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第一部 第五章 東の大陸編
日記
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帝都へ向かう道中。
俺たちは突然の雨に降られた。
通り雨かと思ったのだが、バケツをひっくり返したような土砂降りが続き、なかなか雨は止まない。
そんな悪天候に困っていた所、一件の建物を見つけた。
それはこの東の大陸では珍しい、どこか西の大陸を思わせる建築様式の屋敷だった様に思う。
「運が良かった、ここで雨宿りしていくか」
「はい!」
俺たちは雨に打たれながら走って、屋敷の玄関口まで来た。
幸い玄関口にも二人で収まれる程度の大きさの屋根が有ったので、ここでしばらく雨水は凌げそうだ。
しかし、エルの方を見ると、『空間』の魔法の為のローブを肩から羽織り、ひらひらのワンピースを着ていたからか、それらの布がたっぷりと水分を含んで重そうだ。
「エル、服着替えたいね」
「そうですね。風邪――は、引かないでしょうけれど、少し気持ち悪いです」
言葉の通り、肌に衣服が張り付いている。
「中で少し休ませて貰おうか。部屋くらい有るでしょ」
この様子ではしばらく雨は止まなさそうだ。
それなら、玄関口で縮こまっているよりも、中に入った方が幾分かマシかもしれない。
「そうですね」
エルが頷いたのを見てから、俺は玄関扉を開けて、中へと入る。
「おや、旅の方ですか?」
中へ入ると、一人の貴族の様な風貌をした金髪男性が居た。
この屋敷の主人だったのだろうか。
その頭髪の色から、おそらく西の大陸出身の人間だろう。
「あ、えっと、急に雨が降り出して来ちゃって。雨宿りさせてもらえますか?」
慌ててエルが屋敷の主人に事情を説明する。
「ええ!ええ勿論! 構いませんとも! お部屋をご用意しましょう。是非我が屋敷でくつろいで行ってください!」
屋敷の主人は心底嬉しそうに、俺たちを迎え入れてくれた。
「ありがとうございます」
「どうですか、素敵なところでしょう」
俺は屋敷の様子を見渡す。
確かに大きな建物だ。
しかし、この主人が一人で使うには少し広すぎるかもしれない。
「……そうですね。とても大きくて、立派なお屋敷です」
そして、一通り屋敷を自慢して気分を良くした屋敷の主人に、客人用の一室であろう場所に案内された。
「お食事は、どうされますか?」
「いえ、お構いなく」
「そうですか? 私は見ての通りとてもお金持ちです! 遠慮なんてなさらなくても、良いのですよ?」
そう言って、屋敷の主人は腕を広げてアピールする。
この屋敷を、そして自分を見てくれと言った様に。
「雨が上がったら、すぐに出て行きますから」
「そうですか……。では、他に何か必要な物が有りましたら、何でも言ってください。私は二階の突き当りに有る自室に居りますので」
そう言って、屋敷の主人はその場をすっと去って行った。
静かな屋敷に、こつこつという屋根を打つ雨水の音が響いていた。
そして、俺たちは『空間』の中から新しい着替えを出して、その部屋で着替えを済ませた。
雨風を凌げる屋根と壁が有るというのは、素晴らしい事だ。
「それにしても、変わった人でしたね」
「そうだね。世話好きなのかな」
持て成す事に喜びを見出す人間というのも、一定数居るだろう。
あの屋敷の主人はそういった人間だったのかもしれない。
そして、エルが客室の中を物色していると、
「アルさん。何か有りましたよ」
と、声を上げた。
俺は呼ばれるまま、それを見に行く。
「――前の人の忘れ物かな?」
エルが見つけたのは小さな肩掛けカバンだった。
ずっとこの部屋に放置されていたのか、埃が少し積もっている。
「みたいですね。中、見ちゃってもいいでしょうか?」
エルは遠慮がちに、俺の方へと視線を向ける。
気持ちは分かる。
確かに、他人の持ち物を弄るのは少し罪悪感を覚えるというか、抵抗が有るのだろう。
「良いんじゃない? 見ちゃおうよ」
しかし、こんな所に置いてある忘れ物だ。
もう元の持ち主が取りに来る事は無いだろうし、所有権は放棄されたも同然だろう。
俺は無責任な物色許可を出して、一緒にカバンの中身を一つずつ出して、ベッドの上に並べていく。
「これは……日記か?」
最初に取り出したのは、手の平サイズの手帳だった。
「旅の記録でしょうか? 見せてください」
エルに手渡すと、そのままエルはその手帳を開いた。
すると、ばりっと嫌な音を立てて、それは破れてしまった。
「あっ、あのあの! 違うんです! これは違うんです!」
エルが慌てふためいている。
驚きすぎて、そのまま破れた手帳を落としてしまっていた。
その様子があまりに面白くて、俺はついつい吹き出してしまった。
「もう! 何笑ってるんですか!」
「ごめんごめん。でも、その状態なら仕方ないよ」
その手帳の持ち主は俺たちと同じく雨に降られたのだろう。
手帳は一度水没してしまっていて、乾いた紙同士が張り付いてた様だ。
それをエルは気づかずに勢いよく開いたものだから、そのまま破けてしまったという訳だ。
むぅっと膨れているエルを他所に、俺はその破れた手帳へと目をやる。
「……うーん、読めないな」
書かれた文字は水没した影響で滲んでしまっていて、その殆どを読む事は出来なかった。
俺たちは突然の雨に降られた。
通り雨かと思ったのだが、バケツをひっくり返したような土砂降りが続き、なかなか雨は止まない。
そんな悪天候に困っていた所、一件の建物を見つけた。
それはこの東の大陸では珍しい、どこか西の大陸を思わせる建築様式の屋敷だった様に思う。
「運が良かった、ここで雨宿りしていくか」
「はい!」
俺たちは雨に打たれながら走って、屋敷の玄関口まで来た。
幸い玄関口にも二人で収まれる程度の大きさの屋根が有ったので、ここでしばらく雨水は凌げそうだ。
しかし、エルの方を見ると、『空間』の魔法の為のローブを肩から羽織り、ひらひらのワンピースを着ていたからか、それらの布がたっぷりと水分を含んで重そうだ。
「エル、服着替えたいね」
「そうですね。風邪――は、引かないでしょうけれど、少し気持ち悪いです」
言葉の通り、肌に衣服が張り付いている。
「中で少し休ませて貰おうか。部屋くらい有るでしょ」
この様子ではしばらく雨は止まなさそうだ。
それなら、玄関口で縮こまっているよりも、中に入った方が幾分かマシかもしれない。
「そうですね」
エルが頷いたのを見てから、俺は玄関扉を開けて、中へと入る。
「おや、旅の方ですか?」
中へ入ると、一人の貴族の様な風貌をした金髪男性が居た。
この屋敷の主人だったのだろうか。
その頭髪の色から、おそらく西の大陸出身の人間だろう。
「あ、えっと、急に雨が降り出して来ちゃって。雨宿りさせてもらえますか?」
慌ててエルが屋敷の主人に事情を説明する。
「ええ!ええ勿論! 構いませんとも! お部屋をご用意しましょう。是非我が屋敷でくつろいで行ってください!」
屋敷の主人は心底嬉しそうに、俺たちを迎え入れてくれた。
「ありがとうございます」
「どうですか、素敵なところでしょう」
俺は屋敷の様子を見渡す。
確かに大きな建物だ。
しかし、この主人が一人で使うには少し広すぎるかもしれない。
「……そうですね。とても大きくて、立派なお屋敷です」
そして、一通り屋敷を自慢して気分を良くした屋敷の主人に、客人用の一室であろう場所に案内された。
「お食事は、どうされますか?」
「いえ、お構いなく」
「そうですか? 私は見ての通りとてもお金持ちです! 遠慮なんてなさらなくても、良いのですよ?」
そう言って、屋敷の主人は腕を広げてアピールする。
この屋敷を、そして自分を見てくれと言った様に。
「雨が上がったら、すぐに出て行きますから」
「そうですか……。では、他に何か必要な物が有りましたら、何でも言ってください。私は二階の突き当りに有る自室に居りますので」
そう言って、屋敷の主人はその場をすっと去って行った。
静かな屋敷に、こつこつという屋根を打つ雨水の音が響いていた。
そして、俺たちは『空間』の中から新しい着替えを出して、その部屋で着替えを済ませた。
雨風を凌げる屋根と壁が有るというのは、素晴らしい事だ。
「それにしても、変わった人でしたね」
「そうだね。世話好きなのかな」
持て成す事に喜びを見出す人間というのも、一定数居るだろう。
あの屋敷の主人はそういった人間だったのかもしれない。
そして、エルが客室の中を物色していると、
「アルさん。何か有りましたよ」
と、声を上げた。
俺は呼ばれるまま、それを見に行く。
「――前の人の忘れ物かな?」
エルが見つけたのは小さな肩掛けカバンだった。
ずっとこの部屋に放置されていたのか、埃が少し積もっている。
「みたいですね。中、見ちゃってもいいでしょうか?」
エルは遠慮がちに、俺の方へと視線を向ける。
気持ちは分かる。
確かに、他人の持ち物を弄るのは少し罪悪感を覚えるというか、抵抗が有るのだろう。
「良いんじゃない? 見ちゃおうよ」
しかし、こんな所に置いてある忘れ物だ。
もう元の持ち主が取りに来る事は無いだろうし、所有権は放棄されたも同然だろう。
俺は無責任な物色許可を出して、一緒にカバンの中身を一つずつ出して、ベッドの上に並べていく。
「これは……日記か?」
最初に取り出したのは、手の平サイズの手帳だった。
「旅の記録でしょうか? 見せてください」
エルに手渡すと、そのままエルはその手帳を開いた。
すると、ばりっと嫌な音を立てて、それは破れてしまった。
「あっ、あのあの! 違うんです! これは違うんです!」
エルが慌てふためいている。
驚きすぎて、そのまま破れた手帳を落としてしまっていた。
その様子があまりに面白くて、俺はついつい吹き出してしまった。
「もう! 何笑ってるんですか!」
「ごめんごめん。でも、その状態なら仕方ないよ」
その手帳の持ち主は俺たちと同じく雨に降られたのだろう。
手帳は一度水没してしまっていて、乾いた紙同士が張り付いてた様だ。
それをエルは気づかずに勢いよく開いたものだから、そのまま破けてしまったという訳だ。
むぅっと膨れているエルを他所に、俺はその破れた手帳へと目をやる。
「……うーん、読めないな」
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