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第一章 百鬼夜行編
#5 鬼退治
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「鬼って、そんな簡単に見つかる物なんですか? あの変な空間を探すんですよね」
来人、ガーネ、ユウリの二人と一匹は実践訓練の為、鬼を捜索していた。
ここは街外れの廃工場。
ガーネたち地を歩く天使――ガイア族は鬼の居場所を嗅ぎ当てる事が得意らしいので、ガーネを先頭として後ろに二人が付いて行く形だ。
「変な空間? 異界の事でしょうか、来人君詳しいですね。でも、それは上位個体だけなので、今日は普通の相手ですよ?」
「待って、上位個体? 一昨日鉢合わせたあいつも、昔遭ったあいつも、どっちもその異界に居たんですけど……」
一昨日出会った個体は片腕に顎を開いた鬼を象った大砲のような器官を携えた、黒い鬼。
そして、秋斗を殺した鬼は――、確か、赤かった。
ちゃんと思い出そうとすると、靄がかかるような嫌な感じで思考が中断される。
きっと、来人の心がまだ秋斗の死を直視する事を忌避しているのだろう。
しかし、そのどちらも変な空間――異界を産み出し、そこに迷い込んだ人を襲っていた。
「上位個体の鬼は自分の心象世界で現実を侵食して、異界を産み出すんです。イメージを具現化する神の力に似た物ですね」
「初耳なんですが……」
普通の鬼は異界を産み出す力を有していない、あれは上位個体だけの特殊能力だという。
どうやら、来人はとんでもない相手に遭遇していたらしい。
倒し切る事は出来なかったまでも、撃退して美海を救い出せたのは幸運だったと言えるだろう。
「ちなみに、らいたんが一昨日会った上位個体に天界の管理用として名付けられた二つ名は『顎の鬼』だネ」
いつの間にか名前まで付けられていた。
あの特徴的な大砲を指して付けられた名だろう。
「……上位個体と二回も出会って、よく生きてましたね。流石王の血筋と言うべきなのでしょうか」
ユウリは驚いた様な、そして少し呆れた様な声を漏らす。
来人を見るユウリのその目は、まるで珍獣でも見ているかの様だ。
前を歩いているガーネの方が、よっぽど珍獣だと思うが。
「そんな褒めても何も出ないですよ」
「じゃあ、来人君が神王様になったらお給料増やしてもらいますか」
「ええ……。まだ王様になるって決めた訳じゃありませんよ?」
継承戦への参加自体は父親来神に半ば無理やりに押し付けられた物だ。
来人の本命は鬼を退治してこれ以上秋斗の様な被害者を増やさない事と、そしてその先、秋斗の仇討ちに有る。
「そうなんですか? でも、継承戦には参加するんですよね?」
「それは、まあそうみたいなんですけど」
「なら、応援しますよ。折角のご縁ですから。ついでにわたしも三分の一で昇給です!」
ユウリはそんな冗談を言いながら小さく胸元でガッツポーズを取っておどけて見せる。
三分の一。
そう言えば――、と来人は思い出し、懐から「く」の字と「V」の字の広がった方同士を合わせた変な形の――“王の証”を取り出す。
同じ物がこの世に三つ。
残り二つは他の神王候補者、つまりはライバル達の手に有るらしい。
「ご縁と言えば、ユウリ先生はどうして僕の家庭教師をやる事に?」
「わたしも元々人でしたから。それでライジン様はわたしを選んだのだと思います」
「そういえば、まだ新参者みたいな話もしてましたね」
「そうです。人から神に――、来人君とちょっと似てるんですよ」
人から神に成る事例がどれ程有る事なのか分からないが、きっとそう多くはないだろう。
もしかすると、片手で数えられるくらいかもしれない。
ユウリは仲間を見つけたみたいに、少し嬉しそうにそう話していた。
しばらく歩いていると、ガーネの耳がぴくりと動き、足を止める。
「待つネ。気配が近いネ」
「来人君、準備してください」
「ああ」
来人は首に下げた十字架を握り、イメージを集中させる。
すると、あの時と同じ様に十字架は金色の剣へと形を変え、髪の色も白金へと染まる。
「ネは今回見てるだけだネ。らいたんが一人でやってみせるネ」
「わたしも、応援してます!」
「わかった」
ガーネはこくりと頷き、目を瞑り感覚を研ぎ澄ませ、周囲を漂う波動の残滓を辿る。
そして、一瞬の間を置いた後、得物を見つけたガーネは目を開いた。
「あっちだネ!」
そして、ガーネが奥の大きな倉庫跡の跡の方を指す。
来人が先頭となり、剣を構えて警戒しつつ奥へ進む。
すると、がらんとした広い倉庫の奥に、目的の鬼の姿が有った。
細身な上半身と、それと対照的に大きく隆起した下半身の人型の鬼。
両腕は肘から先が槍の様な形になっている。
異界を産み出さず、ただ廃工場の倉庫に立ち尽くす。
今回は通常固体で間違いない。
「ギ、ギギギ――!!!」
来人たちへと気づいた鬼は奇怪な鳴き声を発し、襲い掛かって来る。
来人、ガーネ、ユウリの二人と一匹は実践訓練の為、鬼を捜索していた。
ここは街外れの廃工場。
ガーネたち地を歩く天使――ガイア族は鬼の居場所を嗅ぎ当てる事が得意らしいので、ガーネを先頭として後ろに二人が付いて行く形だ。
「変な空間? 異界の事でしょうか、来人君詳しいですね。でも、それは上位個体だけなので、今日は普通の相手ですよ?」
「待って、上位個体? 一昨日鉢合わせたあいつも、昔遭ったあいつも、どっちもその異界に居たんですけど……」
一昨日出会った個体は片腕に顎を開いた鬼を象った大砲のような器官を携えた、黒い鬼。
そして、秋斗を殺した鬼は――、確か、赤かった。
ちゃんと思い出そうとすると、靄がかかるような嫌な感じで思考が中断される。
きっと、来人の心がまだ秋斗の死を直視する事を忌避しているのだろう。
しかし、そのどちらも変な空間――異界を産み出し、そこに迷い込んだ人を襲っていた。
「上位個体の鬼は自分の心象世界で現実を侵食して、異界を産み出すんです。イメージを具現化する神の力に似た物ですね」
「初耳なんですが……」
普通の鬼は異界を産み出す力を有していない、あれは上位個体だけの特殊能力だという。
どうやら、来人はとんでもない相手に遭遇していたらしい。
倒し切る事は出来なかったまでも、撃退して美海を救い出せたのは幸運だったと言えるだろう。
「ちなみに、らいたんが一昨日会った上位個体に天界の管理用として名付けられた二つ名は『顎の鬼』だネ」
いつの間にか名前まで付けられていた。
あの特徴的な大砲を指して付けられた名だろう。
「……上位個体と二回も出会って、よく生きてましたね。流石王の血筋と言うべきなのでしょうか」
ユウリは驚いた様な、そして少し呆れた様な声を漏らす。
来人を見るユウリのその目は、まるで珍獣でも見ているかの様だ。
前を歩いているガーネの方が、よっぽど珍獣だと思うが。
「そんな褒めても何も出ないですよ」
「じゃあ、来人君が神王様になったらお給料増やしてもらいますか」
「ええ……。まだ王様になるって決めた訳じゃありませんよ?」
継承戦への参加自体は父親来神に半ば無理やりに押し付けられた物だ。
来人の本命は鬼を退治してこれ以上秋斗の様な被害者を増やさない事と、そしてその先、秋斗の仇討ちに有る。
「そうなんですか? でも、継承戦には参加するんですよね?」
「それは、まあそうみたいなんですけど」
「なら、応援しますよ。折角のご縁ですから。ついでにわたしも三分の一で昇給です!」
ユウリはそんな冗談を言いながら小さく胸元でガッツポーズを取っておどけて見せる。
三分の一。
そう言えば――、と来人は思い出し、懐から「く」の字と「V」の字の広がった方同士を合わせた変な形の――“王の証”を取り出す。
同じ物がこの世に三つ。
残り二つは他の神王候補者、つまりはライバル達の手に有るらしい。
「ご縁と言えば、ユウリ先生はどうして僕の家庭教師をやる事に?」
「わたしも元々人でしたから。それでライジン様はわたしを選んだのだと思います」
「そういえば、まだ新参者みたいな話もしてましたね」
「そうです。人から神に――、来人君とちょっと似てるんですよ」
人から神に成る事例がどれ程有る事なのか分からないが、きっとそう多くはないだろう。
もしかすると、片手で数えられるくらいかもしれない。
ユウリは仲間を見つけたみたいに、少し嬉しそうにそう話していた。
しばらく歩いていると、ガーネの耳がぴくりと動き、足を止める。
「待つネ。気配が近いネ」
「来人君、準備してください」
「ああ」
来人は首に下げた十字架を握り、イメージを集中させる。
すると、あの時と同じ様に十字架は金色の剣へと形を変え、髪の色も白金へと染まる。
「ネは今回見てるだけだネ。らいたんが一人でやってみせるネ」
「わたしも、応援してます!」
「わかった」
ガーネはこくりと頷き、目を瞑り感覚を研ぎ澄ませ、周囲を漂う波動の残滓を辿る。
そして、一瞬の間を置いた後、得物を見つけたガーネは目を開いた。
「あっちだネ!」
そして、ガーネが奥の大きな倉庫跡の跡の方を指す。
来人が先頭となり、剣を構えて警戒しつつ奥へ進む。
すると、がらんとした広い倉庫の奥に、目的の鬼の姿が有った。
細身な上半身と、それと対照的に大きく隆起した下半身の人型の鬼。
両腕は肘から先が槍の様な形になっている。
異界を産み出さず、ただ廃工場の倉庫に立ち尽くす。
今回は通常固体で間違いない。
「ギ、ギギギ――!!!」
来人たちへと気づいた鬼は奇怪な鳴き声を発し、襲い掛かって来る。
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