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第一章 百鬼夜行編
#15 好敵手
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「その……知らなかったとはいえ、勝手に邪魔しに来て悪かった、ごめん」
「ううん。僕もいきなり襲い掛かってりしてごめんねー」
ユウリのお説教が終わった後。
来人は先程倒した鬼の核を陸へと渡して、二人は和解した。
「でも、それぞれ持ち場みたいなのが出来てるのなら、これからは他の地域にも行かない方がいいのかな?」
そんな来人の疑問に、陸の相棒モシャが答える。
「いいや、生活費を稼がなきゃならない陸としては死活問題なんだよ」
「あはは……。実は両親共昔鬼に殺されちゃっててねー。今うちは僕とこいつともう一人の三人暮らし、頑張って働かなきゃなんだー」
陸は来人と違って親が居らず、神だからと言って金銭的に恵まれている訳でなかった。
「それは……そうだったんだ。僕も昔、親友を鬼に殺されているんだ。その仇を討つ為に、戦っている」
そう話していると、ガーネが口を挟む。
「でも、お前の“父親も”神様、それも王の血統のはずだネ」
「確かに。陸の両親を殺せる鬼って――」
そんな疑問に、陸は答える。
「――『蒼』の鬼、それが僕の家族を殺した鬼の名前だよ。もっとも、親父が僕を守って相打ちに持ち込んだから、もう討伐済みだけどねー」
その後も、二人はお互いの話を話し合った。
何だかんだで似た者同士だった二人は、さっきまで本気で戦っていた事も忘れて、意気投合して仲良くなってしまった。
ユウリも仲直り(?)をした二人を見てうんうんと満足気だ。
「僕ら、似た者同士だったんだねー」
「だね。まさか陸も半神半人だったなんて、驚いたよ」
そう、先程ガーネが陸の両親の話になった際に父親だけに言及していた件が気になって、聞いてみた。
すると、なんと陸もまた神の父と人間の母の間に産まれた半神半人なのだと言う。
二人は同じ二代目神王の孫にあたる、つまり従兄弟同士だ。
「でも、三人中二人が半神半人の継承戦って、大丈夫なのかな……」
来人は少し不安になって渋い顔になる。
「天界ではもう一人の神王候補者――“ティル”って純血が王になるんじゃないかって下馬評だネ」
「ああ、やっぱり……」
来人と陸は少し肩を落とすが、そこにユウリがフォローを入れる。
「まあまあ、大丈夫ですよ。二人共れっきとした王の血筋ですから。確かに、ガーネさんの言う通り純血に拘る古臭い派閥も居ない事はないですが」
「ああ、天界に行こうって話になった時にテイテイ君たちを止めてたのはそれで……」
「そうですね、良く思わない神様も居るんですよ」
ユウリは少し眉を下げた。
そう言えば、ユウリは元人間だと言っていた。
であれば、そういう純血主義の神様に嫌な思いをさせられた経験もあるのかもしれない。
「あれ? もしかして、来人はまだ天界に行った事ないの?」
「ああ、うん。一回だけ連れていかれた事は有るんだけど、小さな部屋でちょっと人に会っただけで、まだ核の返還には行った事は無いんだ。核も集まって来たから、明日にでも行こうかとは思ってたんだけど」
「じゃあさ、僕と一緒に行こうよー? 丁度僕も明日行こうと思っていたんだー。僕の方が少し先輩だからね、案内するよー」
「本当? じゃあ、お願いしようかな」
まさかの申し出だ。
勿論断る理由なんてない。
「ネはこいつと一緒は嫌だネ!」
「俺もガーネと一緒は嫌だよ、陸!」
「文句言わない」
来人と陸は自分の相棒を適当に宥めて黙らせる。
旧知の二人は犬猿の仲だ。犬とイタチだけど。
そんな来人達の様子を見て、ユウリは「ふふっ」と笑みを溢す。
「どうしたんですか?」
「あ、いえ。来人君に新しいお友達が出来て、わたしも嬉しいなって。――陸君、来人君と仲良くしてあげてくださいね」
「はーい、こちらこそです」
ユウリはにこにことまるで母親の様な事を言う。
来人は少し照れ臭くなって話を逸らす。
「――でも、これから継承戦で戦うって相手と仲良くしてて良いのかな」
「何言ってるんですか、競い合う事といがみ合う事は違います。必要なのは敵対心ではなく競争心、相手を認めてリスペクトする事が大切なんです」
「すごい、先生っぽいですね」
「来人君? わたしは先生ですよ?」
「そうでした」
その日は陸と明日共に天界へと行く約束をした後、解散となった。
来人の好敵手であり、同じく三代目神王候補者である大熊陸。
(あのままユウリ先生が割って入らずに戦っていて、果たして僕は勝てただろうか……)
その実力は来人と同格――いや、それ以上の物だった。
年齢は変わらなくても、陸は来人と違ってもっと幼い頃からずっと神として生きて来た。
生きる為に、もう一人居ると言っていた家族を養う為に、戦ってきた。
そのたった数年分。
神様の時間感覚からすれば小さい様で、それでも人間の感覚からすれば大きな差。
それは確実にアドバンテージという壁となって、二人の間に存在していた。
そう来人は思っていた。
「……なあ、ガーネ」
「んネ?」
「僕、もっと強くなるよ」
このままでは、秋斗の仇を討つなんて目的には手が届かない。
『赫』の鬼には勝てない。
もっと学ぶ必要が有る、もっと力をつける必要が有る。
「ネ。らいたんなら出来るネ」
「ああ」
来人は決意も新たに、首から下げた十字架――絆の三十字を握りしめた。
「ううん。僕もいきなり襲い掛かってりしてごめんねー」
ユウリのお説教が終わった後。
来人は先程倒した鬼の核を陸へと渡して、二人は和解した。
「でも、それぞれ持ち場みたいなのが出来てるのなら、これからは他の地域にも行かない方がいいのかな?」
そんな来人の疑問に、陸の相棒モシャが答える。
「いいや、生活費を稼がなきゃならない陸としては死活問題なんだよ」
「あはは……。実は両親共昔鬼に殺されちゃっててねー。今うちは僕とこいつともう一人の三人暮らし、頑張って働かなきゃなんだー」
陸は来人と違って親が居らず、神だからと言って金銭的に恵まれている訳でなかった。
「それは……そうだったんだ。僕も昔、親友を鬼に殺されているんだ。その仇を討つ為に、戦っている」
そう話していると、ガーネが口を挟む。
「でも、お前の“父親も”神様、それも王の血統のはずだネ」
「確かに。陸の両親を殺せる鬼って――」
そんな疑問に、陸は答える。
「――『蒼』の鬼、それが僕の家族を殺した鬼の名前だよ。もっとも、親父が僕を守って相打ちに持ち込んだから、もう討伐済みだけどねー」
その後も、二人はお互いの話を話し合った。
何だかんだで似た者同士だった二人は、さっきまで本気で戦っていた事も忘れて、意気投合して仲良くなってしまった。
ユウリも仲直り(?)をした二人を見てうんうんと満足気だ。
「僕ら、似た者同士だったんだねー」
「だね。まさか陸も半神半人だったなんて、驚いたよ」
そう、先程ガーネが陸の両親の話になった際に父親だけに言及していた件が気になって、聞いてみた。
すると、なんと陸もまた神の父と人間の母の間に産まれた半神半人なのだと言う。
二人は同じ二代目神王の孫にあたる、つまり従兄弟同士だ。
「でも、三人中二人が半神半人の継承戦って、大丈夫なのかな……」
来人は少し不安になって渋い顔になる。
「天界ではもう一人の神王候補者――“ティル”って純血が王になるんじゃないかって下馬評だネ」
「ああ、やっぱり……」
来人と陸は少し肩を落とすが、そこにユウリがフォローを入れる。
「まあまあ、大丈夫ですよ。二人共れっきとした王の血筋ですから。確かに、ガーネさんの言う通り純血に拘る古臭い派閥も居ない事はないですが」
「ああ、天界に行こうって話になった時にテイテイ君たちを止めてたのはそれで……」
「そうですね、良く思わない神様も居るんですよ」
ユウリは少し眉を下げた。
そう言えば、ユウリは元人間だと言っていた。
であれば、そういう純血主義の神様に嫌な思いをさせられた経験もあるのかもしれない。
「あれ? もしかして、来人はまだ天界に行った事ないの?」
「ああ、うん。一回だけ連れていかれた事は有るんだけど、小さな部屋でちょっと人に会っただけで、まだ核の返還には行った事は無いんだ。核も集まって来たから、明日にでも行こうかとは思ってたんだけど」
「じゃあさ、僕と一緒に行こうよー? 丁度僕も明日行こうと思っていたんだー。僕の方が少し先輩だからね、案内するよー」
「本当? じゃあ、お願いしようかな」
まさかの申し出だ。
勿論断る理由なんてない。
「ネはこいつと一緒は嫌だネ!」
「俺もガーネと一緒は嫌だよ、陸!」
「文句言わない」
来人と陸は自分の相棒を適当に宥めて黙らせる。
旧知の二人は犬猿の仲だ。犬とイタチだけど。
そんな来人達の様子を見て、ユウリは「ふふっ」と笑みを溢す。
「どうしたんですか?」
「あ、いえ。来人君に新しいお友達が出来て、わたしも嬉しいなって。――陸君、来人君と仲良くしてあげてくださいね」
「はーい、こちらこそです」
ユウリはにこにことまるで母親の様な事を言う。
来人は少し照れ臭くなって話を逸らす。
「――でも、これから継承戦で戦うって相手と仲良くしてて良いのかな」
「何言ってるんですか、競い合う事といがみ合う事は違います。必要なのは敵対心ではなく競争心、相手を認めてリスペクトする事が大切なんです」
「すごい、先生っぽいですね」
「来人君? わたしは先生ですよ?」
「そうでした」
その日は陸と明日共に天界へと行く約束をした後、解散となった。
来人の好敵手であり、同じく三代目神王候補者である大熊陸。
(あのままユウリ先生が割って入らずに戦っていて、果たして僕は勝てただろうか……)
その実力は来人と同格――いや、それ以上の物だった。
年齢は変わらなくても、陸は来人と違ってもっと幼い頃からずっと神として生きて来た。
生きる為に、もう一人居ると言っていた家族を養う為に、戦ってきた。
そのたった数年分。
神様の時間感覚からすれば小さい様で、それでも人間の感覚からすれば大きな差。
それは確実にアドバンテージという壁となって、二人の間に存在していた。
そう来人は思っていた。
「……なあ、ガーネ」
「んネ?」
「僕、もっと強くなるよ」
このままでは、秋斗の仇を討つなんて目的には手が届かない。
『赫』の鬼には勝てない。
もっと学ぶ必要が有る、もっと力をつける必要が有る。
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「ああ」
来人は決意も新たに、首から下げた十字架――絆の三十字を握りしめた。
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