【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
11 / 150
第一章 百鬼夜行編

#11 『赫』の鬼

しおりを挟む
 二人は左腕の鎖を辿って歩を進め、その根元へと辿り着いた。

 その鎖の先は異質な世界だった。
 赤黒く、混沌が渦巻く空間。

 来人の真っ白で清潔な器の世界の中に、一か所だけ異質な、血溜まりの様な混沌の世界が広がっていた。
 そして、その赤黒い混沌の中に、一つだけ泡が浮かんでいた。
 来人の左腕の鎖は、その泡に繋がっている。
 
「なんだこれ……」
「この色、鬼の核みたいだ」

 赤黒い混沌、それはまるで鬼の核の様。

「鬼に殺されたから、ここもこうなってしまったのかな」
「酷いな……」

 テイテイも苦虫を嚙み潰したように、眉間に皺を寄せる。

「この泡って――」
「ああ、あの時の記憶だ」
 
 あの時――つまり、秋斗が殺された時の記憶。

「ねえ、テイテイ君。この記憶を、一緒に見てくれない?」
「どうしてだ? 辛い思い出だ、わざわざ思い出さなくてもいい」
「秋斗を殺した鬼の姿を、ちゃんと見ておきたい。もし次に出会った時に、殺せる様に」

 秋斗の仇は、まだ生きている。
 そして、今来人とテイテイにはその鬼に対抗できる力がある。
 もう、無力な子供じゃない。

「……分かった。行くぞ」
「うん」

 二人は鎖を辿り、赤黒い混沌の血溜まりを踏み越えて、泡の元へ。
 そして、同時にその泡に触れる。

 すると、泡は弾けて、同時に二人の頭の中に、記憶のビジョンが流れ込んでくる――。

 
 死んだ。
 目の前で、親友が死んだ。
 殺されたのだ。

 十歳の頃の、幼き日の思い出だ。
 天野来人あまの らいと、イェン・テイテイ、木島秋斗きじま あきとの幼馴染で親友同士の三人は、来人の両親に連れられて旅行に来ていた。

 父のおかげで裕福な家で育った来人にとって、旅行へ行くのは毎年恒例の事だった。
 それらはどれも来人にとって最高の思い出、宝物だ。
 今年の旅行も、そうなるだろうと期待に胸を膨らませていた。
 
 しかし、今年の旅行は違った。
 最高の思い出となるはずだったその旅行は、最悪の思い出となってしまった。
 
 三人は親と世話係のメイドたちとはぐれて、異界へと迷い込んでしまったのだ。
 そして、鬼と出会った。

 赤黒い血で塗りたくった様な混沌色の甲殻に覆われた、つるりとした頭の異形の怪物。
 二本の足で自立している人型だが、それは人間などでは決して無い。

 それは父来神が追っていた、上位個体。
 ここに居るはずの無かった、最強の鬼の一角。
 
 ――『あか』の鬼。

 それが、秋斗を殺した鬼の正体だ。

 鬼に追いかけられた三人は、必至で逃げた。
 捕まれば、殺される。
 それでも、子供の足では逃げるのにも限界が有る。
 
 ただ、運が悪かった。
 たまたまその中で最初に標的になったのが、秋斗だった。
 親友の秋斗は、鬼によって殺された。
 
 幸い、来人とテイテイの二人にも鬼の手が掛かる前に助けは来た。
 神である父、来神が割って入った事で、その鬼は分が悪いと判断したのかその場を退しりぞいた。
 来人は無傷で、テイテイも額に傷を負っただけだ。

 雨が降る。
 強く激しい、土砂降りの雨。

 来人は血で赤く染まった、秋斗の身体へと手を伸ばす。
 冷たい。
 それは決して、雨水に濡れているからではないだろう。
 秋斗はもう、動かない。

 来人の傍に、テイテイは立ち尽くす。
 何も出来なかった。
 親友を守れなかった。
 幼いながらも、その無力感に襲われる。

 鬼のよって命を刈り取られた秋斗の肉体は、端から炭の様に黒く変色し、ボロボロと崩れ落ちて行く。
 肉体が全て黒い炭と成り消え去ると、からんと音を立てて、秋斗が首に掛けていた鎖に繋がれた十字架――絆の三十字さんじゅうじが地面に落ちる。
 
 来人とテイテイの首にも同じ形状のアクセサリーが掛けられている、三本で一つの十字架。
 いつだったかの旅行で露店の土産物屋で買った物で、三人はそれを“友情の証”として肌身離さずいつも身に着けていた。

 来人は地に落ちた秋斗の十字架を拾い上げ、胸に抱きしめる。
 それは唯一炭にならずに残った、秋斗の形見だった――。


 記憶のビジョンは、そこで終わっていた。
 
 ビジョンを見終えた来人の額には脂汗が浮かぶ。
 しかし、もう涙を流す事は無い。
 隣のテイテイへ、精一杯の強がりで笑って見せた。
 
 少しずつ、景色がぼやけて行き、夢の世界から醒めて行く。
 
 改めて秋斗の仇の姿を胸に刻み、来人は決意を新たにした。
 『あか』の鬼――奴を、殺す。
 
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

楽園の天使

飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。 転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。 何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。 やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。 全14話完結。 よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。

処理中です...