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第二章 ガイアの遺伝子編
#46 ウルスの天山
しおりを挟む二代目神王、ウルスが住むのは初代のアダンとアナが居る王の間ではない。
変わり者のウルスは、天界の端にある高い山――“天山”の頂上付近で独り暮らしていた。
険しい山道をわざわざ進んでウルスに会いに行こうなんて物好きは神々の中にもなかなか居らず、神々がウルスを見る機会は山から狩って来た得物をウルス自身が街まで持って来る時くらいだ。
そう言う意味では、各地を放浪しているライジンと似た所が有り、その自由な振る舞いは親子なのだと感じさせる。
「ガーネ、まだ着かないの?」
「まだまだ先だネ」
来人とガーネは今、ウルスに会うために“天山”を登っていた。
ガーネ曰く『憑依混色』を伝授してもらう事は難しいかもしれないらしいが、それでもウルスが実力者である事には変わりがない。
同じ三代目候補のライバルである陸とティルよりも一歩先を行く為に、密かにウルスを訪ねて修行を付けてもらうのだ。
しかし――、
「この山、高すぎる。あまりに高すぎる……」
登っても登っても、頂上のウルスの家に辿り着けない。
「そもそも、空の上にある天界よりも高い山だからネ」
「馬鹿だ、人が住む場所じゃない……」
「神様だからネ」
不平不満を垂れる来人に対して、ガーネは平気そうにとてとてと歩いて行く。
「お前、どうしてそんなに元気なんだよ」
「ガイア族は空気中の波動が濃ければ濃い程強くなるネ。天界やガイア界は地球よりもネたちにとって過ごしやすい環境んだネ」
そう話しつつ歩いていると、巨大な石像が見えて来た。
「これって、王の間の前にも有った――」
王の間にも有ったのと同じ、門番の様な槍を持った兵士を象った像。
少し苔むして古くなった石像が数体、山の自然の中に埋もれていた。
「昔のやつだネ」
「不法投棄じゃん……」
じっと見ていると、今にも動き出しそうで少し不気味さを感じさせる。
ゴゴゴゴゴ……。
「うん?」
突如地鳴りが響き、ぱらぱらと石像から土埃が落ちる。
そして――、
「――って、この石像、動いてないか!?」
動き出しそうというか、動いた。
石像の兵士はひとりでに動きだし、槍を振り上げる。
「らいたん!」
「おう!」
来人はすぐさま神化し、髪色が白金に染まる。
石像の槍が降り下ろされるが、来人はそれを飛び退いて回避。
来人が居た場所の地面に亀裂が入る。
「ふんっ――!!」
攻撃を回避した来人は、金色のリング――カンガスの光輪を石像へ向かって投げる。
リングの間は全て“隙間”だ。
来人の色『鎖』によって産み出された鎖が光輪の間から伸び、石像の一体へと巻き付く。
そのまま周囲の木々に鎖を固定し、無力化。
「次だ!」
周囲にはあと二体の石像。
次の石像は槍の先から稲妻を放つ。
来人がその稲妻を王の証の剣で受けると、消滅。
代わりに、背後にある剣の柄に鎖が繋がったバブルに“稲妻のイメージ”が浮かび上がる。
「返品だ」
再度剣を振るえば、その切先から同じ稲妻が放たれる。
来人のもう一つの色『泡沫』によって、石像の攻撃は吸収&反射される。
反射された稲妻の一撃を受けた石像はバランスを崩して転倒し、そのまま機能を停止する。
「後一体」
来人は鎖を巻き付けた剣を最後の石像に向かって振るう。
鎖は回転し、ドリルとなった剣が石像を砕く。
あたりにパラパラと砕け散り破片となった石の雨が降り注ぐ。
「ふぅ、やっと終わりか」
戦闘終了、来人の髪色から白金が抜ける。
すると、聞き覚えのある声。
「がははは! ライト、やるじゃないか」
「お爺ちゃん!?」
そこには大きな岩に腰掛け、高みから来人を見下ろす長身――二代目神王ウルスの姿が有った。
「ウルス様の差し金かネ」
「山が騒がしいなと思って見に来たら、ライトが来てたもんだからよう。ちょっくらちょっかい出したくなっちまった」
ウルスはまたがははと豪快に笑い、来人たちの元へと降りて来る。
その巨体が地を踏みしめれば、その勢いでどしんと振動が足裏を伝わって来る。
「お爺ちゃん、いじわるしないでくれよ……」
「でも、ライトにとっちゃ大した相手でも無かっただろう?」
「それは、まあ……」
ウルスの言う通り、今の来人はかなり強い。
こんな石像何体居ても軽い運動程度にしかならないだろう。
「それで、ライトも俺に用事が有って来たんだろう? とりあえずうちまで行こうぜ」
「でも、頂上まではまだかかるんじゃ?」
来人の感覚からすれば、まだ山の中腹程だ。
どれだけ歩いても頂上に辿り着く気配すら無かった。
「お前なあ、神様の山なんだから馬鹿正直に歩いて辿り着く訳ないだろうよ」
そう言って、ウルスは何も無い空間に向かって回し蹴りを叩き込む。
パリン、と甲高いガラスが割れる様な音が山に響き木霊して、空間が割れる。
そして、その空間の先から突風が吹き込んで来る。
「行くぞ、この先が“頂上”だ」
ウルスは割れた空間の裂け目を追加でガシガシと蹴って広げて、その巨体が屈めば通り抜けられる程度のサイズまで拡張した後、先へと進んで行く。
「えぇ……、何でも有りじゃん」
「だネ」
来人とガーネの二人も、その後に続く。
歩いて辿り着けない程に馬鹿みたいに高い山を、これまた馬鹿みたいに型破りな方法でショートカットした。
後を追いかけつつ、そう言えば、と来人は思い返す。
先程、ウルスは何と言っていただろうか。
『ライト“も”俺に用事が有って来た』と言っていた気がする。
“も”という事はつまり、来人の他にも訪問者が――。
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