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第一章 百鬼夜行編
#14 もう一本の柱
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来人はもう一人の神王候補者、陸と対峙する。
「はぁっ!!」
「おらああああ!!!」
来人は十字架の剣を振るい、陸は大鎌を振り回す。
互いに金色の弧を描き、刃と刃がぶつかり合う。
「なかなかやるじゃねえか。――なら、少し本気を出してやるか」
数度の打ち合いの跡、陸は自身の色を発動させた。
「――陸の色は『炎』。全てを焼き尽くす、神の炎さ」
陸の持つ王の証の大鎌、その刃に炎を纏う。
「――おらおらァ!! その程度かァ!?」
陸はその炎を纏う煉獄の鎌を、まるで燃え盛る業火の様に激しく、それでいて舞う様に振るう。
右から刃が向かって来るかと思えば、今度は左。
激しい大鎌のラッシュが来人を襲う。
「ぐっ……」
来人はその炎をなんとか剣で受け、いなす。
しかし、ただでさえリーチの長い大鎌の攻撃に加えて、炎纏う事によって更にそのリーチは伸びている。
炎が掠めるだけで、肌を焼く。
来人の十字架の剣の有効範囲まで入り込めない。
しかし、来人の『鎖』の色も負けてはいない。
鍔迫り合いの間に鎖を巻き取る高速移動を絡めて縦横無尽に動き、手数で対抗する。
しかし、陸はその高速移動も見切ったかの様に対応し、背後に回っても長い鎌の柄で防がれてしまい、ついには手数が追いつかれる。
「終わりだァ!!」
「しまっ――」
来人の十字架の剣が陸の大鎌によって絡め捕られ、弾かれる。
金色の剣の形をしていた柱は、主の手を離れて十字架へと戻り、砂場に刺さる。
陸の持つ大鎌の纏う炎がより激しさを増す。
そして、返しの刃でより強く大きな炎の斬撃が繰り出される。
そのまま受ければ焼き殺されてしまうだろう。
「らいたん!!」
ガーネは全力で波動を注ぎ込み、『氷』の色を発動。
吹雪を起こしてモシャの作り出す風の壁を相殺する。
しかし、来人の元へは間に合わない。
大鎌が、来人に降り下ろされる。
――来人はユウリ先生の授業を思い出す。
神の力は想像を創造する。
しかし、それも無制限では無い。
何故神は『鎖』や『氷』の様に色として特定のイメージをメインとして使うのか。
それはイメージを具現化するまでのタイムラグだ。
自分中に強く残るイメージを魂の柱と紐づけて、器の上で色として固定しておくことで、その力はいつでも即座に呼び出せる。
逆に新たな物を想像しようとすれば、その骨格や形状、材質など全てをゼロからイメージして構築する必要が有るので、咄嗟の戦闘で上手く活用出来ないのだ。
勿論色を幾つも魂の器に固定してしまえば、その分容量を食ってしまうし、器の世界には来人が夢で見た様に記憶なんかも保存されているのでその全てを色の固定には充てられない。
パレットの上が絵の具でいっぱいになってしまえば、新たな色を調色する場所が無い。
白い余白を残しておく事で、初めて赤と青を混ぜて紫を作る事が出来るのだ。
――来人君は、わたしよりも遥かに強い素質を持っています。
普通の神々は魂の柱と紐づけた色を一つ持つのがやっと。
色を二つも三つも持てる神は、それだけ器に余裕が有る者だけだ。
しかし裏を返せば、色を二つ持てる程に器に余裕が有れば、そして色と紐づけられる柱を二本持っていれば、それは理論上可能なのである。
つまり――、
――王の血を継ぎ、破格の器と波動を持った来人君なら、出来るはずです。
「何ッ……!?」
確実に攻撃が通ったと思っていた陸は、驚きの声を上げる。
「らいたん! それは――」
柱である十字架を弾き飛ばされたはずの来人の手には、もう一本の金色の剣。
その剣の柄と刀身の間には「く」の字と「V」の字の広がった方同士を合わせた特徴的な“王の証の意匠”が残っている。
来人の二本目の魂の柱――王の証の剣だ。
来人はその二本目の剣で陸の鎌を受け止める。
「――継承戦なんてどうでもいい。でも、俺は秋斗の仇を討つんだ。――だから、こんな所で、負ける訳にはいかない」
そして、弾く。
「――はあああぁぁ!!!」
そして、来人が王の証の剣の切先を陸に突き付ける。
その切先からは“泡”が産み出され、水球の弾丸となって放たれる。
来人の二つ目の色、それは陸の『炎』を掻き消す水――『泡沫』の色。
「ぐあああああ!!!」
『泡沫』の色、バブルの弾丸を受けて後方へ吹き飛ばされる陸。
陸の鎌に纏っていた炎も鎮火し、手元を弾かれる。
主の元を離れた柱はその形を鎌から王の証へと戻し、からんと地面に落ちる。
来人の隠していた懐刀、王の証。
見事陸の裏を掻き、形勢逆転。
しかし、陸も折れない。
「クソッ! まだだァ!! オレ様にだって、負けられねえ理由があんだよォ!!」
陸はむくりと身体を起こし、後方へと腕を伸ばす。
すると、弾かれた王の証はひとりでに動き出し、陸の手元へ戻って再び鎌の形を成す。
「なるほど、そういう事も出来るのか。なら――」
来人はそれを見て、自分も砂山に刺さる十字架へと手を伸ばす。
すると、同じく魂の柱たる絆の三十字もまた来人の手へと帰って来て、剣の形を成す。
来人の右手には十字架の剣、左手には王の証の剣。
金色の二刀流だ。
陸は鎌の先で炎を練り上げ、巨大な炎球を作り上げる。
そして、来人もまた二本の切先にバブルを作り出し、対抗する。
『炎』と『泡沫』、相反する二色の色が、ぶつかり合う。
互いに譲れぬ物の為に、目的の為に。
そして、二人の全力の攻撃が放たれようとした、その時――。
「ちょっと、待ったー!!」
間にユウリが割って入って来た。
ユウリの放った『結晶』の弾丸によって、二人の作り出していた炎球とバブル――王の血筋の二人の神の作り出した渾身の技が、一撃で弾け飛ぶ。
「ちょ、ユウリ先生!?」
「なっ……誰だ?」
驚く来人と、再びの見知らぬ神の来襲に怪訝な表情を浮かべる陸。
「こらっ! 継承戦前に勝手に戦ってどうするんですか!」
どこから持って来たのか、はりせんで二人の頭をぺしりと叩く。
「「いや、でも――」」
二人が言い訳を並べようとする。
しかし――、
「でもやだってじゃありません! そこに座りなさい!」
ユウリ先生のお叱りを受けて、その場で正座させられる来人と陸。
すっかり毒気を抜かれた二人。
二人の柱は元の形に戻っていて、来人の髪色も白金から茶へ。
そして、陸の髪も黒になっていた。
「あはは、怒られちゃったねー」
陸は先程までと打って変わって、照れ臭そうに優しい声色で話しかけて来る。
「うぇっ!? お前、そんなキャラだっけ……?」
「陸は戦闘になると頭に血が上って、人が変わるのさ」
モシャが補足してくれた。
つまり、この柔らかな方の陸が本来の性格なのだろう。
「いや、ならお前が止めるネ」
「むりむり。俺には出来ないよ」
「諦めるなネ!」
旧知の仲らしいガーネとモシャは何やらじゃれ合っている。
話してみれば、陸は何てことない優しい青年だった。
ただ自分の狩場に知らない神が居たものだから、獲物を横取りしに来たのかとついかっとなったのだと言う。
「――って、二人共、聞いてますか?」
「はいっ」
「ごめんなさーい」
その後、二人はしばらくユウリ先生のお説教を聞く事になるのだった。
「はぁっ!!」
「おらああああ!!!」
来人は十字架の剣を振るい、陸は大鎌を振り回す。
互いに金色の弧を描き、刃と刃がぶつかり合う。
「なかなかやるじゃねえか。――なら、少し本気を出してやるか」
数度の打ち合いの跡、陸は自身の色を発動させた。
「――陸の色は『炎』。全てを焼き尽くす、神の炎さ」
陸の持つ王の証の大鎌、その刃に炎を纏う。
「――おらおらァ!! その程度かァ!?」
陸はその炎を纏う煉獄の鎌を、まるで燃え盛る業火の様に激しく、それでいて舞う様に振るう。
右から刃が向かって来るかと思えば、今度は左。
激しい大鎌のラッシュが来人を襲う。
「ぐっ……」
来人はその炎をなんとか剣で受け、いなす。
しかし、ただでさえリーチの長い大鎌の攻撃に加えて、炎纏う事によって更にそのリーチは伸びている。
炎が掠めるだけで、肌を焼く。
来人の十字架の剣の有効範囲まで入り込めない。
しかし、来人の『鎖』の色も負けてはいない。
鍔迫り合いの間に鎖を巻き取る高速移動を絡めて縦横無尽に動き、手数で対抗する。
しかし、陸はその高速移動も見切ったかの様に対応し、背後に回っても長い鎌の柄で防がれてしまい、ついには手数が追いつかれる。
「終わりだァ!!」
「しまっ――」
来人の十字架の剣が陸の大鎌によって絡め捕られ、弾かれる。
金色の剣の形をしていた柱は、主の手を離れて十字架へと戻り、砂場に刺さる。
陸の持つ大鎌の纏う炎がより激しさを増す。
そして、返しの刃でより強く大きな炎の斬撃が繰り出される。
そのまま受ければ焼き殺されてしまうだろう。
「らいたん!!」
ガーネは全力で波動を注ぎ込み、『氷』の色を発動。
吹雪を起こしてモシャの作り出す風の壁を相殺する。
しかし、来人の元へは間に合わない。
大鎌が、来人に降り下ろされる。
――来人はユウリ先生の授業を思い出す。
神の力は想像を創造する。
しかし、それも無制限では無い。
何故神は『鎖』や『氷』の様に色として特定のイメージをメインとして使うのか。
それはイメージを具現化するまでのタイムラグだ。
自分中に強く残るイメージを魂の柱と紐づけて、器の上で色として固定しておくことで、その力はいつでも即座に呼び出せる。
逆に新たな物を想像しようとすれば、その骨格や形状、材質など全てをゼロからイメージして構築する必要が有るので、咄嗟の戦闘で上手く活用出来ないのだ。
勿論色を幾つも魂の器に固定してしまえば、その分容量を食ってしまうし、器の世界には来人が夢で見た様に記憶なんかも保存されているのでその全てを色の固定には充てられない。
パレットの上が絵の具でいっぱいになってしまえば、新たな色を調色する場所が無い。
白い余白を残しておく事で、初めて赤と青を混ぜて紫を作る事が出来るのだ。
――来人君は、わたしよりも遥かに強い素質を持っています。
普通の神々は魂の柱と紐づけた色を一つ持つのがやっと。
色を二つも三つも持てる神は、それだけ器に余裕が有る者だけだ。
しかし裏を返せば、色を二つ持てる程に器に余裕が有れば、そして色と紐づけられる柱を二本持っていれば、それは理論上可能なのである。
つまり――、
――王の血を継ぎ、破格の器と波動を持った来人君なら、出来るはずです。
「何ッ……!?」
確実に攻撃が通ったと思っていた陸は、驚きの声を上げる。
「らいたん! それは――」
柱である十字架を弾き飛ばされたはずの来人の手には、もう一本の金色の剣。
その剣の柄と刀身の間には「く」の字と「V」の字の広がった方同士を合わせた特徴的な“王の証の意匠”が残っている。
来人の二本目の魂の柱――王の証の剣だ。
来人はその二本目の剣で陸の鎌を受け止める。
「――継承戦なんてどうでもいい。でも、俺は秋斗の仇を討つんだ。――だから、こんな所で、負ける訳にはいかない」
そして、弾く。
「――はあああぁぁ!!!」
そして、来人が王の証の剣の切先を陸に突き付ける。
その切先からは“泡”が産み出され、水球の弾丸となって放たれる。
来人の二つ目の色、それは陸の『炎』を掻き消す水――『泡沫』の色。
「ぐあああああ!!!」
『泡沫』の色、バブルの弾丸を受けて後方へ吹き飛ばされる陸。
陸の鎌に纏っていた炎も鎮火し、手元を弾かれる。
主の元を離れた柱はその形を鎌から王の証へと戻し、からんと地面に落ちる。
来人の隠していた懐刀、王の証。
見事陸の裏を掻き、形勢逆転。
しかし、陸も折れない。
「クソッ! まだだァ!! オレ様にだって、負けられねえ理由があんだよォ!!」
陸はむくりと身体を起こし、後方へと腕を伸ばす。
すると、弾かれた王の証はひとりでに動き出し、陸の手元へ戻って再び鎌の形を成す。
「なるほど、そういう事も出来るのか。なら――」
来人はそれを見て、自分も砂山に刺さる十字架へと手を伸ばす。
すると、同じく魂の柱たる絆の三十字もまた来人の手へと帰って来て、剣の形を成す。
来人の右手には十字架の剣、左手には王の証の剣。
金色の二刀流だ。
陸は鎌の先で炎を練り上げ、巨大な炎球を作り上げる。
そして、来人もまた二本の切先にバブルを作り出し、対抗する。
『炎』と『泡沫』、相反する二色の色が、ぶつかり合う。
互いに譲れぬ物の為に、目的の為に。
そして、二人の全力の攻撃が放たれようとした、その時――。
「ちょっと、待ったー!!」
間にユウリが割って入って来た。
ユウリの放った『結晶』の弾丸によって、二人の作り出していた炎球とバブル――王の血筋の二人の神の作り出した渾身の技が、一撃で弾け飛ぶ。
「ちょ、ユウリ先生!?」
「なっ……誰だ?」
驚く来人と、再びの見知らぬ神の来襲に怪訝な表情を浮かべる陸。
「こらっ! 継承戦前に勝手に戦ってどうするんですか!」
どこから持って来たのか、はりせんで二人の頭をぺしりと叩く。
「「いや、でも――」」
二人が言い訳を並べようとする。
しかし――、
「でもやだってじゃありません! そこに座りなさい!」
ユウリ先生のお叱りを受けて、その場で正座させられる来人と陸。
すっかり毒気を抜かれた二人。
二人の柱は元の形に戻っていて、来人の髪色も白金から茶へ。
そして、陸の髪も黒になっていた。
「あはは、怒られちゃったねー」
陸は先程までと打って変わって、照れ臭そうに優しい声色で話しかけて来る。
「うぇっ!? お前、そんなキャラだっけ……?」
「陸は戦闘になると頭に血が上って、人が変わるのさ」
モシャが補足してくれた。
つまり、この柔らかな方の陸が本来の性格なのだろう。
「いや、ならお前が止めるネ」
「むりむり。俺には出来ないよ」
「諦めるなネ!」
旧知の仲らしいガーネとモシャは何やらじゃれ合っている。
話してみれば、陸は何てことない優しい青年だった。
ただ自分の狩場に知らない神が居たものだから、獲物を横取りしに来たのかとついかっとなったのだと言う。
「――って、二人共、聞いてますか?」
「はいっ」
「ごめんなさーい」
その後、二人はしばらくユウリ先生のお説教を聞く事になるのだった。
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