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第一章 百鬼夜行編
#25 天界で話題の鎖使い
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その後、来人は『針』の鬼の大きな核を換金して、その内幾らかを天界の通貨“トライト”にしてみた。
神様の文化には少し興味が有ったので、天界をふら付いて何か買ってみようという訳だ。
天界の街並みを歩いていると、道行く人々――いや、神々によく声を掛けらえれる。
「よっ、“鎖使い”! 昨日のティル様との戦い、熱かったぜ!」
「“鎖使い”! “どおなつ”ってやつ作ってみたんだ、美味いぜ? これ持って行けよ!」
あの日のティルとの決闘には沢山のギャラリーが居た。
その決闘で神々が内心軽視していた人間――つまり、来人が望外の活躍を見せたのだ。
それが神々の間で話題を呼び、三代目神王候補筆頭である純血の王子ティルに一矢報いた来人はちょっとした有名人になっていた。
“半神半人の鎖使い”――それが天界での来人の二つ名となっていた。
そんな訳で、道行く来人は神々にモテモテだ。
もっとも、主におじさんが多いのだが。
「もぐもぐ……、あんま甘くないな」
来人の知るドーナツと比べると甘さ控えめだ。
甘党の来人からすると、もっと砂糖マシマシの方が好みでは有る。
そんな感じで、来人はおじさんたちからの頂き物を腕に抱えて、“どおなつ”を食べながら天界をぶらぶらと散策している。
そうしていると、露店を開いている武器屋と思われる店が目に付いた。
大きな樽に剣や槍が適当に差さっていて、地べたに広げた商品は短剣や投げナイフ、他にも用途の分からない物が色々とラインナップされている。
店主と思われる男は帽子を被った獣人だ。
冬なんかに被る耳まで覆うタイプの帽子被っている。
来人が興味を示してそんな武器屋の露店の前で立ち止まると、店主の獣人が話しかけて来る。
「やあ、噂の鎖使い。うちの武器に興味が有るのかい?」
「そうですね。何が必要って訳じゃないんですけど、ちょっと目に付いたので。神様も武器って買うんですか?」
「そうだね、コレクションとして集める者も居れば、柱として愛用の一本を求める者も居るよ」
「あ、そうか。僕の相棒も刀を使ってました」
そういえば、ガーネも刀を柱として愛用していた。
子供の頃の露店で買った十字架のアクセサリーなんて柱として使っているのは、来人くらいのものかもしれない。
それでも、神の力は想像の――想いの力だ。
この絆の三十字には三人の思い出が詰まっている。
そういう点で見れば、これほど柱として強固な物も無いだろう。
「ガーネか。あいつは犬の姿をしている癖に刀を好む変わり者だよ」
「ガーネの事、知ってるんですか?」
「そりゃ、あいつはかなりの実力者だからな。それこそ、あのライジンが認める程度にはな」
「知らなかった……」
しかし考えてみれば、わざわざ父来神が選んで息子の傍に置いた相棒なのだから、不思議な話でも無い。
「それで、どうだい? 鎖使い、何か買って行かねえか?」
確かに今の手持ちはかなり潤っている、少しくらい衝動買いしても文句は言われまい。
しかし――、
「でも、自分の柱はもう有るんですよね」
来人にはもう三十字と王の証という二本の柱が有り、間に合っていた。
しかし、そんな冷やかしで済まそうとする来人に対して、店主はにやりと笑って商談を持ち掛ける。
「じゃあ、隠し玉を仕入れて行かねえか?」
「隠し玉、ですか?」
「そうさ、例えるなら暗器や懐刀の類。お前さんみたいな若者に分かりやすく言うなら、“サブウェポン”だ」
その店主からの提案に、来人はかなり興味をそそられた。
『鎖』の色と『泡沫』の色、そして二本の柱から成る二本の剣と、テイテイから伝授された格闘術『鎖拳』。
それが来人の今持つ手札。
来人はまだ神として戦い始めたばかりの新人だ。
その今持ち得る手札以外に、何が自分に必要なのか分かっていなかった。
他者から見た自分の戦闘スタイル、そして武器屋のプロが選んだ自分にぴったりの“隠し玉”。
来人のサブウェポン。
「なるほど。いいですね、じゃあお願いします」
「よし来た! じゃあ、まずはお前さんの戦い方を教えてくれよ。それに合わせて、俺が自慢の武具の中からおすすめの品を選んでやるよ」
「そうですね、僕の戦闘スタイルは――」
来人は自分の戦い方と持ち得る手札を店主へと伝えた。
そして、話を聞き終えた店主はごそごそと並べられた商品の内から、一つ手に取った。
それは大きな刀や槍の類とは違う、まさに“隠し玉”に相応しい物だった。
「――じゃあ、こいつだな」
来人は迷わず、店主の選んだそれを購入した。
「ありがとうございます。――そういえば、聞き忘れてたんですけど、あなたのお名前は?」
「俺の名は“カンガス”――ただの武器屋だ。また会おうぜ、鎖使い」
カンガスはにっと笑い、商品が売れて満足気だ。
こうして、天界で話題の鎖使い、来人は新たな武器――“隠し玉”を手に入れた。
神様の文化には少し興味が有ったので、天界をふら付いて何か買ってみようという訳だ。
天界の街並みを歩いていると、道行く人々――いや、神々によく声を掛けらえれる。
「よっ、“鎖使い”! 昨日のティル様との戦い、熱かったぜ!」
「“鎖使い”! “どおなつ”ってやつ作ってみたんだ、美味いぜ? これ持って行けよ!」
あの日のティルとの決闘には沢山のギャラリーが居た。
その決闘で神々が内心軽視していた人間――つまり、来人が望外の活躍を見せたのだ。
それが神々の間で話題を呼び、三代目神王候補筆頭である純血の王子ティルに一矢報いた来人はちょっとした有名人になっていた。
“半神半人の鎖使い”――それが天界での来人の二つ名となっていた。
そんな訳で、道行く来人は神々にモテモテだ。
もっとも、主におじさんが多いのだが。
「もぐもぐ……、あんま甘くないな」
来人の知るドーナツと比べると甘さ控えめだ。
甘党の来人からすると、もっと砂糖マシマシの方が好みでは有る。
そんな感じで、来人はおじさんたちからの頂き物を腕に抱えて、“どおなつ”を食べながら天界をぶらぶらと散策している。
そうしていると、露店を開いている武器屋と思われる店が目に付いた。
大きな樽に剣や槍が適当に差さっていて、地べたに広げた商品は短剣や投げナイフ、他にも用途の分からない物が色々とラインナップされている。
店主と思われる男は帽子を被った獣人だ。
冬なんかに被る耳まで覆うタイプの帽子被っている。
来人が興味を示してそんな武器屋の露店の前で立ち止まると、店主の獣人が話しかけて来る。
「やあ、噂の鎖使い。うちの武器に興味が有るのかい?」
「そうですね。何が必要って訳じゃないんですけど、ちょっと目に付いたので。神様も武器って買うんですか?」
「そうだね、コレクションとして集める者も居れば、柱として愛用の一本を求める者も居るよ」
「あ、そうか。僕の相棒も刀を使ってました」
そういえば、ガーネも刀を柱として愛用していた。
子供の頃の露店で買った十字架のアクセサリーなんて柱として使っているのは、来人くらいのものかもしれない。
それでも、神の力は想像の――想いの力だ。
この絆の三十字には三人の思い出が詰まっている。
そういう点で見れば、これほど柱として強固な物も無いだろう。
「ガーネか。あいつは犬の姿をしている癖に刀を好む変わり者だよ」
「ガーネの事、知ってるんですか?」
「そりゃ、あいつはかなりの実力者だからな。それこそ、あのライジンが認める程度にはな」
「知らなかった……」
しかし考えてみれば、わざわざ父来神が選んで息子の傍に置いた相棒なのだから、不思議な話でも無い。
「それで、どうだい? 鎖使い、何か買って行かねえか?」
確かに今の手持ちはかなり潤っている、少しくらい衝動買いしても文句は言われまい。
しかし――、
「でも、自分の柱はもう有るんですよね」
来人にはもう三十字と王の証という二本の柱が有り、間に合っていた。
しかし、そんな冷やかしで済まそうとする来人に対して、店主はにやりと笑って商談を持ち掛ける。
「じゃあ、隠し玉を仕入れて行かねえか?」
「隠し玉、ですか?」
「そうさ、例えるなら暗器や懐刀の類。お前さんみたいな若者に分かりやすく言うなら、“サブウェポン”だ」
その店主からの提案に、来人はかなり興味をそそられた。
『鎖』の色と『泡沫』の色、そして二本の柱から成る二本の剣と、テイテイから伝授された格闘術『鎖拳』。
それが来人の今持つ手札。
来人はまだ神として戦い始めたばかりの新人だ。
その今持ち得る手札以外に、何が自分に必要なのか分かっていなかった。
他者から見た自分の戦闘スタイル、そして武器屋のプロが選んだ自分にぴったりの“隠し玉”。
来人のサブウェポン。
「なるほど。いいですね、じゃあお願いします」
「よし来た! じゃあ、まずはお前さんの戦い方を教えてくれよ。それに合わせて、俺が自慢の武具の中からおすすめの品を選んでやるよ」
「そうですね、僕の戦闘スタイルは――」
来人は自分の戦い方と持ち得る手札を店主へと伝えた。
そして、話を聞き終えた店主はごそごそと並べられた商品の内から、一つ手に取った。
それは大きな刀や槍の類とは違う、まさに“隠し玉”に相応しい物だった。
「――じゃあ、こいつだな」
来人は迷わず、店主の選んだそれを購入した。
「ありがとうございます。――そういえば、聞き忘れてたんですけど、あなたのお名前は?」
「俺の名は“カンガス”――ただの武器屋だ。また会おうぜ、鎖使い」
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