【完結】少し遅れた異世界転移 〜死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく〜

赤木さなぎ

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第一部 第五章 東の大陸編

黒い泥

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 人魚もとい吸血鬼おもいエキドナを倒した後。

 あの黒い城の瓦礫に混じって、海上には太陽の光を反射するキラキラとしたものが有った。
 それらは城の中に眠っていた、金銀財宝、宝石の数々だった。
 
 おそらく、あのエキドナがこれまでの被害者の所持品や積み荷の中からそういった綺麗な物を集めていたのだろう。

 勿論そのまま捨て置くなんて選択肢は無く、一通り目に付いた分だけは回収して、持って帰った。

 それでもまだまだあの辺りの海にはそういった金品が沈んでいる事だろうし、きっとその内漁師たちが網に掛かった宝石類を見て騒ぎ出す事だろう。

「エル、気に入った奴とか無かった?」

 俺はいくつかの宝石類を掌の上に並べて、エルに見せる。

「いえ。わたし、あまりアクセサリーは付けないので、全部お金に変えちゃっても良いですよ?」

「いやさ、最初にあげた指輪がアレだから、もっと良いやつをプレゼント出来たらな、と思ったんだけど」

 俺が最初にエルに渡した鈍く光る銀の指輪。

 それはまだ俺が魔法が下手くそな頃、元居た世界で使っていた貨幣を不器用な『形状変化』の魔法で加工した、少し形の歪な物だ。

 以前より俺の魔法の腕も格段に上達した。
 今ならもっとより良い物を作ってあげられるはずだ。

「いいえ。わたしはこれが良いです。少し形が歪でも、思い出が沢山詰まっていますから」

 エルはそう言って、指はを嵌めた手をそっと胸に抱き寄せた。

 ちゃんと形が歪だとは思っていたらしい。
 それでも、少し照れ臭いが、エルが気に入ってくれているのなら嬉しい。
 
 そして、数日を港町で過ごした。
 その間、俺は何度も果敢に釣りに挑戦し、そして今日。
 
 なんとか大物を一匹を釣り上げるが出来た。

 よく分からない種類の魚だったが、取り敢えず当初の目的通り捌いて刺身にして食べてみた。

 味は美味しかったかと言われると、何とも微妙で、可もなく不可も無くと言ったところだ。

 エルに至っては途中から魔法で炙って食べていたし、慣れない刺身は口に合わなかった様だ。

 そんなこんなで、港付近をふらふらとしていると。
 
「おう、この前の嬢ちゃんじゃねえか」

「あら、お久しぶりです」

「ども」

 エルが何故か仲良くなっていた、人魚伝説の話をしてくれた漁師のおじさんだ。

 俺も合わせて軽く挨拶を返す。

 思えば、エルは出会った頃と比べると本当に明るく、社交的になった。

 それは童心に帰ったと言い換えても良い。
 どこかあの時に出会った少女を想起させる、冒険に胸を躍らせる、可愛い女の子。

 そんな今のエルだから、出会ったばかりの人とだって仲良くなってしまえるのだろう。

「聞いてくれよ、この間この辺の海ででっけえ爆発が有ったらしくてよお」

 早速噂になっている様だ。

「そうなんですか、こわいですねえ」

 エルがにこにことそんな適当な返事を返す。

「それでさ、見てくれよ」

 と、漁師のおじさんが懐からと取り出したのはキラキラとした宝石の付いたネックレスだった。
 噂になっているどころか、早速拾ってきたらしい。

「網にこんなものが引っ掛かってよ、そりゃもうたまげたもんよ」

「わあ、綺麗ですねー」

「折角なんでかみさんにプレゼントしてやろうと思ってんだ。最近元気無かったからよ」

「それは素敵ですね。でも、奥様ご病気なんですか?」

「いんや。かみさんはぴんぴんしてるんだがよ、ついこの間飼ってた犬が死んじまってな。それから塞ぎこんじまってる」

 漁師は雑談の種としてはめちゃくちゃ重い話を持って来た。
 と言っても、声はずっと変わらず明るい調子だが。

「ああ……」

「でも、無理もねえんだ。その死に方ってのがまた酷いもんでよお」

 何故そんな話を、と思っていた所で、漁師が本題に入る。

「誰かにやられたんですか?」

「いや、分からねえ。でも不思議でよ、ある日家に帰ったら真っ黒い泥みたいに溶けちまってたんだ」

 待て、それって……。


 気になって、他にも何件か話を聞いてみた。
 すると、似たような話が次々と出て来た。

 噂話の内容は大体こんな感じだ。

「恋人が病にかかってね、でもそれがおかしいの。身体に黒い斑点みたいなのが出来て、それがどんどん広がって行って、膿んで泥みたいになっていって……。お医者様も原因が分からないって……」

「急に普段見ない魔獣が出て来てよ、村で暴れた事が有ったんだ。そいつがまた馬鹿みたいに強くてよ、数人がかりで何とか撃退したは良いが、あれは何だったんだ?」

「そういや、数年前まで変な宗教を流布してる奴が居たな。俺の友人も何人かそれにハマってた時期も有ったが、最近ではその話も聞かなくなったよ」

「犬? そうね、うちにも居るわよ。でもね、うちの子、よく見たら犬じゃなくて魔獣だったのよ。大人しかったから、全然気づかなかったわ~」

「優しかった父さんが、急に人が変わったみたいに荒れた時期が有ってね。その時母さんと離婚してしまったんだ。でも、今ではそれも嘘だったみたいに元に戻ってるよ。あれは悪魔が憑いたんじゃないかって、そう思ってる」
 
 など、色々な話が聞けた。

 一部関係が有るのか分からないが、それでもこの東の大陸で何かが起こっている、もしくは起こっていた事は間違いないだろう。
 
「アルさん、やっぱりこれって……」

「ああ。メカクシ絡みな気はするけど……」
 
「はい。確かに間違いなく、わたしがこの手で葬ったはずです」

 エルは拳を強く握る。
 そう、メカクシは間違いなく死んだはずだ。

「ああ。『魔王降臨』の触媒となって、存在毎消え去ったはずだ。復活するはずがない」
 
 しかし、現に明らかに関連を想起させる事件が起こっている。

 海の底で出会った黒い泥を操る人魚擬き、そしてこの大陸で起こっているあらゆる現象、事件。

 全ては繋がっているはずだ。
 辿って行く先に、何かが待っているはずだ。

「この件、どうしますか?」

「もしもの可能性が有る以上、放置は出来ない」

 もしも、メカクシが生きていたら。
 そんなもしもが現実となれば、また再び俺たちの前に立ち塞がる事だろう。

 かつて龍族に敗れてもなお、しぶとく逃げ延び、生きていたあのメカクシの事だ、やはり油断はできない。
 
「ええ。でも、仮にそのもしもがあったとしても、わたしたちの敵では有りませんよ」

 明るいエルのそんな励まし。

 しかし、その言はもっともだ。
 俺たちが最も危惧すべきは真実の目を取り戻し完全体となったメカクシだが、その真実の目ももう失われている。

 ならば、ただの神だ。

 不死でも無い、権能も無い、ただの神ならば、相手ではない。

 もはや、神をも超越せんとする“永遠の魔女”の前に、脅威など存在しえない。

「ああ、そうだな。俺たちの旅路を阻むのなら、例え神でも倒して行くまでさ」

 そして、俺たちは港町を発つ。
 東の大陸での旅が始まる。
 
 新天地。メッセージの謎。
 そして、新たな事件。

 きっと、旅をしていく中でそれらは紐解かれて行く事だろう。
 沢山の新しい発見が、出会いが、俺たちを待っているだろう。

 そんな風に思うと、エルではないが、なんだか俺まで冒険に心を擽られ、童心に帰ってしまえる気がした。
 
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