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第一章 百鬼夜行編
#8 もう一人の親友
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一機の飛行機が、日本のとある空港に降り立った。
搭乗していた乗客は、皆海外からの旅行客。
その飛行機から降りる人の波の中に、一際目立つ背丈の高い男。
まだ暑いというのに長いコートを羽織り、額に傷跡の有る強面の男性だ。
彼の首には、輝く十字架のアクセサリーが掛けられていた。
「待ってろよ、来人」
ぼそりと、男はそう呟いた。
今日も来人は相棒のガイア族ガーネと共に、鬼退治の為に街を駆ける。
髪を白金に染めた来人と、白銀の体毛と狼の様な体躯に姿を変えているガーネ。
イメージが投影され、姿を変える。
「らいたん、鬼の反応が近いネ。用心するネ」
「ああ」
ガーネの言葉に、来人は静かに頷く。
山林を駆け抜ければ、開けた窪地。
そして、その窪地には一人の長身の人間の男と、それを囲むようにしている四体の鬼の群れ。
「――おい、ガーネ! 人が襲われてる!」
相手はたった一体だけでも普通の人間では対処が出来ない怪物だ。
それが、なんと四体も群れを成している。
「らいたん!」
まずい、彼が殺されてしまう。
長身の男が記憶の中の秋斗と重なり、来人はガーネの静止の声を無視して、真っ先に地を蹴り割って入ろうとする。
ガーネも来人の後ろを付いて後を追う。
しかし、距離がある。
来人たちが辿り着くよりも早く、鬼の魔の手が男を――。
ジャリン、と鉄同士が擦れ合う金属音が響き、来人は驚きから足を止める。
音の正体は長身の男の拳だ。
男は“鎖を巻き付けた拳”を振るい、その重い一撃で鬼の一体を粉砕した。
「なっ――うそ、だろ……」
人間の拳のたった一撃で、鬼の身体が弾け飛ぶ。
からん、と核が地面を転がった。
「――まず、一匹」
長身の男はぼそりと呟く。
仲間――鬼に仲間意識なんて無いだろうが――の鬼を倒されたのを見た他の三体は、やっと危機を感じたのか一斉に襲い掛かる。
長身の男は今度は袖口から細い鎖発射する。
そして、その鎖を指の先で小さく動かし、それをまるで自分の手足の様に自在に操って鞭の様にし鳴らせ、鬼の身体を引き裂いた。
裂傷から順に鬼の身体は炭のようになり、ボロボロと崩れ落ちる。
「――二匹」
その様子を見ていた来人は確信した。
これは、自分の助けは要らないだろう、と。
残る鬼は二匹。
同時に長身の男に襲い掛かって来る。
しかし、男は落ち着いて淡々と処理して行く。
そのまま鞭のように使った鎖を指をちょいと引いて引き戻し、その勢いで一体の鬼を拘束。
そしてその鎖を巻き取り、その推進力を利用してその場から高速移動し、飛び上がる。
拘束した鬼の身体を飛び越えて、後ろから迫っていたもう一匹の鬼の爪による攻撃を躱して見せた。
鬼の爪による攻撃は本来の対象を失ったが、止まる事は出来ない出来ない。
拘束された鬼は男の身代わりとなって、爪の斬撃を諸に受ける。
ダメージを負った鬼をそのまま拘束していた鎖で締め上げ、鬼は倒れ伏す。
さらさらと崩れた鬼の身体が煤となって風に舞う。
「――三匹」
鎖を巧みに操る長身の男。
その右手首に装備されたバングルの周りに鎖がぐるぐると巻き付き、右拳は鎖で覆われる。
そして、左手でその巻き付けた鎖の先を握りしめ、真っ直ぐと右の拳を最後の鬼へと叩き込む。
拳を突き出す勢いで鎖が引かれ、バングルは回転。
まるでドリルの様な拳の弾丸が、最後の鬼の身体を消し飛ばした。
「……はぁ」
四体全ての鬼を殲滅した男は、小さく溜息を漏らす。
“無双”――その二文字が、彼の一連の戦いを表すのに最も相応しいだろう。
それを見て、来人は駆け寄った。
もう戦う相手も居らず、神化も解けて髪も白金から茶へと戻っている。
「大丈夫ですか!?」
ついそんな言葉が口を突いたが、男が無傷なのは見れば分かる事だ。
近づいて、やっと男の姿を注視する。
来人よりも高い背丈で、長いコートを羽織り、額に傷跡の有る強面の男性。
その鋭い目つきでぎろりと睨まれ、来人は少しびくりと肩を震わせる。
(――って、あれ……?)
しかし、少し視線を落とせば、丁度来人の目線の高さくらい。
彼の首には、輝く十字架のアクセサリーが掛けられていた。
それは、来人の首にかけられているのと同じ物。
絆の三十字だ。
「久しぶり、来人」
その鋭い目じりを少し下げて、来人の名を呼ぶ。
「――て、テイテイ君!?」
これまでの八年間手紙だけのやり取りだけで、久方ぶりの再会。
成長していて一見では分からなかった。
しかし、その額の傷と首から下げた十字架。
間違いない、目の前に居るのは親友のイェン・テイテイだ。
確かに父来神はテイテイがこっちに来ると言っていたが、まさかもう到着していたとは。
「久しぶり!!!」
「うおお……離れろ……」
来人が喜びのあまり駆け寄る勢いで飛びつくが、テイテイはなんとかそれを受け止め、手でぐいぐいと押し返す。
「もう、着いてるなら連絡を――ってそうか、テイテイ君機械音痴だから……」
「別にいいだろ」
機械音痴を指摘されてテイテイは少し不服そうだ。
しかし、今のご時勢にスマートフォン一つ持たない若者は珍しかろう。
「それにしても、強かったね。えっと、テイテイ君は神様じゃないよね? でも、あの力……」
「ああ、それは――」
「きっと、らいたんのおかげだネ」
ガーネが横から口を挟むと、テイテイは怪しい物でも見る様にむっと顔をしかめた。
「なんだ、お前は」
「こいつはガーネ、ガイア族――って言って分かるのかな? 僕の相棒だよ」
「だネ」
来人が相棒と紹介すると、その喋る犬が怪しいモンスターではないと分かったテイテイはすぐに警戒を解いてくれた様で、纏う雰囲気が柔らかくなる。
「そうか、お前喋るのか」
テイテイはつんつん突ついてみたり、撫でまわしてみたりと興味深そうにガーネと戯れていた。
寡黙で強面の青年に育ったテイテイだったが、それでも心優しいその根は変わらない。
久方ぶりの再会で、積もる話も有る。
来人とテイテイ、そしてガーネの二人と一匹は場所を移す事にした。
搭乗していた乗客は、皆海外からの旅行客。
その飛行機から降りる人の波の中に、一際目立つ背丈の高い男。
まだ暑いというのに長いコートを羽織り、額に傷跡の有る強面の男性だ。
彼の首には、輝く十字架のアクセサリーが掛けられていた。
「待ってろよ、来人」
ぼそりと、男はそう呟いた。
今日も来人は相棒のガイア族ガーネと共に、鬼退治の為に街を駆ける。
髪を白金に染めた来人と、白銀の体毛と狼の様な体躯に姿を変えているガーネ。
イメージが投影され、姿を変える。
「らいたん、鬼の反応が近いネ。用心するネ」
「ああ」
ガーネの言葉に、来人は静かに頷く。
山林を駆け抜ければ、開けた窪地。
そして、その窪地には一人の長身の人間の男と、それを囲むようにしている四体の鬼の群れ。
「――おい、ガーネ! 人が襲われてる!」
相手はたった一体だけでも普通の人間では対処が出来ない怪物だ。
それが、なんと四体も群れを成している。
「らいたん!」
まずい、彼が殺されてしまう。
長身の男が記憶の中の秋斗と重なり、来人はガーネの静止の声を無視して、真っ先に地を蹴り割って入ろうとする。
ガーネも来人の後ろを付いて後を追う。
しかし、距離がある。
来人たちが辿り着くよりも早く、鬼の魔の手が男を――。
ジャリン、と鉄同士が擦れ合う金属音が響き、来人は驚きから足を止める。
音の正体は長身の男の拳だ。
男は“鎖を巻き付けた拳”を振るい、その重い一撃で鬼の一体を粉砕した。
「なっ――うそ、だろ……」
人間の拳のたった一撃で、鬼の身体が弾け飛ぶ。
からん、と核が地面を転がった。
「――まず、一匹」
長身の男はぼそりと呟く。
仲間――鬼に仲間意識なんて無いだろうが――の鬼を倒されたのを見た他の三体は、やっと危機を感じたのか一斉に襲い掛かる。
長身の男は今度は袖口から細い鎖発射する。
そして、その鎖を指の先で小さく動かし、それをまるで自分の手足の様に自在に操って鞭の様にし鳴らせ、鬼の身体を引き裂いた。
裂傷から順に鬼の身体は炭のようになり、ボロボロと崩れ落ちる。
「――二匹」
その様子を見ていた来人は確信した。
これは、自分の助けは要らないだろう、と。
残る鬼は二匹。
同時に長身の男に襲い掛かって来る。
しかし、男は落ち着いて淡々と処理して行く。
そのまま鞭のように使った鎖を指をちょいと引いて引き戻し、その勢いで一体の鬼を拘束。
そしてその鎖を巻き取り、その推進力を利用してその場から高速移動し、飛び上がる。
拘束した鬼の身体を飛び越えて、後ろから迫っていたもう一匹の鬼の爪による攻撃を躱して見せた。
鬼の爪による攻撃は本来の対象を失ったが、止まる事は出来ない出来ない。
拘束された鬼は男の身代わりとなって、爪の斬撃を諸に受ける。
ダメージを負った鬼をそのまま拘束していた鎖で締め上げ、鬼は倒れ伏す。
さらさらと崩れた鬼の身体が煤となって風に舞う。
「――三匹」
鎖を巧みに操る長身の男。
その右手首に装備されたバングルの周りに鎖がぐるぐると巻き付き、右拳は鎖で覆われる。
そして、左手でその巻き付けた鎖の先を握りしめ、真っ直ぐと右の拳を最後の鬼へと叩き込む。
拳を突き出す勢いで鎖が引かれ、バングルは回転。
まるでドリルの様な拳の弾丸が、最後の鬼の身体を消し飛ばした。
「……はぁ」
四体全ての鬼を殲滅した男は、小さく溜息を漏らす。
“無双”――その二文字が、彼の一連の戦いを表すのに最も相応しいだろう。
それを見て、来人は駆け寄った。
もう戦う相手も居らず、神化も解けて髪も白金から茶へと戻っている。
「大丈夫ですか!?」
ついそんな言葉が口を突いたが、男が無傷なのは見れば分かる事だ。
近づいて、やっと男の姿を注視する。
来人よりも高い背丈で、長いコートを羽織り、額に傷跡の有る強面の男性。
その鋭い目つきでぎろりと睨まれ、来人は少しびくりと肩を震わせる。
(――って、あれ……?)
しかし、少し視線を落とせば、丁度来人の目線の高さくらい。
彼の首には、輝く十字架のアクセサリーが掛けられていた。
それは、来人の首にかけられているのと同じ物。
絆の三十字だ。
「久しぶり、来人」
その鋭い目じりを少し下げて、来人の名を呼ぶ。
「――て、テイテイ君!?」
これまでの八年間手紙だけのやり取りだけで、久方ぶりの再会。
成長していて一見では分からなかった。
しかし、その額の傷と首から下げた十字架。
間違いない、目の前に居るのは親友のイェン・テイテイだ。
確かに父来神はテイテイがこっちに来ると言っていたが、まさかもう到着していたとは。
「久しぶり!!!」
「うおお……離れろ……」
来人が喜びのあまり駆け寄る勢いで飛びつくが、テイテイはなんとかそれを受け止め、手でぐいぐいと押し返す。
「もう、着いてるなら連絡を――ってそうか、テイテイ君機械音痴だから……」
「別にいいだろ」
機械音痴を指摘されてテイテイは少し不服そうだ。
しかし、今のご時勢にスマートフォン一つ持たない若者は珍しかろう。
「それにしても、強かったね。えっと、テイテイ君は神様じゃないよね? でも、あの力……」
「ああ、それは――」
「きっと、らいたんのおかげだネ」
ガーネが横から口を挟むと、テイテイは怪しい物でも見る様にむっと顔をしかめた。
「なんだ、お前は」
「こいつはガーネ、ガイア族――って言って分かるのかな? 僕の相棒だよ」
「だネ」
来人が相棒と紹介すると、その喋る犬が怪しいモンスターではないと分かったテイテイはすぐに警戒を解いてくれた様で、纏う雰囲気が柔らかくなる。
「そうか、お前喋るのか」
テイテイはつんつん突ついてみたり、撫でまわしてみたりと興味深そうにガーネと戯れていた。
寡黙で強面の青年に育ったテイテイだったが、それでも心優しいその根は変わらない。
久方ぶりの再会で、積もる話も有る。
来人とテイテイ、そしてガーネの二人と一匹は場所を移す事にした。
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