【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
4 / 150
第一章 百鬼夜行編

#4 家庭教師

しおりを挟む
 客人という事で、来人も一応居住まいを正しておく。
 程なくして、イリスの後に続いて、若い女性が入って来た。
 
 年齢は来人ともそんなに変わらない様に見える。
 腰まで伸びた長い黒髪が印象的で、紫紺色の瞳を眼鏡の奥に覗かせている。
 そして、何よりの特徴はその尖った形をした耳、エルフ耳だ。

 この特徴的な容姿、もしかすると――。

 その黒髪の女性は部屋をきょろきょろと見回した後、来人を見つけてぱっと表情を弾けさせた。
 
「――あ、あなたが来人君ですね」
「どうも。えっと……」
「ユウリと申します。ライジン様に頼まれまして、あなたの家庭教師をしに来ました」

 そう言って、ユウリと名乗る女性はぺこりと軽く頭を下げる。
 そう、来客は家庭教師の先生だ。

 父が明日には家庭教師が来ると言っていた。
 まさか、女性だったとは。
 
 父が呼んだ家庭教師という事は、この女性も神様だ。
 それならば、エルフ耳にも今更驚く事も無いだろう。

 来人にとって父親の事をちゃんと“ライジン様”と敬う人に会うのは初めての事で、本当に父は神様なのだと改めて実感させられた。
 そして、王の血筋である父が権力を振りかざして、昨日の今日で呼びつけられたのだろうと察する事も出来て、ちょっと可哀想だなとも思った。

「来人です、よろしくお願いします」
「ふふっ」

 来人がそうソファから立ち上がり丁寧に挨拶を返すと、何故か笑われてしまった。
 果たして、何かおかしかっただろうか。
 そう思っていると、すぐにユウリから釈明が入る。

「あ、すみません。見た目の印象と違って、意外と丁寧だなあと思って、つい」
「ああ、そういう……」

 来人は少し照れ臭くなって自分の前髪をちょいちょいと指先で触る。
 来人がそう勘違いされるのはよくある事で、慣れてはいるがそれでも少しこそばゆい。
 
 一件少しやんちゃに見える派手な髪色の来人だが、いざ口を開けば第一印象にそぐわない物腰で、育ちの良さが端々から漏れ出てしまう。
 髪を染めてみたりアクセサリーを身に着けてみたりとしているのも、結局は自分を装う仮面の代わりでしか無い訳で、根は変わらない。
 
 イリスの生暖かい視線を感じるが、気付かなかったことにする。
 ユウリは可愛い弟でも見る様ににこりと微笑んで、庭の方を指差す。

「じゃあ早速ですが、始めましょうか。お庭、使ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。他にも必要な物が有れば、お申し付けください」

 イリスは下がり、来人は流されるがままユウリと共に庭へ出た。

「らいたーん、こっちだネー!」
 
 庭へ出れば、ガーネが待っていた。
 今にも手を振りそうな勢いだが、振る手は無いので代わりにぴょんぴょんと跳ねている。

「それでは、授業を始めますね」

 来人はガーネと並んで体育座りで庭に腰を下ろす。
 何となく、それっぽい気がしてそうしてみた。

「よろしくお願いします」
「わたしの事はユウリ先生とお呼びください」

 ユウリ先生はわざとらしく眼鏡の端をくいっと持ち上げて見せる。

「はい、ユウリ先生!」
「と言っても、わたしも神様に成ってまだ一〇〇年も経っていない新参者なんですけどね」

 来人がお道化てそう呼んでみれば、ユウリ先生は「あはは」と照れ臭そうに笑って見せた。
 
 どういう時間感覚なのか分からないが、その言い方からして一〇〇年という時間は神様からするととても短い物なのだろう。
 これまで普通に人間として生きて来た来人にはあまり分からない感覚だ。

「そうなんですね。でも、僕なんて本当に何も知らないんで助かります」
「分かりました。それでは、今日は“神の力について”やって行きましょうか。何事も基本からです」

 ユウリはぽんと手を合わせて叩く。
 
「――ずばり! 神様の力の真髄、それは“想像を創造する”事です」
「つまり、イメージの具現化だネ」

 ガーネが横から合いの手を入れる。
 
「何でも思った通りになる、みたいな……?」
「はい、概ねその通りです。ですが、もちろん何でも無制限無制約に、とはいきません」

 ふむ、と来人は思い返す。
 つまり、この間鬼と戦った時に神の色が白金に染まったのも、十字架のアクセサリーが剣の形に変化したのも、どこからともなく鎖を産み出せたのも、全て神の力。
 来人のイメージが具現化した物だった、という事なのだろう。

 しかし、あの時は咄嗟に本能に身を任せるまま力を振るったので、あまりピンと来なかった。
 そんな来人の様子を見て、ユウリは少し考えた後、

「そうですね。わたしたちはこの神の力を“絵を描くこと”に例えています」

 と言って、指を鳴らす。
 すると、どこかからイーゼルに掛けられたキャンバスと、見覚えの有る学校で使う様な絵の具セットが出て来た。
 
 というか、イリスが爆速で持って来た。
 よく見れば、来人が昔使っていた奴だ。

「ここにキャンバスが有ります。では、ここに絵を描くには、何が必要でしょうか?」
「筆と、絵の具と、パレット……ですか?」
「その通りです。神の力にもその三点が必要になります」

 ユウリは指を三本立てる。
 
「パレットである『魂の器』と、絵の具である『魂の波動』、そして筆である『魂の柱』。この三つを用いて神は己のイメージを描き、世界を彩るのです」

 そして、ユウリはキャンバスへと向き直る。
 
「まずは『器』――つまりパレットです。その大きさは人によって違います。それが大きければ大きい程、規模の大きい創造が可能となります」

 そのままパレットに絵の具を出す。
 
「次に『波動』――これは絵の具です。魂に血液の様に流れる、力を使う為のエネルギーです。量が多ければ多い程、沢山の創造が可能となります。もちろん、波動が尽きるまで力を使えば倒れてしまいますよ」

 そしてその絵の具を先を水で濡らした筆で混ぜ、筆先に馴染ませる。
 
「最後に『柱』――筆の役割ですね。これは世界と自分の器を繋ぐ橋渡しの役割を果たします。あなたが首に掛けているその十字架や、わたしの指輪がそうですね。この柱が神のスキルと対応しています」

 そしてちらりと十字架と指輪に視線を移した後、白紙のキャンバスにその筆で一匹の鳥を描いた。
 すると、絵だった鳥はそこからもこりと浮き上がり、どこかへと飛んで行った。

「こんな感じです」
「おおー」

 来人は拍手をする。
 
 まとめると、つまり。
 
 魂に流れる波動をエネルギーとして、心の中で想像したイメージを現実に投影――創造する。
 
 それが、神の力。
 
「ジンさんとかの凄い神様は柱無しで力を使ったりするけどネ。ちなみにネは刀を使うネ」

 ガーネは口の奥からぬっと刀を取り出した。
 それはそれでどういう理屈で口の中に納まっているのか気になるが。
 
 しかし、弘法筆を選ばずと言うが、卓越した力を持つ神もまた筆を選ばないという事なのだろう。
 柱はあくまで神の力を使う補助の為のツールであり、極めれば筆が無くとも指先で絵は描ける、という様なイメージだろうか。

「そうですね、ライジン様はとてもお強かったと有名です」
 
 あのイリスにデブ呼ばわりされている肉の塊と化した父親が、神様界隈ではとても強かったと有名らしいが、来人にはあまりイメージが湧かなかった。

「僕の器と波動は、どれくらいなんだろう?」

 大きい程良い、量が多い程良いと言っていたが、果たして。
 
「王の血統、ライジン様の実子ですからね。めちゃくちゃやばいと思いますよ」
「やばい……」
「わたしも末端の神の中では悪くない方だと思いますが、あなたとは天と地ほどの差があるはずです」
「実感湧かないなあ……」

 現状比較対象が無いので分からないが、神々の王と言うからにはそれだけの力があるのだろう。
 
「それはまあ、使い方が分からなければ宝の持ち腐れですから。その使い方を学ぶために、わたしが先生として呼ばれた訳です」

 ユウリはえへんと言わんばかりに胸を張る。
 
「確かにそうですね。よろしくお願いします、先生」
「はい、お願いされました! それでは、今日は最後に実践です! 習うより慣れろです!」
「だネ! レッツ鬼退治だネ!」
 
 しばらく座学だけだと思って高を括っていた来人だったが、早速実践――つまり、またあの鬼との戦いに駆り出されるらしい。
 多少の不安と緊張を覚えつつも、来人はガーネとユウリと共に、鬼退治へと向かった。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...