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#001 プロローグ①
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“天の光現象”――20XX年、地球の至る所で観測された怪現象。
ある日突然、何の前触れもなく、それは起こった。
天から、雨の様に輝く光が地球上に降り注いだのだ。
それはあらゆる国の、あらゆる空で観測された。
まず何より怪奇的だった点を1つ挙げるならば、その天から降り注ぐ光の雨は、映像や画像、あらゆる記録媒体のデータに記録される事は無かったという点だ。
皆の記憶の中に確かに存在した怪現象。この世の記録の中には一片たりとも存在しない怪現象。しかし、人類は間違いなくそれを目撃したのだ。確かにその現象は在ったのだ。
特に知見の無い大衆の誰もが面白おかしく話題にして、大そう賑わった事だろう。
しかし、天の光現象発生当時の専門家らは、太陽フレアによる異常電磁波によって起こった全人類の見た集団幻覚だとして、その現象自体を一蹴した。
それも当然の事だ。どんな媒体にも記録されず、当時のSNSにアップされた無数の映像の全てを精査しても、何もない空が映し出された悪ふざけの様なものしか無かったのだから。
そんなオカルト的事象に無理やり理屈をくっ付けた様な仮説でも、それが一番それらしかった。
しかし、そんな面白くもなんともない、取って付けたような専門家らの言は、すぐに覆される事になる。
それは天の光現象の発生から、一年ほどが経過した頃の事だ。
その年に産まれた赤子の一人が、“超能力を有している”という話が持ちあがったのだ。
当然信じられないオカルト話だったし、その噂もやがてお化けや幽霊の類の数ある都市伝説よろしく次第に風化して行くかに思われた。
しかしその一件を皮切りとして、二件目、三件目と“何かの能力に目覚めた子供”が次々と確認され始めたのだ。
その報告件数は世界中でどんどん増えて行き、留まるところを知らず。
そして調べて行く内に、自ずとある結論に辿り着いた。
“天の光現象を浴びた母体から産まれた子は、一定の確率で特殊な能力を有している”。
有り体に言えば、地球上で表立って超能力者の存在が確認され始めたのだ。
あの天の光現象は確かに存在したのだ。時代が動いた。
それが今から18年ほど前の事だ。
この特殊な能力を有した子供の事を、科学的には“先天性第六感症候群”という名称をつけて、一種の脳の異常発達だと結論付けた。
逆にこの能力を有した子を神の子だとしてカルト的に神聖視する者たちからは“神通力”と呼ばれ、更にもっと俗物的に物事を見る大衆――主に若者からは“スキル”と呼ばれ、面白おかしく扱われた――。
「――皆さんもこの能力の事をスキル、そしてスキルを持つ人の事を“超能力者”と呼ぶ方が馴染みが有りますよね。勿論、このスキルホルダーを危険だと問題視する声も有りますが、スキルは訓練によってきちんとコントロールする事が出来るという結果が出ています。皆さんも当校のカリキュラムを真面目に受けて、自身のスキルときちんと向き合って――」
と、女性教師は授業を続ける。
俺はそんな幼いころから聞き飽きた内容の反芻でしかない超能力の授業を聞き流しつつ、目の前に有る授業用のタブレット端末に表示されている教科書を適当に指先でスクロールしたり、別タブを開いてネットサーフィンしてみたりと手遊びに興じていた。
視界にかかる灰色の前髪越しに、文字列がタブレット端末の画面を流れて行く。
ここ“日本六専学院”は、“第六感症候群患者専用特別保護区域”、略して“六専特区”というスキルホルダーたちを集めて保護する為に作られた巨大な人工島、その中に設立されたスキルホルダーを教育するための全寮制の小中高一貫の学校だ。
俺はそこに通う高等部の一年生。つまり、この俺“火室桐裕”もまた、先の教師の話に出て聞きた“先天性第六感症候群”を患った患者――超能力者という訳だ。
まあ、見方を変えれば六専学院はそんな危険人物たちを隔離する為の収容施設でもあるのだが――と言っても、特段悪い場所じゃあない。
俺は小等部二年の途中から編入して来て、もう早8年も六専学院に通っている事になるが、見ての通り授業用の高性能なタブレット端末も無料で支給されていて、今着ている学ランだって無料。寮のマンションも一人一室。更には卒業までは特区内で使える電子マネーも毎月支給されていて、不自由する事は決してない。
それに、普通の学校と変わらないどころか、よりクオリティの高いと言ってもいい程にちゃんとしたカリキュラムを受けられる。
また、特区での手厚さは生活面や学院のカリキュラム内容だけではない。
在学中にきちんとスキルの扱いやコントロールを学べば、持つ能力によってはそれを生かした就職の道も用意されているらしい。
それに、そうではなくても一般人と同じ様にこの六専特区に出資している様々な企業や、特区内の施設などなど、卒業後の進路という道もしっかりと整備されているというのだ。
本当に超能力者の発生が突発的事象で前例がないとは思えない程に、何もかもがきちんと整っていて驚くばかりだ。
それもこれも、この特区、そして学院の設立から何から何まで出資してくれた世界的大企業、MGCが背後には在る。六専特区は国とその大企業による合同事業だ。
進路の1つとしてその大企業のパンフレットも校内に置いてあるし、今手遊びの玩具と化しているこのタブレット端末だって、その企業のロゴが背面にでかでかと描かれている。
と、タブレット端末を指先でつついて、文字列や画像をスクロールして見送っていると、授業終了を知らせるチャイムが鳴る。
そして、授業が終わってそのまま、先生から連絡事項が告げられた。
「――特区内に不審者が出没する可能性が有るとの事で、現在夜間外出の制限が出ています。部活動を行っている生徒も17時までには切り上げ下校をし、寮へ戻る事。また、20時以降の外出は原則禁止。どうしても必要な場合は、生徒二人以上で行動する事」
と、そう一通りアナウンスされた後。
「真白ちゃんせんせー。ほんとに不審者なんて、特区内に出るんですかー? だって、ここ離島じゃないですかー」
クラスメイトの誰かが挙手し、質問をした。
「特区の裏手の切り立った崖になっている海岸線に、不審船が漂着しているのが発見されたんだそうです。
もしかすると、誰かが乗っていたかもしれないので、一応調査が終わるまでの間の外出制限です。可能性の話なので、すぐに制限は解けると思いますよ。
あ、でも、気になるのは分かりますが、見に行ったりしたら駄目ですよ? 不審船の有無以前に、足を滑らせて崖から落ちでもしたら、大変ですから」
挙手した生徒はちゃんと聞いているのか聞いていないのか、「はぁーい」と気の無さげな返事を返していた。
そんな感じで、女性教師――真白ちゃん先生は教室を出て行った。
そして、お昼の休み時間がやって来る。
生徒がまばらに席を立って、教室を出て行く。
俺も昼食を取ろうと席を立ちかけると、そんな俺の元に、一人のクラスメイトがやって来た。
ある日突然、何の前触れもなく、それは起こった。
天から、雨の様に輝く光が地球上に降り注いだのだ。
それはあらゆる国の、あらゆる空で観測された。
まず何より怪奇的だった点を1つ挙げるならば、その天から降り注ぐ光の雨は、映像や画像、あらゆる記録媒体のデータに記録される事は無かったという点だ。
皆の記憶の中に確かに存在した怪現象。この世の記録の中には一片たりとも存在しない怪現象。しかし、人類は間違いなくそれを目撃したのだ。確かにその現象は在ったのだ。
特に知見の無い大衆の誰もが面白おかしく話題にして、大そう賑わった事だろう。
しかし、天の光現象発生当時の専門家らは、太陽フレアによる異常電磁波によって起こった全人類の見た集団幻覚だとして、その現象自体を一蹴した。
それも当然の事だ。どんな媒体にも記録されず、当時のSNSにアップされた無数の映像の全てを精査しても、何もない空が映し出された悪ふざけの様なものしか無かったのだから。
そんなオカルト的事象に無理やり理屈をくっ付けた様な仮説でも、それが一番それらしかった。
しかし、そんな面白くもなんともない、取って付けたような専門家らの言は、すぐに覆される事になる。
それは天の光現象の発生から、一年ほどが経過した頃の事だ。
その年に産まれた赤子の一人が、“超能力を有している”という話が持ちあがったのだ。
当然信じられないオカルト話だったし、その噂もやがてお化けや幽霊の類の数ある都市伝説よろしく次第に風化して行くかに思われた。
しかしその一件を皮切りとして、二件目、三件目と“何かの能力に目覚めた子供”が次々と確認され始めたのだ。
その報告件数は世界中でどんどん増えて行き、留まるところを知らず。
そして調べて行く内に、自ずとある結論に辿り着いた。
“天の光現象を浴びた母体から産まれた子は、一定の確率で特殊な能力を有している”。
有り体に言えば、地球上で表立って超能力者の存在が確認され始めたのだ。
あの天の光現象は確かに存在したのだ。時代が動いた。
それが今から18年ほど前の事だ。
この特殊な能力を有した子供の事を、科学的には“先天性第六感症候群”という名称をつけて、一種の脳の異常発達だと結論付けた。
逆にこの能力を有した子を神の子だとしてカルト的に神聖視する者たちからは“神通力”と呼ばれ、更にもっと俗物的に物事を見る大衆――主に若者からは“スキル”と呼ばれ、面白おかしく扱われた――。
「――皆さんもこの能力の事をスキル、そしてスキルを持つ人の事を“超能力者”と呼ぶ方が馴染みが有りますよね。勿論、このスキルホルダーを危険だと問題視する声も有りますが、スキルは訓練によってきちんとコントロールする事が出来るという結果が出ています。皆さんも当校のカリキュラムを真面目に受けて、自身のスキルときちんと向き合って――」
と、女性教師は授業を続ける。
俺はそんな幼いころから聞き飽きた内容の反芻でしかない超能力の授業を聞き流しつつ、目の前に有る授業用のタブレット端末に表示されている教科書を適当に指先でスクロールしたり、別タブを開いてネットサーフィンしてみたりと手遊びに興じていた。
視界にかかる灰色の前髪越しに、文字列がタブレット端末の画面を流れて行く。
ここ“日本六専学院”は、“第六感症候群患者専用特別保護区域”、略して“六専特区”というスキルホルダーたちを集めて保護する為に作られた巨大な人工島、その中に設立されたスキルホルダーを教育するための全寮制の小中高一貫の学校だ。
俺はそこに通う高等部の一年生。つまり、この俺“火室桐裕”もまた、先の教師の話に出て聞きた“先天性第六感症候群”を患った患者――超能力者という訳だ。
まあ、見方を変えれば六専学院はそんな危険人物たちを隔離する為の収容施設でもあるのだが――と言っても、特段悪い場所じゃあない。
俺は小等部二年の途中から編入して来て、もう早8年も六専学院に通っている事になるが、見ての通り授業用の高性能なタブレット端末も無料で支給されていて、今着ている学ランだって無料。寮のマンションも一人一室。更には卒業までは特区内で使える電子マネーも毎月支給されていて、不自由する事は決してない。
それに、普通の学校と変わらないどころか、よりクオリティの高いと言ってもいい程にちゃんとしたカリキュラムを受けられる。
また、特区での手厚さは生活面や学院のカリキュラム内容だけではない。
在学中にきちんとスキルの扱いやコントロールを学べば、持つ能力によってはそれを生かした就職の道も用意されているらしい。
それに、そうではなくても一般人と同じ様にこの六専特区に出資している様々な企業や、特区内の施設などなど、卒業後の進路という道もしっかりと整備されているというのだ。
本当に超能力者の発生が突発的事象で前例がないとは思えない程に、何もかもがきちんと整っていて驚くばかりだ。
それもこれも、この特区、そして学院の設立から何から何まで出資してくれた世界的大企業、MGCが背後には在る。六専特区は国とその大企業による合同事業だ。
進路の1つとしてその大企業のパンフレットも校内に置いてあるし、今手遊びの玩具と化しているこのタブレット端末だって、その企業のロゴが背面にでかでかと描かれている。
と、タブレット端末を指先でつついて、文字列や画像をスクロールして見送っていると、授業終了を知らせるチャイムが鳴る。
そして、授業が終わってそのまま、先生から連絡事項が告げられた。
「――特区内に不審者が出没する可能性が有るとの事で、現在夜間外出の制限が出ています。部活動を行っている生徒も17時までには切り上げ下校をし、寮へ戻る事。また、20時以降の外出は原則禁止。どうしても必要な場合は、生徒二人以上で行動する事」
と、そう一通りアナウンスされた後。
「真白ちゃんせんせー。ほんとに不審者なんて、特区内に出るんですかー? だって、ここ離島じゃないですかー」
クラスメイトの誰かが挙手し、質問をした。
「特区の裏手の切り立った崖になっている海岸線に、不審船が漂着しているのが発見されたんだそうです。
もしかすると、誰かが乗っていたかもしれないので、一応調査が終わるまでの間の外出制限です。可能性の話なので、すぐに制限は解けると思いますよ。
あ、でも、気になるのは分かりますが、見に行ったりしたら駄目ですよ? 不審船の有無以前に、足を滑らせて崖から落ちでもしたら、大変ですから」
挙手した生徒はちゃんと聞いているのか聞いていないのか、「はぁーい」と気の無さげな返事を返していた。
そんな感じで、女性教師――真白ちゃん先生は教室を出て行った。
そして、お昼の休み時間がやって来る。
生徒がまばらに席を立って、教室を出て行く。
俺も昼食を取ろうと席を立ちかけると、そんな俺の元に、一人のクラスメイトがやって来た。
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