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第二章 ガイアの遺伝子編
#45 強くなるために
しおりを挟む百鬼夜行の終幕から、しばらくの時が過ぎた。
天界の神々の間でも、百鬼夜行で大活躍を見せた半神半人の二人の評価は明らかに上がっていた。
当初から頭角を現していた『鎖使い』のライトはもちろんの事、もう一人の半神半人であるリクもまた、二つ名で呼ばれていた。
蒼炎の大鎌と黒いマントの姿から名付けられた二つ名は、『死神』のリクだ。
そして、二人の半神半人のおかげもあって、人間の血を嫌う所謂“純血派”たちの一部は、その主義主張を曲げて彼らを認め始めた程だ。
『鎖使い』と『死神』は『純血の王子』に並ぶ支持率を得て、三代目の王位継承戦は混戦を極めようとしていた。
彼らの活躍によって、百鬼夜行は討たれた。
しかし、大きな波は去っても、鬼の存在自体が消えるわけではない。
来人はあれ以降も、神の仕事として鬼退治を続けていた。
それでも、あの日の夜に鬼人となった秋斗と出会ってから、来人の心境には変化が有った。
その所為で、鬼との戦いもこれまで通りという訳に行かない。
「――ぐっ……」
来人は今、鬼と戦っている。
相手は通常固体。
あの最上位個体『赫』の鬼すらも倒して見せた今の来人の実力からすれば、大した事の無い雑魚敵だ。
しかし、何故か来人は押されていた。
決して負ける訳ではないし、致命傷を受ける訳でもない。
それでも殺し切れない、生ぬるい刃しか振るえない。
「らいたん、何やってるネ!」
堪らず横からガーネが割って入って、鬼を倒す。
ころんと小さな核が足元に落ち、それをガーネがそのまま拾って口の中に仕舞い込む。
来人の髪色からも白金が抜ける。
「悪い、油断した」
「油断というか、心ここに在らずというか……。らいたんが手こずる様な相手じゃ無いはずだネ」
他にも、秋斗の様に何かのきっかけで生前の心を取り戻す鬼が居るかもしれない。
そう思ってしまうと、来人は鬼を殺す事を躊躇ってしまう様になっていた。
「そうなんだけど、なあ……」
来人は生返事を返す。
「そいつはらいたんの親友でもない、ただの鬼だネ。殺して核にしてそして浄化して輪廻の輪に帰す。それが一番そいつの為だネ」
相棒であるガーネには鬼人となった秋斗の事を伝えていた。
今鬼人の存在を知っているのは来人とテイテイ、そしてガーネ。
そして来人たちの裏で秋斗と邂逅していた陸とモシャだけだ。
「分かってるよ。分かってるけど、そう簡単に割り切れないんだよ」
半分は人間である来人は、相手が人間らしく在れば在る程戦いにくくなってしまう。
そういう情の部分を割り切れなかった。
「でも、らいたんの親友を人間に戻そうと思ったら、王の力に頼るのが一番可能性が有るネ」
「王に成る為には戦うしかない、強くなるしかない、か――」
「だネ」
戦闘面でも、そして精神面でも、来人はもっと強くなる必要が有る。
ライバルである陸とティルを超えて、王となってその力で秋斗を救う為に。
――来人は考える。
より強くなるために、どうすれば良いのかを。
“強さ”と聞いて真っ先に思い浮かんだのは父である来神の存在。
「父さん、今頃なにやってるのかな」
しかし、来神は百鬼夜行で北米に現れた『双頭』の鬼を討伐して以降、姿を見ていない。
天界で聞いても、家に帰っても、誰も居場所を知らなかったし、メッセージを送っても既読すら付いていないのだ。
しかし、来人は父の圧倒的強さを知っているし、何よりこうやって父が音信不通のまま家を長期間空ける事自体は日常茶飯事で、特に心配自体はしていない。
「ジンさんに修行を付けてもらおうと思ってるなら、無駄だネ。あの人は天才型だから、人に教えるのに向いてないネ」
「あはは……。まあ、そんな感じはするよね」
「でも、誰かを師事するというのは良い考えだネ」
「神の力もユウリ先生に教えてもらってすぐに上達したし、やっぱり闇雲に努力するよりも……、ね」
来人の戦闘技術の殆どは教わった物だ。
神の力、色の使い方はユウリ先生から。
格闘術はテイテイから。
剣術はガーネから。
そんな来人にとって、強くなるために誰かを師事して頼ろうという考えは自然な物だった。
そして、次に来人が思い浮かべた頼れそうな人物。
それは――、
「――じゃあ、お爺ちゃん、とか」
「良いネ。ウルス様なららいたんの力になってくれるはずだネ」
ガーネはにっと笑って頷く。
来人が父の次に祖父を思い出したのは、血縁というのも有るし二代目神王だというのも有るが、それよりも大きかったのは先日の百鬼夜行戦でウルスが見せたあの技だ。
「この前の『鯨』の鬼を倒した技。えっと――」
「『憑依混色』の事だネ?」
「ああ、そう。それそれ。神の秘技だっていうそれを教えて貰えないか頼んでみようかな」
『憑依混色』――自身の器の上に他者の器を重ねて力を融合させる、神の秘技。
ウルスはあの時、右足に憑依させた器の力を使い、『分解』の色を使って見せた。
「あー……。『憑依混色』は難しいかもネ」
「そうなのか?」
「ま、ダメ元で言ってみると良いネ」
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