【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
42 / 150
第一章 百鬼夜行編

#42 『鯨』の鬼

しおりを挟む
 太平洋、上空。

「――まさか、ガーネがドラゴンになるなんて」

 来人とテイテイは今、氷の龍と化したガーネの背に乗っている。
 透き通った水色の氷で形成された龍の身体の中に、犬のガーネが心臓の様に収まっている。
 
「ガイア族は地を歩く天使。でも、翼を持たない訳じゃ無いネ。普段擬態している地に足を着けた姿の他に、もう一つ天を舞う姿を持っているんだネ」
「本当に天使だったんだな」
「来人の髪色が変わるみたいなものか」

 そう話していると、すぐにメガマップに表示された太平洋上の大異界発生予想地点に到着した。
 
「見えて来たネ」
 
 海を割く様に発生した巨大な異界の入り口。
 
「――行くぞ」

 来人の髪色が白金に染まり、神化する。
 そして、一行は最後の百鬼夜行――、大異界の中へと入って行く。

 
 大異界の中は、時の静止した世界。
 空を漂う雲も、広がる海も、全てが止まった、灰色の世界。
 そんな波打ったまま石の様に固まる灰色の海の上に、来人達は降り立つ。

 来人が着いた頃には、それなりの数の神々が集まって来ていた。
 その中には、知った顔も居る。

「おう、ライト。お前も来たか」
「そっちも上手くやったみてぇだな、やるじゃねぇか」

 ウルスと陸だ。

「お爺ちゃん、陸――」
「見ろ、上だ」

 ウルスの言葉に、来人は視線を向ける。

「コォォォォ――!!」

 空を泳ぐ、山とも見紛う巨大な体躯。
 様々な絵の具を混ぜ合わせた様な混沌色。
 その姿はまるで“鯨”だ。

「何体もの鬼が寄り集まって、あのデカい一体に成ってやがるな。名付けるなら『鯨』の鬼ってとこか」

 神々が集まり、戦力が揃った事を見計らったかのようなタイミングで、再びメガから端末のジャック。
 今度は機械音声での音声通信が届く。

『最後の百鬼夜行の進路予想だヨ。計算結果によると、コイツはこのまま大異界を抜けて外に出る気だネ。このサイズの奴が外で暴れ回ればどうなるかなんて――君たちにも分かるよネ』
 
 スピーカーから流されるそのメガの声が、大異界の中に響き渡る。

「誰か知らんが、我々の味方の様だな」

 ウルスは大きく息を吸う。
 そして――、

「お前たち!! 最後の戦いだ!! 俺がぶっ壊す!! お前らは援護しろ!!」

 大異界の中を震わせる程の声で神々を鼓舞する様に、端的な指示を出す。

「「うおおおおおおお!!!!」」

 神々は空を泳ぐ『鯨』の鬼に向かって一斉に攻撃を浴びせる。

「おらあああああ!!!」
 
 陸とモシャもその中に交じり、“蒼い炎”の斬撃を放つ。
 
 しかし、その殆どは有効打にならない。
 僅かに与えた傷もすぐに数多の鬼の肉が寄り集まり修復されてしまう。

「テイテイ君、ガーネ、俺たちも行くぞ」
「ああ!」
「ネ!」

 鎖の楔を撃ち出し、『鯨』の鬼へと飛び乗る。
 混沌色の肉塊の背を走り、斬りつけ、殴りつけ、持てる力を叩き付ける。
 しかし、やはりその全ては無に帰す。

 そして、『鯨』の鬼は身体を大きく震わせ、

「うわあああああ!!!」

 来人達は宙に投げ出される。
 しかし、来人たちが地面に叩き付けられる事は無かった。

「――大丈夫ですか、来人君」
「ユウリ!」
「ゆうりん!」
 
 連絡を受けて援軍に駆け付けたユウリだ。
 宙の空間を結晶化して足場を作り、投げ出された来人たちを受け止めた。
 
「もう……。“ユウリ先生”ですよ?」

 そう言って困った様に微笑み、そっと傍に降り立つ。

「ありがとう、助かったよ。ユウリ先生」

 来人は結晶の足場に立ち上がり、依然宙を泳ぐ『鯨』の鬼へと掌をかざす。
 テイテイも同じ様に、来人に続く。
 
 これまでの三人の攻撃は、決して『鯨』の鬼にダメージを入れる為の物ではなかった。
 そんな事をしても無駄な事、百も承知。

 だからこそ、この場の指揮官たる二代目ウルスの言葉通りに、ウルスを援護する為の一手を打った。

「「――『鎖の監獄ジェイル』」」

 来人とテイテイ、二人は『鎖』のスキルを発動。
 
 来人たちは攻撃の最中、『鯨』の鬼の身体に金色のリング――『カンガスの光輪』を撃ち込んでいた。
 光輪は肉体の再生に巻き込まれて『鯨』の鬼の内側へと呑み込まれる。
 そして、来人はその“隙間”から鎖を産み出す。
 『鯨』の鬼の肉を食い破って鎖が飛び出し、その巨躯を絡め捕る。

「なるほどです。アシストしますよ、来人君」

 そして、鎖の先はユウリが空間に結晶化して固定。

「駄目押しだネ!」

 ガーネは『氷』のスキルでその上から更に混沌色の表皮を固めて行く。
 結果、『鯨』の鬼は空中に拘束されて動きを封じられる。

 しかし、この拘束もそう長くは続かない。
 本気で『鯨』の鬼が抵抗を見せればすぐに振り解かれてしまうだろう。

「――お爺ちゃん!!!」
 
 だからこそ、来人はこの機を逃すまいと魂の奥底から叫ぶ。

「おうよ!! よくやった、ライト!!!」

 ウルスは来人の声に応え、地を蹴り飛び上がる。
 動きを止めた『鯨』の鬼の巨体の中心に向かって、飛翔する。

「――『憑依混色カオスフォーム』!!!」

 ウルスの右足に刻まれたタトゥーを中心として、その紋様が全身へと広がって行く。
 そして、右足から順に身体が肥大化。
 ウルスはまるで大きな熊の様に、雄々しく力強い姿へと変貌を遂げた。
 その姿はまるで、ガイア族の戦士の様。

「あれは――?」
「『憑依混色カオスフォーム』――自身の器の上に他者の器を重ねて力を融合させる、神の秘技だネ」
「他社の器――じゃあ、あれは――」
「ウルス様の相棒“だった”、ガイア族のスキルだネ」
 
 ウルスは融合したガイア族の力を振るう。
 そのスキルは『分解』だ。
 その一蹴りを受けた万物は、全て等しく無に帰す。

 ウルスの蹴りが『鯨』の鬼に直撃。
 胴の中央から塵も残らぬ程に分解されて行く。
 しかし、余りにその体躯が大きすぎる。
 
 『鯨』の鬼の頭部と尾の部分が残り、再び再生しようと動き出す。
 
「――させない!!」
「――させねぇよ!!」

 来人と陸が動く。
 残った頭部には来人が、尻尾には陸が斬りかかる。

 来人は鎖を剣に纏わせ回転させた、『赫』の鬼を討ったのと同じドリルソードで頭部を破壊。
 陸は蒼炎を纏った鎌の斬撃――『影炎えいえん』で尻尾を破壊。

 『鯨』の鬼は炭化し、塵は虚空に消えて行く。
 そして、『鯨』の鬼を形成していた数多の核が雨の様に降り注ぐ。

 最後の大異界の膜がゆったりと溶けて行く。

「お前ら! 退避の準備をしろ! 異界が溶ければ海上だぞ!」
「ネに任せるネ!」

 ウルスの言葉に、ガーネが動く。
 海上を凍り付かせて、足場を作る。

 神々は氷上を走り、降り注ぐ核を集めて回る。
 来人はそんな浮かれた皆の様子を眺めながら、密かにメガに連絡を取る。

「――メガ」
「やあ、どうしたんだネ、ライト」
「これで終わりか?」
「ああ、もう大異界の反応は無いネ。百鬼夜行は終焉、お疲れ様だヨ」
「そうか……。メガもありがとう」
「それはこちらの台詞だヨ、ライト」

 通信を終え、来人は皆の元へと戻る。

「らいたん!」
「来人!」
「来人君!」
「来人ー」
「おう、ライト!」

 こうして、百鬼夜行は幕を閉じた。
 
 来人は親友の仇――『赫』の鬼を討ち、復讐を果たした。
 陸は幼馴染の藍の復活に、一歩近づいた。

 それぞれの想いを胸に、帰路に付く。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...