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第一章 百鬼夜行編
#38 一方その頃
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――北米部隊。
来神が単騎で担当する地域。
雑魚は全て一掃済みで、残すは大異界内の主である上位個体のみだ。
北米に出現した大異界の主『龍』の鬼。
そして、『竜』の鬼。
何故かこの地だけ、上位個体が二体。
「おいおい、どうして龍が竜を喰ってんだよ……」
来神は一人、その光景を見ながら呆れて溜息を漏らす。
大異界へ踏み込んでみれば、蛇の様な体躯の東洋龍が、翼を生やした西洋竜を喰い殺していたのだ。
そして、その力を吸収。
二匹の龍と竜は融合し、一匹の新たな鬼へと変貌する。
「名付けるなら、『双頭』の鬼ってとこか?」
来神の眼前には、蛇と翼の混ざりあった二つの頭を持つキメラと化したドラゴン。
「しかし、蛇の方はこっちで産まれた個体じゃねえな。どこかから逃げて来た――、ふむ。中国、来人の担当地域から来たか」
来神は長年の経験と知識から、一見して鬼のルーツを見抜く。
中国で産まれた鬼が、何故かこの北米の地に。
上位個体の鬼が何かから逃げて来る時、それは“自分よりも遥かに強い相手”からテリトリーを追われた場合にしかあり得ない。
少しの間考える。
そして、全てを察した来神はにっ不敵に口角を吊り上げる。
「――『赫』の鬼、か。来人のやつ、やりやがったな……」
『赫』の鬼は元は来神が追っていた超上位個体だ。
他の者が相手して生きて帰れる保証は無い。
もしその出現ポイントが分かっていたなら、必ずそこに来神が配置されていただろう。
「――ギョルルルル!!!」
そうしていると、『双頭』の鬼は唸り声をあげて来神へと襲い掛かる。
「うるせえぞ」
しかし、来神が槍を一振り。
音すら置き去りにし、一撃で粉砕。
異界の膜が溶けて、じんわりと降りて行く。
最強の武神、ライジンの前に敵は皆無だ。
今から来人の所へ向かっても、もう遅い。
既に『赫』の鬼との戦闘は始まっているだろう。
そして、一度相対してしまえば勝つか負けるか、生きるか死ぬかしか道は残されていない。
「信じて待つ、か……」
来神はその場にどっしりと腰を下ろし、酒瓶を取り出してごくごくと呑み干す。
息子の勝利を信じて、父は待つ。
――日本、天野邸。
百鬼夜行――それは主である大異界以外にも、小さな異界を幾つも産み出す。
各地で起こる天変地異。
それと同時に、異界から漏れ出た鬼たちは喰らう魂を求めて人間を襲う。
鬼はより濃い波動を持つ魂を求める習性を持っている。
そして、神々と親交のある人間はその強い波動に当てられて魂の有り方が似通う傾向が有る。
「ただいま戻りましたわ、奥様」
「あら、イリスちゃん。お帰りなさい。丁度良かったわ」
来神と別れた後、イリスは天野邸へ戻って来ていた。
ぺこりと一礼するイリスに、少し疲弊した様子の照子が答える。
辺りの光景を見回す。
庭へと続く窓ガラスは叩き割られ、破片が周囲に散乱。
リビングの家具も滅茶苦茶に荒されている。
この後自分がこれを掃除するかと思うと、げんなりしてくる。
そして、照子の他にもう一人。
「あ、イリスさん。お邪魔してます」
黒髪のロングヘア、紫紺の瞳、眼鏡、エルフ耳。
両手には『結晶』の双剣。
来人の家庭教師をしている神、ユウリの姿がそこには有った。
そして、庭の方へと目をやる。
そこには、小鬼の群れ。
大方照子の波動に惹かれて集まって来た異界からのはぐれ者達だろう。
そして、放たれた『結晶』の弾丸の跡が見える。
「ユウリ様、お手間をおかけしました」
「いえ、丁度来ていてナイスタイミングでした。運が良かったですね」
ユウリはそう言うが、実際はこうなる事を予期して照子を守るために来ていた事は明白だ。
もしかすると、予めライジンが手回ししていたのかもしれない。
そして、イリスが来るまでの間元は今目の前に居る以上の数が居たであろう小鬼の群れを相手していたはずなのに、息切れ一つせずに平然と単身で照子を守り続けていたユウリ。
その底知れなさに、イリスは感嘆の溜息を漏らす。
しかし、そういえば主人が選んだ家庭教師だったな、と納得。
薄く微笑み、ユウリの隣へと並ぶ。
「ここからは、わたくしもお手伝い致しますわ」
そして、両手両足を獣化させる。
毛深い腕と、長く鋭い爪。
そして、その爪に『虹』のオーラを纏わせる。
「来人君の帰る場所は、奪わせませんよ」
「家を守るのもメイドの務め、ですわ」
『結晶』と『虹』――二人の輝かしくも美しい色が、世界を彩る。
――メガコーポレーション、地下研究所。
「ねえ、メガ。私はいつまでここに居ればいいのよ?」
「わん」
「喋れるの知ってるわよ?」
「わんわん」
「もー!」
美海が抱き抱えるガイア族の犬メガに問うが、メガは答える気は無く犬の振りで誤魔化す。
美海はギザに呼ばれて、昨日からここメガコーポレーションの地下研究所に来ていた。
美味しい社食は出て来るし、風呂もトイレも綺麗だし、布団もふかふかだし、特に困る事は無い。
しかし、如何せん若い女の子にとっては退屈な場所だった。
ビルの外には、その周囲を囲うように数匹の中型の鬼。
「やれやれ……。ワタシたちの会社には相応しくないお客様デスね」
そして、学生服の上に白衣を纏ったいつもの姿のギザの姿。
更にそのギザの周りにはOLスタイルのギザと、メイド服のギザと、ナース服のギザと、その他色々なコスプレ衣装に身を包むギザ。
「さあ、“ワタシたち”。お仕事の時間デスよ」
「――イエス、マスター」
来神が単騎で担当する地域。
雑魚は全て一掃済みで、残すは大異界内の主である上位個体のみだ。
北米に出現した大異界の主『龍』の鬼。
そして、『竜』の鬼。
何故かこの地だけ、上位個体が二体。
「おいおい、どうして龍が竜を喰ってんだよ……」
来神は一人、その光景を見ながら呆れて溜息を漏らす。
大異界へ踏み込んでみれば、蛇の様な体躯の東洋龍が、翼を生やした西洋竜を喰い殺していたのだ。
そして、その力を吸収。
二匹の龍と竜は融合し、一匹の新たな鬼へと変貌する。
「名付けるなら、『双頭』の鬼ってとこか?」
来神の眼前には、蛇と翼の混ざりあった二つの頭を持つキメラと化したドラゴン。
「しかし、蛇の方はこっちで産まれた個体じゃねえな。どこかから逃げて来た――、ふむ。中国、来人の担当地域から来たか」
来神は長年の経験と知識から、一見して鬼のルーツを見抜く。
中国で産まれた鬼が、何故かこの北米の地に。
上位個体の鬼が何かから逃げて来る時、それは“自分よりも遥かに強い相手”からテリトリーを追われた場合にしかあり得ない。
少しの間考える。
そして、全てを察した来神はにっ不敵に口角を吊り上げる。
「――『赫』の鬼、か。来人のやつ、やりやがったな……」
『赫』の鬼は元は来神が追っていた超上位個体だ。
他の者が相手して生きて帰れる保証は無い。
もしその出現ポイントが分かっていたなら、必ずそこに来神が配置されていただろう。
「――ギョルルルル!!!」
そうしていると、『双頭』の鬼は唸り声をあげて来神へと襲い掛かる。
「うるせえぞ」
しかし、来神が槍を一振り。
音すら置き去りにし、一撃で粉砕。
異界の膜が溶けて、じんわりと降りて行く。
最強の武神、ライジンの前に敵は皆無だ。
今から来人の所へ向かっても、もう遅い。
既に『赫』の鬼との戦闘は始まっているだろう。
そして、一度相対してしまえば勝つか負けるか、生きるか死ぬかしか道は残されていない。
「信じて待つ、か……」
来神はその場にどっしりと腰を下ろし、酒瓶を取り出してごくごくと呑み干す。
息子の勝利を信じて、父は待つ。
――日本、天野邸。
百鬼夜行――それは主である大異界以外にも、小さな異界を幾つも産み出す。
各地で起こる天変地異。
それと同時に、異界から漏れ出た鬼たちは喰らう魂を求めて人間を襲う。
鬼はより濃い波動を持つ魂を求める習性を持っている。
そして、神々と親交のある人間はその強い波動に当てられて魂の有り方が似通う傾向が有る。
「ただいま戻りましたわ、奥様」
「あら、イリスちゃん。お帰りなさい。丁度良かったわ」
来神と別れた後、イリスは天野邸へ戻って来ていた。
ぺこりと一礼するイリスに、少し疲弊した様子の照子が答える。
辺りの光景を見回す。
庭へと続く窓ガラスは叩き割られ、破片が周囲に散乱。
リビングの家具も滅茶苦茶に荒されている。
この後自分がこれを掃除するかと思うと、げんなりしてくる。
そして、照子の他にもう一人。
「あ、イリスさん。お邪魔してます」
黒髪のロングヘア、紫紺の瞳、眼鏡、エルフ耳。
両手には『結晶』の双剣。
来人の家庭教師をしている神、ユウリの姿がそこには有った。
そして、庭の方へと目をやる。
そこには、小鬼の群れ。
大方照子の波動に惹かれて集まって来た異界からのはぐれ者達だろう。
そして、放たれた『結晶』の弾丸の跡が見える。
「ユウリ様、お手間をおかけしました」
「いえ、丁度来ていてナイスタイミングでした。運が良かったですね」
ユウリはそう言うが、実際はこうなる事を予期して照子を守るために来ていた事は明白だ。
もしかすると、予めライジンが手回ししていたのかもしれない。
そして、イリスが来るまでの間元は今目の前に居る以上の数が居たであろう小鬼の群れを相手していたはずなのに、息切れ一つせずに平然と単身で照子を守り続けていたユウリ。
その底知れなさに、イリスは感嘆の溜息を漏らす。
しかし、そういえば主人が選んだ家庭教師だったな、と納得。
薄く微笑み、ユウリの隣へと並ぶ。
「ここからは、わたくしもお手伝い致しますわ」
そして、両手両足を獣化させる。
毛深い腕と、長く鋭い爪。
そして、その爪に『虹』のオーラを纏わせる。
「来人君の帰る場所は、奪わせませんよ」
「家を守るのもメイドの務め、ですわ」
『結晶』と『虹』――二人の輝かしくも美しい色が、世界を彩る。
――メガコーポレーション、地下研究所。
「ねえ、メガ。私はいつまでここに居ればいいのよ?」
「わん」
「喋れるの知ってるわよ?」
「わんわん」
「もー!」
美海が抱き抱えるガイア族の犬メガに問うが、メガは答える気は無く犬の振りで誤魔化す。
美海はギザに呼ばれて、昨日からここメガコーポレーションの地下研究所に来ていた。
美味しい社食は出て来るし、風呂もトイレも綺麗だし、布団もふかふかだし、特に困る事は無い。
しかし、如何せん若い女の子にとっては退屈な場所だった。
ビルの外には、その周囲を囲うように数匹の中型の鬼。
「やれやれ……。ワタシたちの会社には相応しくないお客様デスね」
そして、学生服の上に白衣を纏ったいつもの姿のギザの姿。
更にそのギザの周りにはOLスタイルのギザと、メイド服のギザと、ナース服のギザと、その他色々なコスプレ衣装に身を包むギザ。
「さあ、“ワタシたち”。お仕事の時間デスよ」
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