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第一章 百鬼夜行編
#42 『鯨』の鬼
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太平洋、上空。
「――まさか、ガーネがドラゴンになるなんて」
来人とテイテイは今、氷の龍と化したガーネの背に乗っている。
透き通った水色の氷で形成された龍の身体の中に、犬のガーネが心臓の様に収まっている。
「ガイア族は地を歩く天使。でも、翼を持たない訳じゃ無いネ。普段擬態している地に足を着けた姿の他に、もう一つ天を舞う姿を持っているんだネ」
「本当に天使だったんだな」
「来人の髪色が変わるみたいなものか」
そう話していると、すぐにメガマップに表示された太平洋上の大異界発生予想地点に到着した。
「見えて来たネ」
海を割く様に発生した巨大な異界の入り口。
「――行くぞ」
来人の髪色が白金に染まり、神化する。
そして、一行は最後の百鬼夜行――、大異界の中へと入って行く。
大異界の中は、時の静止した世界。
空を漂う雲も、広がる海も、全てが止まった、灰色の世界。
そんな波打ったまま石の様に固まる灰色の海の上に、来人達は降り立つ。
来人が着いた頃には、それなりの数の神々が集まって来ていた。
その中には、知った顔も居る。
「おう、ライト。お前も来たか」
「そっちも上手くやったみてぇだな、やるじゃねぇか」
ウルスと陸だ。
「お爺ちゃん、陸――」
「見ろ、上だ」
ウルスの言葉に、来人は視線を向ける。
「コォォォォ――!!」
空を泳ぐ、山とも見紛う巨大な体躯。
様々な絵の具を混ぜ合わせた様な混沌色。
その姿はまるで“鯨”だ。
「何体もの鬼が寄り集まって、あのデカい一体に成ってやがるな。名付けるなら『鯨』の鬼ってとこか」
神々が集まり、戦力が揃った事を見計らったかのようなタイミングで、再びメガから端末のジャック。
今度は機械音声での音声通信が届く。
『最後の百鬼夜行の進路予想だヨ。計算結果によると、コイツはこのまま大異界を抜けて外に出る気だネ。このサイズの奴が外で暴れ回ればどうなるかなんて――君たちにも分かるよネ』
スピーカーから流されるそのメガの声が、大異界の中に響き渡る。
「誰か知らんが、我々の味方の様だな」
ウルスは大きく息を吸う。
そして――、
「お前たち!! 最後の戦いだ!! 俺がぶっ壊す!! お前らは援護しろ!!」
大異界の中を震わせる程の声で神々を鼓舞する様に、端的な指示を出す。
「「うおおおおおおお!!!!」」
神々は空を泳ぐ『鯨』の鬼に向かって一斉に攻撃を浴びせる。
「おらあああああ!!!」
陸とモシャもその中に交じり、“蒼い炎”の斬撃を放つ。
しかし、その殆どは有効打にならない。
僅かに与えた傷もすぐに数多の鬼の肉が寄り集まり修復されてしまう。
「テイテイ君、ガーネ、俺たちも行くぞ」
「ああ!」
「ネ!」
鎖の楔を撃ち出し、『鯨』の鬼へと飛び乗る。
混沌色の肉塊の背を走り、斬りつけ、殴りつけ、持てる力を叩き付ける。
しかし、やはりその全ては無に帰す。
そして、『鯨』の鬼は身体を大きく震わせ、
「うわあああああ!!!」
来人達は宙に投げ出される。
しかし、来人たちが地面に叩き付けられる事は無かった。
「――大丈夫ですか、来人君」
「ユウリ!」
「ゆうりん!」
連絡を受けて援軍に駆け付けたユウリだ。
宙の空間を結晶化して足場を作り、投げ出された来人たちを受け止めた。
「もう……。“ユウリ先生”ですよ?」
そう言って困った様に微笑み、そっと傍に降り立つ。
「ありがとう、助かったよ。ユウリ先生」
来人は結晶の足場に立ち上がり、依然宙を泳ぐ『鯨』の鬼へと掌をかざす。
テイテイも同じ様に、来人に続く。
これまでの三人の攻撃は、決して『鯨』の鬼にダメージを入れる為の物ではなかった。
そんな事をしても無駄な事、百も承知。
だからこそ、この場の指揮官たる二代目ウルスの言葉通りに、ウルスを援護する為の一手を打った。
「「――『鎖の監獄』」」
来人とテイテイ、二人は『鎖』の色を発動。
来人たちは攻撃の最中、『鯨』の鬼の身体に金色のリング――『カンガスの光輪』を撃ち込んでいた。
光輪は肉体の再生に巻き込まれて『鯨』の鬼の内側へと呑み込まれる。
そして、来人はその“隙間”から鎖を産み出す。
『鯨』の鬼の肉を食い破って鎖が飛び出し、その巨躯を絡め捕る。
「なるほどです。アシストしますよ、来人君」
そして、鎖の先はユウリが空間に結晶化して固定。
「駄目押しだネ!」
ガーネは『氷』の色でその上から更に混沌色の表皮を固めて行く。
結果、『鯨』の鬼は空中に拘束されて動きを封じられる。
しかし、この拘束もそう長くは続かない。
本気で『鯨』の鬼が抵抗を見せればすぐに振り解かれてしまうだろう。
「――お爺ちゃん!!!」
だからこそ、来人はこの機を逃すまいと魂の奥底から叫ぶ。
「おうよ!! よくやった、ライト!!!」
ウルスは来人の声に応え、地を蹴り飛び上がる。
動きを止めた『鯨』の鬼の巨体の中心に向かって、飛翔する。
「――『憑依混色』!!!」
ウルスの右足に刻まれたタトゥーを中心として、その紋様が全身へと広がって行く。
そして、右足から順に身体が肥大化。
ウルスはまるで大きな熊の様に、雄々しく力強い姿へと変貌を遂げた。
その姿はまるで、ガイア族の戦士の様。
「あれは――?」
「『憑依混色』――自身の器の上に他者の器を重ねて力を融合させる、神の秘技だネ」
「他社の器――じゃあ、あれは――」
「ウルス様の相棒“だった”、ガイア族の色だネ」
ウルスは融合したガイア族の力を振るう。
その色は『分解』だ。
その一蹴りを受けた万物は、全て等しく無に帰す。
ウルスの蹴りが『鯨』の鬼に直撃。
胴の中央から塵も残らぬ程に分解されて行く。
しかし、余りにその体躯が大きすぎる。
『鯨』の鬼の頭部と尾の部分が残り、再び再生しようと動き出す。
「――させない!!」
「――させねぇよ!!」
来人と陸が動く。
残った頭部には来人が、尻尾には陸が斬りかかる。
来人は鎖を剣に纏わせ回転させた、『赫』の鬼を討ったのと同じドリルソードで頭部を破壊。
陸は蒼炎を纏った鎌の斬撃――『影炎』で尻尾を破壊。
『鯨』の鬼は炭化し、塵は虚空に消えて行く。
そして、『鯨』の鬼を形成していた数多の核が雨の様に降り注ぐ。
最後の大異界の膜がゆったりと溶けて行く。
「お前ら! 退避の準備をしろ! 異界が溶ければ海上だぞ!」
「ネに任せるネ!」
ウルスの言葉に、ガーネが動く。
海上を凍り付かせて、足場を作る。
神々は氷上を走り、降り注ぐ核を集めて回る。
来人はそんな浮かれた皆の様子を眺めながら、密かにメガに連絡を取る。
「――メガ」
「やあ、どうしたんだネ、ライト」
「これで終わりか?」
「ああ、もう大異界の反応は無いネ。百鬼夜行は終焉、お疲れ様だヨ」
「そうか……。メガもありがとう」
「それはこちらの台詞だヨ、ライト」
通信を終え、来人は皆の元へと戻る。
「らいたん!」
「来人!」
「来人君!」
「来人ー」
「おう、ライト!」
こうして、百鬼夜行は幕を閉じた。
来人は親友の仇――『赫』の鬼を討ち、復讐を果たした。
陸は幼馴染の藍の復活に、一歩近づいた。
それぞれの想いを胸に、帰路に付く。
「――まさか、ガーネがドラゴンになるなんて」
来人とテイテイは今、氷の龍と化したガーネの背に乗っている。
透き通った水色の氷で形成された龍の身体の中に、犬のガーネが心臓の様に収まっている。
「ガイア族は地を歩く天使。でも、翼を持たない訳じゃ無いネ。普段擬態している地に足を着けた姿の他に、もう一つ天を舞う姿を持っているんだネ」
「本当に天使だったんだな」
「来人の髪色が変わるみたいなものか」
そう話していると、すぐにメガマップに表示された太平洋上の大異界発生予想地点に到着した。
「見えて来たネ」
海を割く様に発生した巨大な異界の入り口。
「――行くぞ」
来人の髪色が白金に染まり、神化する。
そして、一行は最後の百鬼夜行――、大異界の中へと入って行く。
大異界の中は、時の静止した世界。
空を漂う雲も、広がる海も、全てが止まった、灰色の世界。
そんな波打ったまま石の様に固まる灰色の海の上に、来人達は降り立つ。
来人が着いた頃には、それなりの数の神々が集まって来ていた。
その中には、知った顔も居る。
「おう、ライト。お前も来たか」
「そっちも上手くやったみてぇだな、やるじゃねぇか」
ウルスと陸だ。
「お爺ちゃん、陸――」
「見ろ、上だ」
ウルスの言葉に、来人は視線を向ける。
「コォォォォ――!!」
空を泳ぐ、山とも見紛う巨大な体躯。
様々な絵の具を混ぜ合わせた様な混沌色。
その姿はまるで“鯨”だ。
「何体もの鬼が寄り集まって、あのデカい一体に成ってやがるな。名付けるなら『鯨』の鬼ってとこか」
神々が集まり、戦力が揃った事を見計らったかのようなタイミングで、再びメガから端末のジャック。
今度は機械音声での音声通信が届く。
『最後の百鬼夜行の進路予想だヨ。計算結果によると、コイツはこのまま大異界を抜けて外に出る気だネ。このサイズの奴が外で暴れ回ればどうなるかなんて――君たちにも分かるよネ』
スピーカーから流されるそのメガの声が、大異界の中に響き渡る。
「誰か知らんが、我々の味方の様だな」
ウルスは大きく息を吸う。
そして――、
「お前たち!! 最後の戦いだ!! 俺がぶっ壊す!! お前らは援護しろ!!」
大異界の中を震わせる程の声で神々を鼓舞する様に、端的な指示を出す。
「「うおおおおおおお!!!!」」
神々は空を泳ぐ『鯨』の鬼に向かって一斉に攻撃を浴びせる。
「おらあああああ!!!」
陸とモシャもその中に交じり、“蒼い炎”の斬撃を放つ。
しかし、その殆どは有効打にならない。
僅かに与えた傷もすぐに数多の鬼の肉が寄り集まり修復されてしまう。
「テイテイ君、ガーネ、俺たちも行くぞ」
「ああ!」
「ネ!」
鎖の楔を撃ち出し、『鯨』の鬼へと飛び乗る。
混沌色の肉塊の背を走り、斬りつけ、殴りつけ、持てる力を叩き付ける。
しかし、やはりその全ては無に帰す。
そして、『鯨』の鬼は身体を大きく震わせ、
「うわあああああ!!!」
来人達は宙に投げ出される。
しかし、来人たちが地面に叩き付けられる事は無かった。
「――大丈夫ですか、来人君」
「ユウリ!」
「ゆうりん!」
連絡を受けて援軍に駆け付けたユウリだ。
宙の空間を結晶化して足場を作り、投げ出された来人たちを受け止めた。
「もう……。“ユウリ先生”ですよ?」
そう言って困った様に微笑み、そっと傍に降り立つ。
「ありがとう、助かったよ。ユウリ先生」
来人は結晶の足場に立ち上がり、依然宙を泳ぐ『鯨』の鬼へと掌をかざす。
テイテイも同じ様に、来人に続く。
これまでの三人の攻撃は、決して『鯨』の鬼にダメージを入れる為の物ではなかった。
そんな事をしても無駄な事、百も承知。
だからこそ、この場の指揮官たる二代目ウルスの言葉通りに、ウルスを援護する為の一手を打った。
「「――『鎖の監獄』」」
来人とテイテイ、二人は『鎖』の色を発動。
来人たちは攻撃の最中、『鯨』の鬼の身体に金色のリング――『カンガスの光輪』を撃ち込んでいた。
光輪は肉体の再生に巻き込まれて『鯨』の鬼の内側へと呑み込まれる。
そして、来人はその“隙間”から鎖を産み出す。
『鯨』の鬼の肉を食い破って鎖が飛び出し、その巨躯を絡め捕る。
「なるほどです。アシストしますよ、来人君」
そして、鎖の先はユウリが空間に結晶化して固定。
「駄目押しだネ!」
ガーネは『氷』の色でその上から更に混沌色の表皮を固めて行く。
結果、『鯨』の鬼は空中に拘束されて動きを封じられる。
しかし、この拘束もそう長くは続かない。
本気で『鯨』の鬼が抵抗を見せればすぐに振り解かれてしまうだろう。
「――お爺ちゃん!!!」
だからこそ、来人はこの機を逃すまいと魂の奥底から叫ぶ。
「おうよ!! よくやった、ライト!!!」
ウルスは来人の声に応え、地を蹴り飛び上がる。
動きを止めた『鯨』の鬼の巨体の中心に向かって、飛翔する。
「――『憑依混色』!!!」
ウルスの右足に刻まれたタトゥーを中心として、その紋様が全身へと広がって行く。
そして、右足から順に身体が肥大化。
ウルスはまるで大きな熊の様に、雄々しく力強い姿へと変貌を遂げた。
その姿はまるで、ガイア族の戦士の様。
「あれは――?」
「『憑依混色』――自身の器の上に他者の器を重ねて力を融合させる、神の秘技だネ」
「他社の器――じゃあ、あれは――」
「ウルス様の相棒“だった”、ガイア族の色だネ」
ウルスは融合したガイア族の力を振るう。
その色は『分解』だ。
その一蹴りを受けた万物は、全て等しく無に帰す。
ウルスの蹴りが『鯨』の鬼に直撃。
胴の中央から塵も残らぬ程に分解されて行く。
しかし、余りにその体躯が大きすぎる。
『鯨』の鬼の頭部と尾の部分が残り、再び再生しようと動き出す。
「――させない!!」
「――させねぇよ!!」
来人と陸が動く。
残った頭部には来人が、尻尾には陸が斬りかかる。
来人は鎖を剣に纏わせ回転させた、『赫』の鬼を討ったのと同じドリルソードで頭部を破壊。
陸は蒼炎を纏った鎌の斬撃――『影炎』で尻尾を破壊。
『鯨』の鬼は炭化し、塵は虚空に消えて行く。
そして、『鯨』の鬼を形成していた数多の核が雨の様に降り注ぐ。
最後の大異界の膜がゆったりと溶けて行く。
「お前ら! 退避の準備をしろ! 異界が溶ければ海上だぞ!」
「ネに任せるネ!」
ウルスの言葉に、ガーネが動く。
海上を凍り付かせて、足場を作る。
神々は氷上を走り、降り注ぐ核を集めて回る。
来人はそんな浮かれた皆の様子を眺めながら、密かにメガに連絡を取る。
「――メガ」
「やあ、どうしたんだネ、ライト」
「これで終わりか?」
「ああ、もう大異界の反応は無いネ。百鬼夜行は終焉、お疲れ様だヨ」
「そうか……。メガもありがとう」
「それはこちらの台詞だヨ、ライト」
通信を終え、来人は皆の元へと戻る。
「らいたん!」
「来人!」
「来人君!」
「来人ー」
「おう、ライト!」
こうして、百鬼夜行は幕を閉じた。
来人は親友の仇――『赫』の鬼を討ち、復讐を果たした。
陸は幼馴染の藍の復活に、一歩近づいた。
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