【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第一章 百鬼夜行編

#21 想いの力

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「うん? なんだ?」
 
 鎖の擦れる金属音に、ティルはぴくりと反応を示す。
 しかし、もう既に自分に楯突く者は居ないと慢心していたティルは武器すら構えていなかった。

「ぐはっ……」
「ティル様!?」

 突如、ティルが血を吐き出す。
 ゆっくりとティルは自分が鈍い痛みを感じた箇所――背中へと意識を向ける。

 そこには、金色の剣が刺さっていた。
 その剣の柄を、捥いだはずの左腕が握りしめている。

 その左腕の傷口から先はまるで筋線維の様に寄り集まった幾つもの鎖が伸びていて、その鎖は来人の左肩へと繋がっていた。

「それは、お前のスキルか――!!」

 しゅるしゅると鎖が巻き取られ、剣が引き抜かれる。
 そのまま腕は来人の元へと戻って行く。
 
「はぐ……もぐもぐ……美味いな。美海、沢山練習してくれたんだな」

 立ち上がった来人は右手に“おにぎり”を持って、むしゃむしゃと頬張っていた。
 丁寧に海苔で巻かれたそのおにぎりの具には、来人の好物の唐揚げが入っていた。

 そして、来人がおにぎりを食べ終わった頃には、千切れたはずの左腕はぴったりと元の状態に回復していて、来人は肩をぐるぐると回して快調を確かめていた。

「どういう事だ!?」
「どうって、お前がさっき見せてくれたんだろ?」

 それは、ティルが先程見せた翼だ。
 スキル ではない、ただのイメージから作り出した翼。
 本来であれば戦闘に組み込む事が難しいその即席の想像を、ティルは使い熟していた。

「お前に出来る事なら、俺にだって出来るはずだ。そう思っただけだよ」
「なんだと!? 混血のお前如きに――!!」

 その来人言葉に、ティルは焦りと怒りを露わにする。

「ただ、ちょっと想像しただけさ。“絆の鎖はどんな物にも繋がっているだろうな”って、そして、傷の回復は美海ちゃんの想いのおかげだよ。“俺の事を思って作ってくれたおにぎりを食べれば、元気が出るだろうな”って、そうイメージした。想いイメージの力が神の力だ。そして、想いとは信仰」

 来人はおにぎりを包んでいたアルミホイルをくしゃっと丸めて、ポイと投げ捨てる。

「――俺が今立っているのは、友情の鎖と愛籠ったの弁当のおかげだ、どっちもお前が馬鹿にした人間の力だよ」

 来人は再び立ち上がる。
 二本の金色の剣を携えて、半神半人の王は人間の想像力で世界を彩る。

「らいたん!」
「ガーネ、行くぞ。あの天狗の鼻っ柱へし折ってやる」
「だネ!」

 ガーネも刀を咥えて、隣に立つ。

「オレ様も居るぜ!」
「ガーネと共闘は癪だけど、今回だけはね」

 立ち上がった陸とモシャも、その隣に並ぶ。
 二人の半神半人と、二匹のガイア族。
 それに対して、一人と一匹。

 どれだけ純血のサラブレッドが優れていようと、この人数差では流石のティルも劣勢にならざるを得ない。

「ちっ、雑魚が群れやがって……」
「ティル様、どういたしましょう」
 
 数秒の間、睨み合いが続く。
 そうしていると、人混みの奥から大男がずかずかと割って入って来た。

「おうい、お前ら、何やってんだ?」

 長い髭を生やした大男。
 肩には大きな猪(?)を担いでいる。
 その姿に、来人は見覚えがあった。
 それは陸もティルも同様だったらしく、一斉に声を上げる。

「「お爺ちゃん!?」」
「二代目!?」
 
 来人と陸は驚きのあまり神化が解けてしまった。
 なんと、三人の祖父――つまり二代目神王ウルスが現れたのだ。

 神王候補者の決闘という見世物に興じていた周囲の神々も「ウルス様だ……」「山から下りて来るなんて、珍しい……」とざわざわとしている。
 天界の端の山に住んでいると言っていたウルスだったが、今日は偶々山を下りて来たらしい。

「おう、来人と陸は久しぶりだな。何日ぶりだ?」
「最後に会ったのは十年以上も前だよ、お爺ちゃん……」
「あれ、そうだったか?」

 神様スケールで時間感覚がバグっているのか、そういう冗談なのか来人には判別が付かなかった。

「ま、いい。お前ら、仲良くしろよ?」

 にこにこと穏やかだったウルスだったが、一瞬ティルに向ける視線が鋭い者に変わる。

「それで、お爺ちゃんはどうしてここに?」
「ああ、こいつが獲れたから、アダンのとこに土産に持って来たんだ」

 こいつとウルスが指すのは肩に担いだ猪の様な何かだ。
 多分猪ではないが、どうやら食用肉ではあるらしい。
 山奥に住んで一人狩猟に励むパワフルなお爺ちゃんだ。
 
「どうだ、お前らも食うか?」
「食べたい!」
「僕もー」
 
 来人と陸がうんうんと頷くと、その場で解体して火を起こして丸焼きにし始めた。
 白一色だった綺麗な天界に肉を焼いた灰色の煙が立ち込める。

 ティルはウルスに聞こえない様にぼそりと「覚えてろよ」と捨て台詞を残して去って行ったが、来人と陸は骨付きの所謂漫画肉を目の前にして割とどうでもよくなっていた。
 
 焚火を囲みながら、ほんの僅かな時間だったが祖父と二人の孫は語り合った。
 二人は持ち寄ったお弁当を一緒に食べつつ。

「へえ、来人はもうそんなに契約してるのか」
「人間二人とガイア族一匹と、それに加えて柱が二本……一体どうなってるの?」
「へ? どうなってるって……どうなってるんだろう?」

 どうやら凄い事らしいが、来人にはあまり実感が湧かなかった。
 というのも、契約と言っても幼い頃の約束が勝手にそうなっていたのと、知らぬ間に勝手にガーネに結ばれていた物なのだ。

「魂の器には『記憶』『契約』『スキル』と色んな物を乗せて、その上で余力も残しておく必要が有るんだ。だから来人みたいに何人も契約して何個もスキルを持っていると、普通はすぐ一杯になって壊れちまうんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「ま、流石俺の孫と言ったところだな!」
「いたい、いたいよお爺ちゃん」

 ウルスは豪快に笑って来人の背中をばしばしと叩く。

「陸も頑張ってるみたいだな。前にも言ったが、別にうちに来てくれてもいいんだぞ?」
「ううん。僕には藍も居るから」
「そうか。まあいつでも困ったことが有れば頼ってくれ。と言っても、山奥まで来る方が大変かもしれんがな」

 そうして肉を食べ終えたウルスは立ち上がる。

「それじゃ、残りはアダンたちの方へ持って行く。また近い内に会うだろう」
「うん、ありがとう」
「お爺ちゃん、またねー」

 そんな風に、二代目と三代目候補ではなく、祖父と孫の穏やかな時間が過ぎて行った。
 
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