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第一章 百鬼夜行編
#13 もう一人の神王候補者
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結局、美海は弁当の材料を買いに行くからとそのまま帰って行った。
そう言えば何しに来たのかな、と思って聞いてみると、わざわざ心配させまいと元気な姿を見せに来てくれたらしい。
可愛い奴め、うりうり。とじゃれていると、また生暖かい視線を感じて自重した来人だった。
その後、テイテイも自分の家に届いた荷物の片付けにと帰って行った。
そして来人とガーネは鬼退治にも慣れて来たから今日は少し遠出してみようと、鬼の反応を追って普段の生活圏を離れた所まで来ていた。
ユウリは照子に捕まっていたので、後から合流するとの事。
白金の髪の青年と、白銀の体毛の猟犬。
屋根を足場に跳んでいるが、道行く人らは来人たちに注目する事は無い。
まるで見えていないみたいだ。
というのも、普通の人間は意識しなければ神々を認識できない。
普通に生きていて神様を見た事があるだろうか?
いや、一般的にそう言う経験をした事がある者は居ないだろう。
神様というのは見えない事が、認識できない事が当たり前なのだ。
もっとも、存在を心の底から信じている信仰の強い者や神との契約者、そして強い波動を持つ者なんかは例外だが。
「この辺は土地勘も無いはずなんだが、意外と迷わないもんだな」
「ある程度走れば辺りの地形くらい想像出来るネ」
「そういうもんか」
想像を創造する、神だからこそ可能な芸当だろう。
「近いネ」
そうして辿り着いたのは、無人の寂れた公園だった。
その公園には四足歩行の獣の様な姿をした鬼。
そして、傍には子供の様な小さな人影が倒れている。
「――!?」
既に犠牲者が。
しかし、もしかするとまだ生きているかもしれない。
「おい、大丈夫か!?」
焦りから、咄嗟に身体は子供の方へと駆け寄る。
しかし――、
「らいたん、危ないネ!」
子供へと近寄ろうとした来人を、ガーネの声が静止する。
反射的に身体を横へ捻る来人。
「がっ……ぐあぁ……」
来人は脇腹を太い棘で抉られ、倒れ込む。
見れば、その棘は子供の身体から何本も突き出ていた。
いや、これは子供ではない。
子供台のサイズで遠目では人型の様に見えるが、近づけば分かる。
これは、人の子を模した釣り餌だ。
その疑似餌は獣の鬼の尻尾に繋がっている。
鬼から伸びた尻尾の先が人の子を模していて、それを餌として近づいて来た相手を棘で襲う仕掛けだ。
アンキロサウルスの様な姿をしたその鬼は尻尾をぶんぶんと振り回し、棘がいくつも生えた尻尾の先をまるでモーニングスターの様に扱う。
その棘玉の一撃が来人に向かって振りかざされるが、十字架の剣で受け止める。
その隙にガーネが『氷』の斬撃を獣の鬼へ放ち、鬼は一歩退行。
同時に棘玉も引き戻され、来人も体勢を立て直す。
「大丈夫ネ?」
「ああ、すまん。油断した」
初めて見るタイプの鬼だ。
まさか、こんな絡め手を使って来るとは。
しかし、やる事は変わらない。
鬼は尻尾をぶんぶんと振り回しながら、来人に向かって突進して来る。
「ガーネ!」
「ネ!」
阿吽の呼吸。
二人は両サイドに飛び退きそれを回避。
二人が居た場所に尻尾の先の棘玉が降り下ろされ、地面に亀裂が走る。
そして、来人は遊具に向かって袖口の隙間から鎖を発射して巻き付け、それを巻き取る高速移動でそのまま鬼の背後を取る。
「こっちだネ!」
ガーネがわざと声を発し、鬼のヘイトを買う。
鬼はガーネに向かって尻尾を叩き付けようとするが――、
「残念だったな」
来人は先手を打っていた。
地面に走る亀裂は“隙間”だ。
来人の色『鎖』は隙間から鎖を生成する。
亀裂から伸びた鎖は鬼の尻尾を拘束し、そのモーニングスターを振ります様な攻撃を封じていた。
「――終わりだっ!!」
来人は鬼に向かって鎖を打ち込み、巻き取る勢いで斬りつける。
一閃。
十字架の剣が金色の弧を描き、獣の鬼を一刀両断。
鬼の身体は炭のように黒くなって端からボロボロと崩れ落ち、塵は風に乗って消えて行った。
「ふぅ……お疲れ」
「だネ」
二人が健闘を称え合う。
そして落ちた核を拾い、一仕事を終えた来人の髪も少しずつ白金から茶へと戻ろうとしていた時。
――殺気。
来人はそれに気付き、すぐさま十字架へと戻そうとしていた剣を再び構え直し、殺気の刺さる方へ向かって振るう。
カキンと刃同士がぶつかる金属音。
手に持っていた核はその勢いで再び地面に落ちる。
「鎌――!?」
来人を襲った殺気の正体、それは大きな鎌だった。
しかし、それは鬼の物ではない。
白と黒の布が巻きつけられた柄と、鉄色の刃の鎌。
そしてその柄と刃を繋ぐ根元には、“王の証”と同じ意匠。
「お前、誰だ? こいつはオレ様の獲物だ」
「それはこっちの台詞だ。その鎌、お前――」
「――三代目神王候補者が一人、大熊陸」
大鎌を持ち、前髪が目元までかかった白金の短髪の男はそう名乗る。
来人と同じ、王の血統。
「らいたんっ――!!」
ガーネが加勢に入ろうとする。
しかし――、
「よっ、久しぶりじゃん、ガーネ」
ガーネの周囲を突風が吹き荒れ、来人に近づくの遮る。
そして、風と共に一匹の茶色い体毛のイタチが現れた。
「お前は、モシャ!?」
ガーネがモシャと呼ぶ、喋るイタチ。
ガイア族だ。
「知り合いか!?」
「余所見してんじゃねえ」
ガイア族の二匹の方に一瞬気を取られた来人を、陸は蹴り飛ばす。
「お前ら、何のつもりだネ」
「何って、ここらは元から俺たちの狩場だぜ? それを荒らしに来たのはお前らだろ?」
ガーネが問えば、モシャが答える。
「ぐっ……。狩場って、そんなの聞いてないぞ」
来人は立ち上がる。
「そりゃ、言ってないからな。だがオレ様は今までここらで他の神を見た事がねえ。お前、新人か?」
どうやら来人たちは他の王候補者の活動圏に足を踏み入れてしまい、その怒りを買ってしまった様だ。
「お前と同じ神王候補者、天野来人だ。お察しの通り最近神様始めたばかりだよ」
「へえ、お前も……、丁度いい。来いよ、ボコしてやる」
陸は経ちあがった来人に再び鎌を来人向ける。
ここで王候補者同士の戦い、つまり継承戦を勝手に始めようとしている。
「ちょ、勝手に決めるなネ!」
ガーネが止めに入ろうと刀を振るうが、モシャの作る風の壁に弾かれる。
「おっと、ダメダメ。陸の邪魔はさせないよ?」
「くそっ……」
ガーネの援護は受けられない。
しかし、それは相手も同じだ。
陸の相棒モシャはガーネを拘束する為に力を使っていて、そっちに掛かりきりだ。
つまり、これは来人と陸の一対一。
逃げる選択肢は無いと判断した来人は、もう一人の神王候補者、陸へと立ち向かう。
そう言えば何しに来たのかな、と思って聞いてみると、わざわざ心配させまいと元気な姿を見せに来てくれたらしい。
可愛い奴め、うりうり。とじゃれていると、また生暖かい視線を感じて自重した来人だった。
その後、テイテイも自分の家に届いた荷物の片付けにと帰って行った。
そして来人とガーネは鬼退治にも慣れて来たから今日は少し遠出してみようと、鬼の反応を追って普段の生活圏を離れた所まで来ていた。
ユウリは照子に捕まっていたので、後から合流するとの事。
白金の髪の青年と、白銀の体毛の猟犬。
屋根を足場に跳んでいるが、道行く人らは来人たちに注目する事は無い。
まるで見えていないみたいだ。
というのも、普通の人間は意識しなければ神々を認識できない。
普通に生きていて神様を見た事があるだろうか?
いや、一般的にそう言う経験をした事がある者は居ないだろう。
神様というのは見えない事が、認識できない事が当たり前なのだ。
もっとも、存在を心の底から信じている信仰の強い者や神との契約者、そして強い波動を持つ者なんかは例外だが。
「この辺は土地勘も無いはずなんだが、意外と迷わないもんだな」
「ある程度走れば辺りの地形くらい想像出来るネ」
「そういうもんか」
想像を創造する、神だからこそ可能な芸当だろう。
「近いネ」
そうして辿り着いたのは、無人の寂れた公園だった。
その公園には四足歩行の獣の様な姿をした鬼。
そして、傍には子供の様な小さな人影が倒れている。
「――!?」
既に犠牲者が。
しかし、もしかするとまだ生きているかもしれない。
「おい、大丈夫か!?」
焦りから、咄嗟に身体は子供の方へと駆け寄る。
しかし――、
「らいたん、危ないネ!」
子供へと近寄ろうとした来人を、ガーネの声が静止する。
反射的に身体を横へ捻る来人。
「がっ……ぐあぁ……」
来人は脇腹を太い棘で抉られ、倒れ込む。
見れば、その棘は子供の身体から何本も突き出ていた。
いや、これは子供ではない。
子供台のサイズで遠目では人型の様に見えるが、近づけば分かる。
これは、人の子を模した釣り餌だ。
その疑似餌は獣の鬼の尻尾に繋がっている。
鬼から伸びた尻尾の先が人の子を模していて、それを餌として近づいて来た相手を棘で襲う仕掛けだ。
アンキロサウルスの様な姿をしたその鬼は尻尾をぶんぶんと振り回し、棘がいくつも生えた尻尾の先をまるでモーニングスターの様に扱う。
その棘玉の一撃が来人に向かって振りかざされるが、十字架の剣で受け止める。
その隙にガーネが『氷』の斬撃を獣の鬼へ放ち、鬼は一歩退行。
同時に棘玉も引き戻され、来人も体勢を立て直す。
「大丈夫ネ?」
「ああ、すまん。油断した」
初めて見るタイプの鬼だ。
まさか、こんな絡め手を使って来るとは。
しかし、やる事は変わらない。
鬼は尻尾をぶんぶんと振り回しながら、来人に向かって突進して来る。
「ガーネ!」
「ネ!」
阿吽の呼吸。
二人は両サイドに飛び退きそれを回避。
二人が居た場所に尻尾の先の棘玉が降り下ろされ、地面に亀裂が走る。
そして、来人は遊具に向かって袖口の隙間から鎖を発射して巻き付け、それを巻き取る高速移動でそのまま鬼の背後を取る。
「こっちだネ!」
ガーネがわざと声を発し、鬼のヘイトを買う。
鬼はガーネに向かって尻尾を叩き付けようとするが――、
「残念だったな」
来人は先手を打っていた。
地面に走る亀裂は“隙間”だ。
来人の色『鎖』は隙間から鎖を生成する。
亀裂から伸びた鎖は鬼の尻尾を拘束し、そのモーニングスターを振ります様な攻撃を封じていた。
「――終わりだっ!!」
来人は鬼に向かって鎖を打ち込み、巻き取る勢いで斬りつける。
一閃。
十字架の剣が金色の弧を描き、獣の鬼を一刀両断。
鬼の身体は炭のように黒くなって端からボロボロと崩れ落ち、塵は風に乗って消えて行った。
「ふぅ……お疲れ」
「だネ」
二人が健闘を称え合う。
そして落ちた核を拾い、一仕事を終えた来人の髪も少しずつ白金から茶へと戻ろうとしていた時。
――殺気。
来人はそれに気付き、すぐさま十字架へと戻そうとしていた剣を再び構え直し、殺気の刺さる方へ向かって振るう。
カキンと刃同士がぶつかる金属音。
手に持っていた核はその勢いで再び地面に落ちる。
「鎌――!?」
来人を襲った殺気の正体、それは大きな鎌だった。
しかし、それは鬼の物ではない。
白と黒の布が巻きつけられた柄と、鉄色の刃の鎌。
そしてその柄と刃を繋ぐ根元には、“王の証”と同じ意匠。
「お前、誰だ? こいつはオレ様の獲物だ」
「それはこっちの台詞だ。その鎌、お前――」
「――三代目神王候補者が一人、大熊陸」
大鎌を持ち、前髪が目元までかかった白金の短髪の男はそう名乗る。
来人と同じ、王の血統。
「らいたんっ――!!」
ガーネが加勢に入ろうとする。
しかし――、
「よっ、久しぶりじゃん、ガーネ」
ガーネの周囲を突風が吹き荒れ、来人に近づくの遮る。
そして、風と共に一匹の茶色い体毛のイタチが現れた。
「お前は、モシャ!?」
ガーネがモシャと呼ぶ、喋るイタチ。
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「知り合いか!?」
「余所見してんじゃねえ」
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「お前ら、何のつもりだネ」
「何って、ここらは元から俺たちの狩場だぜ? それを荒らしに来たのはお前らだろ?」
ガーネが問えば、モシャが答える。
「ぐっ……。狩場って、そんなの聞いてないぞ」
来人は立ち上がる。
「そりゃ、言ってないからな。だがオレ様は今までここらで他の神を見た事がねえ。お前、新人か?」
どうやら来人たちは他の王候補者の活動圏に足を踏み入れてしまい、その怒りを買ってしまった様だ。
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「おっと、ダメダメ。陸の邪魔はさせないよ?」
「くそっ……」
ガーネの援護は受けられない。
しかし、それは相手も同じだ。
陸の相棒モシャはガーネを拘束する為に力を使っていて、そっちに掛かりきりだ。
つまり、これは来人と陸の一対一。
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