【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
2 / 150
第一章 百鬼夜行編

#2 王位継承戦

しおりを挟む
 翌日、起床した来人は朝一番に美海へ昨日のフォローの連絡を入れた。
 
 美海は昨日裸足で走った足の怪我で歩くのが大変で、暫くは大人しくしておくらしい。
 デートの埋め合わせはまた後日だ。
 あんな化け物に襲われれば普通の女の子ならトラウマ物だろうが、声を聞く感じでは美海は意外と平気そうにしていた。
 心配させまいと明るく振舞っていただけかもしれないが、それでも、来人はそれにほっと胸を撫で下ろした。

「さて、分からない事だらけだけど――」
 
 記憶を取り戻して、神様の事や諸々気になる事は多いが、何をするにもまずは腹ごしらえだ。
 そう思いつつ、来人は大きく伸びをしながらリビングへ向かう為に階段を降りると、ぬっと目の前に金髪のメイド服姿の女性が現れた。

「坊ちゃま、おはようございます」
「あ、イリスさん。おはようございます。丁度良かった、何か朝食を――」

 天野家で働く使用人メイドのイリスだ。
 イリスはふんわりと綺麗にパーマをかけた金髪のロングヘアーの女性で、共働きの両親に変わって天野家の家事全般をやってくれている。
 元々は父の秘書をしていたが、訳有ってうちの使用人に転職したと聞かされていた。
 しかし、今なら分かる。
 父の秘書とはつまり、イリスもまた神様絡みだ。

「いえ。その前に、少しお時間よろしいでしょうか?」
「どうしたんですか?」
「まあまあ。こちらへいらしてください」

 イリスはそう言って、少々強引に来人の背中を押して廊下の奥の扉の方へと連れて行く。

「ちょ、ちょっと!? その部屋って、使われてない物置じゃー―」
「大丈夫、すぐに終わりますわ」

 物置の扉の縁が一瞬光る。
 扉が開くと、その奥は真っ白な光で包まれていた。
 
「それでは、行ってらっしゃいませ、坊ちゃま」
「うわああっ!!」
 
 来人はイリスの手によってその光りの中へとぶち込まれてしまった。
 相手は女性だと言うのに、全く抵抗出来なかった。

「――っわっと。えっと、ここは……?」

 扉の白い光を抜けた先は、これまた白い部屋だった。
 確実にここが物置では無い事は分かる。

「ここは天界、神々の世界だよ」

 どこからともなく声がする。

「誰?」

 来人がそう問うが、返答はない。

 部屋を見渡してみると、壁には食器棚や本棚、何やら生活感が有る。
 そして、その中で一際異質な存在。
 部屋の中央に小さな泉が有った。
 
 来人は泉に近づいて覗き込んでみる。

(綺麗、まるで海みたいだ……)

 膝下までしかない程度の浅い泉のはずなのに、吸い込まれそうな程に深い海の色。
 来人がその不思議な泉に見入っていると――、
 
「ざばーーーーん!!!」

 叫び声と共に、泉の水が吹きあがる。

「うわああああ!? なに!? なに!?」

 来人は驚いて身体をびくりと震わせて、後方へ飛び退き、尻もちを着く形になる。
 覗き込んでいた来人の頭はずぶ濡れだ。

「どう? びっくりした?」

 先程の声の主は、“泉の水そのもの”だった。
 人型を模している訳でも無い、ただの水だ。
 しかし、そのただの泉の水が一部浮き上がり、言葉を発している。
 
「え……びっくり、した……けど……?」

 来人は目を白黒とさせて状況を把握しようと必死だが、まだ心臓がばくばくと高鳴っている。
 喋る泉の水は重ねて話しかけて来る。

「やったね! 大成功!」

 泉の水? 泉の精霊? はきゃっきゃとはしゃいでいる。――様に見える。
 何分人型ですらない水の表情を来人は読めなかった。

「えっと、君は?」
「ボクはアダン! 神の力に目覚めたキミとお話がしたくってね」
「そっか、君も神様絡み――って、その姿ならそりゃそうか」
「まあね~、イケメンでしょ?」
「うんうん、目元がシャープだね」

 勿論ただの水に目元も何も無い。
 
「ははっ、面白いね、キミ!」
「僕は来人、よろしく」
「うん、良く知っているよ。よろしくね、ライト」

 何者だか分からないが、来人はフレンドリーな泉の精霊アダンと仲良くなった。

「そうそう。キミはライジンからどこまで聞いてるの?」
「ライジン……って言うと、父さんの事か。どこまでって、全くこれっぽちも。父さんは仕事であんまり帰って来ないんだよ。だから僕は小さい頃に知っていた事以外、何も知らないよ」

 ライジンとは、来人の父親である天野来神らいじんの事だろう。
 普段は仕事で世界中を飛び回っていてあまり家に帰らない父だが、来人の思い出した記憶によると神様らしい。
 
 来人は神である父から殆ど何も聞かされていなかった。
 それこそ思い出せたのは、幼い頃から何となくの感覚で使えた神の力と、改ざんされていた秋斗の死の記憶だけだ。

「――ああ、仕事ね。ライトはライジンの仕事が何か知っているの?」
「いいや、世界中を飛び回ってるって事くらいしか」
「そうか、じゃあ教えてあげるよ。キミも昨日遭っただろ? “鬼”。――ライジンの言う仕事っていうのは、それを討伐する事だ」

 鬼、秋斗を殺したのと同じ存在。
 
「キミも、その鬼と何か因縁が有るみたいだね」

 アダンはまるで来人の心の内を見透かした様に、そう言った。
 
「うん。――親友を、殺されたんだ」
「憎いかい? 仇を討ちたいかい?」
「……そうだね、そうかもしれない」

 少し逡巡した後来人がそう答えると、ざばんと一度浮かび上がっていた水――つまりアダンは泉の中へと引っ込んで行った。
 そして、すぐにまたざばんと水の一部が浮かび上がり、アダンと一緒に泉の底から変な形の金色のアクセサリーが浮かんできた。
 そのアクセサリーは来人の方へとぷかぷかと流れて来るので、来人はそれを拾い上げる。

「これは?」
「これは“王の証”。この世界に同じ物が三つ存在する内の一つだよ。そして、これは代々血を受け継ぐ者の中から神々の王を決める戦い――王位継承戦おういけいしょうせんに参加する、神王しんおう候補者に渡す決まりになっているんだ。だから、これはライトにあげるね」

 王の証――それは来人の持つ十字架のアクセサリーと同じくらいのサイズだが、今までに似た形状の物を見た事が無い。
 「く」の字と「V」の字、その二つの似ている様で若干形の違う字の広がった方同士を合わせて、中央に四角系の穴が出来た様な形状だ。
 
「え、僕にって……でも、アダン君の話だと、これって王様になる人が持つんじゃ――」
「うん。キミは神の王の血を受け継ぐ三代目神王候補者だよ」
 
 衝撃の事実に、来人は言葉を失った。
 今まで人間として生きて来たと言うのに、自分が神様の、それも王様に。実感が湧かなかった。

「キミの祖父が二代目で現神王なんだけど、訳有って王の力を振るえなくなってしまってね。新たな王を立てる必要が有るんだ」
「お爺ちゃんが……?」

 来人は幼い頃、祖父とは何度か遊んでもらった記憶がある。
 しかし、ここ最近は会った記憶が無い。
 あのお爺ちゃんが、今の王様?

「他にも二人の神王候補者が居るから、彼らと競い合って貰おう事になる。だからキミにも王位継承戦おういけいしょうせんまでに力を付けてもらわないといけない訳だけど――、差し当たっては、キミにも鬼退治の仕事をやってもらおうかな」
「待って待って、急過ぎる。まだ神様になるって決めた訳じゃー―」
「いいや、力に覚醒したキミはやらなければならない」

 先程までの明るい雰囲気と打って変わって、アダンの声には有無を言わさぬ圧が有った。

「アダン君、君は何者なんだ……?」
「さあね、今のボクはただの水だよ。でも、キミにとっても悪い話じゃないだろう? 鬼退治をしている内に、親友の仇に会えるかもしれないよ」
「それは……」

 来人は、考える。
 これまでの経験を思い返す。

 鬼に殺された秋斗。
 一歩間違えれば同じ様に鬼に殺されていたかもしれない美海。

「ああいう鬼は、他にも沢山居るんだよね」
「そうだね。倒しても倒しても際限なく産まれて来る」
「僕が王様になれば、何か変わるかな」
「どうだろうね。でも、完全な王の力を振るえれば、或いは」
 
 来人は神の王の座になんて興味は無い。
 それでも、秋斗の様な被害者を、そして自分の様に大切な人を失って悲しむ人を、自分の手で一人でも多く減らせるのなら、来人が剣を握る理由としては充分だ。

「――分かった、やるよ。僕は、神になる」

 来人は手の中に有る王の証を握りしめ、そう答える。

「良い返事だ」

 アダンは満足気だ。

「帰りは来た時と同じ扉だよ」
「うん、ありがとう」

 来人は来た時と同じ様に扉の奥の白い光に入り、天界を後にした。
 
「それじゃあ、また会おうね、ライト」
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

処理中です...