【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
46 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編

#46 ウルスの天山

しおりを挟む

 二代目神王しんおう、ウルスが住むのは初代のアダンとアナが居る王の間ではない。
 変わり者のウルスは、天界の端にある高い山――“天山てんざん”の頂上付近で独り暮らしていた。

 険しい山道をわざわざ進んでウルスに会いに行こうなんて物好きは神々の中にもなかなか居らず、神々がウルスを見る機会は山から狩って来た得物をウルス自身が街まで持って来る時くらいだ。
 そう言う意味では、各地を放浪しているライジンと似た所が有り、その自由な振る舞いは親子なのだと感じさせる。

「ガーネ、まだ着かないの?」
「まだまだ先だネ」

 来人とガーネは今、ウルスに会うために“天山てんざん”を登っていた。
 
 ガーネ曰く『憑依混色カオスフォーム』を伝授してもらう事は難しいかもしれないらしいが、それでもウルスが実力者である事には変わりがない。
 同じ三代目候補のライバルである陸とティルよりも一歩先を行く為に、密かにウルスを訪ねて修行を付けてもらうのだ。
 しかし――、

「この山、高すぎる。あまりに高すぎる……」

 登っても登っても、頂上のウルスの家に辿り着けない。

「そもそも、空の上にある天界よりも高い山だからネ」
「馬鹿だ、人が住む場所じゃない……」
「神様だからネ」

 不平不満を垂れる来人に対して、ガーネは平気そうにとてとてと歩いて行く。

「お前、どうしてそんなに元気なんだよ」
「ガイア族は空気中の波動が濃ければ濃い程強くなるネ。天界やガイア界は地球アースよりもネたちにとって過ごしやすい環境んだネ」
 
 そう話しつつ歩いていると、巨大な石像が見えて来た。

「これって、王の間の前にも有った――」

 王の間にも有ったのと同じ、門番の様な槍を持った兵士を象った像。
 少し苔むして古くなった石像が数体、山の自然の中に埋もれていた。

「昔のやつだネ」
「不法投棄じゃん……」
 
 じっと見ていると、今にも動き出しそうで少し不気味さを感じさせる。

 ゴゴゴゴゴ……。

「うん?」

 突如地鳴りが響き、ぱらぱらと石像から土埃が落ちる。
 そして――、

「――って、この石像、動いてないか!?」
 
 動き出しそうというか、動いた。
 石像の兵士はひとりでに動きだし、槍を振り上げる。

「らいたん!」
「おう!」

 来人はすぐさま神化し、髪色が白金に染まる。

 石像の槍が降り下ろされるが、来人はそれを飛び退いて回避。
 来人が居た場所の地面に亀裂が入る。

「ふんっ――!!」

 攻撃を回避した来人は、金色のリング――カンガスの光輪こうりんを石像へ向かって投げる。
 リングの間は全て“隙間”だ。
 来人のスキル『鎖』によって産み出された鎖が光輪の間から伸び、石像の一体へと巻き付く。
 そのまま周囲の木々に鎖を固定し、無力化。

「次だ!」

 周囲にはあと二体の石像。
 
 次の石像は槍の先から稲妻を放つ。
 来人がその稲妻を王の証の剣で受けると、消滅。
 代わりに、背後にある剣の柄に鎖が繋がったバブルに“稲妻のイメージ”が浮かび上がる。

「返品だ」

 再度剣を振るえば、その切先から同じ稲妻が放たれる。
 来人のもう一つのスキル『泡沫』によって、石像の攻撃は吸収&反射される。
 反射された稲妻の一撃を受けた石像はバランスを崩して転倒し、そのまま機能を停止する。

「後一体」

 来人は鎖を巻き付けた剣を最後の石像に向かって振るう。
 鎖は回転し、ドリルとなった剣が石像を砕く。
 あたりにパラパラと砕け散り破片となった石の雨が降り注ぐ。

「ふぅ、やっと終わりか」

 戦闘終了、来人の髪色から白金が抜ける。
 すると、聞き覚えのある声。

「がははは! ライト、やるじゃないか」
「お爺ちゃん!?」

 そこには大きな岩に腰掛け、高みから来人を見下ろす長身――二代目神王しんおうウルスの姿が有った。
 
「ウルス様の差し金かネ」
「山が騒がしいなと思って見に来たら、ライトが来てたもんだからよう。ちょっくらちょっかい出したくなっちまった」

 ウルスはまたがははと豪快に笑い、来人たちの元へと降りて来る。
 その巨体が地を踏みしめれば、その勢いでどしんと振動が足裏を伝わって来る。
 
「お爺ちゃん、いじわるしないでくれよ……」
「でも、ライトにとっちゃ大した相手でも無かっただろう?」
「それは、まあ……」

 ウルスの言う通り、今の来人はかなり強い。
 こんな石像何体居ても軽い運動程度にしかならないだろう。

「それで、ライトも俺に用事が有って来たんだろう? とりあえずうちまで行こうぜ」
「でも、頂上まではまだかかるんじゃ?」
 
 来人の感覚からすれば、まだ山の中腹程だ。
 どれだけ歩いても頂上に辿り着く気配すら無かった。

「お前なあ、神様の山なんだから馬鹿正直に歩いて辿り着く訳ないだろうよ」

 そう言って、ウルスは何も無い空間に向かって回し蹴りを叩き込む。

 パリン、と甲高いガラスが割れる様な音が山に響き木霊して、空間が割れる。
 そして、その空間の先から突風が吹き込んで来る。

「行くぞ、この先が“頂上”だ」

 ウルスは割れた空間の裂け目を追加でガシガシと蹴って広げて、その巨体が屈めば通り抜けられる程度のサイズまで拡張した後、先へと進んで行く。

「えぇ……、何でも有りじゃん」
「だネ」

 来人とガーネの二人も、その後に続く。
 歩いて辿り着けない程に馬鹿みたいに高い山を、これまた馬鹿みたいに型破りな方法でショートカットした。
 
 後を追いかけつつ、そう言えば、と来人は思い返す。
 先程、ウルスは何と言っていただろうか。

 『ライト“も”俺に用事が有って来た』と言っていた気がする。
 “も”という事はつまり、来人の他にも訪問者が――。
 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

処理中です...