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第一章 百鬼夜行編

#43 祝勝会

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 百鬼夜行の討伐を果たした来人たち天界軍。
 彼らはしばしの休息の後、その大業の成功を祝って、祭りを開いた。

 天界の大通りには様々な屋台が並び、王の間の入り口も電飾で飾り付けられ、花火も打ち上がり、大賑わいだ。
 そんな中で、メインイベント。

「――え? ダンスパーティーですか?」
「はい、祝勝会です! 神様たちはこういった大イベントの後はそれを祝って、パートナーと一緒に踊るんです」

 来人は千切れた腕もすっかり元通り、傷も塞がり既に全快だ。
 そんな来人に、ユウリは天界でイベントが有る事を伝える。
 
 パートナーと一緒に、つまり男女のペアで踊るのだ。

「あ、わたしは駄目ですよ? もう先約が有りますから」
「いえ、まだ誘ってませんから」
「ふふっ。そうですよね、来人君がパートナーに選ぶ相手は、決まってますもんね?」
「まあ……」

 そうユウリ先生にからかわれる来人だったが――。


「ふわぁぁー……」
 
 美海は大きく欠伸をする。
 風呂も上がり、後はもう眠気に任せて布団に入るだけだ。

(来人、何してるのかなぁ)

 美海はスマートフォンのメッセージ画面を開く。
 最後のメッセージは『行ってらっしゃい』で止まっている。
 それは来人が百鬼夜行の討伐に向かう前に、美海が送った物だ。
 無事帰って来たというメッセージは、まだ届いていない。

 美海は返信を催促するのも違う気がして、そのまま画面を落として布団に潜り込む。
 すると、トントンと外から窓を叩く小さな音。

(気の所為かな……?)

 そう思いつつも、少し怖くなって美海は布団を深く被る。
 しかし、もう一度先程と同じ窓を叩く音。
 美海はびくりと身体を震わせる。

 すると、次は囁くような声。

「美海、起きてる?」
「えっ、来人!?」

 美海は飛び起きて、窓を開ける。

 すると、窓の外――出窓の縁に来人が腰かけていた。
 白金色の髪が、月の光を照らし返す。

「もう、帰って来てたなら連絡寄越しなさいよ!」
「ごめごめん。直接誘いたくって」
「誘うって、何に……?」
「ダンスパーティー、行こう」

 そう言って、来人は美海の手を取って窓から攫って行く。

「ちょ、ちょっと! ダンスパーティーって……。ていうか、私パジャマだし!」

 美海は混乱してわたわたと抵抗を見せるが、来人にひょいと抱きかかえられてしまっう。

「大丈夫。目を瞑って、イメージして。どんなドレスが良い? 美海なら、きっと何でも似合うよ」
「え? イメージ……、ドレス……」

 普段と違った雰囲気を纏う神化した来人にドキドキとしつつも、美海は言われた通りに理想のドレスを想像する。
 そして、目を瞑っている僅かな間に鼻を突く空気の匂いが変わった事に気付く。

「あれ? 来人?」
「――目を開けて」

 言われるがままに、目を開く。

「わぁ!」

 目の前に広がるのは、煌びやかな祭りの景色。
 ここは天に浮かぶ白を基調とした人工島の上――神々の世界、天界だ。
 その幻想的な光景を見て、美海は一目でここが天界だと理解する。

 そして、美海が身に纏うのは先程までの可愛らしいパジャマ姿ではなく、美しいパーティードレスに変わっていた。

「すごい! 来人、すごいわよ!」
「喜んでもらえてよかった」
「でも、人間の私がここに来ても大丈夫なの?」
「大丈夫。今日は祭り、無礼講だ。それに、今日の俺は戦いに貢献した英雄ヒーローだからね、誰も文句は言わないさ」
「そうなのね。来人、やるじゃない」

 来人は美海の手を取り、優しくエスコートして行く。
 パーティー会場は、大きなダンスホール。
 煌びやかなシャンデリア、豪華な食事、しっとりとした音楽。

 音楽に乗せて、来人と美海は踊る。

「神様たちの中で、こんな素敵な場所で踊るなんて、夢みたい!」

 他にも何組者神々が、同じホールで踊っている。
 中にはユウリの姿もあった。

 そして、食事を片手に独りでその様子を遠巻きに見ている陸の姿もある。
 藍の姿は、そこには無い。

 来人と美海は、曲に合わせて踊る。
 二人はその幸せなひと時に浸っていた。
 夜は、更けて行く。
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