【完結】少し遅れた異世界転移 〜死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく〜

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
89 / 107
過去編 『勇者アルの冒険』

『不死』の魔王①

しおりを挟む

 峡谷で真実の目を持つ龍から貰った魔法――『不死殺し』。

 魔王に届きうる刃を得た勇者一行の二人――勇者アルバスと魔女エルは、再び黒い島へと向かった。
 
 以前と同じ様に商船を頼ろうと、港まで来た二人。
 しかし、どうやら今回は様子が違う。
 港に居る人々がざわざわと騒がしく、物々しい雰囲気だ。
 
「ちょっといいかい」

 港で以前にも船に乗せてくれた商船の一団の一人の、髭面の男を見つけたので、声を掛けてみた。
 
「よう、勇者さん。あんた生きてたんだな。流石の“死神”も魔王にやられちまったんじゃねえかって噂だったぜ」

「まさか、俺が死ぬかよ。――それで、何があったんだ?」

「丁度あんたらがあの黒い島へ乗り込んだ後だよ。海がずっと荒れてるもんで、どの船も停泊してんだ」

 見れば、波は荒く立ち、空にも暗雲が立ち込めていた。

「あら。じゃあ、今日は黒い島まで船は出せないの?」

「馬鹿言うんじゃねえ。この海で出航したら沈んじまう、勘弁してくれ」

 そう言って、髭面の男は手をひらひらと振って、「あっちへ行け」という仕草で二人を追い払った。
 二人は渋々その場を後にする。


「なあ、エル。もしかして、今のこの状況って――」

「ええ。十中八九、わたしたちが魔王を刺激したからでしょうね」
 
 勇者一行が魔王に敗れた事で、今まで大人しくしていた魔王は力を強めていたのだ。
 いや、大人しくしていたのは魔王本体だけであり、その使役する汚れは常に世界を蝕んでいたのだが。
 
 それでも、魔王本体が活動を開始したという事は、タイムリミットという事だ。
 ここで討たなければ、世界の全てが汚れの黒い泥に呑まれ、滅びるだろう。

「はぁ……しかし、船が出せないとなると、どうするか――」

 アルバスは考え込み、煙草に火を付ける。
 
 すると、聞き覚えのある声が後ろから投げかけられる。

「よう、また会ったな。何か困ってんのか?」

 銀髪ロングの魔女。『支配』の魔女シータだ。
 少しだけ丸くなっただろうか。
 
 丸くなったというのは性格面もそうだが、体形もそうだ。
 前は痩せて細い印象を受けたが、今は肉付きが良くなったように見える。
 それに、今日は腹を満たしているのか、苛々していない様子だ。

「あら、シータ。久しぶりね」

「おう」

 エルが挨拶すれば、シータは軽く手を上げる。
 そんな不遜な態度にもエルは特に気を悪くした様子も無く、まるで娘を見るかの様に優しく微笑む。

「お前こそ、何やってんだよ、こんなとこで」

「あー……まあ、オレの事は良いだろ。それよりもお前らだよ。魔王討伐だって息巻いてたじゃねえか」

 アルバスとエルは顔を見合わせて、ひそひそとシータに聞こえない様に話す。

(なあ、こいつ訳知りだよな)

(ええ。よく分からないけれど……でも、頼れそうよ)

 何故か分からないが、シータはアルバス達が黒い島へ行こうとしている事、そして船が出なくて困っている事を知っている様だ。
 そして、その態度からどうやら手助けをしてくれるつもりだと察せられる。
 
「じゃあよ、俺たち黒い島まで行きたいんだが」

「ふっ……そうだろうそうだろう。いいぜ! オレの“ピーコちゃん”に乗せてやるよ!」

 そう言って、真新しい杖を取り出したシータは、そのままそれを振り下ろす。
 杖がぶんと空を切った後、上空から突風と共に、黒いカラスーーというには、少し大きすぎる。

 峡谷で見た龍と殆ど同じくらいの巨体をした、黒いカラスが現れた。
 どう見ても、それは魔獣だ。
 シータは巨大な魔獣を『支配』の魔法で使役するまでに、成長していた。
 
 しかし、港のど真ん中でそんな魔獣を呼び出してしまった所為で、ここら中大騒ぎだ。
 船乗りや港町の人々は阿鼻叫喚でその場を逃げ出して行く。
 その内兵士や他の冒険者を呼ばれて討伐されてしまいそうな勢いだ。

「おいおい……」
 
「シータ……あなたねえ……」

「うん? どうした? オレの新しい使い魔だ! すげえだろ?」
 
 アルバスとエルも頭を抱えているが、対照的にシータは自分の実力を示せて嬉しそうだ。
 港町は地獄の様相を呈しているが、しかしこれで勇者一行の黒い島までの移動手段は確保された訳だ。

「――ああ、すげえすげえ。この際何でも良い。そのピーコちゃんに乗せて、黒い島まで連れて行ってくれるか」

 早くこの場を去らねば、更に場を混乱させるだけだろう。
 
「おう! オレに任せな!」

 シータの杖から魔法の淡い光が放たれ、ピーコちゃんへと命令が発される。

「これでこいつはお前らの言う事も聞いてくれるぜ」

 そう言って、シータはアルバスたちへと背を向ける。

「あら、シータは来てくれないの?」

「あん? まあ、あれだ。ちょっと“野暮用”が有るんでな」

 何やら訳知りのシータは、そう言って意味あり気ににやりと笑って見せる。

「そうかい。まあ、ありがとよ」

「おう! またな」
 
 アルバスとエルは急いでカラスの魔獣――ピーコちゃんの背に乗る。
 手を振るシータに見送られながら、二人は海上を跳んで黒い島へと向かった。
しおりを挟む
☆少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...