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第一章 百鬼夜行編
#28 地を歩く天使は科学の道へ
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――生まれつき身体の弱かったメガは、あらゆる病を一気に患って常に生死の境を彷徨う程だった。
ガイア族は神に仕え共に戦う戦闘特化の一族、その中で戦えないメガは落ちこぼれ、神々にとっては使えないゴミ扱いだった。
「でも、そんな床に伏す使えないボクにもお兄ちゃんは優しくしてくれたんだヨ」
ガーネは外で運動できないメガの為に、本を与えた。
最初は絵本や植物や動物の図鑑、それからだんだんと難しい専門書まで読むようになった。
「そして、知識の海に溺れる事にどっぷりとハマったボクは、世界中のあらゆる英知を自身の器へと集約させたんだヨ」
幸い、戦闘には全く使えないメガの病弱な身体と魂も、そういう知識と記録のアーカイブ化としての利用は出来た。
「皆の素晴らしい魂と違って、ボクの魂の器はただの倉庫だ。そして、ボクは集めた英知を用いて自身の肉体と魂の改造に乗り出した」
メガは持てる知識と技術を駆使して、自らの手で病の完治、そして魂の拡張に成功した。
「もっとも、英知の集約の所為でボクの魂の器はどれだけ拡張しても容量オーバー。その所為でなんの色も持てないけどネ」
以上が、メガの語った身の上話だった。
曰く、メガ自身に色は無い、つまり依然戦う事は出来ない。
しかし、それでもそれを補って余りあるだけの知識と技術がその犬の小さな身体に詰まっている。
「ネの口も最初の頃に実験で改造してもらったネ」
「めちゃくちゃだ……」
話を聞き終えたテイテイは、驚いた様な呆れた様な声を漏らす。
というか、ガーネの口の収納は実験の産物だった事がここで判明。
もし実験が失敗していた場合どうなっていたかは……考えない方が良いだろう。
「でも、それなら戦えなくても天界も喉から手が出る程欲しがる人材なんじゃ」
「そうだろうネ。でも、もうボクは幾ら積まれても天界へ戻る気は無いヨ。ライトだって、一度自分をゴミと吐き捨てた古巣に戻りたくはないだろう?」
「まあ、そうだな」
”ゴミ”か、強い言葉だな。と思いつつ来人は頷く。
「ボクのつまらない話に付き合って貰って悪かったネ、ありがとう。半神半人とその契約者――良いデータが取れたヨ」
「こんなので良ければ、いつでも付き合うよ」
来人の返事に、メガは満足気に頷く。
「お礼に、良い物を見せてあげよう」
メガが言ってキーボードを操作すると、大きなモニターにマップが映し出される。
世界地図の様だが、幾つかの地点に目印が表示されている。
「これは、一体……?」
「これは今後の“百鬼夜行発生予想地点”だヨ」
つまり、この地図上の目印が百鬼夜行――つまり異界の発生予想地点だ。
目印には小さなものから大きな物まで有り、それが出現する鬼の強さを表しているのだろう。
「そんな物まで!?」
「人工衛星とドローンを使って調べ上げたんだ。天界の奴らもこのデータは持っていないだろう?」
「当たり前だろ、天界ではついこの前先兵を出して調査するとか言ってたし――」
あまりのハイテクっぷりに、こういう事に慣れて来た来人も流石に驚いた。
充分に発達した化学は魔法と区別が付かないと言うが、既にその技術は神の一歩先を行っている。
「ふふん。このデータはライトにプレゼントしよう」
そう言って、メガはカタカタとキーボードを操作してエンターキーを力強く押す。
すると、来人のスマートフォンにピロンとメッセージを知らせる通知音。
来人がメッセージを開くと、モニターに映し出されているのと同じ画面が表示される。
いつの間にか来人の連絡先を知っていたメガから、百鬼夜行のマップデータのファイルが送られて来た。
「天界の奴らにわざわざこれをくれてやるのは癪だが、百鬼夜行を放置できないのも事実だからネ。良かったら、ボクの事は秘密でライトからこれをあの馬鹿どもに渡してやってくれヨ」
「でも、それだと僕の手柄にならない?」
「いいさ、お礼と言っただろう? ライトの手柄になるからこそ、今日のお礼になるだろうヨ」
「分かった」
そう言われると、特に来人も断る理由も無い。
来人が承諾すると、メガは嬉しそうに頷いて、
「そして、これもおまけだ」
と、更にもう一つ画像をモニターに表示する。
「なんだ、これは?」
表示された画像は暗くて画質が荒く、何が映し出されているのかよく分からなかった。
「発生しかけの異界に刺激を与えて、内部にドローンを潜入させて撮影した映像の一部だヨ」
「何でもありだな……」
「もう驚かんぞ」
「やっぱりメガは天才だネ」
弟の活躍とそれに感心する二人の人間を見て、兄のガーネは嬉しそうだ。
「そして、それをAIで解析して明瞭にしたのがこれだヨ」
そして、モザイクが取れて少しずつその画像が何を映し出しているのか、はっきりと見えて来る。
「待ってくれ、こいつは――」
「ライトにお友達――つまりテイテイを連れて来て貰った、もう一つの理由がこれだヨ。こいつを、探していたんだろう?」
異界の中をドローンで映した映像、そこに映し出されていた者。
それは――、
「「――『赫』の鬼!」」
来人とテイテイは同時に声を上げる。
赤黒い血で塗りたくった様な混沌色の甲殻に覆われた、つるりとした頭の異形の怪物。
間違いない、『赫』の鬼だ。
秋斗を殺したあの上位個体の姿が、そこには有った。
「この発生予想地点にライトを配備してもらう様にするといい。このデータを持ち込んだ功績が有れば、あの馬鹿どもでもその程度の融通は効かせてくれるだろう」
「あはは……、相変わらず天界に厳しいな。でも、ありがとう」
「ああ、おかげで俺たちの目的が果たせそうだ」
来人とテイテイ、二人は大きな目標である“秋斗の仇を討つ”に一歩――いや、肉薄する程に大きく近づいた。
ガイア族は神に仕え共に戦う戦闘特化の一族、その中で戦えないメガは落ちこぼれ、神々にとっては使えないゴミ扱いだった。
「でも、そんな床に伏す使えないボクにもお兄ちゃんは優しくしてくれたんだヨ」
ガーネは外で運動できないメガの為に、本を与えた。
最初は絵本や植物や動物の図鑑、それからだんだんと難しい専門書まで読むようになった。
「そして、知識の海に溺れる事にどっぷりとハマったボクは、世界中のあらゆる英知を自身の器へと集約させたんだヨ」
幸い、戦闘には全く使えないメガの病弱な身体と魂も、そういう知識と記録のアーカイブ化としての利用は出来た。
「皆の素晴らしい魂と違って、ボクの魂の器はただの倉庫だ。そして、ボクは集めた英知を用いて自身の肉体と魂の改造に乗り出した」
メガは持てる知識と技術を駆使して、自らの手で病の完治、そして魂の拡張に成功した。
「もっとも、英知の集約の所為でボクの魂の器はどれだけ拡張しても容量オーバー。その所為でなんの色も持てないけどネ」
以上が、メガの語った身の上話だった。
曰く、メガ自身に色は無い、つまり依然戦う事は出来ない。
しかし、それでもそれを補って余りあるだけの知識と技術がその犬の小さな身体に詰まっている。
「ネの口も最初の頃に実験で改造してもらったネ」
「めちゃくちゃだ……」
話を聞き終えたテイテイは、驚いた様な呆れた様な声を漏らす。
というか、ガーネの口の収納は実験の産物だった事がここで判明。
もし実験が失敗していた場合どうなっていたかは……考えない方が良いだろう。
「でも、それなら戦えなくても天界も喉から手が出る程欲しがる人材なんじゃ」
「そうだろうネ。でも、もうボクは幾ら積まれても天界へ戻る気は無いヨ。ライトだって、一度自分をゴミと吐き捨てた古巣に戻りたくはないだろう?」
「まあ、そうだな」
”ゴミ”か、強い言葉だな。と思いつつ来人は頷く。
「ボクのつまらない話に付き合って貰って悪かったネ、ありがとう。半神半人とその契約者――良いデータが取れたヨ」
「こんなので良ければ、いつでも付き合うよ」
来人の返事に、メガは満足気に頷く。
「お礼に、良い物を見せてあげよう」
メガが言ってキーボードを操作すると、大きなモニターにマップが映し出される。
世界地図の様だが、幾つかの地点に目印が表示されている。
「これは、一体……?」
「これは今後の“百鬼夜行発生予想地点”だヨ」
つまり、この地図上の目印が百鬼夜行――つまり異界の発生予想地点だ。
目印には小さなものから大きな物まで有り、それが出現する鬼の強さを表しているのだろう。
「そんな物まで!?」
「人工衛星とドローンを使って調べ上げたんだ。天界の奴らもこのデータは持っていないだろう?」
「当たり前だろ、天界ではついこの前先兵を出して調査するとか言ってたし――」
あまりのハイテクっぷりに、こういう事に慣れて来た来人も流石に驚いた。
充分に発達した化学は魔法と区別が付かないと言うが、既にその技術は神の一歩先を行っている。
「ふふん。このデータはライトにプレゼントしよう」
そう言って、メガはカタカタとキーボードを操作してエンターキーを力強く押す。
すると、来人のスマートフォンにピロンとメッセージを知らせる通知音。
来人がメッセージを開くと、モニターに映し出されているのと同じ画面が表示される。
いつの間にか来人の連絡先を知っていたメガから、百鬼夜行のマップデータのファイルが送られて来た。
「天界の奴らにわざわざこれをくれてやるのは癪だが、百鬼夜行を放置できないのも事実だからネ。良かったら、ボクの事は秘密でライトからこれをあの馬鹿どもに渡してやってくれヨ」
「でも、それだと僕の手柄にならない?」
「いいさ、お礼と言っただろう? ライトの手柄になるからこそ、今日のお礼になるだろうヨ」
「分かった」
そう言われると、特に来人も断る理由も無い。
来人が承諾すると、メガは嬉しそうに頷いて、
「そして、これもおまけだ」
と、更にもう一つ画像をモニターに表示する。
「なんだ、これは?」
表示された画像は暗くて画質が荒く、何が映し出されているのかよく分からなかった。
「発生しかけの異界に刺激を与えて、内部にドローンを潜入させて撮影した映像の一部だヨ」
「何でもありだな……」
「もう驚かんぞ」
「やっぱりメガは天才だネ」
弟の活躍とそれに感心する二人の人間を見て、兄のガーネは嬉しそうだ。
「そして、それをAIで解析して明瞭にしたのがこれだヨ」
そして、モザイクが取れて少しずつその画像が何を映し出しているのか、はっきりと見えて来る。
「待ってくれ、こいつは――」
「ライトにお友達――つまりテイテイを連れて来て貰った、もう一つの理由がこれだヨ。こいつを、探していたんだろう?」
異界の中をドローンで映した映像、そこに映し出されていた者。
それは――、
「「――『赫』の鬼!」」
来人とテイテイは同時に声を上げる。
赤黒い血で塗りたくった様な混沌色の甲殻に覆われた、つるりとした頭の異形の怪物。
間違いない、『赫』の鬼だ。
秋斗を殺したあの上位個体の姿が、そこには有った。
「この発生予想地点にライトを配備してもらう様にするといい。このデータを持ち込んだ功績が有れば、あの馬鹿どもでもその程度の融通は効かせてくれるだろう」
「あはは……、相変わらず天界に厳しいな。でも、ありがとう」
「ああ、おかげで俺たちの目的が果たせそうだ」
来人とテイテイ、二人は大きな目標である“秋斗の仇を討つ”に一歩――いや、肉薄する程に大きく近づいた。
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