐疑的だったが、来人と陸は何だかんだで写生大会を楽しんでいた。
 
 ちなみに、その出来栄えはと言うと――。

「全員0点だな。俺はもっと格好いいぞ?」
「ええー……」
「結構上手く描けたと思ったんだけどなー」

 自身の肉体に絶対の自信を持つウルスのお眼鏡には適わなかった。
 
 
 次の日も、ウルスの修行は続く。
 
「――筋肉は力だ! 最後に物を言うのはパワーだ! 自力を付けろ!」
 
 走り込みと筋トレ、筋肉の化身ウルスによるスパルタトレーニングだ。

「ぜぇ……、ぜぇ……。お爺ちゃん、もう無理ぃ……」
「まだ行ける! まだやれるぞ!」

 ――ガウ、ガウ!

 ウルスはギブアップ宣言を聞いてはくれない。
 息も絶え絶えながらも、走り続ける来人。
 後ろからは三つ首の犬、ケルベロスが追いかけて来るのだから、その足を止める訳にも行かない。

 走り込みのメニューは、ケルベロス追われながらの地獄の鬼ごっこだった。
 力尽きて足を止めれば、あの地獄の番犬の餌となる。

 ちなみに、陸とティルは既にダウンして齧られている。
 二人は丁度ウルスの足元に血塗れで転がっているところだ。
 
 ティルは案外持久力が無く、早々にダウンして最初の餌食になってしまった。
 そして、それに続いて陸もダウンして、残るは来人だけ。
 ただ今絶賛まだ餌に有りつけていない残り一つの首が腹を空かせて、来人を追いかけまわしている。

 そして、程なくして。

「ぐわーー!!」

 ついに足が動かなくなった。
 ケルベロスに頭をがぶがぶと齧られる来人。

 その日は三人仲良くケルベロスに齧られてダウンしたのだった。

 
 修行の合間、来人たちは焚火を囲み、束の間の休憩を取る。
 来人たちと群れるのを嫌うティルはいつも一人でどこかへ行ってしまうので、いつも来人と陸だけが一緒に食事を摂っている。
 今日のメニューは、川で捕った魚を串に刺して塩焼きにした物だ。
 山奥で尚且つ男しか居ないのも有って、食事は大体肉か魚か芋で、調理方法も焼くか煮込むかの豪快な物ばかりだ。

 食事を摂りつつ、来人と陸は話す。

「そうだ、陸」
「うん? どうしたのー?」
「美海ちゃんが『最近師匠のチャンネルが更新されないのよ』って心配してたけど、藍さん何かあった?」

 来人がそう問うと陸の表情が少し曇り、その肩に乗るモシャも同様の反応を示している。

「あー……。ちょっと風邪、かな。でも、すぐに良くなるよ。その為に今、頑張ってるからねー」
「そう、なのか……?」
「うん。美海ちゃんにも大丈夫って言っといてー」

 少しよく分からない陸の物言いに首をかしげる来人だったが、藍の事を大切にしている陸が大丈夫というのならそうなのだろうと自分を納得させる。
 しかし、幻想イマジナリーが風邪をひくのかどうかと問われると怪しい所かもしれない。

「何だ、お前ら。この前の弁当の女の話か?」
「あはは……。そうだね、美海ちゃんと藍さん」

 ウルスが“弁当の女”と少々語弊の有る認識をしている事に苦笑いをしつつも、間違っている訳でもないので来人は特に訂正する事もなく頷く。
 
「うんうん。孫たちがモテモテで何よりだ。大切にしろよ」
「勿論だよー」

 
 そして、食事を終えた後。
 ウルスは改めて三代目候補たち三人を一堂に集めた。

「――お前ら、それなりにマシになってきたんじゃないか?」
「そうかな? 確かに体力は付いたかもしれないけど……」

 ウルスの修行メニューの殆どは筋肉を重視した物だ。
 曰く、最後に物を言うのはパワーだと。
 その主張には一定の正当性は有るかもしれないが、神の力を持つ来人たちに本当に必要な物かと言われると微妙なところかもしれない、と来人は思っていた。
 それでも幼い頃以来の久しぶりに祖父に遊んでもらっている感覚で、厳しい修行ながらも来人は楽しかった。
 
 しかし、やはりティルはそうではない様で――、

「あの、二代目。やはり私にはこれが意味のある事だとは思えません。これ以降も同じ事の繰り返しでしたら、私はここで失礼させて頂きます」
「まあそう言うなって、次で最後の仕上げだ」

 ティルのその言葉にも嫌な顔一つせず、ウルスは二ッと笑う。

「最後って? お爺ちゃん、何をするの?」
「――最後の仕上げとして、俺が相手をしてやる」
「え? お爺ちゃんが?」

 ウルスは大きく息を吸い、そして吐く。
 筋肉が隆起し、纏う雰囲気が変わる。
 強いオーラと殺気を感じ、三人は一気に意識を切り替えて臨戦態勢を取る。

「――『憑依混沌カオスフォーム』」

 ウルスの右脚のタトゥーを中心として、相棒のガイア族アッシュの力が全身に広がって行く。
 そして、その巨躯はさらに肥大化し、まるで大きな熊の様になる。
 この熊の姿への変化こそが、アッシュの器を憑依させ一体化した事によるものだ。

「――三人と三匹、全部まとめてかかってこい。殺さない程度に遊んでやる」

 ウルスの参戦の許可に、相棒のガイア族たちは主人の元へと駆け寄る。

「らいたん!」
「陸!」
「ティル様!」

 二刀の剣、大鎌、弓矢。
 三人は各々の武器を構え、二代目神王しんおうウルスに立ち向かう。

「――お前たち、行くぞ」
「おうよ。ちゃんとオレ様について来いよ、来人」
「私に指図するな」

 そして、ウルスはその身一つで、六人を相手にする。
 6対1の総力戦レイドバトルだ。
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