【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第一章 百鬼夜行編

#36 開戦 来人と陸

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 ――中国部隊。
 
 来人たちは中国地に降り立ち、数時間の移動の後百鬼夜行――大異界の発生予想地点へと辿り着いた。
 大異界の発生予想地点、雲をも貫く岩山の麓。

 いつ鬼が現れても良い様に来人は既に神化しており、髪色も茶から白金へと変化している。

「――まだ時間はあるな。取り敢えず、部隊の様子を見ておくか」
「ああ、戦力は正確に把握しておくべきだ」
「だネ」

 予想される時間まではまだ時間はあるが、あくまでもそれは予想。
 既に天界軍の部隊の神々はこの地に集結している。
 
 来人たちは集まる天界軍元へ向かう。
 が、しかし――、

「――なんか、少なくないか?」
 
 これから百鬼夜行の大異界へ挑むというのに、想像していたよりも部隊の人数が少ない。
 学校の一クラス分くらいしか居ない。

(こんなものなのか……?)

 そう思っていると、部隊の中から来人の姿を見て近づいて来る人物が居た。
 大きな斧を背負った男だ。

「おう、鎖使い! 今日はよろしくな!」
「ああ、頼んだぞ」
「なんか今日は雰囲気ちげーな……」

 来人からすれば全然知らない神だが、あちら側は有名な“鎖使い”の事を良く知っているので、やたらとフレンドリーに話しかけて来る。
 神々は同じ三代目候補者のティルの事は“ティル様”と敬うのに、対照的に来人に対しては皆大体こんな感じだ。
 特に気にする事も無く、来人はそのまま都合よく絡んで来た手ごろな斧持ちの彼に疑問をぶつける。

「俺はこういう作戦に参加するのは初めてなんだが、少し人数が少なくないか?」
「ああ、鎖使いが情報くれたんだろ? アナ様が言ってたぜ『ここが一番弱そうだから、気楽に挑んでくれ』ってな」
「あっ……」

 それは、メガマップの情報を王の間で共有した時に来人が『あか』の鬼が出現するこの中国に自分が配置される為に咄嗟に吐いた嘘。
 限られた天界軍の人員を効率よく配置する為に、アナはその来人の言葉を信じて作戦を立てたのだ。

 もっと違う嘘を吐いておけば良かったと思うも、もはや後の祭りだ。
 それに、どちらにせよ『赫』の鬼だけは来人自らが相手したかったからこそ、この地に来たのだ。
 やる事は変わらない。

 程なくして、来人のスマートフォンから定刻を知らせるアラーム音が鳴り響き、思い思いに談笑をしていた神々の声もその音を皮切りにしんと静まり返る。

「――来るぞ」
 
 すると、それと同時に天に大きな空間の歪みが発生。
 そして、その歪みはどんどん広がって行き、辺りを吞み込んでしまう。

 瞬く間に、来人たち天界軍は大異界の中へと呑まれてしまった。

 血に塗られた様な真っ赤な世界。
 空も、水も。木々も、岩山も、その全てがあか

「ここは――」
「ああ、間違いない」

 この景色を、来人とテイテイは幼い頃に一度見た事が有る。
 間違いない、ここが『赫』の鬼の作り出す大異界だ。
 
 そして、ガチャガチャという耳障りな音と共に、空からは翼の生えた鬼の軍勢。
 地上には小鬼の大群。
 
 その鬼の群れの中に、一際強いオーラを放つ存在。
 赤黒い血で塗りたくった様な混沌色の甲殻に覆われた、つるりとした頭の異形の怪物。
 奴は神々を見下ろすように空に立つ。

「居た、『赫』の鬼――!!」

 来人は沸き立つ血を抑え、平静を装う。
 まずは、この肉の壁を突破して『赫』の鬼の元へと辿り着く必要が有る。
 来人は三代目神王しんおう候補として、天界軍へと指示を出す。

「――総員、周囲の鬼の掃討にかかれ! 俺は親玉を叩く!」
 
「「うおおおおおお!!!!」」

 天界軍の神々は来人の号令を合図に、進軍を始める。

「テイテイ、ガーネ。俺たちは『赫』の鬼を殺るぞ」
「おう」
「ネ!」

 来人たちも、『赫』の鬼の元へと向かう。
 
 
 ――日本部隊。

 陸と相棒のイタチ、モシャが担当する部隊。
 日本の大異界発生予想地点は都心のビル群の中だ。
 幸い百鬼夜行の影響で発生した天変地異、台風による大雨の影響で厳戒態勢が敷かれており、一般人は入れない様に封鎖されている。

 そして、この地には百を超える天界軍。
 万全の体勢だ。

 ビルの上から、その街の様子を見下ろす陸。

「陸、それは?」
「これはね、御守りだよ」

 陸が持っていたのは、くたびれた熊のぬいぐるみだった。

「藍が大切に“していた”物だったんだけど、今の藍には必要ないみたいなんだ。だから、僕が御守りとして借りてる。――いつか、これを藍に返すんだ」
「……そうかい」

 そして、時は来る。
 他の大異界の発生と同時刻。
 この陸の率いる天界軍の集まる地でもまた、同様に天に大きな空間の歪みが発生。
 その歪みはだんだんと広がって行き、辺りを呑み込む。

 次に陸たちが見た光景は、“蒼い炎”だった。

 先程まで居た都心の景色、それを炎で燃やし尽くした、まるで戦の跡の様な光景。
 地は裂け、ビルは崩れ、電光掲示板にはノイズが走る。
 真っ青な炎で燃え盛る、荒廃した街。
 それがこの日本で発生した大異界だった。

 大異界の中には骸骨の姿をした鬼の大群。
 そして、その中で一際の存在感を放つ――、炭のように焦げて黒くなった人型の身体を、“蒼い炎”で覆った姿をした鬼。

「――嘘……、なんで……!?」

 陸は動揺を隠せない。
 それもそのはず。その“蒼い炎”の鬼は陸の家族を、そして藍を燃やし尽くした、あの『蒼』の鬼に他ならない。
 陸の『炎』のスキル――そのイメージの源流となった、あの凄惨な事件の記憶が想起させられる。

「陸、落ち着いて! 『蒼』の鬼はもう居ない! リューズが倒した!」

 モシャは元は陸の父リューズの相棒だった。
 共に戦ったモシャは、その目ではっきりと『蒼』の鬼の死を確認し、そして核の回収も行っている。
 間違いはないはずだ。

「そう、だよね……。ごめん、大丈夫……」

 あれは『蒼』の鬼と似た姿をした偽物だ。
 そう自分い言い聞かせて、陸は自分を奮い立たせる。
 
 陸は神化し、髪色は白金へと変わる。
 それがスイッチとなり、陸の恐怖心はどこかへと消え失せた。

 そして、陸は改めて天界軍の前に降り立ち、指揮を執る。

「行くよ、陸?」
「ああ。――おい、てめェら! 全部まとめてぶっ殺せ!!」
 
「「うおおおおおお!!!!」」

 陸が荒々しい号令を上げれば、神々の士気はうなぎ登り。
 天界軍は一斉に動き出す。
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