【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

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第一章 百鬼夜行編

#20 純血の王子

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 王の間を後にして、来人とガーネは核の換金所へと来た。
 
「これ、お願いします」

 ガーネが口からげろりと出した核の詰まった袋を受付に渡す。

「全部で十二個ですね。全て“トライト”に変換しますか?」

 すると、受付の人はそう聞いて来る。
 
「なあ、ガーネ。トライトってなんだ?」
「天界で使う通貨の単位だネ。らいたんは円に変えた方が良いネ」

 なるほど、天界では独自の通貨があるらしい。
 ちなみに1トライト1円の価値らしいので、覚えるのは簡単だ。

「じゃあ、全部日本円に変えて貰えますか?」
「かしこまりました。しばらくお待ちください」

 核のサイズ、つまり倒した鬼の強さによってまちまちだが、大体一個数千円~一万円くらいになるらしい。
 上位個体なんて幾らになるか見当もつかないが。

 二人は換金が終わるまで、その場で待つ。

「それにしても、アダン君が初代神王だったなんて……」
「初代を君付けで呼ぶの何てらいたんだけだネ」
「だって、初対面でそう言う感じになっちゃったから」
「大物だネ……」

 ガーネに呆れられてしまった。

 核の換金を終えて外へ出ると、陸とモシャがやって来た。

「あ、来人。王の間はどうだったー?」
「変な人たちだった……かな」

 フレンドリーな初代と、その補佐の着物美人。
 来人は遠い目で正直な感想を答えた。
 
「あはは、そうだねー」
「あと、百鬼夜行の話を聞いたよ。僕も参加する事にした」
「そっかー。勿論僕も行くから、一緒に頑張ろうねー」

 そう話していると、声を掛けられた。

「あれ? 君たちも、百鬼夜行の討伐に参加するのかい?」

 こちらを値踏みする様な視線を来人たちへ向けるブロンド色の髪で細身の男。
 天界ですれ違う人々も着ているのと同じ白の装束を纏い、首からは王の証を下げている。
 
「ティル……」

 陸が苦い表情を向ける。
 ティル――その名は、来人たちと同じ三代目神王候補者として聞いていた人物の名だ。

「陸、お前みたいな混血は来ても足手まといだよ。大人しく雑魚狩りで小銭稼いでなよ」

 ティルがそう挑発的に陸に突っかかるのを遮る様に、陸の肩に乗ったモシャが割って入る。

「お前には関係ないだろ、行こうぜ陸」
「関係無くはないだろう? 足手まといが居れば作戦の邪魔になるよ」

 そんな様子を見て、来人は堪らず口を挟む。

「やめなよ」
「君は?」
「――同じく三代目神王候補者、天野来人だ」
「へぇ。聞いているよ、君も混血なんだってね?」
「だったら何さ」

 ティルはユウリも言っていた純血主義の神なのだろう。
 王候補者としてのライバル関係というのも有るだろうが、それ以上にやけに来人と陸を目の敵にしてくる。
 
「いいや、別に。でも、ライジン様は愚かにも人間の血を混ぜて濁ってしまった。それが何とも嘆かわしいと思っただけさ」

 友人の陸だけでなく、自分の両親をも馬鹿にした。
 ティルのその発言に、来人は我慢ならなかった。
 
「全く、私の勝利が決まっている継承戦なんて、やる意味が有るとはとても思えないよ」
「やってみなきゃ、分からないだろ」
 
 来人の髪が白金色に染まる。

「いいね、やる気かい?」

 ティルはにやりと笑う。
 挑発に乗ってやるのは癪だが、それでも譲れない物はある。

「来人、僕は良いから」
「いいや、止めるな陸。こいつは俺の友達を、そして家族を侮辱した」
「ティル――あいつは僕らと同じ二代目神王ウルスの孫で、それと同時にもう一人の二代目候補だったゼウスの血も継いでいる、正真正銘のサラブレッドだよ。今戦っても勝てない」
「でも、だからと言ってそのままはいそうですかと下がる訳には行かないんだ」
「来いよ、場所を変えよう」

 来人たちは決闘の為に、天界の広場へとやって来た。
 
「お前を倒して、陸と俺の両親に謝らせてやる」
「その心へし折って、二度と神を名乗れなくしてやるよ」

 来人は十字架と王の証を金色の剣へと変える。
 そして、ティルは王の証を弓の形に変えた。

「らいたん!」

 ガーネも共に戦う為に前に出る。
 しかし――、

「ティル様の邪魔はさせません!」
「ガーネ!?」

 ガーネに獣が喰らい付く。

「ダンデ、よくやった。そのまま抑えておけ」
「はい、ティル様」

 ダンデと呼ばれたその獣は、ライオンの姿をしたガイア族だった。

「さあ、私とお前の一騎打ちだ。かかって来なよ」

 ティルは依然、余裕の笑みだ。

 天界の広場で、そして多くの神々が群衆として見守る中、二人の神王候補者が対峙する――。

 ティルが『光』の矢を作り出し、弓の弦を引き絞る。

「させないっ!!」

 しかし、その矢が放たれる前に来人は『鎖』のアンカーを地面に打ち込み、巻き取る勢いで急接近。
 二本の剣で斬りかかる。

 しかし、ティルは翼を生やして飛翔。
 天空へと回避した。

「なっ……その翼が、お前のスキルなのか」
「まさか。これはスキルでもなんでもない、ついさっきイメージした物だよ。このくらい、王なら当然だろう?」

 そして、ティルの反撃。
 天空から『光』の矢を放つ。

(距離はある、このくらいなら避けれなくも――)

 そんな思考の時間すら、与えられなかった。
 矢がティルの手を離れたとほぼ同時に、来人の左肩に『光』の矢が直撃。
 肉と骨が弾け飛び、左腕は来人の肉体を離れて放物線を描いて飛んでいく。

 どさり。
 来人の左腕が地に落ちる。
 
「……は?」

 来人は現実を認識出来なかった。
 視界から入る情報を処理するのに時間がかかる。
 そして、状況をの理解して来ると、遅れて腕の痛みがやって来る。

「があああああ!!!!」

 来人は腕を捥がれた痛みに苦悶し、地に倒れ伏す。
 その様子を見て価値を確信したティルはゆっくりと地上へと舞い降りる。

「ふん。やはり所詮は人間、大したことないな」
「らいたん!!」

 ライオンのダンデに捕まったままのガーネが声を上げる。

「お前……オレ様の友達に、よくも!!」

 堪らず陸も神化してティルに斬りかかる。
 しかし、ティルは即座に弓を陸へと向けて再び『光』の矢を放つ。

「陸!」

 すぐさま方に乗っていたモシャが反応し、『風』の防壁を産み出す。
 『光』の矢が『風』の防壁に触れると、一撃でその防壁を破壊。
 その破壊の勢いで爆風が産まれ、陸は吹き飛ばされて壁に激突。

「ぐはっ……」
「だから、混血が何体まとめてかかって来ようと同じだよ」

 純血の神王候補者の前に、二人の半神半人は倒れ伏した。
 
「やはり時間の無駄でしたね。、ティル様」

 ダンデはたっとティルの元に戻る。

「ああ」

 ティルはダンデにそう答えて、背を向けて去って行こうとする。
 拘束を解かれたガーネは身体を起こすが、その時――。

 ガーネは、ぴくりと来人の身体が動いたのを見た。
 
 じゃりん、じゃりん。
 鎖の擦れる、金属音。
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