【完結】六専特区の一般生徒《スキルホルダー》 ~20XX年、光の雨によって超能力に目覚めた子供たち~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
42 / 79

#038 ラプラスの悪魔②

しおりを挟む
 がらんとした教室内は、灯りも付けられておらず薄暗い。
 廊下から差し込む光だけが室内の様子を窺う手がかりだった。
 ここに、ラプラスの悪魔が……?

 薄暗い室内を見回していると、暗闇の奥から声がする。

「――ようこそ、ラプラスの館へ。どうぞ中へ」

 女の声だ。
 俺が躊躇していると、来海が先導して教室の中へ。
 俺も後を追おうとすると、シロに裾を引かれる。暗い教室が怖いのだろうか。

「シロ、大丈夫だ。俺も来海も一緒に居るし、わんちゃんも付いてるぞ」
「……こくり」

 シロはゆっくりと頷き、恐る恐る付いて来る。
 そうして教室の奥まで入れば、如何にもという様な空間が目に入った。
 薄暗く見え辛いが、床に黒い布を絨毯として敷いて、その上に二人の女生徒が座っている。
 どちらも黒いローブを目深に被っていて、その顔を窺い知る事は出来ない。
 その女生徒二人の間には水晶玉が置かれており、胡散臭さを際立てていた。

「失礼するわね」

 来海が堂々と絨毯の上に座るので、俺もそれに倣ってその隣へ。
 スペース的にシロの席が無いな、と思っていると、自然に俺の組んだ脚の上に座って来た。
 犬、シロ、俺の順で重なっていて、ちょっと重たい。
 
 俺たちが着席すれば、ラプラスの悪魔たちが口を開く。
 
「私たちはラプラスの悪魔。よくぞここを見つけられましたね。さあ、真実を見通しましょう」
「何かお悩みが? 恋のお悩み? 友達と喧嘩した? それとも失せ物探し? でも、テストの問題は教えてあげられませんよ」
 
 二人の悪魔が冗談めかして、そう語り掛けて来る。
 俺も何か言おうかと思ったが、視界の殆どをシロの後頭部が覆っていて、微妙に喋り辛い。
 ここは来海に任せようか、と視線を送れば、その意志はすぐに伝わってくれた。

 来海は小さく頷いた後、すぐに本題に入る。

「それじゃあ、この女の子と、それとこの犬の元居た場所を教えて欲しいわ」

 ラプラスの悪魔の一人が、ちらりとシロとその腕の中の犬に視線を移す。

「元居た場所……?」
「迷子の犬と、記憶喪失の女の子なの。でも、あなたたちが本当に真実を見通せると言うのなら、分かるわよね?」

 来海がそう挑戦的に言えば、悪魔の一人がローブの奥で少しむっとした様な空気を感じた。

「……確かに、私たちはラプラスの悪魔。でも、何か手掛かりがないと、真実には辿り着けない」
「例えば名前、例えば関係のある物、場所、そういうきっかけが必要」

 二人の悪魔が続けて言う。

 なるほど、きっかけね。
 つまり、特定のワードから絞り込んで、ビジョンを見る様なスキルか。
 おそらく“千里眼”に分類されるスキルだろう。
 
 来海は少し考えてから、悪魔に質問を投げかける。

「関係ないかもしれないけれど、思いついたワードを雑多に言って行ってもいいかしら?」
「構いません。それが真実への近道ならば」

 来海は一度頷いてから、キーワードを1つずつ並べて行く。

「幽霊、裏山、秘密基地、橋の下、スナック菓子――」

 それから、ちらりとラプラスの悪魔たちの様子を窺う。
 一人が水晶玉に手をかざしているが、まだ何も引っ掛かるワードは無いのか何の反応も返って来ない。
 それを見て、来海は続ける。

「記憶喪失、はやし各務原かがみはら、オムライス――」

 ちょっと待て、どんどん出て来るワードが苦しくなっていく。
 来海はそうあって欲しくないという思いからか、クリティカルであろうワードを避けている様だ。
 しかし、やはり何も反応がない悪魔たちを見て、意を決して来海は攻める。

「景色の歪み、不審船、乗組員――」

 すると、水晶玉にかざしていた手がぴくりと震えた。
 そして――、

「――スキルホルダー解放戦線」

 その言葉が発されるのとほぼ同時に、ラプラスの悪魔たちが声を揃えて、
 
「「おめでとうございます。真実に辿り着きました」」
 
 シロが驚いて、びくりと震えた。

 そして、ラプラスの悪魔の水晶玉じゃない方が、裏からコピー用紙を一枚取り出して、そこへ片手をかざす。
 もう片方の手は、水晶玉の方の手を握っていた。

 やがて、コピー用紙にじんわりと何か模様の様な物が浮かび上がって来る。
 これは――地図だ。

 なるほど。彼女たちラプラスの悪魔は“千里眼”のスキルを持つ水晶玉担当と、イメージを映し出す“念写”のスキルを持つコピー用紙担当の二人組だったという訳だ。

「こちらが、あなた方の求めていた真実です」

 そして、そう言って地図を念写した紙を手渡して来る。
 気になったのか、シロが手を伸ばしてそれを受け取ったので、俺はそれを後ろから覗き込む。
 シロの持つ地図は逆さ向きになっているが、地図の一点にはチェックマークの印が有るのが分かる。おそらく、そこへ行けという事だろう。

 地図を渡せば、ラプラスの悪魔たちはそれで仕事は終わりと言わんばかりに、さっさと片付けを始めた。
 すると、来海が慌てて口を挟む。

「ちょっと待って、この地図ってシロの分よね? 犬の方も、見てもらいたいのだけれど――」

 すると、水晶玉の方がくすりと笑って答えた。

「いいえ。それは“両者にとっての真実”です。そこに何があるのかまでは私たちにも分かりませんが、きっと、そこへ行けば2つの真実が交差する事でしょう」

 
 彼女たちラプラスの悪魔の正体は秘密だ。
 俺たちはその素顔を見る事無く、空き教室を後にして、部室へと帰って来た。

 そして、念写された地図と特区内の地図を照らし合わせる。

「これは……第二区画か?」
「ええ、そうね。犬の飼い主が居るとすれば第二区画だとは思っていたから、おかしな話じゃないわ。でも、まさかシロとわんちゃんが同じ場所を……」

 それもそうだが、もう1つ重要な事が有った。
 ラプラスの悪魔がこの真実を導き出した際、そのトリガーとなった最後のキーワード――“スキルホルダー解放戦線”。

 シロを見れば、いつもの同じ様に無表情なまま見つめ返して来るだけ。
 そこからは悪意や敵意を全く感じられない。無垢な少女そのものだ。

「ねえ、桐祐。このままシロをここへ連れて行っても、良いと思う?」
「どういう意味だ?」
「この子、解放戦線絡みなのはもう疑いようもないわ。でも、本当に記憶喪失なら、もういっそそのまま忘れていた方が――」

 俺はそれを強く、食い気味に否定する。

「いいや。例え解放戦線絡みだろうと、忘れていたままでいいはずが無い。シロにだって家族が居るはずだ、探している誰かが居るはずだ。
 なら、それがどんな組織に属していようと、会わせてやるべきだ。組織だなんだって話は、その後で良いだろう」

 来海は何かを言いかけ口を開くが、躊躇いまた一文字に結んで、それから、小さく答えた。

「……ええ、あなたの言う通りね。ごめんなさい」

 やっぱり、俺はシロに亡き妹を重ねてしまっているのだろう。
 この場所に、何があるのか――シロにとって、良い結果が待っている事を願うばかりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

結婚を前提に!〜結婚したけりゃ神になれ〜

変わる子ちゃん
ファンタジー
『イケメンなだけで幸せ』 『イケメンなだけで女遊びし放題』 『イケメンなだけで苦労しない』 『イケメンなだけで〜……』 うるせーー!!! だったらなんで、俺に彼女が居ないんだ! だったらなんで、女に苦労してるんだ!! 雑誌の表紙に居ても違和感ねぇってどれだけ言われたと思ってんだよ! 学校で「雑誌の中のモデルより、会えるリアル」の言葉流行らせたの俺だぞ!? 充分イケメンなハズなのに! 「…なのになんでだ!爆ぜろリア充ーーっ!!」 あ。 ごめん。 俺、この後リア充になりました。 でも結婚までの道のりがやべーから許して!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...